薬剤師国家試験を現役で「受けられなかった」と話すKさん。当時は体調不良で勉強どころではなく、卒業試験すら危うい状態でした。
それでも薬剤師になることは諦めず、2年の浪人を経て3度目の挑戦で合格を掴みます。長い受験生活のなかで、Kさんが最後まで挑戦し続けられたのには“3つの理由”がありました。
話を聞いた人

薬剤師 Kさん
幼少期の経験から、薬の作用に関心を持つ。薬学部進学後は勉強に励むも、国家試験を受けずに卒業。その後、予備校に通い、3年目の国試で合格。現在はドラッグストア併設の調剤薬局で勤務。
心の病で最初の国試を断念
──Kさんはなぜ薬剤師になろうと思ったんですか?
Kさん:そもそも「薬剤師になろう」と思って進学したわけではないんです。せっかく大学に進学するなら何か資格を取りたいと思っていました。
何の資格を取るか考えたとき、薬に興味があるなと思ったんです。私は子どものころから病気がちで入院経験もあり、薬はずっと身近なものでした。最初は何も考えずに服用していましたが、次第に「これが体の中でどう働いているんだろう」と関心を持つようになったんです。それで、薬についてしっかりと学んでみようと薬学部を選びました。

──大学生活は楽しかったですか?
ええ、一人暮らしだったので気楽でした。友達と遊んだりバイトをしたり、楽しく過ごしていましたね。授業中に寝てしまうこともありましたが、比較的真面目に取り組んでいたと思います。全科目SかAを目標にしていて、試験前もしっかりと勉強していました。
学年が上がるにつれて「薬学部に入ったからには薬剤師になりたい」という思いが強くなり、6年生のときは卒業試験と国試対策(青本)を進めていました。
──それでも現役では国試を受けられなかった、と。
はい。夏ごろまでは普通に通えていたんですが、秋に入るころから、気持ちが沈む日が増えていったんです。冬になるとさらに体調が悪くなり、その年は卒業試験と国試対策が重なって疲れたのか、大学に行くのもしんどくなって……。

