保育園で働く作業療法士って? 子どもの発達を支える一日に密着してみた

医療・介護・福祉の現場で働く人はどんな仕事をしているのか。作業療法士のとある一日に密着した様子を、動画と文章でお届けします。

保育園で働く作業療法士って? 子どもの発達を支える一日に密着してみた

密着した人

保育園で働く作業療法士 杉山さん

杉山智恵子さん

作業療法士歴30年以上。今回の取材先である「心羽えみの保育園石神井台」に来るのは月に2回で、メインの職場は専門学校や大学の学生相談室。小中学校や保健センター・発達支援センターでも働いており、幅広く「子どもの成長」を支えるフィールドで活躍している。

▼杉山さんの一日に密着した動画はこちら!

【9:35】出勤!

作業療法士 杉山さん 出勤の様子

保育園に着いたら検温・手洗い・消毒をします。着替えを済ませ、職員室で一日の予定が書いてあるファイルを確認します。

作業療法士 杉山さん 園長先生と相談する様子

ひと段落したら、子どもたちの近況を聞きに園長先生のもとへ。杉山さんが保育園に来るのは月に2回のため、日頃の子どもたちの様子を園長先生から共有してもらうようです。

【9:55】朝礼

朝礼の様子

園長先生、保育士、看護師と一緒に朝礼をおこないます。始めに各クラスの出欠状況の確認です。子どもたちの健康状態を保育士から看護師へ共有します。

次に献立の発表です。午前のおやつ、昼食、午後のおやつのメニューを確認し、アレルギー食材の有無もチェックします。今日は春雨サラダに園庭で採れたきゅうりが入っているようです。

園庭で栽培しているきゅうり
園庭ではいろんな野菜を栽培している

最後にスケジュールの確認です。杉山さんは午前中に1歳クラスを巡回し、午後は13時から公認心理師を中心とした2歳のカンファレンス、14時から杉山さんを中心とした1歳のカンファレンスがあります。

【10:10】1歳クラスの巡回スタート!

巡回するクラスは月ごとに決まっていて、今日は1歳クラスを中心に巡回する日。子どもたちの様子を観察して、身体の動きの確認や、人見知りをしている子がいないかチェックします。

作業療法士 杉山さん 子どもと触れ合う様子
作業療法士 杉山さん 子どもと絵本を読む様子
作業療法士 杉山さん 歩く様子をチェック

例えば、子どもの足裏を握ってみて「自分の足の存在」を伝えたり、絵本を読む姿勢から体幹を確認したり、歩く様子を確認したり。子どもたちと一緒に遊びながら、さまざまな動作を見ています。

──子どもたちを観察する際のポイントはなんですか?

杉山さん:動作分析が大切です。どんな動きをしていて、どこの筋肉がうまく使えていないかを見てあげると、子どもたちが感じる“日々の大変さ”を掴みやすいんですよ。

今日見ている0〜1歳の子たちは、先生を中心とした集団ではなく各々で遊ぶ時期。なので一人ひとりの身体の動かし方などを見るようにしています。

……私が来るのは月に2回なので、人見知りをする子から泣かれてしまうこともあるんですよ(笑)。なので少しずつ近づくようにしています。

作業療法士 杉山さんの制服
制服にはディズニーキャラが。「子どもウケすると思って」と杉山さん

【11:25】昼食の様子をチェック

食事の介助に入りながら、子どもたちの食べる動作を確認します。

作業療法士 杉山さん 昼食の様子をチェック

保護者や保育士から「偏ったものしか食べない」「うまく食べられているか不安」といった悩みが寄せられる場合や、杉山さんが見て気になることがあった場合には保護者との面談を設定します。

──食べる動作ではどんなところを見ているんですか?

杉山さん:主に口の機能を見ています。0〜1歳は口の機能の発達が一人ひとり違うので、その機能に合わせた食形態にする必要があるんです。具体的には、上唇で食べ物を取り込む動作ができているかを確認しています。

食事介助のポイントとしては、スプーンを顔の前に止めておき、子どもに「自分から取り込みに来て引く」という動作をさせることで、体幹を鍛えることですね。

【12:00】休憩

保育園の給食

お昼休憩です。子どもたちと同じメニューの給食を食べます。

今日の献立

  • 油淋鶏
  • 春雨サラダ
  • ワンタン味噌スープ
  • ごはん
作業療法士 杉山さん 昼休憩の様子
同じタイミングで休憩に入った公認心理師と、食事をしながら情報交換

