話を伺ったのは、コロナ禍で妊娠・出産を経験した児童指導員
──前回のインタビューから私生活にも大きな変化があったと聞きました。
昨年、2020年の春に結婚して、秋に子どもが生まれまして……!
※取材はオンラインでおこないました。
──それはおめでとうございます! ではこの1年はいろいろなことを経験されたんですね。
本当に、昨年の3月から週単位くらいでめまぐるしく状況が変わっていて……。以前から結婚の話はしていたのですが、3月にプロポーズされて、お互いの両親に挨拶をして、その1週間か2週間後には妊娠がわかって、4月に入籍して、6月に新居に引っ越しをして、11月にはこの子を出産して──、とこれがプライベートでの大きな変化です。
──本当にめまぐるしいですね……! お仕事のほうは?
体を動かす仕事(運動療育)なので、妊娠についても早めに報告させてもらいました。
そうこうしているうちにコロナもひどくなってきて……、4月には出勤する職員と自宅待機になる職員に分かれたんですが、私は妊婦ということもあって自宅待機になりました。
5月から復帰するかどうかで職場とも話をしていたんですが、ちょうど悪阻(つわり)のひどい時期だったので、職場と話し合って5月は自宅療養にしてもらいました。
それから6月には復帰して、10月の途中から産休に入り、そして出産して1年間は育休をいただくことになっています。
──2020年は本当に怒涛の1年だったんですね。
はい、3月以降はとくに(笑)。
療育が必要な子どもたちとは?
──一旦お仕事の話に戻りたいのですが、勤務先は放課後等デイサービス(以下、放デイ)でしたよね?
正確には児童発達支援と放デイが一体になっていて、お預かりではなく、保護者の方と一緒に通っていただくタイプの療育施設です。
──どんな障がいを持ったお子さんが利用されているんですか?
発達障害や自閉症スペクトラム、ダウン症と診断されて療育手帳を持っているお子さんもいますが、はっきりした診断名がなくて、不登校だったり発達の凸凹だったりに悩んでいらっしゃるご家族がほとんどですね。年齢は2歳から小学校高学年くらいまでです。
──病院に行っても具体的な診断名がないというお子さんは多いんでしょうか?
そうですね。3歳児健診で言葉が出なかったり、保育園や幼稚園で集団生活に馴染めなかったり、といったことに悩まれていらっしゃる方が多いです。なかなか敷居が高くて発達検査までは受けていないというご家庭も多いと思います。
─参考:文部科学省|令和元年度 特別支援教育に関する調査の結果について
私の勤めている施設は療育手帳がなくても利用できるのですが、受給者証は全員持っています。病院を受診したうえで主治医の先生から「療育をしたほうがこの子の発達にいい」という診断をいただいている形ですね。
──療育では具体的にどういったことをおこなっているんですか?
運動療育と言うと「体操教室」のようなものをイメージする方も多いかもしれないんですが、私の勤めている施設の場合「できないことをできるようにする」ことが目的ではないんです。
お子さん1人に対して指導員2人で療育をおこなうんですが、簡単に言うと「その子が興味を持ったことに思いっきり関わって遊ぶことで、脳と心の発達を促す」というイメージです。
──療育はどのくらいのペースで通うものなんですか?
需要によって異なりますね。3歳になる前とか言葉の伸び盛りなので毎日のように通うというお子さんもいますし、小学生以上で学校生活のストレスを減らすために通う場合は週に1回とか、本当に需要によってまちまちです。
ほかの療育施設と併用している方もいるので、そういった場合も頻度としては少なくなりますね。
──療育によって実際にどんな変化が見られましたか?
自閉症の診断が中度から軽度になったり、幼稚園のお遊戯に楽しんで参加するようになったり、不登校のお子さんが学校に行けるようになったり……、人との関わりが楽しくなったっていう報告を受けるととても嬉しいですね!
コロナ禍で療育もオンラインで実施
──昨年の3月末に一斉休校の要請が出され、4月には緊急事態宣言が出されましたが、そのときはどのように対応していましたか?
緊急事態宣言が発令されると、「どうしても通所したい」という強いご希望のある方を除いて、基本的にオンラインで療育をおこなうことになりました。
──「強いご希望のある方」というのは?
自閉傾向の強いお子さんとか、通所の間隔が開いてしまうことでせっかく改善していた状態が元に戻ってしまうことを懸念しているご家庭ですね。ほかにも、近所に住んでいて電車などの公共交通機関を使わずに通えるので、というご家庭もありました。
ただし、従来1クラス1時間の枠に最大3組の親子を受け入れいているところ1組だけに。1日に開催するクラスの数そのものも減らして受け入れられる範囲でという形でした。もちろんクラスの活動が終わるたびに消毒も徹底しています。
──オンラインでは具体的にどのように指導するんですか?
