1. ダブルケアとは
子育てと介護が同時に進行する状態
ダブルケアとは、子育てと親や親族の介護を同時に担う状態を言います。またダブルケアをおこなう人を「ダブルケアラー」と呼びます。
ダブルケアの背景には晩婚化と晩産化に加え、平均寿命の延伸が関わっています。人それぞれではありますが、これまでは子育てがひと段落したら介護が訪れるという状況が一般的でした。しかし晩婚・晩産化によって育児期間が後ろ倒しされる分、介護のタイミングと重なる人が増えるというわけです。

ダブルケアにおいてとりわけ注意が必要なのは、すべての団塊世代が後期高齢者となる2025年以降です。その子世代である40〜50代が親の介護に直面し、ダブルケアラーが増加すると推測されます。
2. ダブルケアの実態
当事者は25.3万人超
2016年に内閣府が公開した「育児と介護のダブルケアの実態に関する調査報告書」によると、ダブルケアの推計人口は2012年時点で約25.3万人と推計されています。このうち女性は約17万人、男性約8万人と、性別により偏りが見られることがわかります。

この集計における育児の対象は未就学児のため、育児の範囲を小学生まで広げるとダブルケアラーはさらに増えます。
また同調査によると、ダブルケアをおこなう人の平均年齢は男女ともに40歳前後。中でも子育て世代にあたる30〜40代が全体の約8割を占めるという結果が出ています。いわゆる「働き盛り世代」が育児と介護を両立しているのです。
しかしダブルケアをおこなう女性の48.6%は無業で、その6割が就業を希望しています。これに対し無業の男性は2.0%と、男女の就業状況には大きな開きがあります。「男性は仕事、女性は家庭」という旧来の価値観が、ジェンダーギャップ(社会的・文化的差別に基づく偏見や差別、男女雇用・賃金格差)としてにじみ出ているといえるでしょう。
3. ダブルケアの問題点
金銭面の負担
育児に必要な物品や食費、介護に必要なサービス費用や移動費用など、それぞれでも大きくかかる負担がさらに大きくなります。
女性への負担
ダブルケアは女性へ負担が偏り、子育てと介護を優先するあまり自分を労わることを後回しにしがちです。
さらに、仕事と家庭の両立も難しくなります。ダブルケアを理由とした女性の離職率は17.5%、業務量や労働時間を減らした女性は21.2%という結果が出ています。労働量の減少は収入に直結し、日常生活にも影響が出るでしょう(出典:内閣府男女共同参画局)。
行政のサポートを得られにくい
ダブルケアが提唱されたのは2012年のこと。社会問題としての認知がまだ低く、行政の相談窓口も複数に分かれるため、適切なサポートを受けられるまで時間がかかることがあります。
孤立しやすい
ダブルケアを引き起こすもう一つの要因は、少子化と核家族化による“家族・親族間でのケアの担い手不足”です。ケアを担う人が問題を抱え込み、また悩みを共有できる相手が少ないことから孤立しやすい立場にあります。
4. ダブルケアに備えられること
親や親族が健康なうちに話し合いをする
介護は思わぬタイミングで訪れます。その前に、きょうだいや親戚間で話し合うのが理想です。「介護の話をしにくい」「介護なんてまだ先のこと」と考える家庭もありますが、事前に話しておけばダブルケアへの心構えができ、いざというとき慌てずに済みます。
勤務先の制度を確認しておく
ダブルケアは多くの時間とお金を要するため、利用できる制度を確認しておきましょう。
例えば2021年に法改正された「子の看護休暇・介護休暇」は育児・介護休業法で定められる制度です。条件を満たせば1年度につき5日(子ども・対象家族が2人以上の場合は10日)を限度とし、1時間単位で休暇を取得できます。
また、勤務先が独自の休暇制度や支援制度を設けている場合もあります。併せて確認すると良いでしょう。
育児・介護休業についてはこちらの記事でも解説しています。
>改正育児・介護休業法で何が変わる? 男性の育児休業など改正ポイントを解説!
自治体の相談窓口を確認しておく
まずお住まいの地域の地域包括支援センターに相談することをお勧めします。地域包括支援センターは高齢者の介護・医療・福祉などの困りごとがある際に支援をおこなう総合窓口です。
介護と仕事の両立については、各都道府県に設置された労働局(労働基準監督署、公共職業安定所)に相談してください。介護離職を回避するために利用できる制度の説明や助言を受けられます。
ダブルケアラーのコミュニティを活用する
ダブルケアラーや支援者同士で情報交換をする催し「ダブルケアカフェ」が全国に広がっています。社会福祉協議会や地域包括支援センターと共催する自治体もあるため、相談窓口や具体的な支援策を知ることができます。
開催場所については「ダブルケアカフェ ◯◯(お住まいの地域名)」で検索してみてください。
5. 独自の取り組みをおこなう自治体も
ダブルケア専門窓口を設けた大阪府堺市

ダブルケア問題にいち早く取り掛かったのが大阪府堺市です。各区役所内の基幹型包括支援センターに育児と介護を一本化した「ダブルケア相談窓口」を設けました。窓口では専門職員(保健師、看護師、主任ケアマネジャー、社会福祉士)が相談に応じ、育児と介護制度について案内しています。
また、保育園入所時の調整指数に加点されたり、特別養護老人ホームの入所基準の緩和、堺市独自のショートステイ事業において利用日数を延長するなど、家庭状況に応じた優遇措置が取られています。
福祉総合窓口を設置する東京都港区
港区では、2022年8月を目処に介護と育児の総合窓口の設置準備を進めています。窓口では保健師やケースワーカーなどの専門職に加え、地域包括支援センターの相談員が対応します。
なるほど!ジョブメドレー編集部の取材に対して保健福祉課担当者は「ダブルケアや8050問題など、多様化する課題に対し1つの窓口で一度に対応できるよう体制を整える」と話します。
独自プログラムを進める横浜市の団体
横浜市では「一般社団法人 ダブルケアサポート」が主体となり、自治体へ向けた講演会やセミナー、ダブルケア経験者による相談受付など、支援普及のためさまざまな事業に取り組んでいます。またダブルケアの経験を活かしたハンドブックを作成し、支援に役立つ情報を共有しています。