1.八丈島に行ってきた
2.介護職とアシタバ農家の二足のわらじ
3.姫﨑さんの八丈島での1週間
4.八丈島での暮らしと悩み
5.横浜の保育士が八丈島の介護職員になるまで
6.島唯一の老人ホームでの働き方
7.永井さんの八丈島暮らし
1.八丈島に行ってきた
八丈富士から三原山をみた景色
八丈島は伊豆諸島のうちのひとつで、離島ではあるものの住所は東京都。「都心から一番近い南国」として、夏には多くの観光客が訪れます。
位置は東京から南方へ287キロメートル。島は南東部の三原山と北西部の八丈富士から成り立ち、ひょうたん型をしています。
2019年12月時点での、主なアクセス方法は2つ。
羽田空港から飛行機で八丈島空港へ行く方法、もしくは東京の竹芝桟橋から汽船で向かう方法です。
それぞれの所要時間と料金は次の通り。
アクセス方法 | 所要時間 | 片道料金(最安) |
飛行機(羽田→八丈島) | 約 50分 | 12,000円〜 |
汽船(竹芝桟橋→八丈島) | 約 10時間 | 8,000円〜 |
※割引なしの料金表記(2019年12月時点)。シーズンによっても料金の変動があります。
今回は島唯一の特別養護老人ホームである「養和会 第2老人ホーム」へとお邪魔し、そこで働くスタッフの方々にお話を聞いてきました。
取材を受けてくれた永井さん(写真左)と姫﨑さん(写真右)
ー本日はよろしくお願いいたします。
お二人:よろしくお願いします。
永井さん:すみません。実は、本日スタッフに欠員が出ちゃいまして、私が代わりに2時間ほどシフトに入らなくてはいけなくなってしまったんです。
なので、最初は姫﨑のインタビューから進めていただいてもいいですか?
終わり次第、僕のインタビューというような流れで。
ーそれは大変ですね。では、まずは姫﨑さんよろしくお願いします。
姫﨑さん:じゃあせっかくなので、このあたりを車でぶらぶらしながらお話しましょうか!
ーぜひぜひ!
2.介護職とアシタバ農家の二足のわらじ
ーこの荒地は一体……。
姫﨑さん:ここは南原千畳敷(なんばらせんじょうじき)という名所です。八丈富士という山が噴火した際に、溶岩が海に流れ出したことでできた溶岩台地なんです。
なので、その台地の向こうには海が広がっています。
僕は海に入ることはないんですけど、たまに海を見に来ますね。
海辺には広大な溶岩台地が広がっている
ー本格的にお話を聞く前に、まず気になったのが先ほどの施設。島唯一なのになぜ「“第2”老人ホーム」なんですか?
それは単純に第1老人ホームがなくなっちゃったからです。深い意味はないですよ。
ーなるほど。島内には、ほかの介護施設もあるんですか?
ありますよ。養和会が運営しているわけではないんですが、サービス付き高齢者向け住宅が1つあって、デイサービスは養和会を含めていくつか。
ーここからは姫﨑さんについて聞いていきたいんですが、いつから八丈島に?
5年ほど前ですね。いま40歳なので、35歳の時です。
実は八丈島に移住したのはこれが2度目で、1度目は25歳のときから1年ほど。
1度目のときは、ホテルのリゾートバイトで来ました。
ーリゾートバイトで1年間過ごした後は何を?
会社員として何社か転々としていました。
東京で経理の仕事をしたり、大阪でWEB制作者として働いたり。
ー10年経ってから、なぜもう1度八丈島に来ようと?
