密着した人
看護師 樋渡(ひわたし)先生
看護師/保健師。大学卒業後は小児看護を志し国立成育医療研究センターに就職するが、ケガをきっかけに泣く泣く退職。クリニックに転職したあとも小児看護に対する思いが消えることはなく、先輩の勧めで保育園に転職。そこで現在の勤務先である「心羽えみの保育園石神井台」の園長と出会う。同園には2017年の立ち上げから在籍しており、現在勤続6年目。
【7:50】出勤
今日は早番(8:00〜17:00)のため早めに出勤。着替えを済ませたら始業10分前には職員室に入ります。まず最初に前日のケガについて保育士が残したメモを確認し、子どもたちの健康に関わる情報を集めます。

この日は朝から続々と電話がかかってきました。撮影時期は2022年7月下旬。夏風邪が流行する時期に新型コロナウイルス第7波が重なり、本人や家族の発熱を理由に欠席の連絡が相次ぎました。

「保育園で看護師に求められるのは保健師のような予防活動」と話す樋渡さん。多くの子どもたちが集団生活を営む保育園では、感染症の拡大をいかに防ぐかが重要です。保育士が中心となって子どもたちの様子をよく観察し、発熱や嘔吐の症状があれば保護者にお迎えを依頼します。
このお迎えコールは看護師の仕事。登園したばかりの時間帯ですが、この日は朝礼までにお迎えコールを2回入れることになりました。

ほかにも、作業の合間を縫って園内を巡回して子どもの様子を確認したり、もう一人の看護師である長﨑先生と情報を共有したり、出欠状況をまとめたり、園内の消毒をしたりと、朝礼までにやるべきことがたくさんあります。

【9:50】朝礼
朝礼では子どもたちの出欠や一日のスケジュールについて情報を共有します。この日は半数近くが欠席。

樋渡先生からは園内にRSウイルスの確定診断を受けた子どもがいること、他園では手足口病やヘルパンギーナが増えていることなどが報告されました。

医療機関から保育園に転職して大変だと感じるのは、子どもよりも保育士など他職種との関わりだと言います。

樋渡先生「病院で働いていると周りは医療関係者になるので、みんな医療の知識を持っていて当然という中で働いていて、自分が言ったことがほぼ100%伝わるのが普通だったんですけど、保育園って医療者は自分だけ。何かあったときに、例えば感染症のことやケガのことを保育士さんに伝えても、相手は保育のプロであって医療関係者ではないので伝えるのが難しいなって。なので自分の伝え方を工夫したりとか、人に説明をする方法は日々学んでいかないとなって思いました」
【10:00】保育室の巡回
この日予定されているプール遊びが実施できるかどうか水温を確認します。残念ながら水温は16度と入水は難しそうです。

園長先生に報告のうえ、担任の先生にもプールへの入水は控えてスライダー遊びに切り替えることを提案します。

子どもたちが大好きなプール遊びですが、体が冷えたりウイルスに感染したりするリスクもあります。安全にプールを楽しんでもらうために、プールの清掃と消毒、水温や気温の確認、子どもの体調の確認などさまざまな準備をおこないます。保護者にも「水遊びけんこうカード」を渡し、家庭での様子に問題はないか報告してもらうようにしています。

その後、0歳児クラスから5歳児クラスまで連絡ノートを一冊一冊確認する樋渡先生。欠席が多い日とはいえ、確認する連絡ノートの数は70冊以上に上ります。

樋渡先生「私、一番最初に就職したのが小児病院で。小児科って子どもだけじゃなくて、そのバックグラウンドがすごく大事。キーパーソンとなるお母さんとか、家庭の環境(を知ること)がすごく大事だなっていうのを病院でとっても教わったんです。
保育園に来て、いろんなバックグラウンドのお子さんがいて。ノートをきちんと読んで『この子最近お家で何かないかな』っていうのを、保育士さんからの情報だけじゃなくって、自分でも取るっていうのをすごく大切にしています」
爪切りや薬の塗布などの処置はもちろん看護師の仕事。この日は幸い大きな事故はありませんでしたが、子どもが大きなケガをした場合には応急処置や受診・救急の要否の判断も担います。


業務の中心はあくまで子どもたち。保健日誌の記録や連絡ノートへの返信といった事務作業は合間に片付けなければなりません。

その間にもお迎えコールが発生しました。保護者が来るのを待つ間、心細い思いをしないよう絵本を読んで子どもに寄り添います。

間もなくパパが到着。


お家での過ごし方について、樋渡先生から子どもに直接お願いします。

園長の高橋先生はこの保育園を立ち上げるにあたって、樋渡先生を「熱望して」引っ張ってきたと言います。樋渡先生のどんなところを評価しているのでしょうか。

園長 高橋先生「看護師としてのスキルが素晴らしい。あと子どもをかわいいって感じてくれる。やっぱりそこがないといくらスキルがあっても、子どもにはちょっと冷たい感じになりますもんね。だけどそうじゃない人柄、子どもが好きなんだっていう人柄ですよね。
看護師時代(病院勤務時代)に看護指導計画を書いていて『この子が最後に寛解して退院していく』という記録(記述)があったとしたときに、最後まで到達しないで命を落としていくっていう子を何人も見てきた。子どもの命と常に向き合ってきた人なので、保育園の中の子どもの命にもちゃんと真摯に向き合って、今何が大事かやってくれる方だから」
【12:00】食堂の巡回
思いっきり遊んでお腹を空かせた子どもたちが待ちに待った給食の時間です。

