1. 老健(介護老人保健施設)とは?
1-1. 老健の定義・入居条件・施設数
1-2. 在宅復帰を前提とした入所期間
1-3. 老健と特養の違いは?
1-4. 施設の設備
1-5. 5つの施設類型
2. 老健で働くメリット・デメリット
3. 老健の設置基準・人員配置基準
3-1. 居室の形式・面積
3-2. スタッフの配置基準
4. 老健で働くスタッフの仕事内容
4-1. 医師
4-2. 看護・介護職
4-3. リハビリ職(理学療法士・作業療法士・言語聴覚士)
4-4. 支援相談員
4-5. 介護支援専門員(ケアマネジャー)
5. 老健で働くスタッフの給与
5-1. 介護職員の平均給与
5-2. そのほかの職員の平均給与
6. 従来型老健と新型老健
7. 今後の課題
1. 老健(介護老人保健施設)とは?
1-1. 老健の定義・入居条件・施設数
介護老人保健施設(老健)は、介護保険が適用される介護保険施設の1つ。介護保険法によって下記のように定義されています。
介護老人保健施設とは、要介護者であって、主としてその心身の機能の維持回復を図り、居宅における生活を営むことができるようにするための支援が必要である者に対し、施設サービス計画に基づいて、看護、医学的管理の下における介護及び機能訓練その他必要な医療並びに日常生活上の世話を行うことを目的とする施設。(介護保険法第8条第28項)
要約すると、医療機関で治療を受けた後のリハビリを集中的におこない、在宅復帰を目指すことを目的とした施設といえます。
入所者の条件としては、原則65歳以上の要介護度1〜5の方が対象。都道府県知事の開設許可を受けた医療法人または社会福祉法人が運営しており、国内の施設数は4,322施設となっています(2017年10月1日時点)。
1-2. 在宅復帰を前提とした入所期間
老健の特徴は、医療機関を退院した後、自宅に戻るまでの中間的立ち位置として、原則3ヶ月の入所期間が設けられている点です。ただし最近では、在宅介護環境を整えることの難しさから、在所期間の更新をおこない長期に渡り入居を続ける方が増えています。 厚生労働省の調査によると、2013年度の平均在所日数は311日でした(※1)。
1-3. 老健と特養の違いは?
老健と一緒に取り上げられることが多い施設に「特養(介護老人福祉施設、特別養護老人ホーム)」があります。
特養は老健と同じ介護保険施設の1つなので、介護保険が適用されます。老健との大きな違いとしては、老健は在宅復帰を前提としたサービスを中心におこなうのに対し、特養では要介護者が身体介護や生活支援を受けながら長期的に居住する施設であるという点が異なります。そのため老健では設けられていた入所期間が特養には存在せず、終身入所が可能なところが大きな違いと言えるでしょう。
老健と特養のより詳しい比較については、こちらの記事もご覧ください。
特別養護老人ホーム(特養)とは? 入所条件や設置基準による特養のタイプ、老健との違いなどを紹介
1-4. 施設の設備
下のイラストは、一般的な造りの老健をイメージ化したものです。赤字の補足部分は、設置が義務付けられている設備です。

■療養室

老健には、入所者一人ひとりに割り当てられた療養室があります。このイラストでは、多くの老健で採用されている「従来型」の造りを再現しています。廊下続きでたくさんの居室が設置され、食堂やリビングなどの共用スペースを大人数で利用するのが特徴です。この施設の場合、多床室(4人部屋・2人部屋)と個室(1人部屋)に分かれています。
1人あたり必要な床面積は、従来型多床室の場合は8㎡(約4.4畳)以上、個室の場合は10.65㎡(約5.8畳)以上です。室内の設備としては、ベッドや入所者の身の回り品を保管できる収納設備、ナースコールの設置が義務付けられています。
療養室のタイプについて詳しくは、後述の「3-1.居室の形式・面積」でも紹介します。
■機能訓練室

リハビリを重視する老健にとって重要な部屋です。機能訓練室では、理学療法士または作業療法士が中心となってリハビリを担当し、運動機能やADL(日常生活動作能力)の改善のために必要な器械・器具が備えられています。
床面積は、入所者1人あたり1㎡以上での設置が義務付けられています。(ただし、サテライト型小規模介護老人保健施設または医療機関併設型小規模介護老人保健施設の場合は、40㎡以上)
■食堂・レクリエーション室