指導員2人が画面の前でいろんな遊びをやってみて、それに子どもが興味を持ったら親子で一緒にやってみていただく。抜けたり出たりは自由なんですが、1時間のなかで画面に映る指導員をとおしていろいろ遊んでみる、という感じです。
──オンラインでの療育、とくに運動療育となると難しそうですね。
子どもたちの興味を引き出すために、いつもよりオーバーリアクションにしたり、カツラなどの小道具を使ってみたり、子どもたちがわくわくするような、思わず画面に釘付けになるような仕掛けをいろいろ工夫していました(笑)。
──オンライン療育に対する子どもたちの反応はいかがでしたか?
いつも会えていた先生たちに会えなくなったので、画面に映った瞬間に反応してくれるお子さんも多かったです。
ただ、画面越しで直接触れることができないので、発達段階の低いお子さんの場合は保護者の方にも積極的に関わっていただいて。それによってオンラインならではの効果もあったのかなと思いますね。
──具体的にはどんな効果ですか?
自粛期間中、家で子どもとの関わり方や遊び方が難しく、ストレスを抱えていた保護者の方から「子どもと楽しく関われるヒントをもらえた」とお声をいただきました。
──緊急事態宣言が解除されたあとはどうですか?
基本的に現場で対応していますが、希望者の方のためにオンライン療育の枠もあります。公共交通機関を使うのが怖いという方もいらっしゃるので。
自宅待機によって給与は一時減少
──4月は自宅待機、5月は悪阻のために自宅療養とのことでしたが、給与に変化はありましたか?
4月は自宅待機だった分少し減って、5月は傷病手当金をもらっていたんですが、6月以降はありがたいことに変わっていないですね。これが4月と8月の給与明細です。
▼児童指導員Sさんの給与明細(2020年4月)
▼児童指導員Sさんの給与明細(2020年8月)
──4月は半月以上休業になったんですね。
はい、休業手当をいただけたのですが、それでも手取り額は4万円以上下がってしまいましたね。
休業控除、休業手当とは?
従業員が仕事をしなかった期間に対して事業主は給与を支払う義務がない(ノーワークノーペイの原則)ため、仕事を休むと日割りで給与が減額されます。これを休業控除と呼びます。
ただし事業主の指示で仕事を休んだ場合には、その期間に対して平均賃金の60%以上を休業手当として支払うことが法律で義務付けられています(労働基準法第26条)。今回のように新型コロナウイルスの感染拡大の影響で事業主から自宅待機を命じられた場合は、休業手当の支給対象になります。
休業控除と休業手当は次の計算式で求めます。
- ・休業控除 = 給与 ÷ 所定労働日数 × 休業日数
- ・休業手当 = 過去3ヶ月の間に受け取った給与総額 ÷ 暦日数(3ヶ月)× 60%以上 × 休業日数
※給与には基本給のほかに通勤手当や残業手当などの諸手当は含まれますが、ボーナスは含まれません。
──5月は傷病手当金をもらっていたとのことですが?
給与の3分の2で、そこから社会保険料などが引かれるので手取りでは12万円ほどでした。仕事を休んでいるのでいただけるだけありがたかったのですが、この時期は「少し苦しいな」と思いました。
傷病手当金とは?
傷病手当金とは、けがや病気の療養のために仕事を休んだ場合に加入している健康保険から支払われる給付金です。計算方法は次のとおりです。
- ・傷病手当金 = 過去12ヶ月の標準報酬月額の平均 ÷ 30日 × 2/3 × 休業日数
なお、標準報酬月額とは、健康保険や厚生年金の保険料の基準となる「おおよその月給」のことです。給与明細に記載されている健康保険の保険料と、加入している健康保険の保険料額表を照らし合わせると自分の標準報酬月額がいくらかわかります。
──頭では納得していても生活のことを考えると落ち込みますよね……。
結果的に6月以降は同じお給料をいただけたのでよかったのですが、4月、5月の時点ではいつまで続くか分からなかったので先行きに対する不安はありました。
──慰労金などの支給はありましたか?
正社員もアルバイトも全員5万円いただいたことを覚えています。コロナ感染リスクがあるなかで施設を開いて働いていることに対する慰労金と聞いています。
「いい経験にしたい」と臨んだ初めての出産
──コロナ禍のなかで出産を控え、ご自身はどんな対策をしていましたか?