きっかけは知人からの久々の連絡ですね。
リゾートバイトをしていた頃の元同僚がアシタバ農家を営んでいて、それを見に行ったんです。その時、また八丈島で暮らしたいなと。
アシタバというのは、八丈島の特産品であるセリ科の野菜です。
ーあれ? ということはアシタバ農家として八丈島に来たんですね。
まあ、たしかにきっかけはそうです。
ただ、農業の経験はまったくなかったのですごく不安だったんですよね。「どれくらいの収入を得られるんだろうか」「農業だけでちゃんと食べていけるんだろうか」って。
ーたしかに、私だったら怖くてチャレンジできないかもしれません。
実際に僕も農業1本でやっていくのは怖かったので、移住前に介護職員初任者研修を取得して、まずは介護と農業の二足のわらじでやっていこうと考えました。
ーそこでなぜ介護職に? 例えば、これまでの経験を活かしてWEB製作者として遠隔で仕事を受けることも可能なのかなと。
それも少し考えていたんですが、WEB製作者として1人でやっていくほどの自信はなかったので。
介護の仕事は、都会であろうが離島であろうが必ず需要があると思ったんです。
それに、私の両親が介護職員だったこともあり、介護職自体が私にとって身近に感じられたことも大きいですね。
ー「チャレンジングな人だな」と思ったんですが、実は堅実的な計画も練られていたんですね。
わりと慎重なタイプなんです。
では、そろそろ次の場所に行きませんか? 天気がいいので八丈富士にでも。
ーいいですね。そうしましょう。
3.姫﨑さんの八丈島での働き方
道の先に見えるのが八丈富士の山頂
姫﨑さん:あそこが八丈富士の山頂なんですが、車では中腹にある牧場までしか来れないので、今日はここで我慢してください。
この牧場から海を見おろす景色がすごくいいんですけど、今日は風が強くて目を開けられないですね(笑)。
ー(笑)。姫﨑さんの1週間ってどんな感じなんですか? Wワークで忙しそうだなと。
実はいま、介護と農業以外にも「八丈島ドロップス」が運営している「よけごん」という地域活動支援センターでも働いているんです。
ー地域活動支援センターというのはどんな施設ですか?
「地域活動支援センターよけごん」は障がいの有無や程度にかかわらず、日中の活動の機会が必要な方々が安心して集うことのできる場所です。
私はそこで、支援員として働いてます。
ーつまり、その地域活動支援センターも含めてトリプルワークということですね。
そうですね。
1週間の働き方でいうと、週2で養和会の介護スタッフ・週1で地域活動支援センター・週3〜4で農業という感じですね。
それぞれ非常勤なので、シフトに応じて休日を作っています。
あとは、月3回くらいホテルの経理の仕事もやっています。
ー忙しそうな毎日を送っていますね。
こういう働き方をしてみたら意外と性に合ってたようで、毎日が充実していますよ。
大阪や東京で働いているときは1人でパソコンに向き合っていることが多かったので、こうして八丈島の人々や自然を相手に仕事をしていると、不思議と活力が湧いてくるんですよね。
ーこの雄大な自然に囲まれて働けるのは羨ましいです。八丈島での数々の仕事はどうやって見つけたんですか?
介護の仕事は『南海タイムス』というローカル新聞経由で見つけました。
最初は養和会とは別の施設に応募したんですが充足していて、「養和会さんが募集してるよ」と紹介されたんです。
ほかの仕事は完全に横の繋がりからですね。
「島は仕事がない」って思われがちなんですが、ネットなどのおもてに出てこないだけで、働き手を探しているところはいくらでもあると思います。
ー全てのお仕事の収入を合算したら、月々いくらくらいになりますか?
季節にもよりますが、平均したらだいたい26〜28万円くらいでしょうか。
ー畑の管理費はどれくらいかかりますか?
畑は5つほど管理しているんですが、タダ同然で借りているので管理・維持費はほとんど掛かりませんよ。
それこそ、年間で2万円くらいかな。畑を持て余して管理に困っている方などから借りているので。
ー助け合いですね。姫﨑さんのアシタバ畑、見てみたいです。
僕の家と畑が近くにあるので見に来ますか?
ーお願いします!
4.八丈島での暮らしと悩み
姫﨑さん:こちらが我が家です。まだ独身なんですが、思い切って購入しちゃいました。
ーすごいですね!物件はどのようにして見つけたんですか?
別の畑を買った時にここのオーナーさんと知り合って、直接契約しました。
間取りは一応1LDKになるのかな。決め手は「畑付き」というところです。
「これがアシタバで、春と秋が食べごろです」と姫﨑さん
ーアシタバってどういう食べ方をするんですか?
油との相性がいいので天ぷらが1番美味しいですね。
ほかには青汁にしたり、おひたしにしたりって感じですね。
ー農業を誘ってくれた知人の方とは、いまも一緒に農業を?
