【コロナ禍インタビュー】柔道整復師 31歳 男性の場合

新型コロナウイルスの流行が医療や福祉、美容関係の仕事にどのような影響を与えているのか、当事者の声を聞く企画。今回話を伺ったのは2年前にも取材をした柔道整復師のKさんです。接骨院の院長を務めていたKさんですが、コロナの影響により倒産。そのときの状況を詳しく聞きました。

31歳 柔道整復師 コロナ禍での変化

話を伺ったのは、倒産の憂き目にあった接骨院の院長

31歳 柔道整復師

※取材はオンラインで実施しました

──お久しぶりです。2年ぶりの取材ですがよろしくお願いします。

お久しぶりですね! こちらこそよろしくお願いします。

前回のインタビューではKさんの転職経験やプライベートについて詳しく話を聞いています。 こちらもご覧ください!

【転職者インタビューvol.3】柔道整復師6年目29歳/転職1回

──2020年は新型コロナウイルスの流行もあり、柔道整復師さんは結構な影響を受けたんじゃないですか?

いやー、そうですね。正直かなり影響を受けました。

──やっぱりそうなんですね。今回はそのあたりのお話を詳しく聞かせてください。

社長による突然の倒産の通告

31歳 柔道整復師の経歴

──コロナによってどのような影響を受けたんですか?

実は僕が院長を務めていた接骨院の運営会社が倒産しちゃったんですよね……。

なので接骨院も当然閉院です。

──倒産! それは大変でしたね。倒産したのはいつ頃ですか?

緊急事態宣言が発令されたのが4月ですよね? なので、えっと……5月25日に潰れました。

もともと経営が傾いていたみたいで、緊急事態宣言がとどめになった感じですね。

──やはり緊急事態宣言で大打撃を受けたんですね。何院くらい運営している会社だったんですか?

全国に30院くらい展開していたんじゃないかな。正確な数字はわからないです。

──そんなに大きな会社でもダメだったんですね。倒産はどれくらいのタイミングで告げられたんですか?

5月に入ってすぐです。なので倒産の1ヶ月前くらい。

いつも通り出勤したら、なぜか社長がいて「ちょっと話がある」と。

いつもフランクな社長が、すごくかしこまった雰囲気で顔もこわばっていましたね。

ただ、僕の接骨院は緊急事態宣言後も変わらず黒字だったこともあり、会社自体も順調だと思い込んでいたので、まさか倒産を告げられるとは思いもしませんでした。

「転勤のお願いだったらやだなー」くらいに考えてたのに……。

──社長さんはどんな風に切り出したんですか?

単刀直入に言うと今月25日に会社をたたみます」と。

突然すぎて社長相手に「は? なんて?」って言っちゃいましたね。

──まさに青天の霹靂ですね。ほかのスタッフや患者さんにはKさんから説明を?

スタッフにはそのあと、一人ひとりに社長から話してました。

患者さんにはもちろん僕らスタッフから。

──患者さんやスタッフの反応は?

スタッフは僕と似たような感じで、唖然としてました。

患者さんは「じゃあこれからはどこに行けばいいの?」って。

なので「僕ら自身も人生の迷子になりそうです」って(笑)。

患者さんには申し訳ないけど、「こっちが教えて欲しいよ!」って気持ちでした。

──スタッフも予想していなかった出来事ですもんね。Kさんのご家族にはなんて説明を?

実はその前の年にマンションを買ったばかりだったので、3日くらい話を切り出せなかったんですよね。だって3,700万円ですよ? 漫画とかでよく見るリストラされたサラリーマンの気分でしたね。

とは言っても話さないわけにはいかないので、正直に「今月で会社が潰れるらしい」って。

妻も「は? どういうこと?」っていうリアクションでした。

──マンションを購入していたんですね! それはつらい。倒産する予兆みたいなものは感じなかったんですか?

むしろうちの院に限っては、倒産を告げられる直前はめっちゃいい感じだったんです。

というのも、近隣の姉妹店が商店街の区画整理によって閉院したので、そこのスタッフをみんな吸収したんです。「よっしゃ! 人数も増えたし、こっからいろいろできるぞ!」って気分だったのに、その2日後ですからね。倒産を告げられたの。

ただ今思えば、経費削減のために患者さん用の新聞・雑誌・お菓子の購入禁止、ウォーターサーバーの撤廃など、ちょいちょいフラグは立ってたなと。

──姉妹店が移転ではなく閉院になったのは、そういうことだったんでしょうね……。

開業を断念し転職へ

31歳 柔道整復師2

おもむろに何かを食べ始めるKさん

──えっと……それは何ですか?

麦チョコです。お腹空いちゃって。

好きなんですよね。

それで……すみません、何の話でしたっけ?

──倒産の話です。治療を継続中の患者さんもいたのでは?

