「医師だけで人生終えたくない」激務救急医が始めた100日連続SNS投稿の裏側

ケガや病気、やけどなどの急病患者を、診療科にかかわらず診察する救急医。激務の合間をぬって、X(旧Twitter)に医療現場の日常を投稿し続けた救急医に話を聞いてみました。

「医師だけで人生終えたくない」激務救急医が始めた100日連続SNS投稿の裏側_KV

目次

診療科にかかわらず、急病患者に24時間体制で対応する救急医。2022年に厚生労働省がおこなった調査によると、医師の時間外・休日労働時間が多い診療科の上位に救急科が含まれています。

そんな環境で働きながら、月に10回の当直を10年間続け、Xで「救急医の日常」を100日連続で投稿した医師がいます。救急科専門医・集中治療専門医のぱんださんです。

投稿の特徴は、“医療現場あるある”にAIで制作したイメージ画像を添えていることです。

医療現場で日常的に起きていることや、これまで体験した特異なエピソードをつづっています。

なかには、目を疑う症例も……。

2025年6月1日の開始以来じわじわと拡散され、半年でフォロワーは3,600人あまりまで伸びました。診療や当直の合間の限られた時間をなぜ投稿に費やそうと思ったのか、その理由を聞きました。

話を聞いた人

ぱんだ先生プロフィールアイコン

救急科専門医・集中治療専門医 ぱんださん

研修医のころから救急科にて経験を積む。後期研修では、より緊急度が高く、多忙な病院を希望し入職。在職中には、離島・僻地医療も経験した。専門医を取得後に病院を退職し、フリーランスへ。現在は救急以外に外来や入院病棟などの幅広い診療が経験できる病院へ転職。在職中にXで「ぱんだ」としてアカウントを開設し、救急医の日常や医師の働き方をAI漫画とともに発信している。

「医師の仕事だけで満足のいく人生が送れるのか」

──現役救急医として働くかたわら、2025年6月から100日連続でイラストとともに「救急医ならでは」のストーリーを投稿していました。反応はいかがでしたか?

ぱんださん:最初は、同業の医師からの反応が多かったんですが、徐々にコメディカルの方や患者さんとその家族など、さまざまな方からコメントをいただくようになりました。現在は、医療と直接関係のない方からの反応のほうが多くなっています。

さまざまなトピックを投稿していますが、幅広い層からの関心と共感を呼ぶテーマは、やはり反応が多いと感じています。

──救急医を続けながらの投稿作成は大変だったのでは?

たまに自分でも「何やってるんだろう」と我に返る瞬間があります。周りから考えるよりまず行動する「脳筋型」と言われることが多いのですが、救急も投稿もこんな性格だから続けられたんだと思います。今は、医師だけの仕事で1日を終えていたときよりずっと充実しています

病院で働く救急医の1日
1投稿作成するのに4〜10時間かかるという

──こんなに忙しいなか、なぜSNSで発信しようと思ったんでしょう?

きっかけはコロナ禍でした。重症のコロナ患者がひっきりなしに搬送され、人工呼吸器管理が必要なケースも多く、毎日のようにコロナで亡くなる方を目の当たりにしました。

さらに、最前線で診療にあたっていた知人の医師もコロナで亡くなったと聞き、「自分も死ぬかもしれない」「そうなったら残された妻や子どもはどうなるんだろう」と思いました。医師であると同時に“一人の父・夫である自分”を強烈に意識したんです。また、「医師の仕事だけをして、人生が満足いくものになるのか」という疑問も湧いてきました。

そんなときTwitter(現:X)を開いたら、医師として働きながら、輸出業や不動産業、会社経営、コンテンツ制作などに取り組み、本業以外でも大きな収入を得ている方がたくさんいて衝撃を受けました。どんな人たちか会ってみたくなり、DMを送ったんです。

──「私も医師です。話を聞かせてください」のような?