──病院には?
行きました。適応障害と診断されました。ただ、診断名を聞いてもどこか腑に落ちないというか、もっと重い状態なんじゃないかと思っていて……。でも、心のどこかで病気だと認めるのが怖くて、きちんと向き合えていなかったと思います。
大学の先生に体調のことを伝えたら、「今の学力なら合格できると思うから、受けられるなら受けてみたら?」と言ってくれたんです。その言葉はありがたかったんですが、もう限界で。結局、この年の国試は受けられませんでした。
──卒業はできましたか?
予定では春に卒業でしたが、大学が秋まで在籍させてくれて、なんとか卒業できました。ただ、このころは人と話すのもつらくて、正直記憶が曖昧なんです。
「病気でも国試合格を諦めない」
──「薬剤師を諦める」という選択肢は?
それは一度も思いませんでした。せっかく大学に通わせてもらって卒業できたし、6年間頑張ってきたので、中途半端に終わらせたくなかったんです。それに、両親が学費を出してくれていたので、「絶対に合格して薬剤師になりたい」という気持ちが強かったです。
それで、卒業後に予備校に通い始めました。でも、体調がさらに悪化してしまって。最初のうちは行けていたんですが、後半はほとんど通えなくなりました。
──その間、ご両親とはどんなやり取りをしていましたか?
一人暮らしを続けていたので、両親には心配されました。「頑張りすぎなくてもいいよ」「もう帰っておいで」と何度も言われていました。でも、私は逆にそれが申し訳なく感じていたし、支えてもらった分、合格して恩返ししたい気持ちがさらに強くなりました。
──そんななかで、2回目の国試は受験できたのでしょうか?
はい、なんとか受験しました。あまり予備校に通えていなかったし、合格は難しそうと感じていましたが、せめて会場の雰囲気を掴もうと思って受けたんです。試験では緊張しませんでしたが、問題が難しくて、途中で「無理かも」と思ったんです。
結果は合格ラインより10点ぐらい低かったです。悔しかったですが、準備不足の割には想定以上に解けたことが意外でした。
合格発表の日に両親に結果を伝えたら、「また受けたいなら、来年も予備校に通っていいよ」と言ってくれたんです。その言葉にはすごく救われました。
──両親の存在が大きかったんですね。
はい。生活面でも気持ちの面でも支えてもらっていたので、両親がいなかったらとっくに諦めていたと思います。
病気と向き合い、治療を開始「少しずつ体調が安定しました」
──浪人生活が2年目に入るわけですが、そのころの体調はどうでしたか?
予備校が始まる秋までは、居酒屋と調剤薬局でアルバイトをしていました。もともと、夏までは比較的体調が安定していることが多くて、その時期は働くことができたんです。調剤補助のバイトは、わからないことがあれば家で復習して、勉強にも役立ちました。
秋から再び予備校に通い始めました。10月までは通えたんですけど11月ごろからまた体調が悪化してきて、12月には通えなくなりそうになったんです。そこで初めて、処方された薬を服用しました。
──それまで飲んでいなかった……?
薬学部の学生が服薬を嫌がるなんておかしいと思われるかもしれませんが、大学で副作用や依存についても勉強していたので、薬を飲むのをためらっていたんです……というのは言い訳で、そのころも病気と向き合えていなかったんだと思います。
でも、浪人が長引けば合格が遠のくし、親にも心配をかけるし、「このままじゃだめだ」と思って、はじめて治療を始めました。
──それからどんな変化がありましたか?
最初は副作用がきつくて、午前中はずっと眠かったです。それでも少しずつ体調が安定して、冬でも予備校に通えるようになりました。
予備校では月間テストや模試があるので、それを目標にコツコツ勉強していました。目標点数を決めて予習と復習を続けているうちに、自然と成績が上がって、体調を崩す前の成績に戻れたんです。予備校の中でも上位の成績を取れるようになったことが大きな励みになりました。
このころ、体調と折り合いを付けられるようにもなっていました。前までは、勉強に向き合えない自分を責めていたんですが、体調が悪い日は無理をしても身につかないとわかったんです。休むべき日はちゃんと休んで、できる日は集中して取り組む。そのほうがうまくいきました。
3度目の挑戦で掴んだ合格と、薬剤師としての今
──3度目の試験はどう感じましたか?
1日目の試験は難しくて、正直ギリギリでしたね。周りでも「もう無理だから2日目は行かない」と諦めている人もいて、不安になりました。でも、気持ちを切り替えてその日の夜もできる範囲で復習しました。
2日目は焦りながらも解き進めて、試験後の自己採点で予想以上に取れていて、そこでようやく安心できました。
──合格発表の日はどう迎えたのでしょう?
結果ページで自分の番号を見つけて、すぐに両親に電話しました。「本当によかったね」と言ってもらえて、ようやく報われた気持ちになりました。
──長い道のりでしたね。振り返ると、なぜ合格を掴めたと思いますか?
思い返すと、「これがあったから続けられたな」と感じることがいくつかあります。
まずは、自分の病気とちゃんと向き合って治療を始めたことです。薬を飲むのは怖かったですが、治療を始めてやっと受験に向き合うことができました。病気を治さないと何も始まらないんだと気づけたことが大きかったと思います。
それから、どんなときも支えてくれた両親の存在です。生活のことも、気持ちのことも、すべて支えてくれていたので、途中で折れずに済みました。親が応援してくれなかったら続けられなかったと思います。
そして、「絶対に薬剤師になりたい」という目標を見失わなかったことです。塞ぎ込む時期もありましたが、その気持ちだけは折れませんでした。続けるのは本当に大変でしたけど、結果を見た瞬間、「ああ、やっと報われたんだな」と思えました。

──合格後、就職活動はどのように進めましたか?
地域密着型の薬局で患者さんに寄り添いながら働きたかったので、中小の調剤薬局をいくつか受けました。でも全部落ちてしまって。就職活動を続けた結果、大手ドラッグストア併設の調剤薬局に採用してもらい、この春から勤務しています。
研修を経て、今は2店舗目で勤務しています。1店舗目は調剤から服薬指導まで幅広く経験して、2店舗目では調剤をメインに担当しています。
──薬剤師として働き始めてどう感じましたか?
初めて服薬指導をしたときは、「ようやくできた」とうれしく感じました。患者さんの不安に答えて「ありがとう」と言われると、この仕事に就けて本当によかったと思います。仕事を通じて人の役に立っていると日々実感しています。
服薬指導を工夫したり、「どうすればもっとうまくできるか」と試行錯誤できることが性に合っているので、薬剤師は自分に向いている仕事だと思うんです。
これからもっと経験を積んで、できることを増やしたい。そして、患者さん一人ひとりとしっかり向き合える薬剤師になりたいと思っています。