そうなんですよね。患者さんには本当に申し訳ない気持ちがあったので、せめてもの思いで5月25日でスパッと閉院にせず、30日までは自分たちだけで営業しました。

──そんなことできるんですね。

「25日以降も患者さんの予約が入っているんですがどうすれば?」って社長に聞いたら「今月分のテナント代は払ってあるから好きにしていい。来月以降も続けたいなら居抜きで空け渡すから開業したら?」と。

なのでスタッフたちと話し合って、5月いっぱいは続けようってことになりました。

ただ、保険請求をできないので「一律500円で20分マッサージしますよ」って患者さんに説明して。法律的にはあん摩マッサージ指圧師以外が「マッサージ」っていう言葉を使っちゃいけないんですけど、まあ便宜的に。

──開業はしなかったんですか?

閉院を告げられてからの1ヶ月間はすごい迷いましたよ。

このまま開業すれば居抜きで使えるので初期投資は安く済むし、患者さんもスタッフもそのまま引き継げるし。

ただ、広い接骨院だったのでテナント料も45万円とそれなりに高いし、コロナ禍真っ只中だったのでリスクも高すぎるなと。

加えて僕自身ももう少し勉強したかったので、転職することにしました。

──なるほど。転職活動は倒産を告げられてすぐに始めたんですか?

いや、選択肢としては開業も本気で考えていたので「どうやって開業するのか」とか「経営していくにはいくら必要なのか」とかそういうリサーチをしたり、知人に相談したりしながら働いていたら、転職活動する間もなくあっという間に1ヶ月経っちゃいました。

なのでもう開き直って、閉院してから1ヶ月は何もせずゆっくりしようって決めて、7月から転職活動を始めました。

──そういえば柔道整復師は新型コロナウイルスの慰労金の対象になるんですか?

ん? なんですかそれ。ちょっと今調べてもいいですか?

(スマホで調べるKさん)

……あー、「柔道整復師等の施術所は給付対象外です」って書かれてますね。

まあ、医療機関ってわけじゃないし、そりゃそうか。

「新型コロナウイルス感染症対応従事者慰労金交付事業」


医療機関等で働く医療従事者や職員に対して、感謝と慰労を目的に5万円〜20万円が支給された。なお柔道整復師等の施術所は給付対象外となった。

──そうなんですね。話を戻しますが、転職活動はどのように?

実はジョブメドレーを使って転職しました。内定が決まったのが8月の終わりくらいですかね。

なので2ヶ月くらい転職活動をしていました。

31歳 柔道整復師3

──そうなんですね。ありがとうございます! 転職活動で重視したポイントは?

重視したのは「拘束時間」です。要は「勤務時間が前よりも短いところ」。それが絶対条件でした。

──たしか以前の職場は残業や休日出勤が多かったんですよね?

──週のお休みは?

毎週水曜日が休みです。だいたい8時40分に出勤して21時20分くらいに退勤しています。

──月の平均残業時間は?

先ほど残業はほとんどなくなったと言いましたが、実は院長になってからは増えてしまったんですよね。

休日出勤も合わせると、平均残業時間は90~100時間くらいですね。なので給料も残業代の割合が多いです(笑)。

──それで休日出勤もあると、年間休日はけっこう少ないのでは?

年間休日日数は60~70日くらいですかね? 実際に数字に出すとめっちゃ少ないな! でも有給はきちんと取れるので、休もうと思えば休めます。

── 【転職者インタビューvol.3】柔道整復師6年目29歳/転職1回より引用

そうなんです。 家族との時間もなかなか取れなかったので、次の職場ではもう少しゆっくり働きたいなと思って。

──実際に入ってみてどうでしたか?

すごくいい感じのペースで働けてますよ。

早番と遅番があるんですが、早番は9時30分〜20時30分。遅番は14時〜23時までとかです。休日も月4日だったのが、月7日に増えました。

それに昼休憩もちゃんとあって、13時〜14時半の間は患者さんを取らないんです。

完全予約制なので一日のスケジュールも立てやすいですし。

──それは良かったです! コロナ禍での転職活動ということで、平時との違いはありましたか?

緊急事態宣言が解除されてからの転職活動だったので、それほど変わった点はなかったような気がします。

接骨院によってはオンライン面接か対面かを選べたくらいですかね。

ちなみに3社くらい受けましたが、全部対面でやりました。そのほうが話しやすいかなと思って。

今の職場の決め手は給料や勤務時間など、諸々の条件が一番良かったからですね。

──面接ではどんなことを聞かれましたか?

「当院の雰囲気や印象はどうか」

「前の職場ではどういう考えを持って施術をおこなっていたか」

「当院でどうなっていきたいか」

「シフトの希望はあるか」

「自分の長所と短所」

覚えているのはこんな感じですね。

──それぞれなんて回答を?

