1. 歯科助手とは?
歯科医師や歯科衛生士の診療補助を中心に、幅広い業務で歯科診療所を支える
歯科助手とは、歯科診療所などにおいて歯科医師や歯科衛生士の診療補助を主におこなう職種を指します。
英語ではDental Assistantとなるため、その頭文字から「DA」と呼ばれることもあります。
多くの場合、診療補助業務以外にも、受付、会計、カルテの準備、診療報酬の請求など、いわゆる「医療事務」の業務も担当し、歯科診療所において欠かせない存在です。
2. 歯科助手になるには?
歯科助手に資格や免許は不要
歯科助手の仕事に就くために必要な資格や免許はとくになく、未経験でも応募可能な求人が数多くあります。
ただし、医療事務同様、歯科助手にもさまざまな専門知識が求められるため、日本歯科医師会や民間団体が認定する民間資格が多くあります。
歯科助手の民間資格
代表的な歯科助手の民間資格には次のようなものが挙げられます。
〈歯科助手資格認定制度(日本歯科医師会)〉
各都道府県の歯科医師会が主催する所定の教育訓練を修了した者を、日本歯科医師会が「歯科助手」として認定する制度です。教育訓練の目的や時間によって、甲種、乙種第一、乙種第二に種類が分かれています。
〈歯科アシスタント検定試験(全国医療技能検定協議会)〉
歯科医師のアシスタントや医療事務としての能力を証明する検定試験で、難易度によって1級〜3級に分かれています。
〈歯科 医療事務管理士®(技能認定振興協会)〉
歯科診療所で必要とされる医療事務としての能力を証明する検定試験です。カルテの内容から診療報酬を正しく計算する、レセプト業務の知識とスキルが主に問われます。
歯科助手未経験でも、資格があれば選考時に意欲をアピールすることができますし、基本的な知識が備わっていれば入職後にスムーズに仕事を覚えられるでしょう。
3. 歯科助手の仕事内容
歯科助手は無資格のため、歯科診療において“できる業務”に制限があります。歯科助手として働き始める前に、歯科助手が“できる業務”と“できない業務”の基本を確認しておきましょう。
歯科助手ができる業務
歯科助手は患者さんの応対をはじめとして、診療をスムーズに進めるために必要なさまざまな業務を担当します。
- 簡単な診療補助
- 治療で使用する器具の準備
- 治療で使用した器具の洗浄・滅菌処理・片付け
- 受付業務(診察券や保険証の受領、カルテの作成など)
- 会計業務(診療費(一部負担金)の受領、診療費に関する質問への回答など)
- クラーク業務(問診票の記入依頼、ユニットへの案内など)
- レセプト業務(診療費の計算、レセプトの作成・点検など)
- 電話応対
- 予約管理
- 院内清掃
- 定期歯科健診の案内
- 歯科材料の在庫管理・発注
なお、診療補助のうち歯科助手に認められているのは、医師に器具を手渡したり、バキュームで口腔内の唾液を吸い取ったり、印象材を練ったりするといった簡単な業務に限られます。
歯科助手ができない業務
歯科助手が次のような業務をおこなうことは法律で禁じられています。
- レントゲンを撮影する
- 麻酔注射を打つ
- 歯を抜く
- 歯を削る
- 詰め物や被せ物を装着する
- 印象材で歯型を取る(印象採得)
- 噛み合わせを取る(咬合採得)
- 歯垢や歯石を除去する(スケーリング)
- フッ素塗布
- 歯ブラシ指導
医師、歯科医師、診療放射線技師以外の人物がレントゲン撮影をおこなうことは、法律で禁じられています。たとえ「撮影ボタンを押すだけ」であっても歯科助手がおこなってはいけません。
また、歯科助手はそのほかの“患者さんの口腔内に手を入れる行為”を一切できません。麻酔注射を打つ、歯を抜く、歯を削る、詰め物や被せ物を装着する、印象採得、咬合採得などの医行為(修復処置)は歯科医師、スケーリング、フッ素塗布、歯ブラシ指導などの予防処置や保健指導は歯科衛生士の仕事です。
歯科助手がこれらの禁止行為をおこなった場合、たとえそれが歯科医師などの有資格者からの指示であっても罪に問われてしまいます(実際に歯科医師や歯科助手が逮捕される事件も起きています)。
4. 歯科助手の勤務先
歯科助手の勤務先はほとんどが歯科診療所ですが、高齢化に伴い、訪問歯科診療に力を入れるところも増えています。
歯科診療所
ここまで解説してきたとおり、歯科助手は診療補助から受付、事務に至るまでさまざまな仕事をこなさなければならないため、作業の正確さと同時に速さや効率の良さが求められます。
また、歯科助手は患者さんが来院してから診療を終えるまで接する時間が長く、患者さんにとって最も身近な存在です。歯科助手には患者さんの不安を受け止め、安心して治療を受けてもらうための細やかな気配りや臨機応変な対応も求められます。
一部の診療科目に特化した診療所を除き、多くの歯科診療所が一般歯科から矯正歯科、審美歯科、小児歯科まで幅広く診療をおこなっています。そのため来院する患者さんも小さなお子さんからお年寄りまでさまざま。幅広い年代の方と分け隔てなく接することのできる方が向いているでしょう。
訪問歯科
訪問歯科の場合、歯科助手ではなく「歯科コーディネーター」という名前で募集がかけられていることがあります。
