
1.「中里どろんこ保育園」に行ってきた
2.取り組み紹介(裸足保育、縁側給食)
3.施設紹介(園庭)
4.施設紹介(ワンフロアの保育室、子育て支援ちきんえっぐ)
5.コンセプトは「保育園は大きな家」
6.大切にしている保育方針と特徴
1.「中里どろんこ保育園」に行ってきた

東京都清瀬市にある認可保育園「中里どろんこ保育園」は、2018年4月に開園。
西武鉄道池袋線の清瀬駅からバスで約10分のところに位置しています。
歩いて5分の距離には荒川につながる新柳瀬川が流れ、近隣には雑木林や竹林も多く、自然がすぐ近くにある保育園です。
2.取り組み紹介(裸足保育、縁側給食)

案内してくれたのは、主任の小川さん
—本日はよろしくお願いします。噂には聞いていましたが、ほんとうに全員裸足なんですね!
小川さん:そうなんです。どろんこ会の保育園は「ケガをしない強い体を育てる」ために「裸足保育」を取り入れていて、子どもたちも職員も基本的には裸足で過ごします。
—寒い時期でも裸足ですか?
子どもたちは真冬でも裸足ですね。裸足のほうが活動がしやすいようで。
ただし、必ず裸足でなければいけない、ということではありません。冬場で園庭に霜が出ていたり、冷たかったりするときは、草履や靴も履いて活動しています。

—なぜ裸足なんでしょうか?
靴や靴下を履いていると、足の指が広がらず、土踏まずがなくなったり、浮き指という足の指が地面につかないで浮いている状態になりやすいんです。そのことからすぐに足が疲れたり、転びやすくなったりすることにもつながってしまうんですね。

足の発達の比較写真(社会福祉法人どろんこ会の公式サイトより)
—靴や靴下に慣れていると最初は少し戸惑いそうですが、慣れれば子どもたちはもっと活発になりそうですね。外にもすぐ駆け出していけそうです。
どろんこ保育園の特徴でもある「縁側」も、室内と園庭をつなぐ役割を担っています。
「縁側給食」といって、子どもたちは縁側で給食やおやつを食べます。「自分でできることを自分でする」ことを大切にしていて、自分の分の給食の盛りつけやどこに誰と座るかということも子どもたちに任せています。

縁側給食の様子
—今日の給食は何だったんですか?
今日は自分たちで育てたさつまいもを収穫して、さつまいも汁を作って食べたところでした。

さつまいも汁作りの様子
—旬のものを自分たちで育て、作って、食べる。いい取り組みですね。ちなみにもっと小さい子たちも縁側で食べるんですか?
0〜2歳の乳児たちの部屋は2階にあるんですが、2階にも縁側(ベランダ)があるので、1階と同じようにそこで給食も食べますよ。

2階の縁側の様子
縁側はL字型になっているので、部屋と部屋をつないで子どもたちが回遊できる造りになっています。歩き始めたばかりの子どもやハイハイの練習がしたい赤ちゃんも楽しそうに探検していますね。

2階の平面図。「デッキテラス」部分が縁側にあたる
3.施設紹介(園庭)

—子どもたちがずっと園庭で追いかけっこしていますよね。他園の子どもたちよりもパワーにあふれている気がします。
夕方もこれくらい遊ぶんですよ。これだけ遊ぶと家に帰っても夕飯を食べてすぐ寝ちゃいますと保護者の方々からもよく言われますね。先生もたぶんそう?
一緒に遊んでいた先生:私も夜9時くらいには寝ちゃいますね(笑)。
—先生たちも本気で遊んでいて、運動量がすごそうですもんね。この園庭にはなにか特徴がありますか?
小川さん:園庭にある「築山(つきやま)」は、斜面が急な面と緩やかな面があります。急な斜面は下るときに怖い。でも緩やかな面なら大丈夫。そんなふうに子どもたちは自分の発達に応じてチャレンジする機会を通じ、自分の体の扱いを覚えます。それにより体幹も鍛えられ、大きなケガをしづらくなります。

縁側から見た園庭と築山
—どろんこ保育園さんは、木登りをしているイメージがあるのですが。
ケガをしない強い体づくりのために、園庭のある園では木登り用の樹を配置しています。自分で飛び降りることができる高さや体の使い方も木登りを通じて認識することができるんです。
—木についている「バツ」印はなんですか?
安全のため、定期的に樹の状態をチェックしていて、木登りに適さない細い木には「バツ」印をつけています。「見える化」といって、大人が口で言わなくても子どもが目で見て判断できるようにするためです。
この「見える化」のための印は、園内のいろいろなところに表示していますよ。

階段にあった「見える化」のバツ印。「子どもだけでここから先には行かない」の意味がある
動物もたくさんいます。今はヤギが1頭、鶏が9羽、うさぎ1羽、亀2匹…ほかに昆虫などもいますね。
小屋の手入れや水槽の掃除は子どもたちが担当します。生き物のお世話を通じて、命あるものは毎日世話をしないと生きていけないことを学んでいくんです。
今いるヤギも盛りを迎えていて、近々子どもたちが出産に立ち会うこともできそうです。

黒ヤギのチョコちゃん
4.施設紹介(ワンフロアの保育室、子育て支援ちきんえっぐ)

平屋部分全体がワンフロアの保育室
—縁側があるこちらの建物は、大きなワンフロアの部屋なんですね。
「すべての人との関わりから、判断・行動を身に着けてほしい」という思いから「異年齢保育」を取り入れています。
1階は主に3〜5歳の子どもたちが生活する場所なのですが、年齢別に部屋を完全に区切らず、1つの部屋を発達の段階に応じて「ゾーン」で分けています。可動式の間仕切りでゾーンを分けてはいますが、その先に行くこともできるので、子どもたちは自分が過ごしたい場所を自由に選んで過ごすことができます。

昨年のゾーン保育の配置
今年は昨年から取り組み方を少し変えています。昨年は遊びのコーナーごとにゾーンを作っていましたが、今年は直角のゾーン配置を崩し、発達に応じた遊びが選びやすい配置にしています。

今年のゾーン保育の配置
—こちらの部屋はなんですか?

