
1.「まちのてらこや保育園」に行ってきた
2.「まちのみんなが先生で、まち全体が保育園」
3.働くお母さんに寄り添える保育園を目指して
4.ほっとくつろげる、和室のある保育室
5.認可外保育園から認可保育園へ
6.最後に
1.「まちのてらこや保育園」に行ってきた

東京都中央区の日本橋エリア。オフィスビルやマンションが立ち並ぶなか、パッと目を引く黄色い「のれん」が目印の「まちのてらこや保育園」。
東京メトロ人形町駅・水天宮前駅、都営地下鉄の浜町駅・馬喰横山駅・東日本橋駅のどの駅からも徒歩10分以内のところに位置するビルの1,2階にあります。
2.「まちのみんなが先生で、まち全体が保育園」

高原さん:代表で園長の高原です。よろしくお願いします。
—よろしくお願いします。今1階は工事中なんですか?
そうなんです。2020年4月から認可保育園に移行するため、今はそれに向けて1階、2階と順に改修工事をしています。だから少し雑然としていて、すみません。
—いえ、認可取得前後のお話が聞ける貴重なタイミングになりそうです。ではさっそくですが、園の紹介をお願いします。
「まちのみんなが先生で、まち全体が保育園」というコンセプトのもと、2015年9月に認可外保育園として開園しました。
都心の保育園ではありますが、まち全体で子どもたちの育ちを見守り・関わっていただけるよう、さまざまな工夫をしながら運営しています。

朝の公園遊びに同行させてもらった
—コンセプトはどのような経緯で生まれたんでしょうか?
都会の子育ては保育園と家だけで完結しがちで、「1人で子育てをしているようで孤独です」というお母さんの声をよく聞きます。地域の人との交流もほとんどありません。とくに東京では「となりの家に住んでいる人のことを知らない」って言いますよね。
わたしは田舎の出身なので、近所の人はみな顔見知り。毎日たくさん声をかけてもらいながら育ちました。まちのてらこや保育園は東京の真ん中にありますが、せっかくそのまちに住んでいるなら、まちの人たちとたくさんつながりを持って、田舎のようにまち全体で子どもたちの育ちを見守っていける環境をつくりたいと思ったのです。そうすることでお母さんお父さんの心理的負担も軽くなるし、子どもを介して交流が生まれ、まち全体にも活気が生まれます。
子どもたちにとってはこのまちが故郷になります。人との温かい交流を通じて、故郷に愛着を持ってもらいたいという思いもあります。

—具体的に「まちのみんなが先生」「まち全体が保育園」が表れている取り組みはありますか?
まちの人たちとの交流の機会をつくるようにしています。近くの公園に散歩に行くことからはじまり、地域のお店にお邪魔したり、園に遊びに来ていただいたり。
先日は老舗の人形焼屋さんに行って、人形焼を焼いている様子をすぐ側で見せてもらいました。老舗の扇子屋さんにご協力いただいて「親子うちわ絵付けワークショップ」をしたこともあります。日本橋には伝統が息づいたすてきなお店がたくさんあるので、わたしたち保育士にとっても楽しい時間になっています。

人形焼「板倉屋」さんを見学したときの様子
ほかにも、夏には週末にいろいろな町内会が盆踊りをやっているので、盆踊り保存会の方から踊りを教えてもらっています。子どもたちの「ダンシングヒーロー」、とってもかわいいですよ!
まちのてらこやがある日本橋エリアは、下町で地域のコミュニティがしっかりしています。園の活動がきっかけになって、地域の皆さんと子育て世帯の交流が増えると嬉しいですね。
3.働くお母さんに寄り添える保育園を目指して

「町」に笠がかかっているデザインのロゴ。「まちをひとつにする」意味が込められている
—高原さんはもともと一般企業にお勤めだったと聞きました。なぜ保育事業をはじめられたんですか?
7年間のサラリーマン生活のなかで、仕事と育児の両立にむずかしさを感じている同僚をたくさん見てきました。職場では育児中であることを理解してもらえなかったり、昇進への影響が不安だったり、家庭でもなかなか夫の協力を得られなかったりで、独りでがんばっているお母さんたち。それがわたし自身の未来の姿にも見えたんですね。だから、働くお母さんをサポートする仕事がしたいと思うようになり、会社を立ち上げ、お母さんたちに寄り添った保育園を自分でつくりました。