そうです。怪しいですよね(笑)。当時のXアカウントでは医師と名乗っておらず、ただ食べたものを投稿するくらいでしたから。

直接会ってみたらオープンな方ばかりで、法人の作り方や経営者の考え方など、目からうろこの情報をたくさん教えていただきました。たくさんの刺激を受けて「自分も何か新しいことを始めたい」と思ったんです。

そこで、まずはもともと好きだったライティングに挑戦しようと考え、執筆スキルを上げるために、オンラインサロンや書籍、YouTubeで学びながらクラウドソーシングサービスを使って、医療系コラムの執筆などを請け負うようになりました。それまで“自分を売り込む経験”がなかったので、新鮮でした。時給換算すると2円くらいでしたが。

──2円! 医師の給与とは比べものになりませんね。

医師としてバイトしているほうがよほど高い報酬が得られます。例えば寝当直なら、ほぼ労力をかけずに一晩で数万円になることもありますし、楽さも段違いです。ですが、寝当直ではスキルや経験は何も得られません。自分が知らなかった世界を学んだり、経験したりすることのほうがはるかに得るものが大きかったんです

*夜間の病院や介護施設などで待機し、患者の急変時や緊急対応が比較的少ない勤務形態の俗称

ライティングを続けるうちに、独自の内容を発信したいと思うようになっていきました。ところが、医師 × 特定テーマのノウハウ系コンテンツは飽和状態で、健康、ダイエット、投資、副業は先人がいましたし、どれにも興味が持てなかったんです。

──そこから、医療現場のエピソードにイラストや画像を添えるようになったのはなぜですか?

自分の強みは、20年の救急医としての経験です。とはいえ、救急医が運営するアカウントはすでに存在するし、医療知識をわかりやすく発信する方もたくさんいる……。

二番煎じにならないために、どうしようか考えて思いついたのが、実話ベースの「救急医あるある」とAIで作った挿絵を一緒に投稿する手法でした。もう若くはないので、昔から好きだったイラストや漫画なら楽しんで続けられると感じたのも理由です。個人情報に配慮して設定などをアレンジし、読みやすくなるよう試行錯誤して毎日創作していました。

医療現場のストーリーを伝え続けたい

──ご自身の体験を投稿しているとのことですが、そもそもなぜ医師になろうと?

祖父も父も親戚も医者のいわゆる“医者家庭”で育ったことが影響しています。救急医になろうと思ったのは、医学部3年のときに交通事故に遭ったことがきっかけです。自転車に乗っていたところ、走行していた自動車と衝突してしまい、救急搬送されました。その際、救急医や整形外科にお世話になったことで、救急医を目指すようになりました。

──救急医として、これまではどのような職場で働いてきましたか?

2年間の初期研修のころから救急科で経験を積みました。後期研修では、より救急度が高い患者さんを受け入れる三次救急を希望し、配属されました。そこで、救急科専門医や集中治療科専門医も取得しました。

5年ごとの更新が必須という専門医

──一貫して救急医を?

いえ、三次救急の病院に所属していた際、病院の派遣プログラムで離島や僻地医療に携わったこともあります。「人的・物的資源が限られるなかで、自分の力を試してみたい」という気持ちがありましたが、実際に行ってみると、病院の後ろ盾があって十分な医療が提供できていたんだと実感しました。

また、三次救急病院で働いて10年を超えたころ、「ほかにもやってみたい医療があるかも」と思い、退職してフリーランスになったこともあります。そのときは、救急を離れて内科などを経験しましたが、やはり「救急で働きたい」と思い、現在の病院に転職し救急医を続けています。

──100日連続投稿を終え、今後挑戦してみたいことがあれば教えてください。

今後も救急医として働き続けたいですね。ただ、年齢的にいまの働き方がきつくなってきているので、少しバランスを見直すかもしれません。

Xでの投稿も続けたいと思っています。上手な絵はすでにインターネット上で無限に出てきて、そこを極めても仕方ないのかなと思うので、やはり救急の現場で経験した“ストーリー”をベースに、挿絵的にイラストを入れる方向性で続けたいと思っています。これからも読んでくださる方に、少しでも楽しんでいただければうれしいです。

100日連続投稿の100話目のイラストは手描きだったという

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