患者さんは基本的に70歳以上など高齢のため、口腔内の健康や嚥下機能を維持することで、一日でも長く食べる喜びを味わってもらえるよう支援します。そのため口腔ケアに加え、嚥下訓練が診療内容に含まれることがあります。個別に契約してご自宅を直接訪問するケースと、高齢者施設と契約して一度に多くの方を診療するケースがあります。
訪問歯科の場合、車の運転は通常歯科助手の仕事とされているため、運転免許が必須となる求人がほとんどです。もちろん、訪問予定の管理、訪問ルートの確認、必要な機器・器具の準備、診療補助もおこないます。訪問歯科の場合は設備や時間が限られているため、安全に配慮しながらも、着実に業務を進める工夫や胆力も必要です。
さらに、患者さんやその家族と契約書類を取り交わしたり、診療内容を簡単に説明したり、他職種(ケアマネジャーなど)と情報を共有したりと、より多くの関係者と関わりながら仕事を進める能力が求められます。調整力が高く、多くの人と積極的にコミュニケーションが取れる方、お年寄りと接することが好きな方はやりがいを感じられるのではないでしょうか。
5. 歯科助手の働き方
覚えておきたい歯科用語と歯科器具
歯科助手として働くうえで覚えておきたい、歯科用語と歯科器具を一部紹介します。
歯科用語
う蝕(うしょく) |
虫歯のこと。「カリエス」とも呼び、進行度によって「C0」〜「C4」に分類される |
---|---|
インレー |
歯の治療で削った部分を埋める詰め物のこと |
クラウン |
削った部分が広範に及ぶ場合、歯全体を覆う被せ物のこと |
ぺリオ |
歯周組織や歯周病のこと。歯周病ケアを「P処(ぺリオ処置)」と呼ぶ |
歯科器具
ミラー |
口腔内の状態を確認するために使う器具で、ほおや舌を治療器具で傷つけることを防ぐ役割もある |
---|---|
ピンセット |
脱脂綿などの小さいものをつかむときに使う器具 |
エキスプローラー (探針) |
虫歯の部位や深さなどを確認したり、汚物を取り除くために使う器具 |
エキスカベーター |
虫歯を削ったり、インレーを取り除いたりするときに使う器具 |
ストッパー (充填器) |
虫歯を削った箇所にインレーを詰めたり、取り除いたりするときに使う器具 |
バット |
診療に使用する器具を置く金属製のトレー |
バキューム |
口腔内の唾液や血液、歯の削りカスを吸い取る機器 |
なお、ミラー、ピンセット、エキスプローラー、エキスカベーター、ストッパーの5点は「基本セット」と呼ばれます。
歯科助手の一日
診療時間が朝10時〜夜19時までの一般的な歯科診療所の場合、歯科助手の一日の仕事の流れはおおむね次のようになります。
歯科診療所は基本的に予約制のため、残業が発生するのは治療が長引いたときや、レセプトの作成・点検作業が発生する月末〜月初に限られます。しかし、オフィス街を中心に仕事帰りの利用者を見越して20時、21時まで診療をおこなうクリニックもあるため、求人応募時には無理なく働くことのできる診療時間(勤務時間)か確認しましょう。
歯科助手の休日
歯科診療所の場合、週休2日が一般的です。さらに、ゴールデンウィークや夏休み、年末年始シーズンには休診となることが多いため、長期休暇も取りやすいのが特徴です。
ただし、休診日や人員体制によって必ずしも希望の日(曜日)に休めるとは限らないため、休日について希望がある場合は選考の段階で相談しておくとよいでしょう。
6. 歯科助手の給料
ジョブメドレーに掲載されている求人から歯科助手の賃金相場を算出しました。なお、残業手当など月によって支給額が変動する手当は集計対象外のため、実際に支払われる賃金はこれより多くなる可能性があります。
【全国平均】歯科助手の時給・月給・年収の相場
2024年12月時点の全国の歯科助手の時給・月給・年収の相場は次のとおりとなりました。
下限平均 | 上限平均 | 総平均 | |
---|---|---|---|
パート・アルバイトの時給 | 1,164円 | 1,390円 | 1,229円 |
正職員の月給 | 20万6,078円 | 26万3,192円 | 22万4,647円 |
正職員の年収* | 288万5,092円 | 368万4,688円 | 314万5,058円 |
【サービス別】歯科助手の時給・月給・年収の相場
通常の歯科診療所と訪問歯科では、訪問歯科のほうが賃金相場が高い傾向にあります。
パート・アルバイトの時給 |
正職員の月給 |
正職員の年収* |
|
---|---|---|---|
歯科診療所 |
1,226円 |
22万3,576円 |
313万64円 |
訪問歯科 |
1,296円 |
24万7,716円 |
346万8,024円 |
*年収は「月給の総平均 × 14ヶ月(ボーナスは月給の2ヶ月分)」で試算
7. 歯科助手の将来性
人口が減少する日本社会において「コンビニより多い」「供給過剰」と指摘されている歯科診療所ですが、実態は地域差が大きく、地方には供給が足りていないエリアも多くあります(参考:厚生労働省)。
さらに、歯科医療に対するニーズは多様化しており、一概に歯科診療所が供給過剰とは言えないようです。記事内で紹介した訪問歯科もそのようなニーズの一つです。
自分の口で食事ができることはQOL(Quality of Life=生活の質)を大きく左右します。人生100年時代、寿命が伸びるなか、幼年期から老年期に至るまで口腔内の健康を守る歯科医療、それを支える歯科助手の仕事は今後も広く必要とされそうです。