1.ネイリストとは
ネイリストはネイルケアやネイルアート、つけ爪の施術をおこなう専門家です。
ネイリスト(Nailist) という名称は和製英語で、海外ではマニキュアリスト(Manicurist)と呼ばれます。
マニキュアリストという名称は、ラテン語で「手」を意味する「マヌス(Manus)」と「手入れ」を意味する「キュア(Cure)」が組み合わさった、「爪の手入れ」を意味する「マニキュア(manicure)」という言葉が起源だと言われています。
日本では1985年に日本ネイリスト協会(JNA:Japan Nailist Association)が設立され、ネイリストの民間資格が取得できるように。海外文化の影響などを受け、働く女性を中心にネイルが普及するようになりました。
2.ネイリストになるには
2-1.資格は必須ではない
ネイリストは、美容師や理容師のような国家資格ではありません。「この資格がなければネイリストになれない」というものがないため、美容系の中でも目指しやすい職種だといえます。
しかしながら、ネイルサロンに就職してお客さんから指名をもらえたり、独立開業できたりする「プロのネイリスト」には、豊富な知識と経験、技術の証明が必要不可欠です。
そのためにはどのような方法があるのか、プロのネイリストを目指す一般的なルートを紹介していきます。
2-2.プロのネイリストを目指す一般的なルート
■美容専門学校で学ぶ
美容専門学校の教育課程は、一般的に昼間課程(2年以上)と夜間課程(2年以上)と通信課程(3年以上)に分かれます。
このうち通信課程(3年以上)は美容師・理容師を目指す人向けのカリキュラムが組まれているため、ネイリストを目指す人は昼間課程か夜間課程の「総合美容科(トータルビューティー科)」「ネイリストコース」などで学びます。
美容専門学校の特長は、必修科目として「総合美容の知識・技術」、選択科目として「ネイルの知識・技術」があるため、文字どおり「美容の総合力」が身につく点です。学費は2年間で200万円前後かかります。
point・美容について幅広く学ぶことができる
・他の美容系資格取得も目指すことができる
・検定試験対策や就職サポートが整っている
<美容専門学校のデメリット>
・費用(200万円前後)が高め
・時間(2年間)がかかる
・授業や試験、課題があり忙しい
■ネイルスクールで学ぶ
ネイルスクールと聞くと、「美容専門学校とどう違うの?」と思うかもしれませんが、「美容を幅広く学ぶのが美容専門学校」「ネイルに特化して学ぶのがネイルスクール」となります。
法的には、学校法人である美容専門学校は、学校教育法に則ったカリキュラムを組む必要があり、国の認可が不要のネイルスクールは、自由にカリキュラムを組むことができるという違いがあります。
ネイルスクールでは、ネイリストに必要なさまざまな分野について学ぶことができ、受講スタイルも「通学」「通信」から選ぶことができます。費用の相場は20万円〜100万円程度です。
資料請求やホームページの確認、実際に見学するなどして、自分に合ったスクール・カリキュラムで学びましょう。
■独学で学ぶ
独学の場合は、DVDやテキスト教材などでネイルの基礎知識を学び、技能検定試験の合格を目指す方法もあります。
教材に関しては、代表的な技能検定試験を主催している日本ネイリスト協会(JNA)や日本ネイリスト技能検定試験センター(JNEC:Japan Nailist Examination Center)のものを使用するといいでしょう。
しかしながら、いずれの検定試験も「筆記試験」に加えて「実技試験」が課せられているため、ネイル技術を完全に独学で学ぶのはハードルが高いのが現実です。そのため、可能な範囲でネイルスクールの短期集中講座や検定対策セミナーを受講するようにしましょう。
■ネイルサロンで働きながら学ぶ
ネイルサロンでアルバイトやパートとして働きながら学ぶ方法もあります。給料をもらいながら、現場経験を積めるというメリットがありますが、「未経験・無資格可」の求人の仕事内容は受付や掃除、施術準備などがメインになるため、営業時間外にコツコツと練習や勉強を続ける努力が必要です。
2-3.代表的な技能検定試験