【13:00】2歳カンファレンス

公認心理師が2歳クラスを巡回して気になった子・気になった行動を保育士に共有します。保育士からも日頃の様子や困っていることを挙げ、ディスカッションしていきます。

公認心理師のカンファレンスで作業療法士の視点からコメントする杉山さん

杉山さんも作業療法士の視点からコメントします。以前に保護者と面談をした際の情報から、気になる行動をしてしまう背景などを推測して伝えます。

【14:00】1歳カンファレンス

杉山さん中心のカンファレンスです。午前中に1歳クラスを巡回して気づいたことを保育士に共有し、日々の保育で実践してほしいことをアドバイスします。

カンファレンスで保育士にアドバイスする杉山さん

杉山さんからのアドバイス

  • 歩き方について
    歩き方や脚の形が気になる子が見受けられる。園庭の築山を登り降りさせたり、バランスをとるようなフワフワしたところを歩かせたりすることで足腰を鍛えてほしい。
  • 体幹について
    床に割座(正座でスネを外に出して座る姿勢)でしか座れない子がいる。体重と身体を支える力が噛み合っていない子も多い印象。例えば絵本を読むときに、子どもたち自身にページをめくらせることで、身体を起こして物に手を伸ばす動作を促すことができる。それだけでもお腹・背中の力を養える。
  • 服の脱ぎ着について
    協力動作(自分から腕を伸ばす、ズボンに足を入れてくるなど)が難しい子がいる。将来的に自分で脱ぎ着できるようにするためにも、二人羽織のように子どものうしろから、身体をどう動かしたら良いのかを教えてあげると理解につながる。

【15:00】記録・休憩

職員室に戻り、パソコンで子どもたちの様子を記録します。夕方に保護者と面談をすることもあるそうです。

作業療法士 杉山さん 記録をする様子

【18:40】退勤!

本日の業務は終了です! お疲れさまでした!

作業療法士 杉山さん 出勤の様子

保護者との関わりは“前向きに”

──保護者と面談をすることもあると聞きました。どのように面談を設定するんですか?

私が園に来るのは月に数回なので、園長や保育士と相談しながら決めることが多いです。私から「この子が気になるから保護者と話をしたい」と園長に伝えたときは、園長が保護者に話をしてくれて、私とつないでくれます。

──「子どもに気になる点がある」と保護者に伝えるタイミングが難しそうですね。

保育士にも保護者の様子を聞いてみて「まだそんなに気になってないみたい」と言われたら、もう少し様子を見てみることにしています。

子育ての悩みって誰でも絶対出てくるので、例えばお母さんが連絡帳に悩みを書いてきたとか、ちょこっとでも悩んでいる様子が見られたタイミングで、園長から「良かったら作業療法士の話を聞いてみない?」と持ちかけてもらうようにしています。

作業療法士 杉山さん 取材中の様子

──悩みが出てすぐに相談できるのは安心ですね。

もし面談まで時間があいてしまうという場合でも、その間は臨床発達心理士でもある園長がフォローしてくれるんです。とにかくほったらかしにならない環境なので、保護者も子どもも安心してもらえると思います。

あと、園では育児講座を年に2回開催していて、6月に私が、11月に公認心理師が育児の悩みの解決策となるようなことを話すんです。そこに参加した保護者から「面談をしたい」と言ってくれることもあります。

──なるほど。とはいえ、発達に関する話はデリケートだと思います。保護者とのコミュニケーションで摩擦が起きることはないのでしょうか。

そうですね。保護者のみなさんへは“前向きな伝え方”を心がけています。

例えば公認心理師がおこなう知能検査でも、「検査結果の数字が悪かったから病院へ行こう」といったマイナスな捉え方はしてなくて。「しっかり発達するために、園でどう関わっていくと良いか考えましょう」という前向きな捉え方をするんです。

まず検査するにしても「発達をどう後押しするかを考えるために、今の状態を確認しませんか」と保護者に持ちかけます。当然必要な子には医療受診や児童発達支援の利用も勧めますが、基本的には「うちの園でどう見ていくか、子どもの発達をどう支えていったら良いか」という考えを軸にしています。

保護者には「発達はそれぞれまちまちだから、みんな同じじゃなくていいよ」って伝えています。

作業療法士 杉山さん 取材中の様子

時代によって変化する子どもの特徴を捉える

──杉山さんが心がけていることはありますか?

子どもたちの様子をしっかり押さえるためには、常に勉強しなきゃいけないなと思っています。時代によって子どもの特徴は変わるので。

──特徴というのは例えば?

今の子の特徴は体幹が弱いこと。10年前の小学生と比べて、今の小学生は上体反らしをキープできる時間が半分と言われているくらいなんです。

上半身で言うと、体幹が安定してから肩、肘、手首、指と安定していきます。なので体幹が不安定な子は将来的に書字に問題が出てきたり、片手を身体の支えに使うので両手で遊べなかったり。今の小学生はリコーダーを落とす子がすごく多くて、リコーダーにストラップをつけて首から下げているくらいなんです。

──体幹一つでそんなに影響が出るんですね……!

ほかにも眼球の安定に支障が出て斜視になったり、姿勢が崩れることで視界に入る景色が変わるので集中力がつかなかったりもします。

──そういった後々の成長を考えると、保育園の時期の発達を見るのはとても大事なことなんですね。

本当に大事です。小さい頃に「困ったことがあったら誰かが助けてくれる、話を聞いてくれる、頑張りを認めてくれる」という経験をしっかりして、人との関わりを怖がらないように育ってほしいですね。

自分で自立して社会に出て適応できる。そんな大人に成長してほしいと願っています。

作業療法士 杉山さん 取材中の様子

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