キッチンには冷蔵庫やレンジ、調理器具が揃っている
ここは「子育て支援ちきんえっぐ」といって、保護者や地域の方に開放している部屋です。開園中(9:30~16:30)は園庭も園舎も開放していますので、好きな時間に利用できます。
—「ちきんえっぐ」にはどんな意味があるんですか?
英語の「親子丼」からとっていて、「地域の親子にどんどん遊びに来てほしい」という意味が込められています。
親子でクッキングが楽しめる自然食堂や子育てに関することが学べる寺親屋、ベビーマッサージなどの子育て支援イベントを開催していて、地域の方々が気軽に子育て相談できたりコミュニケーションがとれたりする場です。
保育園は一般的には閉ざされたイメージを持たれがちですが、私はもっと気軽に園に遊びに来てもらい、子どもたちとも多く交流を持ってほしいと思っています。
5.コンセプトは「保育園は大きな家」

—どろんこ保育園の多くの園舎は日本家屋のような外観をしていますが、デザインの元になったコンセプトはありますか?
諸我さん:「保育園は大きな家」という考えが基本にあります。普通の家のようにリビングがあって、みんなで集まってごはんを食べて、自分の居場所がある…という状態。
保育園は長い時間を過ごす生活の場なので、子どもたちには安心して過ごしてもらいたい。だから園舎も派手なパステルカラーなどではなく、落ち着いた色合いにしています。木のぬくもりが感じられるようにと、どろんこの保育園は木造が多いです。

開発部長の諸我(もろが)さんにもお話を伺いました
—設計はどなたが担当しているんですか?
理事長と開発部、そしてパートナーの設計事務所の方が中心になって1園1園決めています。園長たちにプランを見てもらいアドバイスをもらったりもしますね。
どろんこ会として決まった設計フォーマットはありません。中里どろんこ保育園に限らず、それぞれの園の立地や地域性を最大限に活かし、どろんこ会グループとしてのこだわりをできるだけ取り入れる設計にしています。縁側が1階と2階にあって、築山やヤギ小屋、土管があり、できるだけ園庭や畑を広く使えるよう配置を調整する…などですね。
6.大切にしている保育方針と特徴

焚き火でおせんべいを焼く様子(昨年の取り組み)
—裸足保育や縁側給食のほかにも、毎朝の座禅や焚き火体験など、独自性のある取り組みをたくさんされていますよね。保育方針について教えてください。
諸我さん:「どろんこ保育園は土遊びなどのどろんこ体験が売りの保育園」といった誤解を持たれることがしばしばあります。確かに公式サイトの写真などで使っているのでそういう印象を持たれやすいかもしれませんが、あくまでも“結果”であって、子どもたちをどろんこにすることが目的ではないんですよね。
私たちは、子どもたちに自分で考え行動できる「にんげん力」を身につけてほしいと思っていて、そのために必要な遊びや野外体験の機会と選択肢を用意しているだけなんです。

小川さん:長距離散歩や焚き火体験、畑仕事などのたくさんの体験をどろんこ保育園では実践していますが、園ごとに取り組んでいる内容は違います。「ほかのどろんこ保育園がこうだから」といってマニュアルだけにとらわれてしまうと、“子どもを動かす保育”になってしまう。
だから時間割どおりに毎朝の座禅をすることが絶対、ではないんです。もし園庭にヘビが来たとしたら、座禅はやめてみんなで園庭に見に行こう!でもよくて。
私たちは経験の機会を用意するまで。そこからは子どもたち自身で考えて、選んで、やってみる。そのことを大切にしています。
—子どもたち一人ひとりの成長過程が違うように、園も1園1園にあった取り組みを模索されているんですね。では、中里どろんこ保育園の今の特徴はどんなところですか?

魚嫌いな子どもの興味を誘おうと有志の調理師たちで作った「うみのおさかな」コーナー
うちは若い職員も多いですが、園自体もまだ開園して2年目で若いんですよね。だからパワーがあって、職員みんなでいろいろなことを話し合いながら進めているところです。
この前は、新卒で入って今年2年目になる保育士の「園庭にビオトープがあったらいいよね」という一声をきっかけに、法人内の園が複数集まって行うプレゼン大会に有志チームで参加しました。そこで入賞してビオトープ設置の補助金を獲得したんですよ!
※ビオトープは、「生命(bio)」と「場所(topos)」の合成語で、生物の生息空間のこと。池のようなイメージが近い。
そのあとは若い男性職員が「おやじの会」というのを立ち上げて、ビオトープ実現のためにお父さんたちを巻き込みながら話し合いを進めているところです。
職員はもちろん、地域や保護者が一体となって、子どもたちのために園全体を活性化させていくのが、今の目標ですね。
—ビオトープの完成が楽しみですね。本日はありがとうございました!