看護師中心に終末期を支える医心館

医心館はがんや神経難病などの終末期のケアに特化したホスピスです。施設内に常勤の医師を置かず、地域の訪問診療クリニックと連携することで、医療依存度の高い人でも受け入れられる体制を実現しています。現場でのケアは看護師が中心となって担当し、慢性期・終末期の療養生活を支えています。
多くの場合、病院や訪問診療クリニックの紹介をきっかけに入居が決まるため、地域の医療機関への日頃からの営業活動が欠かせません。また、病院や在宅から医心館に移る際は、ご家族への見学案内などの入居に向けた調整が必要になります。そのうえで、療養中のご本人を訪問して病状や必要な医療的ケアを確認する実地調査をおこなっています。
これらの業務を医療資格のない営業職がおこなうホスピスもありますが、医心館では臨床経験のある“地域連携看護師”が担当しています。また、地域連携看護師は入居者の受け入れまで対応し、入居後のケアは直接担当しません。では、実際にはどのように仕事を進めているのでしょうか。東京都世田谷区の医心館で地域連携看護師として活躍する菅原広菜さんに密着しました。
密着した人
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地域連携看護師 菅原 広菜 さん
大学卒業後、救命救急センターなどで臨床業務に8年間従事。仕事の幅を広げたいと、2024年に医心館の地域連携看護師に転身した。現在は、医心館 経堂・祖師谷の2施設の地域連携看護師を務める。
【9:00】出勤

地域連携看護師はフレックス勤務のため、9時〜18時を基本にその日の業務に合わせて出勤します。この日は昼から入居検討中のご家族の見学案内があるため、医心館 祖師谷へ出勤しました。
地域連携看護師は営業や実地調査で、訪問先から次に向かうこともあります。そのため、勤怠手続きと体温測定を済ませたら、営業資料の準備や入居者情報の取りまとめなど、その日の業務に取りかかります。
【10:00】訪問診療クリニックへ営業活動

この日、最初の仕事は訪問診療クリニックへの営業活動です。医心館のケアやサービスを知ってもらい、入居者を紹介してもらうためには、日頃からの関係作りが欠かせません。そのため、地域連携看護師は担当エリアの病院や訪問診療クリニック、居宅介護支援事業所などを、紹介実績や関係性に合わせて定期的に車で訪問しています。

入居者の療養生活を支える訪問診療クリニックとの連絡や調整も地域連携看護師の仕事です。この日の訪問先のクリニックでは、入居にかかる費用や入居者の様子をお伝えしました。
また、クリニック側からは診療体制の変更などについて聞き取り、お互いの施設の近況を報告しながら、「地域全体で患者が減ってきているかもしれない」などと話し合いました。
菅原さん「臨床から転職したので、最初はどこに営業に行ったらいいかわからず苦労しました。“あいさつ”といっても、何を話せばいいのかわからなかったですし。慣れるまでは時間がかかりましたが、引き継ぎのあいさつから始めて、顔を覚えてもらえるようになると、紹介も増えてきたんです」
【12:00】家族の見学案内

医心館に戻って一息ついたあとは、入居希望者のご家族の見学案内です。
ご家族が診断や予後、延命治療についてどのように考えているか、丁寧に聞き取ります。ご家族の意向と病院側の見解にずれがある場合は、関係者の間に立って、認識をすり合わせながら入居調整を進めます。

実際に居室も案内し、ご家族に入居後のケアや療養生活をイメージしてもらいます。また、納得して施設を選べるよう、看護体制や看取りの際の対応などを説明します。あわせて、ご本人に合った療養ができるよう、ご家族やペットとの面会など医心館の特徴も丁寧に伝えます。
菅原さん「ご家族は入居後、どのような療養生活になるのか不安に感じます。また、終末期と説明を受けていても、回復を願うご家族は少なくありません。そうした不安や希望をくみ取りながら、一つひとつわかりやすく説明することを意識しています。ご家族への対応にも、臨床で患者さんやご家族と接してきた経験が生きていると思います。
また、医心館に入居していただくことだけが、ご家族にとっての正解ではありません。終末期での入居なので、対応できることだけでなく、難しいこともきちんとお伝えしたうえで、選んでいただくことを大切にしています」

ご家族を見送ったあと、菅原さんのスマートフォンが鳴り、地域の病院から入居の問い合わせを受けました。こういった相談は社内の判定会議で受け入れが可能か検討するため、地域連携看護師だけで入居を判断することはありません。
【13:00】昼食