食堂は、入所者1人あたり2㎡以上での設置が義務付けられています。また、レクリエーション室はレクリエーションをおこなうために十分な広さと設備がある必要があります。
1-5. 5つの施設類型
2018年4月の介護報酬改定により、老健の施設類型がそれまでの3分類(在宅強化型、加算型、従来型)から、「超強化型」「強化型」「加算型」「基本型」「その他型」の5つに再分類されました。
これらは在宅復帰率やベッド回転率などの下記10項目を「在宅復帰・在宅療養支援等指標」とし、各項目に応じたポイントを足し合わせた合計値(最高値:90)によって分類されます。この合計値が高いと在宅復帰・在宅支援機能が高いと評価され、5つの類型のうち「超強化型」が最も高い類型となっています。
■在宅復帰・在宅療養支援等指標2. ベッド回転率
3. 入所前後訪問指導割合
4. 退所前後訪問指導割合
5. 居宅サービスの実施数
6. リハ専門職の配置割合
7. 支援相談員の配置割合
8. 要介護4又は5の割合
9. 喀痰吸引の実施割合
10. 経管栄養の実施割合
厚生労働省の「平成30年度介護報酬改定の効果検証及び調査研究に係る調査」(※4)で回答のあった老健1,163施設の施設類型の内訳は、以下の通りになっています。

なお、グラフ内にある「療養型(新型老健)」については、後述の「6. 従来型老健と新型老健」で詳しく説明します。
2. 老健で働くメリット・デメリット
老健で働く上でのメリット・デメリットにはどのようなことがあるでしょうか? 一緒に働くスタッフや入居所とのコミュニケーションのとり方や、深めていきたい専門性などをふまえて、自分に合うかどうか考えてみましょう。
■メリット
◎ 在宅復帰を目指しながら入所者をサポートできる
在宅復帰を目的とした施設なので、入所者の日常生活支援のほか、心身の機能回復に向けたサポートをすることができます。老健での生活支援やリハビリの結果、退所していく入所者を見送ることができるのは大きなやりがいに繋がるでしょう。
◎ 医療・看護・介護・リハビリの各領域の専門スタッフと協力し学び合える環境
老健は特養や他の高齢者施設よりも医師や看護師、リハビリ職のスタッフ数が多く、医療やリハビリ体制が手厚いため、働きながら各専門スタッフと連携することで、他職種の専門領域を学ぶことができます。
◎ さまざまな入所者との出会いがある
終身入所できる特養などの高齢者施設とは違い、入所期間が設けられており退所することを前提としているため、人の入れ替わりが早く新しい入所者との出会いが多い環境です。新しい人との出会いやコミュニケーションが好きな人には向いています。
■デメリット
△ レクリエーションなどの娯楽コンテンツが少ない
在宅復帰を目的にリハビリを中心としたプログラム設計になっているため、ほかの高齢者施設でおこなわれるようなレクリエーションやイベントなどの娯楽コンテンツの実施は少ない傾向にあります。施設内のイベントを企画したり参加したりすることが好きな人には物足りないかもしれません。
△ 医療に寄ったサービスになりやすい
全国にある老健の約75%は医療法人が運営しており(※2)、医療やリハビリ職のスタッフ比率が多いことからも、他の高齢者施設と比べると「介護」よりも「医療」に寄ったサービス内容になりやすいと言われています。他の施設を経験してから老健へ移ってくる介護職員の中には、施設の方針やスタッフの介護観の違いに戸惑う方もいるようです。
△ 長期的なケアには向いていない
在宅復帰を目的としているため、終身入所ができる特養などの他の高齢者施設や慢性期病棟などのように長期的なケアを主の目的にしていません。その反面、メリットに書いたように退所していく利用者を見送ることができるため、この点にやりがいを感じられると老健で働く醍醐味となるでしょう。
3. 老健の設置基準・人員配置基準
老健の設置基準を満たす居室の形式と面積、職員の人員配置基準は以下の通りです。
3-1. 居室の形式・面積
老健の居室形式は、「ユニット型個室」「ユニット型個室的多床室」「従来型個室」「多床室」の4つのタイプがあります。
■居室の形式と面積
居室形式 | 面積 |
---|---|
ユニット型個室 | 10.65㎡(約5.8畳)以上 |
ユニット型個室的多床室 | 10.65㎡(約5.8畳)以上 |
従来型個室 | 10.65㎡(約5.8畳)以上 |
多床室(定員4人以下) | 8㎡(約4.4畳)以上(1人あたり) |


