ありのままを受け入れる鳥居みゆきの生き方「発達障害の診断を受けないのはそう選んだから」

発達障害に関するふたつの資格を取得し、注目を集める鳥居みゆきさん。彼女自身も「おそらく発達障害がある」と感じつつ、あえて医師の診断を受けていないと言います。

ありのままを受け入れる鳥居みゆきの生き方「発達障害の診断を受けないのはそう選んだから」

目次

発達障害やグレーゾーン(発達障害の特性は見られるものの確定診断が出ていない状態)の人たちが、社会生活で大切なスキルを学べるNHK Eテレの子ども番組『でこぼこポン!』。主演の鳥居みゆきさんは、周囲からしばしば「変わっている」と言われながら育ちました。

『でこぼこポン!』では、毎回違ったテーマの発達でこぼこ(発達の偏りが大きい場合に用いられる表現)が取り上げられます。鳥居さんはそれらに共感しながらも、「私は発達障害の診断は受けない」と語ります。

その理由を聞くと、自分の個性を肯定的に捉え、ありのままを受け入れる姿が見えてきました。(前後編の後編/前編はこちら

話を聞いた人

鳥居みゆき

鳥居みゆき
2000年に芸人デビュー。白装束で踊る「ヒットエンドラン」のネタでブレイク。映画やドラマ出演のほか、著書に『夜にはずっと深い夜を』『余った傘はありません』(幻冬社)『やねの上の乳歯ちゃん』(文響社)がある。発達障害をテーマにした番組『でこぼこポン!』(Eテレ)に出演中。

でこりんには共感できることばかり

──鳥居さんは2022年からEテレ『でこぼこポン!』に、発達がでこぼこな博士の「でこりん」役として出演しています。さまざまな悩みを抱える役柄ですが、演じる際に意識していることはありますか?

鳥居みゆきさん:とくにないですね、でこりんは私そのものなんです。だからどの困りごとも「私もそう思う!」と共感できることばかりです。友達のぼこすけに共感できることもあります。人混みがイヤとか、初めての場所は緊張するとかね。どのお話も共感できています。

インタビューにこたえる鳥居みゆき

でもまれにでこりんに共感できないこともあります。例えば文字をマスに収められない話です。でこりんがマスに名前を書くんですけど、大きくはみ出しちゃって落ち込むんです。私は絶対にはみ出しません。むしろはみ出すことは悪だと思っているから、はみ出せないんです。こういうところが違うなぁと思います。

──番組ではあらゆる困りごとの解決策をみんなで探ります。鳥居さんは自分の特性に悩んだら解決策を探しますか?

行動を変えてどうにかなることと、努力してもできないことがありますね。できないことは人に頼っています。

私ね、リボン結びが苦手なんです。できるようになりたいから練習したけど、それでもできないんです。だから、めちゃくちゃ努力した自分を褒めてあげて、あとはできる人にお願いするんです。いつもマネージャーさんに「靴ひも結んで〜」とお願いしています。

何もせずに最初から頼るのはダメですよ。できるよう努力はすべきです。努力してもダメであれば、人に甘えるスキルを身につけて頼るんです。

診断を受けないのは私がそう選んだから

でこりんの話じゃないですけど、私、耳で聞いたことが覚えられないんです。

インタビューにこたえる鳥居みゆき

──耳で聞いたこと?

例えば、人の名前を耳で聞いただけでは覚えられません。でも一度書いたり、文字として読むと覚えられるんです。音楽もそうで、この曲を覚えてくださいって音源だけを渡されても歌えないけど、カラオケの音程バーのような音の運びを見ればほぼ歌えるんです。日本語吹き替えの映画は記憶に残らないから字幕で観ます。これもLD(学習障害)の一種なのかなぁ。

──テレビの現場では「これをやってください」のようなとっさの指示があるのでは?

ありますけど、口頭で指示されただけではできません。『でこぼこポン!』でもよくありますが、変更があったら文章で見せてくれるんです。この現場のいいところは苦手なことを苦手と言えることですね。

──立ち入ったことをお聞きしますが、鳥居さんはこれまで発達障害と診断を受けたことはありますか?

ないですよ。だって、もしも発達障害と診断されたら、誰も私のことを不思議とか変な人って言わなくなるし、言えなくなるじゃないですか。診断を受けないのは私がそう選んだからで、今のままが楽なんです。

でも、病院に行ったら発達障害と診断されるんだろうな。世間に「鳥居は変わってる」と言われなくなったら受診します。

親の教えは「無理せず適当に生きろ」

──両親にはどのように育てられましたか?

