文具メーカーが介護現場の困りごとを解消?! 現場に寄り添った商品が開発される舞台裏とは 

介護記録の書類管理、備品の在庫管理、レクリエーションの企画・準備などなど……介護施設で多くの時間を割くこれらの作業を少しでも効率化するため、創意工夫を重ねる文具メーカーの取り組みを取材しました。

文具メーカーが介護現場の困りごとを解消?! 現場に寄り添った商品が開発される舞台裏とは

介護の必需品である紙おむつや清拭シート、消毒液などの衛生用品、介護記録を残すための書類ファイルや事務用品、レクリエーションで使用する創作用品……介護施設の運営に、これらのアイテムは欠かせません。

今回取材したのは文具・事務用品、オフィス家具メーカーのプラス株式会社です。同社は文具メーカーでありながら、近年では介護福祉施設向けの専門用品やサービスを提供しています。介護福祉士の中浜さんを聞き手に、文具メーカーが介護業界に進出した背景や、介護現場の“お困りごと”からどのような便利アイテムが生まれるのか、ものづくりの裏側について尋ねました。

聞き手

中浜さんプロフィール写真

中浜 崇之さん

1983年東京都生まれ。学生時代の一日デイサービス体験をきっかけに介護の世界へ。介護福祉士として施設長やデイサービス立ち上げを経験するほか、全国での講演活動やイベント主催など多方面で活躍中。

文具メーカーの介護市場進出! きっかけは“人口減”と“◯◯レス化”? 

中浜さん:プラスさんはもともと文具や事務用品、オフィス家具が専門かと思いますが、2014年から介護事業所向けのデリバリーサービス「スマート介護」を始められました。なぜ介護市場に進出されたんでしょうか?

宮崎さん:プラスは文具メーカーとしてだけでなく、全国の企業や学校、官公庁の皆さまがお使いになるさまざまな商品やサービスを提供する流通サービス事業者としての顔を持っています。「スマート介護」は流通事業の新しいサービスとしてスタートしましたが、その背景には国内市場環境の変化があります。

日本は今後も人口減少が続いていきますよね。そうすると若い世代や働く世代が減り、私たちが手掛ける文具の需要も縮小していくことが見込まれます。さらに人口減少だけでなく、2010年代からは急速なペーパーレス化が進んだことも大きいです。

一方で高齢化は進んでいて、介護事業所の数は増え続けています。介護事業所でもIoT化が進んでいるとはいえ、まだまだアナログでおこなう作業も多く、文具や事務用品という面で私たちがお役に立てる部分が大きいのではないかと考えました。

取材中の様子 宮崎さん
話を聞いたのは、ジョインテックスカンパニー スマート介護企画部部長の宮崎さん。自身も福祉用具専門相談員や福祉住環境コーディネーター、認知症介助士など介護に関するさまざまな資格を持つ

中浜さん:日本の人口減少とペーパーレス化、2つの大きな問題が発端だったわけですね。

宮崎さん:はい。そこでまず手始めに介護事業所さんに対して、300件ほどの対面ヒアリングと2,500件ほどのアンケートをおこないました。「事務用品や生活用品、介護用品はどこで購入しているのか」「そもそも介護現場ではどのようなお困りごとがあるのか」といった内容の調査です。

そうして見えてきた“お困りごと”で意外と多かったのがレクリエーションの分野でした。

レクリエーションにまつわる2大悩みを解決

中浜さん:レクリエーションですか。文具とはやや関係性が薄い感じもします。

宮崎さん:そうですよね。詳しく話を聞くと、介護現場では「レクのネタを考えること」「レクに必要な素材を調達すること」が職員さんたちの負担になっていることがわかりました。

レクリエーション担当者の91%が企画に苦労した経験がある
本調査は2022年1月にデイサービス職員100人を対象に実施
出典:プラス株式会社|プラス、「デイサービスでのレクリエーションに関する実態調査」を実施

中浜さん:確かに。僕も施設で働いていたころ、百均に必要なものを買い出しに行ったのに目当てのものが見つからず、何店舗か探し回った経験がありますね……。

宮崎さん:仕事終わりで疲れているのに調達に行くって大変ですよね。そこで私たちは「レクリエーション介護士」の運営団体と提携し、レクの企画から素材の準備までを一括して解決できる商品を考えました。