最初は一緒にやっていたんですが、その彼は別の仕事をしています。
なので、いまはほとんど僕1人でやっています。最近は若手の方と共同での栽培もはじめました。
ーなるほど。八丈島に移住して、すぐにこの家を購入したんですか?
この家を購入したのは1年半くらい前です。それまでは賃貸で1LDKの部屋に。
そこはログハウスだったんですけど、知人の紹介で月1万円で住まわせてもらっていました。
ー1万円は安い!八丈島の家賃の相場はどれくらいなんですか?
通常は1LDKで3〜5万円くらいはするんじゃないかな。
ちなみにこの家の価格は秘密です。聞かないでくださいね(笑)。
余計な物が少なく、さっぱりとしたお部屋でした
ー生活していくうえで、八丈島特有の悩みってありますか?
そうですね、八丈島特有というかこの家特有というか……。
家の中に虫が侵入してくるんですよね。
ーもしかしてゴキブリ……?
あ、いえ!ゴキブリではないんです。
「ヤスデ」ってわかります? ムカデのちっちゃいバージョンみたいなヤツなんですけど。
特に秋雨の時期になると、そいつがかなり出てくるんですよね。
「あ、そのカーテンの上にもいますね」と取材中も出現
ーたしかに都心ではあまり聞かない悩みですね。
対策したらかなり減ったんですけど、ミリ単位の隙間から侵入してくるんですよね。
虫以外の悩みでいうと、島内の脇道はすごく狭くて非常に危ないです。
つい最近、運転していたら車ごと畑に落ちちゃいまして。
ーえ!怪我はなかったんですか?
僕自身は無傷だったんですが、車が廃車になっちゃいました。
なので今乗っている車は急遽購入した中古車なんです。30万くらいの痛い出費でした……。
ーいやいや、怪我がなくて何よりですよ。そろそろ永井さんのお仕事も終わってそうなので、施設に戻りましょうか。
そうですね。安全運転でいきます。
5.横浜の保育士が八丈島の介護職員になるまで
ー永井さん、お仕事お疲れ様でした。
永井さん:お二人もお疲れ様でした! どこ行ってきたんですか?
姫﨑さん:南原千畳敷と八丈富士あたりをぐるっとしてきました。あ、僕のインタビューってまだ続きます?
ー姫﨑さんは以上になります。ありがとうございました!
姫﨑さん:こちらこそありがとうございました!では失礼します。
ーじゃあ、ここからは永井さん改めてよろしくお願いします。
永井さん:ちょっと緊張しますね。よろしくお願いします。
ー永井さんはいつ頃、八丈島に移住を?
8年前の5月に来ました。
出身は横浜で、移住する前はずっと保育士でした。
ー移住のきっかけも教えてください。
保育士の頃、同僚と釣りにハマっていて、夏休みは毎年八丈島に遊びに来ていたんです。
ですが、30歳くらいになったら周りの友人や同僚にも家庭ができて、一緒に八丈島に行く仲間がいなくなっちゃったんですよね。
「じゃあ1人で行くか」と考えたときに、いっそのこと思い切って八丈島で人生をリスタートするのも1つの手だなと思って、その勢いで保育士をやめて八丈島に。
保育士をやめてからは、退職金が尽きるまで八丈島で釣りに明け暮れていたそう
ーでは仕事も決まっていない状態で?
そうですね。新しい環境に身を置きたかったので保育士以外のことをやろうとは決めていたんですが。
もっと言うと家も決まってませんでした(笑)。
八丈島には釣りの師匠がいたんですが、その人に「八丈島に住みたいんですよね〜」と相談したところ「じゃあ、うちに住んじゃえばいいじゃん」って言ってもらえて、はじめの1〜2ヶ月は師匠の自宅に泊まらせてもらっていました。
いまの職場も師匠に紹介してもらったんですよ。どうやら養和会の理事長と釣り仲間だったようで。
師匠はもう亡くなられてしまったんですが、すごくお世話になりました。
6.島唯一の老人ホームでの働き方
お二人が働く養和会は島唯一の特別養護老人ホーム
ー介護職員になってから取得した資格はありますか?
永井さん:初任者研修から段階を経て介護福祉士を取得しました。
養和会では資格取得支援制度があるので、それを利用して。
ー保育士から介護職へ転職したことで感じたことはありますか?
