【在宅医療・介護の仕事】訪問歯科衛生士が考える、“外来でできない”働き方とやりがい

高齢化が進み、医療機関や介護施設から“在宅”へとケアの場を移す動きが起きている昨今。在宅医療や訪問介護の実態はどうなっているのでしょうか? 今回は、一般外来の歯科医院を経験したあと、ブランクを経て訪問歯科衛生士として復職した女性にインタビュー。訪問歯科ならではの働き方や外来との違い、訪問の仕事に向いている人の条件について伺いました。

【在宅医療・介護の仕事】訪問歯科衛生士が考える、“外来でできない”働き方とやりがい

1.話を伺ったのは、訪問歯科衛生士歴7年目のUさん

訪問歯科衛生士Uさんプロフィール

2.訪問歯科診療の仕事内容

訪問歯科衛生士Uさん
取材は感染症対策に配慮しておこないました

──まず始めに、訪問歯科診療の概要について教えてください。

病気や障がい、加齢などによって通院が難しいと歯科医師が判断した患者さんのもとに、歯科医師や歯科衛生士が訪問して診療するサービスです。

今の職場での比率は訪問診療7割・外来診療3割くらいで、私は訪問のみを担当しています。

今訪問しているのはすべて高齢者施設で、約10施設ほどになります。年代は60代から100歳近い方までで、要支援1から要介護5の方まで。ちなみに前職では1件だけ障害者施設も担当していました。

──治療や処置内容としては、どのようなことがありますか?

歯科医師がおこなう治療行為では、詰め物や被せ物の治療、グラグラになった歯の抜歯などが多いです。訪問診療では院内のようにしっかりした設備や環境が整っていないので、インプラント治療などの外科処置には基本的に対応できません。

高齢者の方は食べ物や水分を飲み込む「嚥下(えんげ)機能」が低下する方が多いので、内視鏡を入れて嚥下力を確認する検査をおこなうこともあります。

私たち歯科衛生士がメインで担当することとして多いのは、嚥下機能のチェック口腔ケアですね。

口腔ケアは歯石や口の中の汚れを落として口腔内を清潔に保つことで、ごはんが美味しく食べられるようになることはもちろん、虫歯や歯周病予防、口臭予防、高齢者に多い誤嚥性肺炎を防ぐといった効果があります。

*誤嚥性肺炎…細菌が食べ物や唾液などと共に誤嚥され、気管支や肺に入ることで起きる疾患。嚥下機能が低下することで起こりやすい。

──訪問歯科を頼む場合、患者さん本人や家族からの依頼が多いんですか?

在宅の場合は9割近くが担当のケアマネジャーさん経由の依頼ですね。訪問歯科って訪問介護や看護に比べるとまだまだ認知度が低いですし、患者さんやご家族はどうやって利用すればいいかわからない人も多いと思います。

施設の場合は施設全体として訪問診療の時間を取っていることがほとんどなので、個別に依頼が入るのは急患のときくらいですね。

──一日のスケジュールを教えてください。

これは今日行ってきたスケジュールで、終日1件の高齢者施設を担当してました。

訪問歯科診療一日のスケジュール

今の担当は1施設あたりの患者数が30〜60人前後と多いので、一日に1ヶ所、多くても2ヶ所までというケースがほとんどです。知り合いの歯科衛生士は一日に4〜5ヶ所回ることもあると言ってたので、事業所によると思います。

──訪問時のスタッフは何人体制なんですか?

うちの場合、歯科医師1人、歯科衛生士2〜3人、アシスタント1人で行くことが多いですね。歯科衛生士の人数は患者さんの数に応じて変わります。

アシスタントは主に車の運転と患者さんの誘導係をしてくれます。

ちなみに在宅訪問の場合は、歯科衛生士が1人だけで運転もしながら回ることもあります。歯科医師の治療が必要になったら先生に訪問をバトンタッチ、治療が終わったタイミングでまた歯科衛生士に戻るような形ですね。

──1人あたりの診療時間と訪問頻度はどのくらいですか?