プロのネイリストになるための一般的なルートを紹介しましたが、いずれのルートにおいても「技能検定試験」の合格がひとつの目標となります。以下で代表的な技能検定試験について紹介します。
■ネイリスト技能検定試験(1級・2級・3級)
1997年から始まった、ネイル産業において最も歴史の長い検定試験です。日本ネイリスト協会(JNA)が創始、2008年からは公益財団法人日本ネイリスト検定試験センター(JNEC)が検定試験事業をおこなっています。
ベーシックからトップレベルまで1〜3級に分かれており、2級以上を採用条件に掲げるネイルサロンもあります。累計有資格者は2021年10月現在、約59万人に達しています。
以下で各試験の概要を紹介します。詳細は日本ネイリスト検定試験センターホームページをご確認ください。
ネイリスト技能検定試験(3級) |
<概要> ネイルケア、ネイルアートに関する基本的な技術および知識の習得を証明する <受験資格>受験時に義務教育を修了している者 <受験料>6,800円 <日程>春期、夏期、秋期、冬期の年4回実施 <開催場所>全国12会場 <試験内容>筆記試験(30分)と実技試験(80分) ◎筆記試験について出題形式:択一問題・マークシート 出題内容:衛生と消毒、爪の構造(皮膚科学)、爪の病気とトラブル(爪の生理解剖学)、ネイルケアの手順など ◎実技試験について事前審査(10分)と実技(70分)に分かれる。 事前審査では、テーブルセッティングと消毒管理、モデルの爪の状態を審査。実技では、手指消毒、ネイルケア、カラーリング、ネイルアートの工程・仕上がりを審査する。 <合格基準>筆記試験は100点満点のうち80点以上、実技試験は50点満点のうち38点以上 <合格率>例年80〜90%前後 |
ネイリスト技能検定試験(2級) |
<概要> サロンワークで通用するネイルケア、リペア、チップ&ラップ、ネイルアートに関する技術および知識の習得を証明する <受験資格>ネイリスト技能検定試験3級取得者 <受験料>9,800円 <日程>春期、夏期、秋期、冬期の年4回実施 <開催場所>全国12会場 <試験内容>筆記試験(35分)と実技試験(100分) ◎筆記試験について出題形式:択一問題・マークシート 出題内容:ネイルの歴史、衛生と消毒、爪の構造(皮膚科学)、爪の病気とトラブル(爪の生理解剖学)、ネイルケアの手順、リペアの種類及びチップ&ラップの手順、その他実践的施術全般、プロフェッショナリズムなど ◎実技試験について事前審査(10分)と実技前半(35分)、実技後半(55分)に分かれる。 事前審査では、テーブルセッティングと消毒管理、モデルの爪の状態を審査。実技前半では、手指消毒から始まり、ネイルケア(ポリッシュオフ、ファイル、ブラシダウン、キューティクルクリーン)の工程を審査。実技後半では、チップ&ラップ、カラーリング、ネイルアートの工程・仕上がりを審査する。 <合格基準>筆記試験は100点満点のうち80点以上、実技試験は50点満点のうち38点以上 <合格率>例年40〜50%前後 |
ネイリスト技能検定試験(1級) |
<概要> イクステンション、リペア、ネイルアートの総合的な技術および知識の習得を証明する <受験資格>ネイリスト技能検定試験2級取得者 <受験料>12,500円 <日程>年2〜3回実施 <開催場所>全国12会場 <試験内容>筆記試験(40分)と実技試験(170分) ◎筆記試験について出題形式:択一問題・マークシート 出題内容:ネイルの歴史、衛生と消毒、化粧品学(材料、内容成分、効果等)、爪の構造(皮膚科学)、爪の病気とトラブル(爪の生理解剖学)、ネイルケアの手順、イクステンションの手順、その他実践的施術全般、プロフェッショナリズムなど ◎実技試験について事前審査(10分)と実技(160分)に分かれる。 事前審査はテーブルセッティングと消毒管理、トレーニングハンドのチップ、 チップ(ミックスメディアアート用)。実技は手指消毒、ネイルイクステンション(スカルプチュアネイル、チップ&オーバーレイ)、ネイルアート(ミックスメディアアート)の工程・仕上がりを審査する <合格基準>筆記試験は100点満点のうち80点以上、実技試験は50点満点のうち38点以上 <合格率>例年40〜50%前後 |
