元競走馬が子どもの療育で活躍! “ホースセラピー”をおこなう放課後等デイサービスに行ってきた

“ホースセラピー”を通じて、障がいのある子どもたちを支援する児童発達支援・放課後等デイサービス「PONY KIDS」。馬との触れ合いや乗馬を通じた療法は、子どもたちにどんな影響を与えるのでしょうか? “馬のまち”で有名な滋賀県栗東市を訪れ話を聞きました。

元競走馬が子どもの療育で活躍! “ホースセラピー”をおこなう放課後等デイサービスに行ってきた

療育×引退競走馬の支援をおこなう「PONY KIDS」

訪れたのは、滋賀県栗東市にある児童発達支援・放課後等デイサービス「PONY KIDS」。栗東市はJRA(日本中央競馬会)のトレーニングセンターがあることで有名で、“馬のまち”としても知られています。

PONY KIDSの入るTCC Therapy Parkの外観
馬場と厩舎

PONY KIDSを運営するのは、株式会社TCC Japanです。日本では毎年約7,000頭ものサラブレッドが誕生する一方、その多くが引退後に行き場をなくしています。TCC Japanではこの引退競走馬をめぐる問題を解消すべく活動しており、PONY KIDSで活躍するセラピーホースの一部は引退した元競走馬たちです。

馬房・ホースシェルターの様子
PONY KIDSの活動拠点でもある、ここ「TCC Therapy Park」にはケガや引退した競走馬が一時的に避難できる“ホースシェルター”が併設されている

馬の世話や乗馬を通じて、成長を育む

PONY KIDSがおこなうホースセラピーについて、管理者である山本さんに話を聞きました。

話を聞いた人

山本さんプロフィール写真

山本 妃呂己さん

PONY KIDS管理者。理学療法士、児童発達支援管理責任者、精神保健福祉士。栗東市出身で、名騎手の父親のもとJRAの社宅で幼少期を過ごす。理学療法士として就職後に騎手となった兄をサポートしたことをきっかけに引退競走馬の問題に向き合うようになり、夫とともにTCC Japanを立ち上げ、活動を始めた。

──ホースセラピーとはあまり聞き馴染みがないのですが、どんな活動なんでしょうか?

山本さん:一般的なホースセラピーは医療、教育、スポーツ・レクリエーションの3つの要素で成り立っています。PONY KIDSでは、とくに教育レクリエーションの分野に力を入れています。

ホースセラピーでは、動物園の乗馬体験のように「乗っておしまい」ではなく、馬小屋の掃除、乗る前の準備、乗ったあとの馬のお世話や餌やりといった、馬との関わりにおける一連の活動を子どもたち自身でおこないます。

▼ホースセラピーの様子

──一種のアニマルセラピーとも言えるんでしょうか?

広い意味ではアニマルセラピーの一種と言えますね。触れ合うことで癒やしを与えてくれる点では犬や猫とも共通してると思います。ただ大きな違いは、馬は人よりも大きくて、社会的な生き物であるということです。

犬や猫だと、小さい子はぎゅっと抱きかかえたりしますよね? でも馬は抱っこできないし、力も強くて大きいので、はじめは怖がってしまう子もいます。うまく距離を取る必要がある。だからこそ、そんな大きな動物に乗れたことで自信がついて、自己肯定感が高まる効果があります。馬との触れ合いやお世話を通じて自分の役割を覚えたり、社会性を身につけるきっかけにもなります。

──たしかに馬は賢いので、人のことをよく見ていそうです。

相性もありますし、人によって態度も変わりますからね。大人が手綱を引いてもぜんぜん動いてくれないこともありますよ。乗っている間も上と下でしっかりとコミュニケーションを取って、終わったらご褒美の人参をあげて、ブラッシングで綺麗にしてあげて……というように、関係を築いていきます。

あとは乗馬って全身をすごく使うので、身体的な面でも大きな効果があると言われています。バランス感覚や体幹が鍛えられたり、こわばった筋肉がほぐれたりといったリハビリの効果もあるんです。

重度障がいの子どもや家族も一緒に楽しめる

ホースセラピーの様子

──ホースセラピーの利用者には、どんなお子さんが多いですか?