診療時間は短い方で義歯(入れ歯)の洗浄と嚥下体操などの口腔リハビリで10分ということもありますし、長い方は20分以上かかることもあります。診療報酬上、20分を越えるか越えないかで診療点数が変わるので、20分がひとつの目安になっている感じですね

*歯科訪問診療料を算定する際は、開始時刻と終了時刻を記録する必要がある。なお「診療前後の準備・片付け」「患者の移動に要した時間」「併せて実施した訪問衛生指導に関わる時間」「滞在時間」などは診療時間として含めない。

在宅だととくに準備に時間がかかるので、訪問時間の半分がケア、残り半分は世間話になることも多いです。

訪問頻度は、施設だと週1回とか隔週に1回の定期訪問になりますが、利用者宅への訪問の場合は人それぞれなので、多い方だと毎週、少ない方だと月1回とか3ヶ月に1回とか。

──「3ヶ月に1回」だと結構間も空いて、定期健診みたいですね。

そうですね、3ヶ月も経てばなにかしら口腔内に変化も起きるので、ご本人とご家族の安心のためにも定期的な訪問歯科診療を続けることをおすすめしてます。

訪問の依頼を受けるきっかけとしては「歯が痛い」「入れ歯が合ってない」「口臭がする」などの一時的なトラブルが多いんですが、ひと通りの治療が終わったら「今後は口腔ケアを続けることが大事ですよ」とお話しして、定期訪問に繋げていくようにしてます。

というのも、治療のたびにサービスの手続きをするのは結構手間なんですよね。担当医や患者家族への説明や許可取り、必要書類の手配などいろいろな作業が発生するので、そういった意味でも一度できたご縁は大切にできたらいいと思います。

──先ほど「急患」という言葉も出てきましたが、急患対応はどのくらい発生するんですか?

急患対応は1週間に1件くらいですかね。昨日までは腫れてなかったのに急に腫れてしまったとか、歯が抜けただとか。訪問で対処できなければ、応急処置だけして口腔外科や大学病院に繋げます。

訪問での急患対応は、外来のように予約と予約の間に診ることが難しいので、もともと予定していた訪問を終えて夕方くらいから向かいます。もし夜間に連絡が来た場合はさすがに対応が難しいので、翌日に対応する形になりますね。歯科医院が定休日だと先生1人で向かうこともあります。

ちなみに訪問歯科の事業所は祝日休みのところが多いので、大型連休の前は腫れたり副反応が出たりする可能性がある治療は避けて、急患のリスクを減らすように工夫したりもしますよ。

──急患が入ると事業所に戻ってくる時間も遅くなりそうですね。

そうですね、そこばっかりはどうしても残業になってしまいます。

あと訪問歯科の特徴として、事業所に戻ってからの事務作業が多いこともあると思います。外来ならスキマ時間にできる器材の滅菌作業や補充も帰ってからじゃないとできませんし、提出が求められる作成書類の数も多いです。今の職場はタブレットを使って作成できるのでまだ楽ですけど、前職は手書きだったので大変でした……。

──確かに外来とは時間の使い方も変わりますよね。訪問先とのスケジュール調整などは誰がするんですか?

うちの場合は「エリアマネジャー」が訪問先の施設やケアマネジャーさんとの調整業務を担当してくれてます。ほかの医院だと「訪問歯科コーディネーター」という役職名でも呼ばれてて、車の運転から営業まで担当されるところもあります。

ただそういった調整役がいてくれるのは大きな院が多くて、小さい医院では歯科衛生士や歯科助手が調整業務を担当することが多いです。私も前職は個人院でしたので、そういった業務も全部やってました。

──事務の専任スタッフがいないとなると、確かにかなり時間が取られそうです。

事務作業や調整役が向いてないからという理由で訪問を辞めていく人の話は、ちょこちょこ聞きますね。

ちなみに、大掛かりな治療や高額治療をする場合は、患者さんやキーパーソン(治療や介護における意思決定の中心人物)に事前説明をして了承を得る必要があります。今の職場では歯科医師が電話で説明する決まりになってますが、前職では歯科衛生士が連絡してたので、これも職場によりますね。

──他職種との連携については、ケアマネジャーさん以外では誰がいますか?

ケアマネジャーさん以外だと、看護師介護職員言語聴覚士あたりですね。

看護師さんは口の中のことに関してはあまり詳しくない方が多いので、日々の口腔ケアで気をつけてほしいところをお願いしたり、看護師さんの手が回らないときは私たちが担当したりします。

介護職員さんは一番患者さんと日常的に関わるので、義歯のお手入れができてなかったらサポートしてもらうよう頼んだり、調理時のきざみ食やペースト食などの食形態についてアドバイスさせてもらったり。

言語聴覚士さんは私たちよりも嚥下機能やリハビリについて詳しいので、患者さんの対応に困ったときに電話してアドバイスをもらうこともあります。

──いろいろな職種の方との連携があるんですね。ちなみに、歯科医師の場合は?