■JNAジェルネイル技能検定試験(上級・中級・初級)
ネイルサロンの主力商品ともいえるジェルネイルの知識・技術を証明する検定試験です。ジェルネイルの普及にともない、日本ネイリスト協会(JNA)が2010年から実施しています。累計取得者数は10万人以上。
以下で各試験の概要を紹介します。詳細は日本ネイリスト協会のホームページをご確認ください。
JNAジェルネイル技能検定試験(初級) |
<概要> ネイルケアのベーシックマスターとジェルネイルを施術するために必要な基礎的知識と技術の修得を証明する <受験資格>受験時に義務教育を修了している者 <受験料>9,900円(税込) <日程>例年6月、12月の年2回 <開催場所>全国7会場 <試験内容>筆記試験(30分)と実技試験(120分) ◎筆記試験について出題形式:択一問題・マークシート 出題内容:出題内容:衛生と消毒、爪の構造(皮膚科学)、爪の病気とトラブル(爪の生理解剖学)、ネイルケア・ジェルネイルの手順、ジェルネイルに関する基礎知識など ◎実技試験について事前審査(15分)と実技第1課題(35分)、実技第2課題(60分)に分かれる。実技第1課題と第2課題の間にインターバル(10分)あり。 事前審査では、テーブルセッティングと消毒管理、モデルの爪・トレーニングハンドの状態を審査。 実技第1課題では、ネイルの基本となるネイルケア(手指消毒、ポリッシュオフ、ファイリング、キューティクルクリーン)を審査。 実技第2課題では、左手5本にポリッシュカラーリング、右手5本はジェルカラーリングを施す。さらに右手中指にはジェルアートを施し、工程・仕上がりを審査。 <合格基準>筆記試験・実技試験ともにに100点満点のうち80点以上で合格 |
JNAジェルネイル技能検定試験(中級) |
<概要> ネイルケアとジェルネイルを施術するためにプロとしてサロンワークに必要な専門知識と技術の修得を証明する <受験資格>JNAジェルネイル技能検定試験(初級)合格者 <受験料>13,200円(税込) <日程>例年6月、12月の年2回 <開催場所>全国7会場 <試験内容>筆記試験(30分)と実技試験(140分) ◎筆記試験について出題形式:択一問題・マークシート 出題内容:衛生と消毒、爪の構造(皮膚科学)、爪の病気とトラブル(爪の生理解剖学)、ネイルケア・ジェルネイルの手順、その他実践的施術全般、プロフェッショナリズム、ジェルネイルに関する基礎知識・理論など ◎実技試験について事前審査(10分)と実技第1課題(30分)、実技第2課題(85分)に分かれる。実技第1課題と第2課題の間にインターバル(15分)あり。 事前審査では、テーブルセッティングと消毒管理、モデルの爪・トレーニングハンドの状態を審査。 実技第1課題では、ネイルケア(手指消毒、ファイリング、キューティクルクリーン)とカラーリング(左手5本)を審査。 実技第2課題では、右手にジェルグラデーション、うち中指にジェルイクステンション(クリアスカルプチュア)を施す。左手5本はジェルフレンチカラーリングを施し、工程・仕上がりを審査。 <合格基準>筆記試験は100点満点のうち80点以上、実技試験は100点満点のうち70点以上 |
JNAジェルネイル技能検定試験(上級) |
<概要> ジェルネイルのスペシャリストとして必要とされる総合的知識と技術の修得を証明する <受験資格>JNAジェルネイル技能検定試験(中級)合格者 <受験料>16,500円(税込) <日程>例年6月、12月の年2回 <開催場所>全国7会場 <試験内容>実技試験(95分) ◎実技試験について事前審査(10分)と実技(85分)に分かれる。 事前審査では、テーブルセッティング(消毒管理、ジェルネイル用品、ライトの電源確認含む)、トレーニングハンドの状態を審査。 実技では、指定された5本の指にイクステンションを施す工程・仕上がりを審査する。 <合格基準>100点満点のうち70点以上 |
2-4.その他の技能検定試験
施術スキルを証明する資格のほかに、衛生管理や指導スキルの証明になる認定資格もあります。JNA(日本ネイリスト協会)の認定資格には、以下のようなものもあります。
それぞれ詳細はJNAホームページをご確認ください。
