地域包括ケアシステムとは? 構成要素や役割、今後の課題など

日本では65歳以上の高齢者が3,500万人を超え、世界最高の高齢化率となっています。今後さらに医療や介護の需要が増えると、現場で働く人材不足が大きな課題となります。そのような状況において、高齢者を地域で支えるための「地域包括ケアシステム」の仕組みや求められる職種について紹介します。

地域包括ケアシステムとは? 構成要素や役割、今後の課題など

1.地域包括ケアシステムの概要

地域包括ケアシステムのイメージ図
地域包括ケアシステムのイメージ図

高齢化が進む中、高齢者が住み慣れた地域で自分らしい生活を続けられることが重要とされています。その実現のために厚生労働省は、2025年を目途に、地域に暮らす高齢者を包括的に支援し、サービス提供ができる体制「地域包括ケアシステム」の構築を推進しています。

高齢者を地域で支えるためには、「住まい」「医療」「介護」「予防」「生活支援」が一体的に提供される地域包括ケアシステムを、市町村や都道府県が地域の特性を活かしながら作り上げていくことが必要です。

また、地域包括ケアシステムでの「地域」とは、おおむね30分以内に必要なサービスが提供できる日常生活圏域のことを指しています。

2.地域包括支援センターの役割

「地域包括支援センター」とは、地域包括ケアシステムの実現に向けた中核的な機関として、市町村が設置している施設のこと。介護・医療・保健・福祉のさまざまな側面から、高齢者の生活上の困りごとに対応してくれる総合相談所のような存在です。

地域包括支援センターは、2019年4月末時点で、全国5,167か所に設置されています(出典:厚生労働省)。職員は保健師、社会福祉士、主任介護支援専門員(主任ケアマネジャー)など、介護・医療・保険・福祉の分野で対応できる専門スタッフが配置されています。

地域包括支援センターがおこなう業務内容は、「介護予防支援事業」と「包括的支援事業」の2つに大きく分けられます。

(1) 介護予防支援事業

指定介護予防支援事業所として、介護予防ケアマネジメントを実施。介護予防ケアプランの作成などをおこなう

(2) 包括的支援事業

・介護予防ケアマネジメント業務
介護予防ケアプランの作成など、要支援・要介護になることを防ぐための支援を実施

・総合相談支援業務
住民からの相談に幅広く対応し、横断的な支援を実施

・権利擁護業務
成年後見制度の活用促進、高齢者虐待への対応など、高齢者の権利を守るための取り組み

・包括的・継続的ケアマネジメント支援業務
地域ケア会議などを通じた自立支援型ケアマネジメントの支援や、ケアマネジャーへの助言や研修などをおこなう

3.地域包括ケアシステムを構築する「医療」

地域包括ケアシステムを支えるには、どのような医療サービスの提供が必要なのでしょうか。

地域包括ケアシステムを構築する「医療」として、近年病院に増えつつある「地域包括ケア病棟(病床)」の役割が期待されています。

この病棟はおもに、「①患者の緊急受け入れ」「②急性期を終えた患者のリハビリテーション」「③在宅・生活復帰支援」の3つの役割を担っています。

また、地域包括ケア病棟は一般病棟と違い施設基準が定められているため、基準をクリアしている病院の病棟しか地域包括ケア病棟として認められません。以下に基準の一部を紹介します。

■地域包括ケア病棟の設置基準(一部)

・看護職員の7割以上が看護師
・病棟又は病室を有する病棟に常勤の理学療法士、作業療法士、言語聴覚士いずれか1名以上配置
・在宅復帰率7割以上
・リハビリテーションを提供する患者について、1日平均2単位以上を提供
・入退院支援及び地域連携業務を担う部門が設置されていること
・専任の在宅復帰支援担当者を1名以上配置

(参考:厚生労働省「地域包括ケア病棟入院料 の取扱いについて」)

地域包括ケア病棟には、次のような職種の人たちが働いています。

■地域包括ケア病棟で働く職種の例

医師
看護師、認定看護師、准看護師、看護助手
理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、リハビリ助手
臨床検査技師、臨床工学技士
診療放射線技師
管理栄養士、栄養士、調理師
介護支援専門員(ケアマネジャー)、介護福祉士、社会福祉士、精神保健福祉士
医療事務
など