だいたいこんな感じです。

当院の雰囲気や印象はどうか


天井が高く開放感がありますし、和気あいあいとしていて明るい雰囲気ですね。

どういう考えを持って施術をおこなっていたか


痛みに対してアプローチしていくのはもちろんですが、親友や家族のように何でも相談しやすい関係を築けるような接客と院内の雰囲気づくりを大事にしていました。

当院でどうなっていきたいか


骨盤矯正などの自費メニューの売り方、自分の知らない経営の手法などを学んで、ゆくゆくは独立したいと考えています。

シフトの希望はあるか


ここ数年フルタイムでしか働いていないのですか、シフト勤務の感覚を掴むために早番・遅番を半々くらいでお願いしたいです。

自分の長所と短所


長所は「物事を柔軟に考えられるところ」で、短所は「卑屈な性格」です。物事を悪い方へ深く考えがちですが、暗くなっても楽しくないので前向きに考えるようにしています。

──採用面接で「独立を考えています」って断言しても、ネガティブなイメージにはならないんでしょうか?

もちろん会社としては長く働いてもらったほうが嬉しいんでしょうけど、柔道整復師の独立志向は当たり前のことなので、それほどマイナスにはならないと思いますよ。

──なるほど。今の職場には院長ではなく、普通のスタッフとして転職したんですか?

そうです。残業時間にもよりますが給料は7万〜10万円くらいガクッと下がりましたね……。

ちなみに、こっちが前回取材してもらったときの給与明細です。2年前から会社が潰れるまで給料は変わりませんでした。

29歳 柔道整復師 給与明細

で、こっちが今の給与明細です。

31歳 柔道整復師 給与明細

──10万円も下がるのは、正直大変じゃないですか?

はい。マンションのローン返済もあるので、正直マイナスですね。なので申し訳ないけど嫁にも少しパートに出てもらってます。

毎月の支出はだいたいこんな感じです。

31歳 柔道整復師 支出内訳

給料はそれほど高くありませんが、まだ発展途上の会社なので店舗拡大していっている最中なんです。

売り上げが上がれば給料もどんどん上げていくって言う方針みたいなので、そこに期待してます。

2回目の緊急事態宣言、接骨院の対応は?

──2021年1月7日に2回目の緊急事態宣言が発令されましたが、職場ではどのような対応を取りましたか?

まず患者さんの予約枠を上限60人から40人に制限して、勤務スタッフの人数も減らしました

スタッフ数を減らすと院に対して、国から助成金がおりるんですよね。

──勤務スタッフの削減はパート・正社員関係なく?

受付はパートさんが担当していたので、パートさんのシフトを削って、代わりに正社員が対応していました。

施術するスタッフは正社員しかいないので、そこは仕方ないので正社員を休ませる感じですね。

だいたい月に4〜5日くらい休みが増えたかな。正社員はその間の給料も100%補償されました。

こう言ったら不謹慎かもしれませんが、新入社員の身からしたら仕事をゆっくり覚えられたので助かりましたね。今の職場は自費メニューが多いので、覚えることもたくさんあって……。

なので施術の間も勉強したり練習させてもらったりしてます。

31歳 柔道整復師 練習風景

接骨院での練習風景(写真提供:Kさん)

──なるほど。接骨院というと患者さんとの距離が近いイメージがありますが、感染症対策はどうですか?

まず患者さん同士の距離を広く取るためにベッド数を9台から6台に減らして、ベッドとベッドの間には仕切りのカーテンを設置しました。

あとは当たり前のことですが換気をしっかりしたり、患者さんもスタッフもマスク着用・手指消毒・検温を徹底したり。施術後もベッド周りはしっかり消毒してます。

ふだんは患者さんとの会話も大事にしているんですが、極力会話もしないようにしています。もちろん、施術に必要な説明などはおこなっていますが。

接骨院のコロナ対応

コロナ禍によって気付かされたもの

──前回の取材時に「40歳くらいで独立開業したい」と話してくれましたが、その想いは今も変わらず?

うーん、正直ちょっと揺れています。

40歳になる頃には、上の子が大学、下の子が高校なんでお金がすごくかかるんですよね。

開業しても、すぐにポーンと給料が跳ね上がるわけではないですし、だったら今の職場で地道に昇給していったほうがいいのかなと。

──今回のコロナのように予測できないこともありますしね。

そうなんです。まさに会社が潰れるところに立ち会ってるわけなので、そういう不安も大きいです。

それにコロナでこんな大変な状況になっちゃいましたけど、一方で家族との時間が増えたことを嫁も子どももすごく喜んでくれて。

今までは「家族のために!」と思って、院長として休む間も惜しんで働いていましたが、価値観が変わったというか……。ガムシャラに働くことだけが父親の役割じゃなくて、家族と一緒の時間を過ごすことも大事なんだなと、今更になって気付かされましたね。

その点に関してだけはコロナに感謝してます。

──家庭とお仕事、どちらも大切にしたいですよね。本日は以上になります。ありがとうございました!

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