■JNA認定ネイルサロン衛生管理士
JNA制定の「ネイルサロンにおける衛生管理基準」を正しく理解し、活用できることを証明します。ネイルサロンの衛生面における管理・統括ができるようになります。
JNA認定校で実施される講習会を受講し、筆記試験に合格することで資格が得られます。2022年9月末時点の資格取得者数は86,548人。
この資格の有効期限は、取得年を含む3年目の12月末日までとされています。一度資格継続手続きを完了すると「永続認定」(無期限に保証される資格)となります。
■JNA認定ネイルサロン技術管理者
ネイルサロンの技術水準の維持・向上を図るための資格制度です。店舗運営や人材育成をにおける知識・スキルを証明します。JNAが実施する講習会を受講し、修了することで資格が得られます。
3.ネイリストの仕事
3-1.ネイリストの仕事内容
ネイリストの仕事は、爪の形を整えて手入れをする「ネイルケア」、爪にマニキュアを塗る「カラーリング」、爪に装飾やデザインを施す「ネイルアート」、痛んだり欠けてしまった爪の補修・修復をする「リペア」の基本技術によって、お客さんの爪を美しくすることです。
技術面以外では、新しい技術の習得やトレンドの理解、お客さんの好みに合わせて的確なアドバイスやメニューの提案をおこなう高いコミュニケーション能力と接客力が求められます。
多くのネイリストは、最初にネイルサロンで働いて経験を積みますが、将来的には独立開業する人やフリーランスとして活躍する人、専門学校やネイルスクール 、セミナー等で講師を務める人もいます。
3-2.ネイルの種類
ネイリストが施術するネイルの種類は「ジェルネイル」「ポリッシュ(マニキュア)」「スカルプチュア(付け爪)」の3つに分かれます。それぞれの特徴を紹介します。
■ジェルネイル
マニキュアとは違い、除光液では落ちないので、専用のリムーバーを使ったり、ジェルを削ったりすることで落とします。
ジェル特有の透明感や色合い、持ちの良さ(2〜3週間ほど)が人気で、ネイルサロンで提供されているメニューの60%以上がジェルネイルだとも言われていて、自宅で手軽におこなえるセルフネイルキットも人気があります。施術面では、硬化させない限り、塗り直しや調整が可能なため、カラーリングやネイルアートをおこないやすいという利点もあります。
■ポリッシュ(マニキュア)
施術面では、時間の経過とともにカラー剤が乾いて固まるため、初心者にはネイルアートが難しいという欠点もあります。
■スカルプチュア(付け爪)
4.ネイリストの給料
2023年11月時点でジョブメドレーに掲載されているネイリストの平均給与は次のとおりでした。なお、残業手当など月によって支給額が変動する手当は集計対象外のため、実際に支払われる賃金はこれより多くなる可能性があります。
下限平均 |
上限平均 |
総平均 |
|
---|---|---|---|
パート・アルバイトの時給 |
1,110円 |
1,548円 |
1,329円 |
正職員の月給 |
21万1,906円 |
38万8,267円 |
30万86円 |
正職員の年収* |
296万6,682円 |
543万5,732円 |
420万1,207円 |
5.ネイリストの将来性
JNAが発行する「ネイル白書2023」によると、2023年のネイル産業市場規模(予測)は2,115億円となっており、2019年の2,321億円には及ばないものの、近年で最も落ち込んだ2021年から200億円以上の回復を見せています。
また、「美容センサス」によれば、ネイルサロンの1回あたり利用金額は女性が5,814円で横ばいである一方、男性は前年から324円増の3,945円となっており、ネイルへの関心が高まりつつあることがわかります。
参考:株式会社リクルート ホットペッパービューティーアカデミー「美容センサス2022年上期<ネイルサロン編>」
今後は、福祉施設で生活するシニア層にネイルサービスを提供したり、メンズ美容の関心の高まりに応じて新たな顧客層を開拓したりするなど、確かな知識と技術を身につけたネイリストにはさらなる活躍が期待できそうです。
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