現在は「多床室」と「従来型個室」を採用している施設が大半を占めています。プライバシーを重視した「ユニット型個室」を増やす取り組みを進めていますが、普及率は全施設中約10%程度とあまり進んでいない現状です。
3-2. スタッフの配置基準
老健は特養などのほかの高齢者施設と比べると、医師や看護師、リハビリ職員の人員配置比率が多いところが特徴と言えます。
■老健の人員配置基準
職種 | 配置基準 | 定員100人あたりの配置人数 |
---|---|---|
医師 | 常勤1人以上(100対1以上) | 1人 |
看護師/准看護師 | 入所者3人に対し、看護師または介護職員が1人以上 看護師・介護職員の総数の7分の2程度 | 9人 |
介護職員 | 入所者3人に対し、看護師または介護職員が1人の割合 看護師・介護職員の総数の7分の5程度 | 25人 |
理学療法士、作業療法士、言語聴覚士 | いずれか1人以上 | 1人 |
支援相談員 | 1人以上(100対1以上) | 1人 |
介護支援専門員(ケアマネジャー) | 1人以上(100対1を標準とする) | 1人 |
栄養士 | 定員100人以上の場合、1人以上 | 1人 |
薬剤師 | 実情に応じた適当数 (300対1を標準とする) | 0人 |
調理員、事務員、その他従業者 | 実情に応じた適当数 | 適当数 |
4. 老健で働くスタッフの仕事内容
老健ではさまざまな職種のスタッフが各々の役割を持って働いているため、特に多職種協働の考え方が重要です。入所者一人ひとりに合ったゴールを考え、そこに向かって自分が何をすべきなのか、他職種のスタッフとどのように連携をとり力を合わせていくかを考えた働き方が求められます。
4-1. 医師
入所者やショートステイ、通所リハビリなどで訪れる利用者の医学的管理を担います。診断や治療、患者の状況を把握した上で看護師やリハビリ職への指示をおこないます。老健の医師は病院のように組織のトップとして立つよりも、看護・介護・リハビリ各スタッフの役割を理解し、チームを統率するコーディネーターのような動きが求められます。
4-2. 看護・介護職
入所者や利用者の身体介護、日常生活のサポート全般を担当します。看護職の場合は医療ケアもおこないます。
看護・介護職員は、入所者の現在と今後の生活に対して重要な役目を担っています。医師やリハビリ職などの他職種のスタッフと相談・連携し、どこまでが自分でできる範囲なのか、何ができるようになれば入所者や利用者の生活が豊かになるのかを考え、医療的視点と介護的視点を併せ持ったサポートが大切です。
4-3. リハビリ職(理学療法士・作業療法士・言語聴覚士)
理学療法士は運動機能、作業療法士は精神心理機能、言語聴覚士は言語コミュニケーションや嚥下機能と、それぞれの専門分野での機能訓練を中心に、入所者のリハビリの計画作成と評価、リハビリの実践・指導を担当します。
老健の入所者の目指すゴールは十人十色。自立した生活を目指す方、自宅で家族に支えてもらう生活を目指す方、他の施設での生活を目指す方などさまざまです。そのため、入所者の能力だけでなく、家族構成や環境などを理解して接することが重要です。また、リハビリ病院のように一人に対して多くの時間を割けないからこそ、介護職や看護職と連携した日常生活の中でのリハビリも大きなウェイトを占めてきます。
4-4. 支援相談員
老健の支援相談員は老健独自の名称を採用しており、一般的に「生活相談員」と言われる職種に該当します。施設利用で必要な窓口業務、利用者やその家族の日常的な相談、地域との連携業務、関連機関との連絡・調整などを担当します。
4-5. 介護支援専門員(ケアマネジャー)
主な業務内容は入所者のケアプランの作成です。ケアプランを遂行するためにほかのスタッフと連携は欠かせません。また実際の現場は人手不足であることが多いため、ケアマネとしての業務のほか、介護業務や入所者や家族の相談に乗るなどさまざまな業務を担当することが多いようです。
5. 老健で働くスタッフの給与
5-1.介護職員の平均給与
厚生労働省が発表したデータによると、2018年時点の介護保険サービス事業者の介護職員の平均給与額は以下の金額でした。
常勤 | 非常勤 | |
---|---|---|
介護老人保健施設 | 317,350 円 | 260,710 円 |
特別養護老人ホーム | 332,260 円 | 239,290 円 |
介護療養型医療施設 | 285,360 円 | – |
訪問介護事業所 | 291,930 円 | 208,210 円 |
通所介護事業所 | 262,900 円 | 201,870 円 |
認知症対応型共同生活介護 | 276,320 円 | 180,410 円 |
