「利用者は高齢者だけではありません」

──訪問入浴介護とはどのようなお仕事でしょうか。
身体が不自由な方、自宅のお風呂に入ることが難しくなった方のための入浴業務です。私たちの事業所は入浴に特化しています。
──入浴が難しい高齢者の介助ですね。
訪問入浴っていうと高齢者向けサービスと思われがちですが、実際は障がいをもった利用者さんもいらっしゃいます。
例えば脳性麻痺のお子さんだったりとか、先天性の病気があって喉から気管切開をしていたり。
──そうなんですか。Eさんの勤務先は高齢の方と障がいをもった方、どちらの利用者が多いですか?
私の事業所は高齢者のほうが多いです。割合でいうと8:2くらいですかね。要介護4か5の利用者さんが多いです。
隣の市は、障がい者は1日1回お風呂が無料なので、地区によって利用者層は違うと思います。
「季節の変わり目は忙しい」
──具体的な仕事内容についてお聞きします。まず一日のスケジュールを教えてください。
通常は午前に3件、午後は4件ほど訪問します。

会社によると思いますが、うちは一度現場に出たら立て続けにまわるので、訪問が終わるまで事務所に戻ることはありません。
──17時半退勤のようですが、残業はありますか?
時期によりますね。季節の変わり目はお亡くなりになる方が多いので、その分件数が減りますし、夏場は汗をかくので利用日数を増やす方がいたり。
定時は8時半から17時半ですが、忙しいと17時からの入浴が入って午後に5件のパターンがあります。そうすると退勤時間は18時半くらいになります。
──職場には何名が在籍されていますか?
男性の介護職員が3名、女性の介護職員が3名、看護師さんも3名です。派遣会社から来てくれる看護師さんが数名いらっしゃいます。なので10人ちょっとです。
うちの会社は全国展開で会社自体は大きいですが、各地にあるので事業所単位では小規模かもしれません。
──なるほど。利用者のお宅には何名で行くんですか? 一訪問のスケジュールも併せて教えてください。
私と男性介護職員、看護師さんの3人1組で行動しています。利用者さんの状態によりますが、1件につきおよそ45分くらいです。
基本的に男性介護職員が運転業務や道具の搬入をして、私は道具の搬入と入浴介助、看護師は入浴前後の血圧・体温・バイタル確認と入浴介助という役目です。
──介護職は性別によって役割分担があるんですか?
そうなんですけど、2年半くらい前から性別で仕事を区別しないよう見直しがされていています。私もたまに運転していますよ。
──では現在の給料について教えてください。
基本給がだいたい15万円くらいですね。あとは手当てが付きます。まず実務者研修手当が5,000円、家族手当が5,000円、地域手当が約2万円、運転した場合は運転手当が一日1,000円です。あとは交通費と残業代。
──資格手当は5,000円なんですね。
実務者研修の場合は5,000円で、介護福祉士は1万円です。私は無資格で入社したんですけど、半年かけて実務者研修を修了しました。
──地域手当とは?
うちの会社独自の制度で、働いている地域によって手当が付くんです。東京はもっと高いそうです。
──家族手当はどういった基準で支払われるのでしょう?正直あまりわかりません。うちは子ども1人で5,000円ですが、2人、3人になるとどうなるかは不明です。
「以前は納棺師をしていました」
──現在の仕事に至った経緯を教えてください。
10年ほど前は葬儀社で湯灌(ゆかん)納棺師をしていました。その後タクシー運転手をして、今の事業所に転職しました。

──高校生のお子さんがいらっしゃるんですね。
20歳で子どもを産んで、21歳からパートで働いていました。子どもが1人でも留守番できるようになったら正社員で働こうと思ったんです。
──その後は葬儀場に就職されたんですね。なぜその選択を?
求人サイトを見ていたときに葬儀社を見かけたんです。
こんな言い方したらあれですけど、結婚式ってやろうと思えば人生で何回かできるけど、お葬式って1回しかできないじゃないですか。
それで葬儀関係の仕事を探して、湯灌納棺師の求人に出会ったんです。
──映画『おくりびと』のお仕事ですか?
実はその映画を観たことがないんです。でもよく「『おくりびと』だよね」と言われることがあって、それでストーリーを知りました。
映画はどうやら“清拭湯灌”といってお身体拭きだけの納棺師のようですが、私が働いていた葬儀場はお風呂に入れるところでした。シャワー浴をして、髪の毛も洗って、お顔も洗ってという感じ。
──その後はタクシー会社ですね。異業種への転職ですが、その理由は?
葬儀社は有休や昇給などが無かったんです。休みも月に6日しかもらえなくて。給料は良かったんですけど、長く勤めるのはちょっとなと思って辞めました。
その後、介護タクシーをやっている会社を見つけて転職したんです。私は介護タクシーを希望したのですが、まずは通常のタクシー業務を覚えなければいけなくて、それが苦痛でした。

