介護報酬は2026年度から「月1万円の賃上げ」。異例の臨時改定を専門家はどう評価する?

介護職の賃金は年々増加していますが、ほかの職種には追いついていない現状があります。政府は急速な物価高などを背景に総合経済対策をまとめ、介護報酬の賃金に関する内容が2026年度に臨時改定されることになりました。専門家の解説とともに、2025年11月時点の最新情報を解説します。

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目次

異例の介護報酬改定前倒し

政府は11月21日、介護職などの賃金を2026年から月1万円引き上げる方針を決めました。物価高騰への対応を柱とする総合経済対策の一つとして、通常3年ごとに改訂される介護報酬について、賃金に関する内容を臨時改定します。

従来、介護報酬の次の改定は2027年度を予定していましたが、今回の決定により1年前倒しして臨時改定がおこなわれることになります。

総合経済対策について、高市早苗首相は会見「介護従事者全般に月1万円、半年分の賃上げを措置する」と表明しています。なお、総合経済対策の裏付けとなる補正予算の議論が順調に進めば、2026年2月前後から賃上げが実施される見込みです。

他職種に追いつかない介護職の賃金

処遇改善を前倒しする背景の一つとして、介護職と他職種の賃金格差があります。厚生労働省の調査によると、処遇改善加算を取得している事業所で働く介護職の平均給与は、2024年9月から2025年7月にかけて33万4,500円から34万1,340円へと2%ほど上昇しました。

しかし、社会全体で賃上げムードが高まった結果、春闘では全職種の正社員は5.25%の賃上げが実現しました。企業の判断で賃上げできる他産業と異なり、介護分野は「公定価格」である介護報酬に基づきサービスを提供するため、社会全体の賃上げペースにすぐには追いつけません。このような背景から他産業との賃金格差が残っています。

専門家「予定以上の措置はあるのか」

今回の総合経済対策・報酬改定について、介護現場や働く環境に詳しい、介護人材政策研究会代表理事の天野尊明さんにお話を聞きました。

天野さん:今回の総合経済対策には歓迎の声があがっていますね。しかし、この処遇改善自体は、あらかじめ決まっていたことです。そのため、予定以上のものが実施されるのかによって最終的な評価は大きく変わってくるでしょう

対策の内容に「報酬改定の効果を前倒しすることが必要」と明記された点が重要だと感じます。この中身こそが介護報酬改定につながるものになると考えています。

また、賃上げの規模としては、格差縮小のためにまずは月1万円は必要でしょう。そして、2026年の春闘に備え、他産業に負けない賃上げに必要な措置としてさらに月1万円。合計月2万円は最低限必要ではないかと考えています。

全職種の賃上げが必要

天野さん:賃上げの範囲も重要です。これまでの賃上げは、主に介護職員等処遇改善加算に基づいていました。つまり、事業者の判断で柔軟な配分は認められてきたものの、基本的に介護職員が対象でした。そのため、ケアマネなどの他職種の賃上げについては、それを分けあって支給するか、事業者側が持ち出しで財源を捻出してきたんです。この点の解消に動き出したことは評価できます。

もちろん、ケアマネ事業所などは対象外でしたから、今後は職種の垣根を取っ払い、すべての介護施設・事業所で働く従事者に適用されるものにしなければ、その実効性は薄まってしまうと懸念しています。

事業所を支える「医療・介護等支援パッケージ」

今回の総合経済対策では介護分野にとどまらず、医療・介護施設の経営改善や、従業員の処遇改善を進めるため、「医療・介護等支援パッケージ」に取り組むことも示されました。これには以下のような3階建ての施策が含まれています。

  • 人材流出を防ぐための緊急的対応として、賃上げ・職場環境改善を支援
  • 物価上昇の影響があるなかでも、介護事業所・施設が必要な介護サービスを円滑に継続するための支援
  • ICT等のテクノロジーの導入や経営の協働化、訪問介護・ケアマネジメントの提供体制の確保に向けた支援

引用:厚生労働省|介護保険最新情報 Vol.1442

これらの具体的な内容については、総合経済対策の裏付けとなる補正予算の議論のなかで決まっていきます。また対策では医療・介護分野だけでなく、中小企業支援として「重点支援地方交付金」での物価高騰に対する支援の継続や、交付金そのものの拡充についても盛り込まれました。

疲弊することなく活躍できる環境を

今回の総合経済対策や処遇改善について、天野さんは次のように語ります。

天野さん:介護保険制度は良くできた仕組みですが、実際にそれを実行するのは、介護事業者や介護従事者です。彼らが疲弊することなく活躍できてこそ、地域の要介護ニーズを受け止め、高齢社会を充実したものにすることができます。

介護報酬は国がその単価を定める「公定価格」です。それが事業者や従事者の足を引っ張るものであってはなりません。保険料の上昇を抑えるという国の方針は理解できますが、やはり介護というインフラを先細りさせないよう、事業者や従事者の活躍を後押しするような制度設計を心がけてほしいと願ってやみません。

参考

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