妊娠がわかってからは友だちにも会わず、電車にも乗らず……、できる限りの感染対策はしていました。
職場は歩いていける距離にあったので通うことができましたが、あとはよく寝てよく食べて、免疫力を上げるように基本的な健康管理に気を使っていました。「怖がりすぎず、でも感染はしないように」って感じですかね。
──「怖がりすぎず」っていうのが難しいですよね。神経質になりすぎてもストレスが溜まりますし……。ストレスを溜めないように気をつけていたことはありますか?
早寝早起き、バランスよく栄養を摂ることも大切なんですが、心が元気でなくてはいけないので、よく笑うようにしたり。
それでも最初の緊急事態宣言が出たときは、妊娠初期で悪阻やホルモンバランスの乱れもありましたし、引っ越し前でまだ一人暮らしの狭い部屋にいたので、主人とぶつかることもありました。少しでも気分転換になるように、夜中とか人の少ない時間帯に2人で近くを散歩したりしてましたね。
──悪阻は重いほうだったんですか?
ほかの方と比べると全然軽いほうだったと思うんですが、初めての妊娠だったので、自分比ではつらかったですね(笑)。食欲はないし、臭いもダメになるし……。幸いその後の経過は順調でした。
──初めての出産はどうでしたか?
出産はすごい痛いっていろいろ聞くじゃないですか、「鼻からスイカ」とか「トラックに轢かれる」とか(笑)。私はすごい怖がりな性格なのでビビっていたんですが、自分のなかで「せっかくだからいい経験にしたいな」と思っていました。実際すごい大変だったんですけど、振り返ってみるととてもいい経験になりました。
──分娩にはどのくらい時間がかかったんですか?
16時間くらいですね。これも長いのか短いのかよくわからないんですが、すごく壮絶な体験で……。それでも「赤ちゃんに会いたい」という一心で乗り越えることができて、かけがえのない経験になったなと思います。
出産は今までの経験からとても想像できるようなものではなかったので、恐怖心を持つ必要はなかったんだなと思いました。その場を迎えてしまえばなんとか乗り越えられたので、「女性って強い生き物なんだな」と実感しました(笑)。
──ご主人は出産に立ち会われたんですか?
それが、 出産がちょうど(感染者数の減った)11月だったので、2人でPCR検査を受けたうえで立ち会いの許可が出たんです。その後また感染が拡大してきて禁止になってしまったそうなので、私たちは本当に運よくという感じでした。
出産後はすぐに「はい、さよなら!」って感じで追い出されていたので、ちょっとかわいそうでしたけど(笑)。
──出産に立ち会って、ご主人はどんな反応でしたか?
もう、すごい感動していました! ふだんはそんな感じの人じゃないんですけど、分娩室では泣きながら「がんばれ! がんばれ!」ってそばでずっと励ましてくれて(笑)。本当に立ち会ってもらえてよかったなと思います。
親になったことで生まれた気持ちの変化
──この1年はコロナ禍、妊娠、出産と多くのことを経験したと思いますが、これらの経験を通じて仕事や私生活に対する考えは変わりましたか?
出産を機に大きく変わったのは、利用者の保護者の方たちへの敬意ですね。これまでも保護者の方から悩みを直接聞いたりして「お母さんってすごいな」と思っていたんですが、自分が親になったことでさらに尊敬する存在になりました。
今までは仕事に関する技術や知識を付けたいという気持ちが強かったんですが、それより「そのままで大丈夫」とか「毎日お疲れ様です」とか、そのままのお母さんとお子さんの素晴らしいところをもっと伝えることのほうが大事なんじゃないかなと。
(療育の仕事は)子どもにフォーカスしがちなんですけど、療育施設に連れてきてくれたり、1日24時間向き合ったりしているお母さんがとてもすばらしいし、もっと尊敬やいたわりの言葉をかけたいなと思うようになりました。
──具体的にどんなところを尊敬していますか?
まず、産んだことがスゴイ! ですし、夜泣きが激しい時期とかいろんなことを乗り越えてその歳まで元気に育てていることもスゴイです!
施設に来るお子さんはいろいろな特性を持っていますが、その特性とどのように向き合ってきたかとか、どんな苦労があったとか、そういう話ももっと聞きたいなと思います。
──復帰に向けて楽しみが増えましたね。
はい、まずこの療育施設に来てくれたことにもっと感謝しなくちゃいけないなと思っています。
──これから出産を控えている方に伝えたいことはありますか?
お母さん自身が健康で笑顔でいることが大事だと思うので、適度に息抜きをしながら、自分を大事にしてほしいなと思います。
──世の中が落ち着いたらやってみたいことはありますか?
家族で旅行に行きたいですね! とくに式根島に行きたいです、夫婦揃って自然が大好きなので!
──楽しみですね。本日は貴重なお話をありがとうございました!