※平均給与額:基本給(月額)+手当+一時金(4~9月支給金額の1/6)
老健の常勤職員は6施設のうち特養に次いで2番目に高く、非常勤職員は6施設の中で最も高い金額となっています。
5-2.そのほかの職員の平均給与
介護職員以外の職種の平均給与はどうでしょうか。厚生労働省が発表した「平成30年度介護従事者処遇状況等調査結果」(※5)によると、老健を含む7つの介護サービス事業所で働くスタッフの平均給与・平均時給は以下のとおりでした。施設形態によっても金額に差はあるため、あくまで複数事業所の平均として参考にしてください。
職種 | 常勤 | 非常勤 |
---|---|---|
看護職員 | 372,070円 | 1,410円 |
生活相談員、支援相談員 | 321,080円 | 1,070円 |
理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、機能訓練指導員 | 344,110円 | 1,540円 |
介護支援専門員 | 350,320円 | 1,280円 |
事務職員 | 307,170円 | 950円 |
調理員 | 254,450円 | 900円 |
管理栄養士・栄養士 | 309,280円 | 1,070円 |
※常勤(平均給与)=基本給(月額)+手当+一時金(2018年4~9月支給金額の1/6)
※対象施設:介護老人福祉施設、介護老人保健施設、介護療養型医療施設、訪問介護事業所、通所介護事業所(地域密着型通所介護を含む)、認知症対応型共同生活介護事業所、居宅介護支援事業所
6. 従来型老健と新型老健
老健には、これまで紹介した介護老人保健施設(従来型老健)とは別に、介護療養型老人保健施設(新型老健)が存在します。
新型老健は、介護療養型医療施設(療養病床)の廃止を受けた転換先として、従来型老健と療養病床の中間的な役割を期待され2008年に新設されました。
新設老健は慢性的な症状の療養を目的とし、より医療・看護に重点を置いた老健と言えるでしょう。従来型では対応できない医療処置にも対応でき、終末期など特別な配慮が必要な方も受け入れることができます。
人員配置については従来型と大きな差はありませんが、従来型老健では夜間のスタッフは看護師もしくは介護職員の設置が必要なのに対し、新型老健では看護師の配置が義務づけられています。
従来型老健の病床数が約36.8万床に対し、新型老健は約0.9万床とその差は約50倍(2015年時点※6)。療養病床の廃止に向けた経過措置期間は過去2度も延期され、新型老健以外の別の転換先も選択肢としてあることから、今後さらに新型老健が増えていくかどうかは経過を見ての判断となるでしょう。
7. 今後の課題
老健が抱える課題として、在宅復帰率の低さや在所日数の長期化があります。厚生労働省が発表した2013年の「介護サービス施設・事業所調査結果」(※1)によると、老健を退所した人の主な行き先は、多い順に医療機関40.6%、自宅31.7%、介護老人福祉施設(特養)9.3%となっています。
■老健入所者の退所後の行き先

前述した「超強化型」等の介護報酬体系の見直しも、在宅復帰支援の機能を強化するための制度改善のうちの1つです。今後さらに高齢化が進む中で、機能回復を果たし自宅へ戻ることのできる入所者をどれだけ増やせるか、期待が高まります。
■参考文献
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000174012.pdf
2:平成29年介護サービス施設・事業所調査の概況(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kaigo/service17/index.html
3:平成30年度介護報酬改定における各サービス毎の改定事項について(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000196994.pdf
4:平成30年度介護報酬改定の効果検証及び調査研究に係る調査 (厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000513698.pdf
5:平成30年度介護従事者処遇状況等調査結果の概要(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kaigo/jyujisya/19/dl/30gaiyou.pdf
6:介護療養病床・介護医療院のこれまでの経緯(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000204431.pdf