地域包括ケア病棟の施設基準にもあるように、看護師の数の確保やリハビリテーションを毎日実施するため、特にリハビリ専門職の充実が求められています。

4.地域包括ケアシステムを構築する「介護」

地域包括ケアシステムの一環としての「介護」の役割は、高齢者が要介護となっても自宅で生活を送り続けること、また医療機関などに入所したあとに在宅復帰できることを目指しています。

地域包括ケアシステムを構成する介護サービスの提供事業所は、都道府県が管轄する「居宅サービス」「施設サービス」と、市町村が管轄する「地域密着型サービス」に分類されています。それぞれどのような事業があるのか、主なサービスを紹介します。

(1)居宅サービス

居宅サービスは、おもに自宅で生活を送る高齢者向けの介護保険サービスです。自宅に介護職員などが訪問しサービスを受ける「訪問サービス」、高齢者が自宅から施設へ通ってサービスを受ける「通所サービス」、数日などの短期間だけ施設で生活を送りながらサービスを受ける「短期入所サービス」、在宅生活で必要な介護用品をレンタルできる「福祉用具貸与」などがあります。

訪問サービス
・訪問介護(ホームヘルプ)
・訪問看護
・訪問リハビリテーション
など

通所サービス
・通所介護(デイサービス)
・通所リハビリテーション(デイケア)

短期入所サービス
・短期入所生活介護(ショートステイ)
・短期入所療養介護

福祉用具貸与

(2)施設サービス

施設サービスは、要介護となった高齢者が中長期的に入所し生活を送ることができる介護保険施設のことです。対象施設は以下の4つ。介護度が高い人向けの「介護老人福祉施設(特養)」、在宅復帰を目的にリハビリを中心におこなう「介護老人保健施設」、医療ニーズが高い高齢者向けの長期療養施設「介護療養型医療施設」、医療的処置とともに日常生活機能も備わった「介護医療院」があります。

・介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)
・介護老人保健施設
・介護療養型医療施設
・介護医療院

(3)地域密着型サービス

地域密着型サービスは、市町村が指定・監督をおこなっているため、都道府県が管轄する施設サービス4つと比べると小規模で運営されているところが多いです。そのため、地域の特性や資源を活かしながら、地域の実情に即したサービス提供がしやすいと言えます。

・定期巡回・随時対応型訪問介護看護
・小規模多機能型居宅介護
・看護小規模多機能型居宅介護
・認知症対応型共同生活介護(グループホーム)
など

以上の介護サービスを提供する事業所には、以下の職種の人たちが携わっています。

■地域包括ケアシステムの介護サービスで働く職種の例

医師
看護師、准看護師、看護助手
理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、リハビリ助手
管理栄養士・調理師
介護福祉士、社会福祉士、介護支援専門員(ケアマネジャー)、ホームヘルパー
送迎業務を担う運転手 など

5.地域包括ケアシステムを構築する「生活支援・介護予防」

厚生労働省は、地域包括ケアシステムにおける「生活支援・介護予防」の重要性を以下のように唱えています。

今後、認知症高齢者や単身高齢世帯等の増加に伴い、医療や介護サービス以外にも、在宅生活を継続するための日常的な生活支援(配食・見守り等)を必要とする方の増加が見込まれます。
そのためには、行政サービスのみならず、NPO、ボランティア、民間企業等の多様な事業主体による重層的な支援体制を構築することが求められますが、同時に、高齢者の社会参加をより一層推進することを通じて、元気な高齢者が生活支援の担い手として活躍するなど、高齢者が社会的役割をもつことで、生きがいや介護予防にもつなげる取組が重要です。
(出典:厚生労働省「地域包括ケアシステム」)

つまり高齢者は、医療や介護サービスなどにおいて「支援される側」とされていますが、同時に、ボランティアなどの活動などに参加して「支援する側」になることも重要ということです。高齢者が地域の一員として社会的役割を持つことは、介護予防にも効果的だと言われています。

介護予防サービスについても、前述の介護サービス同様に、管轄主体が都道府県と市町村で分かれています。都道府県の管轄下「介護予防サービス」市町村の管轄下「地域密着型介護予防サービス」です。

(1)介護予防サービス

訪問サービス
・介護予防訪問介護(ホームヘルプ)
・介護予防訪問看護
・介護予防訪問リハビリテーション
など

通所サービス
・介護予防通所介護(デイサービス)
・介護予防通所リハビリテーション

短期入所サービス
・介護予防短期入所生活介護(ショートステイ)
・介護予防短期入所療養介護

(2)地域密着型介護予防サービス

・介護予防認知症対応型通所介護
・介護予防小規模多機能型居宅介護
・介護予防認知症対応型共同生活介護 (グループホーム)

