1.民間救急(患者等搬送事業)とは
緊急性が低い人の搬送を担い、消防救急の本来の役割を支える
民間救急は、緊急性が低い傷病者を搬送する民間の事業者です。消防庁管轄の「患者等搬送事業(一般乗用旅客自動車運送業)」を指すことがほとんどで、消防救急(119番)と区別するために“民間救急”と呼ばれています。転院・入退院・通院のほか、冠婚葬祭や旅行、引越しなど「病気やケガなどで移動が難しい」といった場合に利用できます。
民間救急の大きな役割は消防救急の負担を減らすことです。2019年の調査では、救急車で搬送された人の約半数(48%)が軽症でした。また救急車の到着時間は10年間で1分近く延びており、軽症者が救急搬送の業務を圧迫していることが要因の一つだと考えられます*。こうした問題に対し、民間救急が軽症者の搬送を担うことで、消防救急が本来優先すべき重症者を搬送できるよう支えています。
2.民間救急と消防救急の違い
民間救急は緊急性が低い傷病者を搬送しているため、車両に赤色灯やサイレンを装備することができず、緊急走行ができません。また民間救急の利用には料金がかかり、利用前に予約をすることが一般的です。
さらに、民間救急では応急処置以外の医行為は原則としておこなうことができません。搬送中に利用者の容態が急変するなど、緊急で医療機関へ搬送する必要がある場合には救急車を呼ばなければなりません。
転院など、あらかじめ医療処置が必要だとわかっている人を搬送するときには、看護師または搬送元の医師が同乗します。なお看護師は搬送元の医師の指示で、次の医行為をおこなうことができます。
看護師が医師の指示でおこなえる医行為
- 点滴の管理
- 酸素投与の管理
- モニター監視
- 痰の吸引
- 経管栄養及び経管与薬
民間救急の利用料金
民間救急を利用すると、運送料金に加え、搬送に必要な機材や人員に応じて追加料金がかかります。
運送料金は時間または距離に応じて設定されており、営業所を出発して戻ってくるまでにかかる時間・距離でより高額な料金が適用されます。
料金の決め方は事業者によって異なるため、利用前に見積もりをもらうのが一般的です。
3.民間救急の種類
民間救急は医療系と福祉系に大別されます。
医療系の事業者では、ストレッチャーのまま乗車できる患者輸送車や医療資機材を搭載した医療搬送車を使い、医療処置の継続や観察が必要な人を搬送するケースで多く利用されます。
福祉系の事業者では福祉車両を使いますが、医療資機材などが搭載されていないことがほとんどです。また運転手のみでの搬送が多いため、利用者の観察や介助などは同乗者がおこなうことになります。
医療系 | 福祉系 | |
---|---|---|
車両 | ストレッチャーのまま乗車できる患者輸送車や、医療資機材を搭載した医療搬送車 | 福祉車両を使い、ほとんどの場合医療資機材などが搭載されていない |
乗務員 | 車両1台に対して原則2名(運転手含む) | 運転手1名のみの場合がほとんど |
観察 介助 |
乗務員がおこなう | 利用者の家族や友人など同乗者がおこなう |
主な利用 ケース |
医療処置の継続・観察が必要な人の搬送 | 医療処置を必要としない人の移動 |
搬送に必要な人員
民間救急では、車両1台につき原則2名の乗務員が必要です(運転手を含む)。ただし、次のいずれかに該当する場合は1名とすることができます。
- 車椅子のみを使用する場合
- 乗務員以外に医師、看護師、救急救命士が同乗する場合
- 退院の場合
- 医師により事前に入院日が指定されている場合
- 医師の指示による転院及び定期的な通院の場合
- 社会福祉施設、保養施設等への送迎の場合
4.民間救急で働く
乗務員
〈必要な資格〉
民間救急の乗務員として働くには、次のいずれかに該当しなければなりません。
- 患者等搬送乗務員基礎講習を修了し、適任証の交付を受けている者
- 医師、助産師、保健師、看護師、救急救命士、准看護師、医学士、看護学士(看護大学や大学の看護学部を卒業している、または看護大学・大学の看護学部卒と同等の学力があると認められた者)、または 1. と同等以上の知識・技術を有する者として消防総監が認め、適任証の交付を受けている者
事業所によっては、医行為に対応できるよう看護師や救急救命士の免許を必須としていることがあります。
〈仕事内容〉
乗降のサポート、搬送中の状態観察や声かけ、必要に応じて搬送先との連絡・調整をおこないます。看護師免許を持っている場合は、搬送元の医師の指示で酸素投与の管理などの医行為をおこなうことがあります。
利用者を搬送したあとは、車内や使用機材を消毒します。事業者によっては運転手と兼務している場合があります。
〈給与〉
ジョブメドレーに掲載されている求人を一例として紹介します。
- 職種:乗務員 兼 運転手
- 雇用形態:正職員
- 応募要件:
- 救急救命士
- 普通自動車運転免許
- 土日、夜間緊急対応可能な方
- 給与:月給 20〜25万円
*夜間・休日出勤手当別途支給
運転手(ドライバー)
〈必要な資格〉
乗務員と同様、適任証の交付を受けなければなりません。加えて第二種自動車運転免許が必要です。事業所によっては救急救命士の免許や介護職員初任者研修の修了を必須としていることがあります。
〈仕事内容〉
主に車両の運転や点検、乗務員のサポートをし、利用する度に車内の清掃・消毒をおこないます。事業所によっては乗務員と兼務する場合もあります。
〈給与〉
ジョブメドレーに掲載されている求人を一例として紹介します
- 職種:運転手 兼 乗務員
- 雇用形態:正職員
- 応募要件:
- 第二種普通自動車運転免許(AT限定可)
- 初任者研修(旧ヘルパー2級)修了者以上
- 病院、介護施設等で身体介護経験のある方
- 給与:月給 19〜28万円
*基本給18万5,000円
*資格手当5,000〜7万5,000円
5.民間救急の今後
在宅医療・介護の利用者が増えており、自宅・介護施設・医療機関の移動を担う民間救急の需要は今後さらに高まると考えられます。最近では新型コロナウイルス陽性者の搬送でも活躍しており、ニュースで目にした人も多いのではないでしょうか。
民間救急の活躍に反して、救急車の不適切な利用はいまだに多く、問題視されています。民間救急の認知度が上がることで、「緊急性のある場合は消防救急」「緊急性がない場合は民間救急」という意識がより浸透することが期待されています。