先生の場合は、患者さんの担当医との連携が主です。予定している歯科治療について、患者さんの体力や病状で受けて問題ないかとか、使ってる薬の確認とかですね。

これも向き不向きはあると思いますけど、外来では関われない職種の人と関われるのは、訪問ならではだと思います。

──続いて、訪問時の服装と持ち物についても教えてください。

服装は、スクラブにパンツですね。審美歯科とか綺麗めなところ以外は、最近はほとんどスクラブにパンツスタイルが主流になってるんじゃないでしょうか。

持ち物は抜歯用セットとか樹脂セットとか、治療目的別に器材のセットが分かれてるのでそれを持っていきます。

口腔ケアでよく使うのは、歯ブラシ、歯間ブラシ、タフトブラシ、舌ブラシ。それから高齢者の方が多いので、保湿ジェル歯磨きジェルですね。一般外来で使う通常の歯磨き粉だと泡がたくさん立って誤嚥の恐れがあるので、泡立たないジェルを使うんです。

あとは口をずっと開けていられない人や噛んでしまう人の口に入れて使う開口器とかバイトブロックあたりでしょうか。

訪問歯科診療の仕事道具
(左上)ブラシ類、(左下)ジェル4種と入れ歯用歯磨き、(中央)旧型のポータブルユニット。現在はもう少しコンパクトだそう、(右上)バイトブロック、(右下)口腔洗浄に使うスポンジブラシ

3.訪問歯科衛生士として働くということ

訪問歯科衛生士Uさん

──Uさんはもともと外来勤めでしたが、再就職時に訪問歯科を選んだきっかけは何だったんですか?

実はブランク明けで復職するときには、歯科とは関係ない仕事も考えてたんですよね。今ならパワハラで訴えられそうですけど、当時は先生が厳しくて物を投げつけられるような職場で。だから外来の歯科衛生士の仕事が好きじゃなかったんですよね。

でもちょうどその頃に、訪問の歯科診療の仕事があるということを知って。「外来じゃないなら挑戦してみてもいいかな」と思ったんですよね。

──16年間のブランクがあっての復職は、慣れるまで大変だったのでは?

復職して2年間くらいは苦労しましたね! 私の働いてた頃とはもうまったく専門知識が変わってて。今では当たり前に使われてる「嚥下機能」とか「口腔内の滞留」とかの概念もまだなかったので。

専門学校の教科書じゃ情報が古すぎたので、新しいテキストやYouTubeを使って通勤中にも勉強しました。あと高齢者の方を診ることが多いので、介護用語も勉強しましたね。

──訪問は外来よりも人付き合いが深くなりやすいと思いますが、その点で不安はありませんでしたか?

初めのうちは「この話題を振られたらどうしよう」とか、どう接すればいいか迷うこともありました。でも今では自分に合った“接し方の型”がわかってきたと思います。

私が思うに、介護される人、介護する人は皆さんいろんな想いを抱えて過ごされているので、誰かに話を聞いてもらいたいんです。だから私はとにかく傾聴して、共感することを大事にしてます。

私くらいの歳の歯科衛生士は、外来よりも訪問のほうが合うって話は結構聞きます。相手に寄り添うことも、時にはうまく距離を取ることもできるくらいには場数を踏んでるので(笑)。

──確かに、相手の事情にどこまで介入していいのか判断が難しそうです。Uさんはなにか心がけていることはありますか?

先生に言ったら怒られそうなんですけど、私は100%綺麗な口腔にすることよりも、まずは楽しくケアを受けてもらうことを大事にしています

以前担当した患者さんで、先生やご家族がなにを言っても食べる意欲が上がらない方がいたんです。私が担当になって積極的にその方の興味のある話題で話しかけていたらケアにも前向きになってくれて、かなり機能回復できたんですよね。

ケアをするうえでは、会話を重ねて信頼関係を築くことが大切だと思います。

──訪問診療から歯科衛生士デビューすることについては賛成ですか?

個人的には、若いうちはまず外来で経験を積んだほうがいいと思います。訪問では院内のように設備が整っていないので、時には手の上でセメント練ったりとか、患者さんもユニットではなく座位で診ることが多くて、口の中も見えづらいです。

環境面以外にも、高齢者の方には難しい処置もあるので、まずは外来でいろいろな症例を見て、ここまで踏み込んで治療できる・できないを掴んだほうがいいです。数年経験を積んでから訪問に来ても遅くないですし、経験が活かせると思いますよ。

──ありがとうございます。では最後に、気になるお給料についても伺っていいですか?

今は額面で月収26〜30万円ほどもらっています。ボーナスは1ヶ月分を年2回

外来と比べると、訪問のほうが月2万円くらい相場が高いんじゃないでしょうか。外回りで体力を使うし、昼食の外食費も上乗せされてる感じがします。

歯科医院は個人院と大手で仕事内容も環境もだいぶ変わってくるので、向き不向きを考えて自分に合う職場を選べるといいですね。

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