保育士不足に逆行する保育園
保育士の人材不足が全国的に深刻です。厚生労働省の発表によると、2022年4月における全国の保育士の有効求人倍率は1.98倍。全職種の有効求人倍率は1.17倍となっており、この数字からも保育士人材の確保は喫緊の課題と言えます。
そんななか、TikTokを活用し3ヶ月間で2023年度の内定者を10人以上確保したうえに、約3,000万円の採用費を削減した企業があります。千葉県で認可保育園「キートスチャイルドケア」「キートスベビーケア」13園を運営する株式会社ハイフライヤーズ(以下、ハイフライヤーズ)です。SNS運用の具体的な効果やその裏側を取材しながら、次世代の保育園運営のヒントを探りました。
話を聞いた人
友だちと話すようにライブ配信
ハイフライヤーズではコロナ禍以前、採用活動の一環として全国で開催される保育士の合同説明会に参加していました。コロナ禍以降は説明会に参加する学生が減ってしまったため、学生が足を運ばなくても保育園を知ってもらう方法を探りました。
そこで活用したのがSNS、まず着手したのはInstagramです。園内の様子や職員が働いている姿を投稿し、ライブ配信も試みるも期待通りの結果は出ずに苦慮したと言います。
さまざまな模索をするなかでチャレンジしたのがTikTokです。Instagramと同じく園内の様子や子どもたちの製作物を撮影した動画を投稿しました。しかし思うような反応がなく、視聴回数も伸びません。この結果を踏まえて、視聴者層と視聴目的を考えたそうです。
「観ているのは主に若い子、いわゆるZ世代です。そんな方々が『何を知りたいか』を考えた際、働く職員のリアルな姿なんじゃないかと思ったんです。そこで毎日1時間のライブ配信を始めて、観てくれる人とコミュニケーションを取ることにしました。すると『保育士の仕事のやりがいを知りたい』『給料や福利厚生について教えてください』という質問が来るようになりました」(石井さん)
視聴者は就活中の学生や、ほかの保育園の保育士、将来保育士を目指している小中学生、キートスに子どもを預けている保護者など多岐に渡ります。
配信するうえで心がけているのは“目線”と“距離感”です。友だちと会話をするように自然なやりとりを心がけています。その理由とは?
「学生は就活を通してさまざまな園を見ているので、本心から言っているのか、それとも言わされているかを見抜いています。普段やっている仕事、感じていることを自由に話すからこそ親近感を持ってもらえるんです」(濱野さん)
ライブ配信では些細な質問にも答えています。これにより入社後に抱えるギャップを解消でき、結果として離職防止にも繋がりました。TikTokをきっかけに入社・入社予定の保育士はのべ30人あまり。取り組みを始めてからの離職者は減少傾向にあると言います。
採用費を約3,000万円削減。その使い道
コロナ禍以前、13園を運営するハイフライヤーズの年間採用費は約3,000万円にのぼりました。大まかな内訳は全国での合同説明会の参加費用(ブース代、人件費、交通費、宿泊費)、人材紹介会社への成果報酬費です。現在は出演者とスマートフォンがあればいつでも、どこででも採用活動ができます。
では浮いた費用はどうしているのでしょう。
「浮いた採用費は別の取り組みに充てています。その一つが昨年から開始した『荷物のいらない保育園』です。子どもたちが使うお布団やオムツ、歯ブラシや食事用エプロンなどを保育園で準備して、保護者と保育者の負担を減らす取り組みをしているんです」(日向さん)
保護者が登園のためにかける準備時間や、たくさんの荷物を持つ負担を軽減することで、家族団欒の時間を過ごしてほしいと言います。
保育園で食材を販売。その狙いとは
今後も保育園の型にはまらない新しい施策をおこなう予定です。
「保育園でミールキットの販売を検討しているんです。仕事が終わってお迎えに来たあとに買い物をするって大変なことなんですよね。そんなときに保育園でちょっとした買い物ができれば育児も楽になりますし、子どもと楽しめる時間をもっと作れるんじゃないかと考えています」(石井さん)
保育園は子どもを預ける施設。視点を変えると「子育てをする大人が1日2回必ず足を運ぶ場所」とも言えます。その導線上で必要なものを賄うことができれば、子どもとのゆとりのある時間が増えるはずです。
「また明日も来たい」と思える保育園を目指して、ハイフライヤーズの挑戦は続きます。