1. 訪問入浴介護とは
自宅での入浴が難しい要介護者の自宅に浴槽を持ち込んで入浴を介助する
訪問入浴介護とは、自力または家族のサポートを受けての入浴が難しい要介護者の自宅を訪れ、専用の浴槽を持ち込んで入浴の介助をおこなう介護保険サービスです。訪問入浴介護はケアマネジャーが作成するケアプラン(介護サービス計画書)に基づいて提供されます。訪問入浴車に必要な機材を積み、基本的に介護職員2名と看護師1名の3人体制で訪問します。利用者のうちの約9割が要介護度3以上の認定を受けており、利用者全体の要介護度が高いのが特徴です。
訪問入浴介護を利用することにより、利用者の身体を清潔に保ち、心身機能を維持できます。また、重労働となる入浴介助を専門チームに任せることで、家族の負担を減らすことにも繋がります。
訪問入浴介護の定義
訪問入浴介護とは、要介護状態となった場合においても、その利用者が可能な限りその居宅において、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、居宅における入浴の援助を行うことによって、利用者の身体の清潔の保持、心身機能の維持等を図るもの。
引用:厚生労働省|第182回社会保障審議会介護給付費分科会 資料2より
訪問介護入浴の種類
訪問入浴介護には指定訪問入浴介護と介護予防訪問入浴介護の2つがあり、それぞれ利用条件と人員基準が異なります。
指定訪問入浴介護の利用条件は要介護1〜5の認定を受け、医師から入浴を許可されていること。入浴の介助に必要な人員は看護師または准看護師1人と介護職員2人以上です。
一方で介護予防訪問入浴の利用条件は要支援1または2の認定を受け、自宅や施設での入浴が難しい特別な事情があること。入浴の介助に必要な人員は看護師または准看護師1人と介護職員1人以上です。
“指定”訪問入浴介護 | “介護予防”訪問入浴介護 | |
利用条件 |
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人員基準 |
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訪問介護の入浴介助との違い
訪問入浴介護と混同されやすいのが訪問介護サービスでおこなう入浴介助です。どちらも入浴に関するサービスですが、次のような違いがあります。
まず、訪問介護の入浴介助では利用者が自宅の浴室で入浴できるよう見守りや介助をおこなうのに対し、訪問入浴介護では利用者宅に専用の浴槽を持ち込んで入浴を介助します。
また、訪問介護の入浴介助は介護職員1人でおこなうのに対し、訪問入浴介護は看護師または准看護師1人と介護職員1人または2人以上でおこないます。
2. 訪問入浴介護の流れ
介護職員と看護師が協力して速やかに進める
概ね次のような流れで入浴介護を進めます。
訪問入浴介護では一日に複数の利用者宅を訪問するため、搬入から撤収までの時間管理が大切になります。事業所によって異なるものの、看護師が介護職員の補助を兼務するなど、看護師と介護職員で協力・分担しながら入浴の介助を進めるケースが多く見受けられます。
入浴拒否を防ぐには
訪問入浴介護では、利用者が入浴を拒否することも珍しくありません。入浴拒否の主な原因は認知機能の低下や羞恥心です。
羞恥心による入浴拒否を防ぐためには、更衣・入浴時に素早くタオルをかけるといった基本的な配慮をはじめ、入浴介助をおこなう職員の性別や、利用者との相性などを考慮することが重要です。
3. 訪問入浴介護で働く
訪問入浴介護の仕事内容
訪問入浴介護は、基本的にオペレーターやケアエイドと呼ばれる介護職員2人と、看護師または准看護師1人がチームとなっておこないます。オペレーターは訪問入浴車の運転や入浴介護全体を仕切る役割を持ち、ケアエイドはオペレーターを補助します。
事業所によって細かい分担は異なりますが、訪問入浴介護で働く介護職員と看護師・准看護師の仕事内容は次のとおりです。
介護職/ヘルパー (オペレーター・ケアエイド) |
看護師/准看護師 |
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介護職員は無資格でも働ける?
無資格の介護職員も訪問入浴介護で働くことができます。しかし要介護度の高い利用者の対応には相応のスキルが求められることから、介護職員初任者研修以上の資格を応募要件としている事業所や、入職後の資格取得を推奨している事業所、研修を受講しなければ入浴介助の業務ができない事業所もあります。また介護に関する資格以外では、訪問入浴車の運転のために運転免許を求められる場合があります。
看護師・准看護師ができる行為は?
訪問入浴介護において看護師ができる行為は、入浴前後の健康チェック、入浴中の状態観察、軟膏の塗布や湿布を貼るといった入浴後のケアなど、入浴に関係する行為のみです。そのため、痰の吸引や褥瘡のケア、摘便といった医療行為はできません。
訪問入浴介護で働くやりがい・大変なこと
訪問入浴介護で働くやりがいとして、利用者やその家族から感謝の言葉をもらえることや、利用者のリラックスした表情を見れること、一人の利用者に集中してサービスを提供できることが挙げられます。
一方で一日に数件の利用者宅を訪れ、浴槽などの重い機材の搬入・搬出を繰り返すため、身体への負担が大きいという大変さがあります。また、訪問入浴車での移動を含め常にチームで行動することから、チームワークが重要になります。
訪問入浴介護で働く職員の給料
ジョブメドレーに掲載されている求人から訪問入浴介護で働く介護職/ヘルパー、看護師/准看護師の賃金相場を算出しました(2021年12月時点)。なお、残業手当など月によって支給額が変動する手当は集計対象外のため、実際に支払われる賃金はこれより多くなる可能性があります。
訪問入浴介護で働く介護職/ヘルパーの月給・時給・年収の相場
下限平均 | 上限平均 | 総平均 | |
パート・アルバイトの時給 | 1,139円 | 1,278円 | 1,191円 |
正職員の月給 | 21万732円 | 24万2,510円 | 22万3,572円 |
正職員の年収 | 295万248円 | 339万5,140円 | 313万8円 |
訪問入浴介護で働く看護師/准看護師の月給・時給・年収の相場
下限平均 | 上限平均 | 総平均 | |
パート・アルバイトの時給 | 1,623円 | 1,737円 | 1,673円 |
正職員の月給 | 26万84円 | 27万7,029円 | 26万8,820円 |
正職員の年収 | 364万1,176円 | 387万8,406円 | 376万3,480円 |
ホームヘルパー全体の平均月給21万2,751円、看護師全体の平均月給26万9,981円に近い金額となっています*。ただし、前述のとおり上記のデータは月によって支給額が変動する手当は集計対象外です。訪問入浴介護には夜勤がなく夜勤手当が付かないため、高齢者向け施設や病院で働く方と比べると、実際に受け取る賃金は少ないと考えられます。
4. 訪問入浴介護の今後
人材不足や経営難などが影響し、2007年から2019年までの12年間で訪問入浴介護の事業所数は約3割、利用者数は約2割減少しています。しかし超高齢社会では今後も安定したニーズがあると考えられ、担い手の拡充が求められています。さらに、災害時の入浴支援に訪問入浴車が貢献した実績も多くあり、地域の人々の暮らしを守る資源としても期待されています。
また、利用者に入浴を楽しんでもらう工夫として、柚子湯などの季節の湯や、炭酸を使った入浴を取り入れている事業所もあります。こうした工夫は単に利用者の清潔を保つだけではなく、心身のくつろぎにも繋がっているでしょう。
体力を必要とする仕事ではありますが、夜勤がなく、入浴の介助を専門でおこなうため未経験でも仕事を覚えやすいのが特長です。就職・転職を検討している方は、チャレンジしてみてはいかがでしょうか。