
話を伺ったのは、エステティシャン歴13年目の女性

※取材は感染症対策に十分に配慮し実施しました
──本日はよろしくお願いします。まず簡単にプロフィールを教えていただけますか?
東北生まれで、今は夫と2人、千葉県で暮らしてます。
歳は40歳です。
──えっ! 見えません……!
あ、ごめんなさい、本当はまだ39でした(笑)。
お客さまに親近感を持ってもらえるように、いつもざっくりの年齢で答えていて(笑)。
──それでも驚きです。では、ご経歴を伺ってもいいですか?

振り返ってみると、ずっと美容関連の仕事をしてますね。新卒で地元の美容機器メーカーに就職し、そのあとホテル併設のスパのセラピストとして転職。
上京してスポーツクラブのエステティシャンとして10年働いたあとは、1年間ほど独立してエステや美容関連の仕事をいろいろやってました。
そのあと再就職したのが今の職場で、都心にある痩身エステサロンに勤めてます。ちょうど3年目になるところですね。
──美容の道に進もうと思われたきっかけは?
美容とはまったく関係ない短大に通っていたんですけど、たまたま受けたアロマテラピーの授業にすごくハマってしまって。アロマの文献をもっと読むためには英語が必要だったので、大学の文学部に編入したんです。
それで、英語も使えるということで海外から輸入もしている美容機器メーカーに新卒入社して、一部エステティシャンのような仕事も始めるようになり……という感じです。
──英語の文献を読むためにわざわざ大学に編入されたんですか! すごいですね。
実は大学で教員免許も取ったんですけど、活かすことなくずっと美容の道で進んでますね(笑)。
──続いて、現在働いているサロンについて教えてください。
今働いているお店は、都内の主要駅から徒歩5分くらいのところにあります。
都内の系列店は5〜6店舗。最近は関西にも進出していて、今度関西エリアの2号店ができるところです。
──メニューはどんなものがありますか?
ボディとフェイシャルのメニューに分かれていて、ハンドとマシンどちらも使います。目標によってはお客さまにお食事の記録をつけてもらって、食事指導もおこないます。
施術1回あたりの客単価は2万円ほど。全5席の個室です。
──客層はどんな方が多いですか?
お客さまのご年齢は10代〜70代くらいまでで幅広いですね。お仕事をバリバリされてる方が多いです。
──現在のスタッフは何名ですか?
5人です。交代でお休みを取るので、たいてい4人が稼働してます。
──ありがとうございます。では続いて、新型コロナウイルスが流行してからの話を聞かせてください。
集客を工夫して、コロナの逆境を乗り越える

施術のイメージ(写真提供:Rさん)
──新型コロナウイルスの流行はエステ業界にも大きな影響を与えたかと思いますが、Rさんの職場はどうでしたか?
それが、ほとんど影響は受けてないんです。
コロナの対策として必要な換気機能や部屋の広さなどの基準を満たしていたので、休業することなくずっと続けられてます。
最初の緊急事態宣言が出る前の2月は予約数が減ってしまって売上目標が未達だったんですけど、その1ヶ月だけで済みました。
──売上はどのくらい落ち込んだんですか?
1ベッドあたりの月の売上目標は500万円で、いい時期だと900万円くらいまでいきます。それが、2月は目標額を下回ってしまって。
──でも、3月以降は回復したと?
はい、3月以降は無事達成できました。
──緊急事態宣言が発令されたのは4月からなので、むしろその時期からが大変そうですが、違ったんですね。
そうですね。2月頃から外出自粛をはじめる方が増えてきたんですけど、すぐに施策を打ったのが効いたんじゃないかと。
──施策とは?
お客さまに来ていただくための集客施策を打ったんです。
お客さまの状況別に「外出を自粛して来店を控える」Aタイプ、「来店していいか迷っている」Bタイプ、「気にされない」Cタイプに分けるとします。当時はBタイプが多くて、この方たちが来店されるかされないかが重要でした。なので、Bの方たちの呼び込みに集中したんです。
予約で使っているLINEでご連絡したり、テレワークの方が増えたのでお昼の時間帯を狙ってお電話したり。来ていただいたらサービスメニューもお付けしますよ、みたいな感じですね。
──すごい! 徹底した集客戦略ですね。
Aの方はすぐに来ていただくのが難しいので、「次会えるのを楽しみにしてます」って連絡だけ入れておく、とか。
頃合いを見て、来店されてるお客さまの状況をお伝えして安心してもらえるようにしたり。そうやってアプローチをかけてました。
──そのかいもあって、その後の売上は落ちてないんですね。
そうですね。まだ完璧に回復したとは言えないんですけど……グラフで書くとこんな感じです。