またしても巡回を始める樋渡先生。食事が進まないなど子どもたちの体調に変化がないか確認します。

職員室に戻ると、わずかにできた時間で事務作業に集中します。

【12:30】午睡の準備
午睡前に保育室を巡回してワセリンなどの塗り薬を塗布します。3〜5歳児クラスの子どもたちはまだまだ遊び足りないようですが──。

2歳児クラスの子どもたちはご覧のとおり夢の中。

【13:00】休憩
ここでようやく樋渡先生も休憩です!

職員室の片隅で一人で食事を取る樋渡先生。理由は「先生方と一緒に食べるとどうしてもおしゃべりしたくなってしまう」から。看護師として感染症対策には誰より気を使っています。

【14:00】消毒
子どもたちが寝ている間に消毒作業を済ませます。消毒作業は1日に2回、1階は看護師が、2階は保育士が手分けしておこなうことになっています。

保育園に看護師を置く意義について園長先生に尋ねたところ「子どもの命を預かるには保育と看護の連携が必要」という答えが返ってきました。
園長 高橋先生「私も保育士を40年以上やっているなか、昔は現場に看護師はいなかったです。だけど、保育だけでは子どもの命を預かれない。保育看護ですね、保健的な知識がなければ命は守れないということを本当にひしと感じてました。
子どもの体調不良が段階を追っていくときに、今鼻水が出始めた、もしかしたらそのあと咳込みがあるかもしれない、中耳炎になるかもしれない、だとしたらそれを親御さんに早くお伝えしていこうとか、そういう看護的なことをしっかり見てもらえるのが、保育者ではなかなかそこまでの危機管理ができないと感じていましたね。
それからケガ。園の中でケガが起きます。例えば頭部打撲。保健研修があるので保育士にもある程度の知識はあるにしても、どうやって顔色を見るのか、何分後にはどう変化していくのか、聴診器を当てる、血圧測定ができる。そういったことを瞬時に判断して行動を起こせるのが看護師なので。だから保育看護が一番大事」
【14:30】身体測定
保育園では子どもたちの身長と体重を毎月測ることになっています。今日はお休みなどの理由で当初の測定日に測ることができなかった子どもたちの分を計測しました。

身長計と体重計を持って、上へ下への大移動です。

【15:30】0歳児の保育
看護師2名体制のため、通常は0歳児の保育と保健、プールの日はプールと保健に分かれて業務を進めるそう。この日はプールの日ですが、合間を見て0歳児クラスのサポートに入ります。

樋渡先生「やっぱり看護師なので『バリバリと臨床で』っていう気持ちももちろん。憧れもあるし。同期が頑張ってるところを見ると『そういう道にもう一度』という気持ちも多少持ちつつも、一番最初の病院が小児がんの子が多い病棟だったので、こんなに元気な子たちと関わることってほとんどなかったんですよね。
『子どもって本来こんなに元気なんだ』とか、そういうところに触れると『保育園の看護師ってすごく楽しいな』と。
みんなが元気に卒園していく姿を見ると一番やっててよかったなっていう気持ちになります」

【16:00】事務作業
職員室に戻り、保健日誌を付けます。

事務作業に戻ったのも束の間、また一人お迎えの準備に向かいます。なお、この日のように体調不良の子どもの対応が中心となる日は珍しく、普段はすり傷など軽いケガの処置のほうが多いそうです。

迎えにきたパパに体温や食欲などその日の健康状態を報告し、自宅での療養をお願いします。

【17:00】保護者対応
17時を過ぎると続々と保護者が迎えに来ます。本日早番の樋渡先生は17時で退勤のはずですが──。

職員室で電話対応中でした。新型コロナウイルスの流行により、子どもだけではなくその家族の健康状態についても迅速で正確な情報収集を心がけます。

子どもを迎えに来たタイミングで樋渡先生に話しかける保護者も多くいます。

この日は18時を回っても事務作業が続きました。

一旦は「帰ります!」と宣言した樋渡先生。

とはいえ、お迎えは保護者と直接話せるチャンス。ぎりぎりまで積極的にコミュニケーションを図ります。


樋渡先生「保育園はなるべく看護師が保護者さんと関係がないほうが子どもたちが健康(という証)というか。何かあったとき、聞きたいときにいつでも声をかけてもらえるように自分から挨拶したり声をかけたりっていうのは大事にしてます。保護者さんにもまずは自分のことを認識してもらう、信用してもらえるようにということは気をつけています」
【18:30】退勤
欠席者や早退者が続出した一日でしたが、本当におつかれさまでした!

樋渡先生「(医療機関の)看護師と比べてやっぱりかなり業務が違うので、本当に日々葛藤することも多いし、同じように働いてた周りの人も馴染めずに辞めて臨床に戻った方とかもいるんですけど、本当に私は保育園業界に初めて来たときに『もう天職だ』って思ったんです。迷っている方には『一度やってみたら?』って言いたいです」
