切り離せない待機児童問題と保育士不足問題
共働き家庭が増える一方で「待機児童問題」は年々深刻なものとなっています。慢性的な待機児童問題を改善するために、保育所の開設や定員の増加などの取り組みが行われています。しかし、単に施設を増やしただけでは待機児童問題は解消しません。なぜなら、そこで働く「保育士」の採用難のために、施設はあるけれども働く人がいない、という状況が発生しているからです。
その要因の1つとして、保育士の資格を取ったけれども、保育士としては働いていない「潜在保育士」の存在があります。平成27年に発表された厚生労働省「保育士等に関する関係資料」によると、平成25年時点における保育所に勤務する保育士数40万9千人に対して、潜在保育士の数は70万人以上になるとのことです。
(参考: 厚生労働省「保育士等に関する関係資料」)
潜在保育士とは?
まず「潜在保育士」とはどのような人を指すのか理解しておきましょう。 潜在保育士とは、保育士の資格を持ちながらも保育士として就業していない人のことを指します。
今までに保育士としての経験がある人、ない人どちらも「潜在保育士」と呼びます。
なぜ潜在保育士になってしまうのか、その理由は…
潜在保育士になってしまう理由のひとつに賃金の低さが挙げられています。平成27年に出された厚生労働省「保育士等に関する関係資料」によると、全職種の平均賃金が月約32.9万円なのに対し、保育士は約21.6万円。命を預かるという責任のある仕事でありながら、収入はほかの職種の平均を下回っています。
また、同資料によると、保育士の再就職にあたってハードルになる点として、「子育てや家庭との両立」をあげた方が最も多く、次いで「労働条件、賃金、待遇」、「健康、体力、気力」となっています。
厚生労働省は、待機児童解消加速化プランや短時間正社員制度を提示して保育士の雇用を拡大したり、柔軟な働き方を許容したりできるように整備をすすめています。
自治体でもさまざまな取り組みが行われています
厚生労働省だけでなく、各自治体でも保育定員拡充に向けて、潜在保育士の復職を支援するさまざまな制度を打ち出しています。
潜在保育士支援事業「岡山県」の取り組み
岡山県では、潜在保育士の実態把握と現場復帰に向けた支援を行う事業として、「潜在保育士の復職推進事業」に取り組んでいます。まず、保育士養成校の卒業者を対象にアンケートを行い、潜在保育士の復職ニーズや保育士として現場で活躍する人たちの就労継続のための課題を把握します。そのアンケート結果をもとに、
- 養成校考案の復職に向けた研修会
- 卒業生が年代を気にすることなく気軽に話し合える機会
- 各自治体の保育士確保への取り組み状況など情報提供を行う機会
などを実施するというものです。潜在保育士が復職するためには、まず復職や就労に対する不安を解消することが課題。実際に、地元の大学と提携した「潜在保育士復職支援研修会」などを行いながら、潜在保育士が抱く復職への不安を取り除いていこうとしています。
「神奈川県横浜市」では事業者向けの取り組み
神奈川県横浜市が取り組んでいるのは、「保育士宿舎借り上げ支援事業」。事業所が借り上げる社宅にかかる経費について、1戸あたり4分の3、最大6万円までを自治体が補助するというものです。事業者を支援することで、結果的に働く保育士の経済的負担を減らすことになります。この事業のポイントは以下のとおりです。
- 助成期間は雇用する保育士が借上げ宿舎に入居してから5年
- 1日6時間以上、月20日以上で勤務していれば、パートでも可
- 単身者のほか、家族で社宅に入居する場合も助成対象
- この5年の範囲であれば、産休・育休・休職中でも雇用が継続していれば助成は受けられる
鳥取県では「県保育士・保育所支援センター」を開設
鳥取県では、潜在保育士の就職・復職支援などを行う「県保育士・保育所支援センター」を開設しています。鳥取県は保育士の有効求人倍率が2倍を超えていますが、現場で働く保育士は資格登録者の約3割にとどまっているのが現状です。潜在保育士復職支援対策のひとつとして、県保育士・保育所支援センターには保育の現場経験を持つ「保育士再就職支援コーディネーター」を配置。就職希望者の個別相談や復職のための研修、保育所巡回による課題把握などを実施しています。また、潜在保育士を対象に県が設けた就職準備金や保育料貸付制度の案内も行っています。
保育士不足は社会全体の問題ですので、みなさんがお住いの自治体でもこうした取り組みをしているかどうかぜひ調べてみてくださいね。