エステはボーナスシーズンで売上が伸びるので、6月、12月くらいに上がって、その後また下がる傾向があります。
去年もなんだかんだ例年に近い動きになったんじゃないかな? 以前の職場でもこんな動きだったので。
──なるほど。ちなみに営業時間を短縮したことは?
ないですね。営業時間は11時から21時までで、変化なしです。
──2021年1月より2回目の緊急事態宣言が出ていますが、変化はありましたか?
予約数にはちょっと影響あったかな? でも正直、結構人出もありますし、1回目ほどの影響はないと思います。
──コロナが流行ってから、客層に変化は?
新規の方が減りました。うちのお店に来るお客さまは、お仕事があって都心に出てこられる方が多いので、テレワークになったことが影響してるんじゃないかなと。
あと別の変化でいうと……ダイエットのスイッチを入れるのって、“夢”が大事なんですよね。
「この服を着てあそこに行きたい!」とか「旅行に行くからこの日までに痩せる!」っていうダイエットを頑張る目標が、コロナによってなくなってしまったのは大きいです。
──たしかに! 旅行やイベントを目標にする人は多いですよね。
そうなんですよね。だからお客さまと一緒に目標を見直したりもしました。
……あ! でも最近は、ウェディングの方が増えてますね。去年は挙式を控えてた分、今年(2021年)に入って一気に増えた感覚があります。
──なるほど。ニュースなどではコロナによる“自粛太り”も話題でしたが、そういった方は?
いらっしゃいますね! これまでの「サイズを落とす」要望から、「体重を落とす」要望に変わってきたと思います。服や水着を着たときのシルエットではなくて、自粛生活で増えてしまった体重を元に戻したいという方が前より増えた印象です。
今の時期のモチベーションは、“夢や目標”よりも“危機感”かもしれないですね。
──生活が変わることで、エステに求めることも変わっているんですね。
新規のお客さまが減った分、私たちスタッフも以前より一人ひとりのお客さまに時間と余裕を持って対応できるようになりました。
そしたらお客さまからも「実はこのメニューやってみたかったのよね」と言っていただくことが増えて、これまでされなかったメニューでのご予約も増えたと思います。
──そんなプラスの効果もあるんですね。
あと、おうちで過ごす時間が長くなったことで、ホームケア商品の定期便を希望される方も増えました。
人気なのは、セルライト用のクリーム、サプリメント、ダイエットフーズの3つですね。
エステサロンの感染対策

施術室のイメージ(写真提供:Rさん)
──続いて、サロンで実施している感染対策について教えてください。
消毒液は入り口とウェイティングルーム、各施術室に設置しています。もともとコロナ関係なく施術前には手足の消毒をおこないますが、今は見える位置にも消毒液を設置して、どんな消毒液を使用しているかの説明も掲示してます。
あとは加湿器も見えるところに出して、換気をして、感染予防対策をしている東京都のステッカーを貼って。
来店時の検温では、これまで高熱だった方はいないんですけど、体温が低い方についても確認するようにしてます。
──高熱はともかく、低体温も対象になるんですか?
そうですね、あまりに体温が低いと免疫力が落ちているかもしれないので。汗をたくさんかかれてないか、低血圧や貧血になってないかは、普段から問診で確認してます。
また、通常はキャンセルすると回数券1回分の消化扱いになるんですけど、コロナの疑いがある症状があってのキャンセルは、回数券が消化されない対応にしています。
お1人あたり1時間半以上の時間とエステティシャンの枠を抑えているので、キャンセルは正直厳しいんですけど……そこは体調第一ですね。
──感染対策について不安に思うお客さんもいそうですよね。
いらっしゃいますね。そういう方には事前にLINEで相談していただくのと、来店時にも改めて感染対策の説明をしてます。
あと基本的なところですが、スタッフのマスクの着用ですね。お客さまにもフェイシャル以外では着けていただいています。
──以前はスタッフのマスク着用はなかったんですか?
施術者の表情が見えないと不安だと思うので、普段は着けてないです。コロナになってからですね。

──施術前後で飲み物などを提供されることは?
これはコロナ関係なくですが、ご要望があればお水をお出ししてます。
でも最近はご自分で飲み物を持参される方が増えましたね。
──シャワールームは使用できるんでしょうか?
変わらずに使っていただけます。
──こういった感染対策は、参考にされるガイドラインなどがあるんですか?
詳しくないんですけど……本部のほうでは確認していると思います。本部で決まった方針に沿って、各店舗が対応してる感じです。
給与・ボーナス・特別手当について
──コロナの流行前後で、給与面での変化はありましたか?
お給料もありがたいことにほぼ変化がないんですよね。むしろ最近昇給したので、コロナになってから上がってます。
月の売上目標を達成すると成果報酬が出るんですが、売上が落ち込んだ2月以外はほぼ毎月出てますね。