どういう仕組みかというと、対象のレクリエーション商品を注文すると、その翌日にはレクに必要な一式が事業所へ届きます。さらにWebでレク企画書をダウンロードできるので、それを参考にしながらすぐにレクを実施できるというわけです。

レクリエーション・リハビリ用のカタログ
企画書は約280種類。季節や難易度に合わせたさまざまなレクリエーション企画が取り揃う

中浜さん:レクの企画を考えたり実践するのが苦手という職員さんも多いと思うので、これは助かりますね。

取材中の様子 カタログを読む中浜さん
レクリエーションのカタログをめくっていると……
カタログ アイススティック棒の商品ページ

中浜さん:……アイスの棒も売ってるんですか?

宮崎さん:はい、販売しています(笑)。これはもともと介護職員をしていた社員の一言がきっかけで。その社員が「アイスの棒があったら便利ですよね」と言うので、どういうことかと聞いたら「創作系のレクリエーションをする際に、なるべくコストをかけないよう職員が消費したアイスの棒を集めてたんですよ」と。なるほどと思って仕入先を当たってみたら、アイスの棒だけを販売しているメーカーさんがあったので、取り扱いを開始したという経緯があります。

中浜さん:たしかに冬場だとなかなかアイスも消費しませんから……(笑)。それにしても取扱商品が幅広くて驚きました。

宮崎さん:現場で働いている職員の方や介護経験のある社員から話を聞くと、意外な商品に需要があることがわかるんです。

専門資格を持つ営業担当が、介護施設特有の相談にも対応

中浜さん:そういった現場のニーズを聞く機会というのは、定期的に設けてるんでしょうか?

宮崎さん:はい。月に一回、お客さまの声を聴く会を実施しています。また当社の特長でもありますが、福祉用具専門相談員の資格を持つスタッフが営業をおこない、事業者さんから相談事などを聞くようにしています。

なぜかと言うと、介護施設のお悩みといえばやはり介護にまつわることが多いわけです。例えば「褥瘡のケアで使うガーゼが欲しい」「嚥下機能が下がっているから口腔ケア用品を見直したい」というような内容です。こういった専門用語が混ざった会話を営業職が理解できないのは問題ですから、当社ではお客さまの窓口になる代理店を含め、営業スタッフは必ず福祉用具専門相談員の資格を取得するようにしています。

とくに介護施設の方は忙しい方が多いので、営業が訪問先で3分だけお時間をいただき、必要な商品を聞いてその場でパパっとiPadで代行注文するようなスタイルも取っています。

取材中の様子 宮崎さん・中浜さん
専門資格があると提案できることの幅も広がる

中浜さん:全員が資格取得ってすごいですね。そうやって施設の相談に応じることから、新たな商品開発に繋がることもあるんでしょうか?

宮崎さん:ありますよ。例えば介護事業所では「利用者の介護記録の書類を数年単位で保管する必要がある」と聞きました。そうすると膨大な量の保管書類が生まれるわけですが、管理する人によって整理の仕方がまちまちだったり、ファイルが破損していたりと細かな問題点が多かったんですね。

そこで私たちが考えたのが介護専用のファイル製品です。これについては、製品の企画開発を担当した原田より説明させてください。

介護に特化したファイル?「たすけあ」シリーズ開発ストーリー

取材中の様子 原田さん
続いて話を聞いたのは、入社から一貫してファイル製品の企画開発を担当しているステーショナリーカンパニーの原田さん

中浜さん:介護専用のファイルと聞いてもあまりピンとこないんですが、いったいどういったファイルなんでしょう?

原田さん:私たちが開発した医療・介護・福祉施設向けのブランドで「たすけあ」と言います。現在は「利用者カルテ リングファイル」をはじめとした介護専用ファイルを取り揃えています。

介護施設での事務用品のお悩みを理解するために、私も実際に介護施設にお邪魔してきました。すると大量の書類ファイルが保管されていて、雪崩も起きそうなくらいで……。

介護保険サービスの提供事業所では、利用者一人ひとりの個人情報、アセスメントシート、サービス担当者会議、ケアプラン、モニタリングシート、経過記録など複数の書類を一つのファイルで管理することが一般的です。そこで各書類のスタートページが一目で分かるように「インデックスページ」を用意すると便利なんですが、このインデックスを皆さん一つひとつ手作りしていたんですよ。