保育士って資格職なので、保育士を目指して、保育士になるための勉強をしてきて入職するスタッフがほとんどなんですよね。
一方で介護職は資格が必須ではないということもあり、生活をしていくために仕方なく介護職に。という人もなかにはいます。
もちろん、それぞれの事情があるので、それが悪いということではありません。
ただ、どうしてもスタッフ間での熱量やモチベーションに差が出てきてしまうんです。
ーそれはたしかに。介護職にかぎらず多くの民間企業などでもおこりえる問題ですね。
そうなんですよね。
最初の頃は、「お年寄りのために全力で提供しよう」っていうことだけを考えていればよかったんですが、立場が上がるにつれ「お年寄りが本当に安心できるケア」を実現するためには、クリアしなければいけない問題もたくさんあるんだ。ということが見えてきました。
ー難しい問題ですね。「島の老人ホームならでは」というようなお話はありますか?
小笠原諸島や近隣の島の施設定員がいっぱいで、わざわざ八丈島まで来る利用者さんはいますね。
やっぱりどこの島でも、介護需要は高いんだなと。うちの施設も常に待機がいる状態ですし。
ー仕事上での悩みなどはありますか?
私は一応、主任という立場を任せていただいていて、スタッフのシフト管理などもおこなっているんです。
そうなるとやっぱり、人員不足には毎回頭を悩ませていますね。
ー今日も急遽お仕事に入ってましたね。
そうなんですよ。そういった時に現場をカバーをするのも主任の仕事のうちかなと。
ー養和会さんには、島外からの移住者はどれくらいいますか?
うちの施設だと半々くらいですかね。
ただ、最近は減ってきて、2〜3年に1人来てくれるかなって感じです。
こっちで結婚して、子育ても落ち着いたタイミングでパートとして働き出すって人が多いですね。
ー逆に、島から出ていってしまう移住者はどんな理由が多いんでしょう?
夫婦やカップルで移住してきたんだけど、別れちゃったからどちらかが本州に帰る。というような話はよく聞きますね。
「島の生活が合わなくて」という理由は意外と聞かないですね。
7.永井さんの八丈島暮らし
大越アロエ園:12月〜2月は八丈島の各地でアロエの花を見ることができる
ー最後に八丈島での生活についてお伺いしていきたいのですが、永井さんはご結婚されてますか?
永井さん:してますよ。この職場で出会って結婚して、子どもが1人います。
ちなみに、妻は生まれも育ちも八丈島です。
ー奥さんを含め、島の方々との間で文化の違いなどを感じたことはありますか?
移住してきた人は結構それを言うんですよね。「島の人はこうだから」って。
でも、実際にそんなに違いはなくて、あれ?って思うことがあったとしても、それは個人間の問題だと思うんです。
もちろん、妻とは育ってきた環境が違うので意見がぶつかることもありましたが、それを「島の人だから」と、ひとまとめにはしていません。
ー大事な考え方ですね。奥さんは今も同じ職場に?
いえ、結婚後退職して、いまは病院の受付をやっています。
ー八丈島での生活は順調ですか?
順調ですね!家も建てたばかりですし。
あ、でもその家に最近ちーっちゃいアリが入ってくるんですよね。
妻がいろいろと対策をしてくれはいるんですが、なかなか根絶できず。
ー姫﨑さんも虫に悩まされてました……。お休みの日は何されてますか?
だいたいは子どもと遊んだり家族で出かけたり。
八丈島は温泉が有名なので、温泉に行ったりもしますね。
裏見ヶ滝温泉:無料で入湯可能な水着着用の温泉
家族との時間以外ですと、最近は卓球もやってます。
八丈島卓球連盟という組織に加入して、結構本格的に。
ー最後に、今後の目標や展望があれば教えてください。
妻と結婚して、子どもを授かって、家も建てて、こうやって幸せな暮らしができているのは島に来たおかげかなと。なので仕事などを通して少しづつ島へ恩返しをしていきたいです。
また、八丈島卓球連盟では執行部を任されているので、家庭や仕事とのバランスも取りつつ、八丈島の卓球界隈を盛り上げていきたいなと。
ー本日は以上になります。ありがとうございました!