2020年11月分の給与明細
──「服務遵守精勤」とは何ですか?
コロナになってから出るようになったので、労い金のようなものかと。
──ボーナスは変化ありましたか?
ボーナスもとくに変わってないですね。
普通の会社より少ないかもしれないんですけど、だいたい毎回3万円くらい、年2回支給されます。
ただ、その分毎月の給料水準は高めなほうだと思います。
──本当にコロナの影響は最小限で済んだんですね。
私はほとんど影響なかったんですけど。入社して間もない、まだ個人の売上目標に達していない子には影響あったみたいで。コロナが流行り始めた2〜5月くらいは、休職するかしないかの希望を聞かれてたみたいです。
あと、コロナ前にはあった社員旅行がなくなったりもしましたね。
──なるほど。コロナきっかけで退職された方はいますか?
コロナがきっかけで、というのは聞いてません。ただもともと人の入れ替わりが激しい業界ではあるので、コロナ関係なく離職は多いですね。3ヶ月に1回くらいは人の出入りがあるんじゃないかな。
コロナに対する考え方と、プライベートの変化

──Rさんご自身は、コロナ禍での仕事について不安に思うことはありませんか?
そうですね……実はそこまで心配してないかもしれないです。会社がスタッフの不安を取り除くために、コロナのリスクや現状について情報提供してくれてるおかげもあって。
知らないと怖いことでも、正しい情報を知ることで不安は和らぐと思ってます。そうやってこれまで感染対策しながら営業を続けてきて、感染者が出ていないので。ちょっと楽観主義かもしれないんですけど。
あと、外出自粛する人が増えて電車が空いてたので、そこまで不安に感じなかったのもあるかもしれません。
──もしRさんの職場が休業対象になっていたら、どう感じたと思いますか?
もし休業になっていたとしたら……一番はお客さまが心配でしたね。「いつまでに◯◯キロ痩せよう!」とか「春までにワンピース着れるサイズになろう!」とか一緒に頑張ってきたので。
あとテレワークの方は体がつらいんじゃないかとか……気になって仕方なかったんじゃないかと思います。なので、営業が継続できて良かったです!
──お客さまのためにも、サービスを継続できて良かったと。
はい。過去に東日本大震災が起きたときは、計画停電などで1週間休業を余儀なくされたことがあります。
地元が被災地に近かったので、1週間は鬱っぽくなってしまったんですが、休業明けは「私が関東で稼がなきゃ、経済回さなきゃ」って異様に躍起になったんですよね。
あのときに比べたら、今回はほとんど不安に感じませんでした。元気で体力があるうちは、働かずにはいられないですね。
──そんな背景があったんですね。ご家族や友人から心配されることはありませんか?
ほとんどされてないかも……(笑)。
というのも、うちは父と母が運転手と清掃の仕事をしてて。お互い接客業のようなものなので、わかりあってる感じかもしれないですね。
私はむしろ、父と母のほうが心配です。
──ご両親とはしばらく会えてないんですか?
コロナになってから帰省できてないので、もう2年は帰れてないです。田舎なので、子どもが東京から帰ってくるとなると親に迷惑がかかってしまうので。
──今は我慢のときですね。
そうですね。でも会えない分、家族や友だちと連絡することは増えました!
もともと忙しさにかまけて連絡しないタイプだったんですけど、これを機に生存確認をするようになって(笑)。これについてはコロナ後も大事にできたらいいなと思ってます。
──コロナが落ち着いたあとに、やりたいことはありますか?
まずは実家に帰って、顔を見せてあげたいですね。これに尽きます!
──早く会えるといいですね。では最後に、エステティシャンとしての今後の展望があれば教えてください!
そうですね……私はエステティシャンの仕事が好きですし、ずっとやっていきたいと考えてます。
だからエステの魅力を発信していきたいですし、これからエステの道に進もうしてる方や悩みながら働いてる方をサポートしていきたいと思ってます。
──と言いますと?
実は今、SNSでゆるく情報発信をしていて。転職や仕事の悩みについて相談を受けることがあるんです。
エステ業界って、キラキラしたイメージがある反面、体力もいるしお給料もそんなに良くなかったりして、大変なことも多いんですよね。そういった悩みを誰かに聞いてもらうだけでも癒やされることってあると思うんです。
エステの良さを発信しつつ、自分の夢も誰かの夢も応援できるような活動を続けていきたいなと思ってます。
──素敵な活動ですね。応援しています! 本日はありがとうございました。