両親は寛容で、無理して頑張る必要はないとよく言われていました。だから食事に関しても、「嫌いなものを食べるのがイヤなら違うものを食べたらいいんじゃん?」 みたいな感じでしたね。

「人生を重く考えず適当に生きろ」とも言われていました。適当に生きていると、本来の意味の適当(ちょうどいい・ふさわしいの意)になるときが来るから、好きなことやできることを突き詰めながら楽しんでやりなさいって。

インタビューにこたえる鳥居みゆき

──非常にいい教えですね。好きなことを突き詰めるといえば、鳥居さんは歯に関する絵本の出版やYouTubeでの発信をされていましたね。歯が好きなんですか?

そう、なぜか歯が好きなんですよ。歯って大事だからかな?

もともとは骨が好きだったんですよ。高校1年生のときに葬儀社でアルバイトを始めたのですが、仕事中ずっとニヤニヤしているという理由から半日でクビになりました。それでも体の一部に携わる仕事がしたいなと探したら歯科医院の募集を見つけて、それから歯科助手のアルバイトをしていました。

高校3年のときに働いていた歯科医院の先生が東京で開業を進めていたんです。私も卒業したら上京すると話したら、じゃあそこで働きなよとなって、東京でも歯科医で働いていました。

歯科助手とはいえ患者さんにいろいろな質問をされるので、きちんと答えられるように自分で体験をしました。

──体験ですか?

自分で治療を受けるんです。患者さんに「神経の治療ってどれくらい痛いですか? できれば麻酔はしたくないんです」と聞かれて、「痛いから麻酔したほうがいいですよ」と答えていたけど、それじゃどれぐらい痛いのか伝わらないじゃんと思ったんです。

ちょうど虫歯の治療があったので、麻酔をせずに神経を取ってもらいました。それがもう失神するほど痛くて、途中で麻酔を打ってもらいました。自分で体験して初めて「絶対に! 絶対に麻酔したほうがいいです!」と感情を込めて伝えられるんです。

子どもの純粋さから学ぶことがある!

──現在『でこぼこポン!』に出演していますが、普段は障がいを持った子どもと関わることはありますか?

あまりないですね。定型発達の子どもとの関わりも少ないです。

数年前に三池崇史監督の『アイドル×戦士 ミラクルちゅーんず!』という子ども向けの特撮ドラマに出ていたことがあるんです。ライブイベントもあって、そこで子どもたちと関われるかなと思ったけど、私の役が悪の組織の一員だったので「帰れー!」「意地悪するなー!」とか言われて。

いつか子どもに好かれる役が来ないかなーと思っていたらEテレからオファーが来たんです!

──『でこぼこポン!』に出演するようになってから、街中で「鳥居みゆき」ではなく「でこりん」と呼ばれる機会が増えたのでは?

めっちゃ多くて、昨日も言われましたね。子どもが「でこりんだー!」と言いながらお母さんの後ろに隠れるんです。でも笑顔だったから喜んでくれているんだなって(笑)。

インタビューにこたえる鳥居みゆき

子どもって「何でそこにこだわるの?」ていうおもしろいことをしますよね。でも本人はめっちゃ真剣に楽しんでいるじゃないですか。本当にかわいいですよね。

私も子どものころは砂場に穴を掘って、それを埋めてまた掘るという生産性のないことを真剣に楽しんでいたわけですよ。大人になった私にはその純粋さがないわけですよ。疲れるからや〜めよってなってしまうんです。

大人にはない、子どもの純粋さから学べることがあると思っています。『でこぼこポン!』の最後に間違い探しコーナーがあるのを知ってます? 

──知っています。たくさんあって、短時間ですべて探すのは難しいですよね。

そう、それ! 全部見つけようとするのは大人なんです。全部見つけろなんて誰も言っていないのに、大人としてのプライドで見つけなきゃと思っているだけなんですよ。甥っ子は「わぁ! 今日は2個も見つけられた!」と言うんです。

──確かに……!

そういう発言から学ぶことがありますね。あとね、甥っ子が「ママ大っ嫌い」という言葉を覚えて、「ママは♪ 大嫌い♪」と歌い出したんです。うちの姉は「こらっ!」て怒り出したけど、ちょっと待ってと。まだ続きがあるっぽいからとりあえず聞いてみようとなったんです。

続きを歌ってもらったら「ママは♪ 大嫌い♪ 天ぷら♪ 月見♪ お肉♪ ヒガシマル♪ うどんうどんうどんスープ」だったんですよ。ヒガシマル! ママ関係ねぇと(笑)。 子どもの発想は本当にすごいですよね!

前編「たった10日で発達障害の資格を取得——芸人・鳥居みゆきは「人の役に立ちたい」と語る」を読む

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