—働くお母さんのことを考えた具体的な取り組みはありますか?
オムツは園で準備をしていますし、外遊び用の帽子や寝具の洗濯は園で行うので、お母さんやお父さんたちには「手ぶら登園」をしてもらっています。荷物も少なくて済みますし、登園前の準備が格段に減って、負担軽減になっていると思います。
「ペーパーレス化」も進めています。連絡帳はスマートフォンのアプリを利用しているので、多くの情報をすばやく簡単にやりとりできます。紙の連絡帳は机に座って書く必要がありますが、アプリの連絡帳なら通勤時間の合間に記録できるのもポイントですね。
—とくに保護者から喜ばれるところは?
子どもたちの様子を撮影した写真を、毎日20〜30枚アプリ上で共有しています。他の園では行事の際だけだったり、撮影しても見られるまでに時間がかかったりすることが多いんですが、当園では「タイムリーに子どもの状況を知ることができて嬉しい」と言っていただいています。
—日中いっしょに過ごせないお母さんにとっては、嬉しいポイントですね。
4.ほっとくつろげる、和室のある保育室

—2階の保育室には、和室スペースがあるんですね。
保育園は子どもたちが1日の大半を過ごす場所なので、なるべくおうちに近く、くつろいで遊べる場所にしたいと思っています。和室があるご家庭も減りつつありますし、日本の文化に触れる意味もあります。い草の香りにも癒されますよ。
—設計はどなたが担当したんですか?
知人に紹介してもらった設計士さんにお願いしました。わたしの要望を取り入れ、普通の保育園ではあまり見られないような斬新な内装にしてくれました。

2階の全体像
—こだわりポイントはどこですか?
和室の丸窓は調理室とつながっていて、調理しながらでも保育室の様子がわかります。反対に子どもたちにとっても、ここからごはんを作っている様子を覗くことができますね。

調理室の窓から見た和室の様子
—和室の壁一面の本棚は、目を引きますね。

わたし自身が親によく絵本を読んでもらっていたので、子どもたちにもたくさん絵本に触れてもらいたいと思っています。絵本は季節に応じて、1,2ヶ月に1度入れ替えるんですよ。今は落ち葉とか栗拾いとか、季節を感じられる絵本が並んでいます。
5.認可外保育園から認可保育園へ

2階のパース図
—なぜ認可保育園への移行を決めたんですか?
認可外保育園は保育料が全額ご家庭負担なので、どうしても高額になってしまいます。まちのてらこやを気に入ってくださっても、保育料の面からすべての家庭にご利用いただくことは難しい状況です。一部の限られた家庭だけではなく、幅広くたくさんの方にご利用いただきたい、と思うようになりました。
—認可取得への道のりはどうですか?
とても大変です。認可外から認可になるにはさまざまな条件をクリアする必要があり、とても高いハードルがあります。
何度も行政と話し合いを重ねて一つずつハードルをクリアし、ようやく認可化への道筋が見えてきました。今よりもさらに良い保育を提供できるように、地域にひらかれた ”まち全体の保育園” になれるように、引き続き準備を進めていきたいと思っています。

—認可保育園になることで、変わることはありますか?
今は主に0〜2歳児のお子さまをお預かりしていますが、これからは1〜5歳児が受け入れ対象になります。定員は各6人ずつの合計30人で、それぞれの年齢に担任の先生1人と補助の先生がつきます。子どもたち一人ひとりと密に、そしてゆったりと接することができるようになります。
これはお子さまと保護者の方だけではなく、保育士さんたちにとっても良いことだと思っています。保育士が離職する理由はいろいろありますが、真面目な先生ほど子どもたちとしっかり向き合えていないことを気に病んでしまいがちです。ゆったりと子どもたちと向き合える環境は、保育士としても望ましいものだと思います。
—工事後の内装はどう変わりますか?

工事後の1,2階のパース図
こちらがパース図です。今日も内装の打ち合わせがあるので、これから決めていくところもありますが。
—工事後も「和」をメインにした保育室になるんですね。
はい。子どもたちがご家庭のようにリラックスして過ごせる空間でありたいという考え方は変わりません。ボルダリングの壁ができたり、入り口が江戸時代のお屋敷のようになっていたりと内装面に関してはあたらしいデザインも取り入れています。
6.最後に

—認可保育園として再出発するにあたり、今の気持ちを教えてください。
認可保育園になることで体制が変わり、現場の保育士は子ども一人ひとりに向けられる時間が増え、これまで以上に子どもたちと向き合えるようになると思います。関わってくれている目の前の人たちに、これからも誠実に丁寧に尽くしていきたいという気持ちです。
「“まちの”てらこや保育園」として、まちのみんながつながる企画ももっと増やしていきたいと思っています。今回の記事を見て、いっしょに働いてみたいという保育士さんがたくさん来てくれると嬉しいです。
—再出発、応援しています!本日はありがとうございました。