各事業所によって働いている職種は若干違いますが、看護師・准看護師・看護助手、介護福祉士、社会福祉士・介護支援専門員(ケアマネジャー)、ホームヘルパーなどが介護予防や生活支援のためのサービスを提供しています。

6.地域包括ケアシステムを支える多職種の連携

疾病を抱えても、住み慣れた自宅などで生活・療養し、自分らしい生活を続けたいと願う高齢者やその家族は多くいます。そのためには、地域における医療・介護などの関係各機関が連携して、包括的で継続的な在宅医療・介護の提供体制をとることが大切です。

この実現のために、厚生労働省は多職種の専門職が連携・協働できる「地域ケア会議」の取り組みを推進しています。地域ケア会議は、おもに地域包括支援センターが主催し、自治体職員や包括職員、ケアマネジャーや介護事業者、作業療法士などのリハビリ職、医師や看護師をはじめとした医療従事者など、さまざまな関係者が参加します。

地域ケア会議では、実際の個別事例を分析・蓄積することで、地域に共通する課題を明確化します。蓄積した事例をもとに、最終的には地域課題の解決に必要な資源開発や地域づくり、ひいては政策への反映にもつながっていくのです。

7.地域包括ケアシステムが抱える課題

期待が寄せられる地域包括ケアシステムですが、いくつかの課題もあると言われています。

■医療と介護の連携

医療と介護の連携は地域包括ケアシステムの柱ともいえる重要な部分ですが、十分に機能しているとはまだ言えない状況です。とくに在宅で過ごす高齢者にとって、夜間や早朝、緊急時に対応できることは非常に重要なため、医師や看護師らと介護職員の間の密接な連携が今後求められてくることでしょう。

■地域格差

地域が持つ財源やマンパワー、高齢者の人口比率などは地域ごとに異なります。そのため、ある地域でうまくいった事例をほかの地域で再現するための資源が足りないといった地域格差が生じてしまいます。先行地域の事例を参考にしながら、それぞれの地域の特性や実情に合わせた計画を立てる必要があります。

■地域包括ケアシステムの周知

地域包括ケアシステムの実現には、高齢者やその家族、自治体職員や医療福祉従事者はもちろんのこと、その地域で暮らす住民全体の理解や協力が不可欠です。地域包括ケアシステムの考え方や各サービスの情報を地域住民たちに知ってもらうための普及啓発活動に取り組むことが、これから求められるでしょう。

8.さいごに

地域包括ケアシステムの重要な要素である医療や介護の現場では、多様な働き手を常に求めています。すべての職種で人材を積極的に募集している状況なので、正職員だけでなく、契約職員やパート・アルバイトなどの勤務形態で希望しても柔軟に対応してくれます。

気になるサービス機関や施設などがある場合は、応募して見学に行かれることをオススメします。

読者の方へのメッセージ

高齢者が安心して歳を重ねられる社会の実現

地域包括ケアシステムと聞くと難しく感じるかもしれませんが、「高齢者が安心して歳を重ねられる社会の実現」が目的だと理解するとわかりやすいと思います。介護保険の目的は、介護を社会全体で支えていくことです。住み慣れた地域で、専門職だけでなくそこで暮らす人全員で介護について具体的に考えることが、いま求められています。

峯尾 武巳 (介護の会まつなみ 理事長) 2024/01/12

プロフィール

「なるほど!ジョブメドレー」は、医療介護求人サイト「ジョブメドレー」が運営するメディアです。医療・介護・保育・福祉・美容・ヘルスケアの仕事に就いている人や就きたい人のために、キャリアを考えるうえで役立つ情報をお届けしています。仕事や転職にまつわるご自身の経験について話を聞かせていただける方も随時募集中。詳しくは「取材協力者募集」の記事をご覧ください!
身体障害者療護施設、知的障害児施設、特別養護老人ホームの勤務を経て、2003年から2018年まで神奈川県立保健福祉大学にて介護福祉学を専門に教鞭を執った。介護支援専門員の養成には、制度開始前から指導者という立場で携わり、埼玉・東京・神奈川を中心に法定研修講師を務めている。その他、認定介護福祉士養成研修など数多くの研修会講師も勤め、多方面で活躍をしている。

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