取材中の様子 ファイルを見せる原田さん
「この見出しの部分がインデックスです」

中浜さん:確かに作ってました! インデックス別に違う色のシールを使うんですが、枚数が限られるので1枚書き間違えると残りのシールも使えなくなったり……。

原田さん:そうですそうです(笑)。そこで利用者カルテ リングファイルでは、介護記録に必要な項目があらかじめ印刷されているインデックスを標準装備することで、事務作業の負担を軽減できるようにしました。

それから実際に使用しているファイルを見せてもらうと、背表紙の上部に指を引っ掛けてファイルを引き出すので、その部分がボロボロになっていたんですね。そこでリングファイルでは引き出しやすいよう背表紙の上部にカーブをつけ、フラットファイルでは耐久性を上げるため、表紙にラミネート加工を施すようにしました。

ほかにも細かい点ですが……多くの施設さんでは、背表紙に利用者さんの名前のテプラを貼っているんです。でも貼る位置がバラバラで上下の高さが揃わず見づらいといった課題があったので、貼る位置を示すタイトルガイドをつけました。

利用者カルテの商品画像
インデックスシートはスマート介護の中でも売れ筋商品で、単品購入も可能

中浜さん:細部まで使う人のことを考え抜いて作られているファイルなんですね。こういった便利なアイテムを使うことで、小さなストレスを減らせたり、事務作業の時間を削減できたりするのはすごく助かると思います。

番外編:ファイルが支えた医療現場とコロナ禍での人気商品 

取材中の様子 中浜さん・原田さん

中浜さん:最後に、新型コロナウイルスの流行によってどんな変化が起きたか聞いてもいいでしょうか?

原田さん:コロナの感染初期には、ファイルの生産技術と原材料を活かしてフェイスシールドを製造し、医療機関などに提供させていただきました。

中浜さん:え、フェイスシールドをですか?

原田さん:実はフェイスシールドの素材ってファイルの素材とほぼ同じなんです。なので比較的すぐに製造体制に入ることができました。

ほかには、レジ袋を開けるときに使用する紙めくり用品や、金銭の受け渡しに使うコイントレイなどが急速に売れるといった現象がありました。それから少し意外なところでは、空間を仕切るといった目的でホワイトボードも売れ行きが良いと聞いています。また、空間の酸素濃度を測るCO2モニターや、小物を消毒できるUV除菌ケースなど……コロナ対策の新商品も続々と登場しています。

スマート介護を展開している流通事業部門では、やはりマスクやアルコール類などの衛生用品の需要が伸びました

中浜さん:そうだったんですね。フェイスシールドとファイルの関係は驚きました。文具を作る技術が見えないところでコロナ禍の難局を支えてくれていたとは……。改めて今日は普段はなかなか知り得ないものづくりの裏側を聞けました。

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読者の方へのメッセージ

プラスをして出来ている。

今回のお話を聞いて感じたことは、“強みを+(足す)のが上手い”ということ。それまで介護現場で勝手に諦めていたことが、ものづくりにおけるいろいろな部分で足し算が展開された結果、「こんな製品もある」「この悩みも解消できるんだ」という発見がありました。カタログを見るだけでも「ヘ〜」や「え〜」と楽しめる時間が生まれると思いますし、実際にものづくりの裏側を知ると、開発のこだわりを理解したうえで商品を選んで使いたいなと改めて感じました。

中浜 崇之 (介護福祉士) 2022/02/25

プロフィール

「なるほど!ジョブメドレー」は、医療介護求人サイト「ジョブメドレー」が運営するメディアです。医療・介護・保育・福祉・美容・ヘルスケアの仕事に就いている人や就きたい人のために、キャリアを考えるうえで役立つ情報をお届けしています。仕事や転職にまつわるご自身の経験について話を聞かせていただける方も随時募集中。詳しくは「取材協力者募集」の記事をご覧ください!
介護福祉士として特養やデイザービスで勤務、特養の施設長、デイサービスの立ち上げなどの管理職として、合計勤務経験17年。「自分らしく死ねる社会の実現」を目標に活動中。介護職の様々な垣根を越えて対話する場「介護ラボしゅう」を主宰。また福祉のポジティブな視点での発信と福祉の担い手の増加に向けて様々な活動を行い全国で講演活動や講師なども務める。

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