本当にさまざまで。地元の小学校の特別支援学級に通っている子もいれば、特別支援学校に通っているお子さんもいます。発話が難しい子、車椅子を使っている子、呼吸器をつけている子──とくに土日は重度障がいを持つお子さんを連れて遠方からいらっしゃるご家族も多いです。

──車椅子や呼吸器の子まで。ちょっと驚きです。

うちには保育士のほか、理学療法士や作業療法士などの医療専門スタッフもいるので、医療的なサポートもできます。

車椅子の方は乗り込むときが一番危ないので、専門職がしっかりサポートします。でも乗ってしまえば一人で乗馬する方ももちろんいますよ。一人で乗れない場合は、二人乗りすることも。

──乗馬中は視界も高くて見える世界が変わりそうですよね。すごく楽しそうです。

リハビリって病院の中ではモチベーションを保ちにくいこともありますが、ホースセラピーなら馬に乗ってるだけでリハビリになる。やっぱり楽しくないとなかなか続けたいとは思えませんよね。

障がいを持っているお子さんは、どうしても娯楽が限られやすい傾向にあると思うんです。でも乗馬は家族みんなで、どんな世代の人でも楽しめる点が良いと思っていて。PONY KIDSでは祝日などに家族で一緒に馬に乗るイベントを開催してるんですが、お父さんよりお子さんのほうが上手だったりするんですよ。大人のほうが怖がったり。

インタビュー中の山本さん

──保護者の方は何を期待してPONY KIDSに通わせるのでしょうか。

動物好きな子が多いので、馬がいるっていうだけでも外に出る動機づけになりますね。やっぱり最近はどうしてもゲームとかでインドアな過ごし方をしている子が多いので。外に出てほしいっていう親御さんの要望は多いです。

うちは乗馬クラブではなく福祉施設なので、ただ馬に乗ることが目的になっては駄目で。PONY KIDSですることが何かしら日常生活のプラスにならなきゃいけません。例えばお友達とコミュニケーションが取れるようになったとか、家でもお掃除やお手伝いができるようになったとか。乗馬を通して姿勢が良くなったから、授業でも集中して聞けるようになったとか。そういった目的があるのは、ほかの福祉施設と同じですね。

Interview|PONY KIDSにお子さんを通わせているお母さんへの質問

親御さんプロフィール写真

3兄弟の長男と次男がPONY KIDSに通っているお母さんに話を聞きました。

──PONY KIDSに通うようになったきっかけは?

知り合いのママに教えてもらいました。私も動物が好きだし、乗馬で楽しく体幹も鍛えられるかなって。のどかで環境もすごくいいので、一番下の弟も連れて一緒にのんびり過ごせるところがいいですよね。

──ホースセラピーを始めてからのお子さんの変化は?

バランス感覚とかは良くなったのかな。上のお兄ちゃんは言葉の教室にも通っていて、そこの先生に「体の軸がしっかりしてきたね」って言われました。なにより楽しんで通えているのが一番です。

働くスタッフと、ホースセラピーの可能性

ホースセラピーの様子

──療育のスタッフと馬のスタッフはまったく専門が異なりますが、どう分担されてるんですか?

基本的には、専門性に応じた分業制をとっています。子どもたちと一緒にする活動は療育のスタッフがメインで担当し、馬の世話は馬のスタッフがメイン。ただそれぞれの活動がリンクする部分も多いので、一緒に勉強会をしたり、馬についての研修を療育のスタッフが受けたりもしています。

馬のスタッフたちは医療や福祉の専門じゃありませんが、日頃から動物と心を通わせている人たちなので、非言語のコミュニケーションには長けていると思いますね。言葉を発せないお子さんが相手でも、どう気持ちを汲んであげるか、表情からどう読み取るかっていうのが上手です。

──反対に、療育のスタッフさんたちは馬好きの方が多かったり?

もともと乗馬をしていたり、馬が好きっていう職員も中にはいますね。でももちろん、馬との触れ合いはここに来て初めてっていう人もいます。

日本だと乗馬ってまだまだメジャーじゃありませんが、ヨーロッパだともっと身近なものです。イギリスだと多くの人が乗馬できるので、ボランティアでホースセラピーに携わる人が多かったり、ドイツでは理学療法士が取るホースセラピストの資格、作業療法士が取るホースセラピストの資格……というように資格化されています。

──へぇー! ホースセラピー×医療職の専門資格まであるんですね。

海外には文献もたくさんあります。日本でも徐々にホースセラピーに関する取り組みは増えてきていて、うちも共同研究に参加して学会で発表するなどの活動もしています。なかなかホースセラピーだけでの効果検証って難しいんですけど、今後の普及のためにも必要なことです。

セラピーホース

──最後に、PONY KIDSの活動について今後の展望があれば聞かせてください。

ありがたいことに、今は空き枠を待ってくださっている利用者さんがいるので、今度新たにサテライトの事業所を増やすことになりました。なので一緒に活動してくれる仲間を募集しています。馬も場所も足りないんですけど、やっぱり人が一番必要かな。医療や福祉に携わる人たちで、馬の持つ可能性に興味を持ってくれる人が増えたらいいなと思っています。

あと今は児童発達支援・放課後等デイサービスという形で2歳から18歳までの子を対象にしていますが、ホースセラピーって子どもに限らずどんな世代の方にでも効果があるので。大人のメンタルヘルス支援や、高齢者の方の介護予防などにまで広げていけたらと考えています。メンタルヘルスのほうは今まさにプログラムを設計しているところです。

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