その会社は日勤で12時間働かないといけなくて。それと足切り(タクシー業界におけるノルマ)を達成できないと、どれだけ働いていても欠勤扱いになってしまうんです。お客さんから文句を言われるし、働き方も向いていないなと思って半年で辞めました。
──そこからなぜ介護の世界へ?
看護師の姉が今の事業所でバイトしていたことがあって、「あの会社良かったから行ってみれば?」と勧められたのがきっかけです。
──信頼できる事業所だったんですね。経歴を伺うと湯灌納棺師だったり介護タクシーを希望したり、「高齢者・介護・死」というキーワードが浮かんできます。何か原体験があるんですか?
19歳のとき、同居していた祖母が他界したんです。そのときに納棺師さんに化粧をしていただいたんですが、姉と二人で「おばあちゃんってこんな濃い化粧しないよね」って言って手直しをしたことがあって。
タクシーは運転業務をしたかったからかな。タクシーを利用する高齢者って優しい方が多いんですねよ。「ありがとねー」って言ってくれるし、それにすごく癒されて。高齢者の人しか乗せたくないって思いました。
総じて高齢者が好きなのかなと思います。
「訪問入浴介護は偉大な仕事」──その心は?

──訪問入浴介護のこれまでの仕事を振り返って印象深い出来事はありますか?
一度だけ、お身体拭きをしている途中に亡くなった方がいたんですよ。
──えっ!?
入浴前にバイタルを測って状態が悪ければ本来は中止するんですが、その方はいつ呼吸が止まってもおかしくない状態だったんです。
それでもご家族が「キレイにしてあげたい、お願いします」っていうことで。
お身体拭きをしている途中に呼吸が止まってしまって……ご家族は泣きながらも感謝をしてくださいました。「ありがとう。ありがとう」って。
そのとき初めて「訪問入浴介護ってとても偉大な仕事だな」って思いました。
──現場の判断で特別に身体拭きをしたんですか?
主治医から、「どんな状態であってもお風呂に入れていい」という許可がおりていたんです。なのでご家族の希望に寄り添った形ですね。
──ご家族もですが、利用者もきっと感謝されていると思います。
そうだと嬉しいです。
「会話を楽しみにしている方が多いんですよ」

──利用者と接するうえで心がけているポイントはありますか?
一人ひとりに合わせた会話の提供をすごく心がけています。「介護職員同士で喋って入浴が終わってしまうのが残念」っていうクレームが入ることがあるので。
うちの事業所では必ず利用者さんや介護をされるご家族を交えて会話をするよう言われています。
利用者さんたちの好きな話題を考えながら仕事をするのがなにより大事かな。
──ただ作業として終始されるのは寂しいし悲しいですよね。
私たちがいるといろんな話ができるから、会話を楽しみにしている方が結構多いんです。
利用者さんはベッドから動けないから、基本的に見える景色が一緒なんですよね。ご家族も介護しなきゃいけないから出かけるってなると近所の買い物くらいだってよく聞きます。
──ご家族にとっても癒しの時間なんですね。
あとはご家族からアドバイスを求められたりもします。「介護の仕方がわからない」「おむつって前が多いほうがいいの? 後ろが多いほうがいいの?」とか。
そういう面で助かると言われることが多いですし、ご家族が少しでも安心できるようにしていこうという動きはあります。
──介護職冥利につきますね。逆に今の仕事に対する不満だとか、辞めたいなと思ったりすることってありますか
あります。やっぱり体力がいるんですよね。毎日すごく忙しくて疲れが取れないときとか「あぁなんかもうツライなー」って思ったりします。
あとは喪失感。ずっと利用されていた方がお亡くなりになったときはどうしてもつらくて。最近はだいぶ慣れましたけど、入ってしばらくは結構つらかったですね。
そういったことを割り切れる方には向いてる仕事かもしれません。
「人間関係を円滑にするのが私のミッション」
──今の仕事を続けられるモチベーションはなんでしょう。その秘訣があれば教えてください。
利用者さんとご家族に「また来てね」と言ってもらうことかな。楽しみにしてくれて感謝されるのが嬉しいです。
あとは3人1組で動いているので、人間関係を円滑にすることです。
──職場の人間関係は大事ですよね。
私の事業所は穏やかな人が多いので揉め事はないんですけど、違う事業所では従業員同士のいざこざがあるらしくて。そういうの嫌じゃないですか。
それに私、人に合わせるのが割と好きなんです。このスタッフと一緒のときはテンションを合わせようとか、そんな感じで毎日楽しくやっていますね。
──Eさんはムードメーカー的なポジションなんですね。
人間関係を円滑にするのが私の中の勝手なミッションなんです。利用者さんもご家族もうちのスタッフも、みんなが心地よく一日を終われたらいいなと思いながら過ごしています。