午前の仕事を終えたら昼食です。昼休みは業務の合間に取ります。この日は施設内でお弁当のカレーを食べました。
【14:00】病院で実地調査
午後の業務は病院での実地調査です。実地調査は入居が決まった人の病状や必要な医療的ケア、食事などを把握するための業務で、入居者本人や担当看護師などの話を聞きに向かいます。

この日は、膵臓がんのある80代の入居予定者について実地調査をおこないました。本人と面会したあと、担当看護師から病状や必要な医療的ケア、食事の状況、血糖値などについて聞き取りました。
スムーズに医心館での生活を始めるためには、事前に医療的ケアや薬の情報を詳細に把握しておくことが重要で、病棟での経験や知識が活かされています。
菅原さん「病棟の看護師さんは本当に忙しいので、家族からの聞き取りと診療情報提供書からあらかじめ情報をまとめて、確認するポイントを絞っています。病院の方からは『看護師さんなら安心ですね』『医心館は退院前のやり取りがスムーズ』と言われることもあります」
【14:30】地域連携室を訪問

実地調査後は、病院の地域連携室に立ち寄り、医療ソーシャルワーカーにもあいさつします。将来の入居相談につなげるためには、入院患者の退院を担当する部門と関係を築くことが重要です。この病院にはすでに顔なじみの職員もいますが、初対面の職員には医心館の特徴を説明します。
【16:30】医心館に戻る

外出から戻ったら、実地調査で得た情報をまとめ、訪問診療クリニックや居宅介護支援事業所、薬局などに共有します。
この日は、菅原さんが調整した新規入居のあった医心館 経堂に立ち寄りました。地域連携看護師は入居後のケアを直接担当しませんが、入居後の様子を把握するため、現場のスタッフから話を聞きます。また、今後の入居予定者などについても病状や必要になるケアについて早めの情報共有を心がけています。
【18:00】退勤

地域連携看護師として2年ほど勤務し、業務の調整ができるようになったことで、今では残業はほとんどありません。この日は予定どおり18時で終業です。お疲れさまでした!
【インタビュー】地域連携看護師は地域との“架け橋”
業務の終わりに、地域連携看護師の仕事についてお話を伺いました。

──地域連携看護師のやりがいは?
一人で進める仕事なので、“責任”と“感謝”が自分に直結することですね。病棟で勤務していたころは、組織の中の一人といった感覚でした。医心館では急にご自宅で療養できなくなった方を即日受け入れることもあって、「誰かのためになった」と実感できる仕事です。
この仕事は地域との「架け橋」だとも感じています。地域の病院、訪問診療クリニック、訪問看護ステーション、薬局、居宅介護支援事業所など、本当に多くの方からご相談を受けます。最初は営業活動や入居調整など、目の前の業務に追われましたが、今では人とのつながりを作ることが地域連携看護師の仕事だと感じています。
──印象的だった入居者の方はいますか?
末期がんで、医療用麻薬を使ってもコントロールできないほどの発作がある方がいたんです。でも、ご家族の「少しでも一緒に過ごしたい」との希望から医心館で受け入れました。
入居してから「ただの発作ではなさそう」と、医心館の看護師と訪問診療の先生でデータを見直した結果、希少がんだったんです。それで薬を変えたら一気に発作がなくなって、旅行までできるようになって。
最後は医心館でお亡くなりになったんですけど、ご家族から「本当にいい最期を迎えられた」と声を掛けてもらいました。医心館だからこその医療を提供できた実感が湧いて、やっててよかったと思いました。
──やりがいがある一方で、地域連携看護師に転身して難しいと感じた点はありましたか?
担当施設を安定して運営する視点も持たなければならないことです。看護師として、入居希望者をできる限り受け入れたいのですが、医心館の医療体制や対象病状、ご本人に必要な医療的ケアなども踏まえて判断する必要があります。その両方を考えなければならない点に最初は戸惑いました。
あとは、診療報酬や介護保険制度の勉強です。臨床で働いていたころは制度を意識する機会が少なかったですが、改定によって会社の方針や業務の進め方が変わることもあるため、学び続けることが欠かせません。
──では、どんな人が地域連携看護師に向いていると思いますか?
能動的に動ける方・変化に強い方です。毎日、あっちに行って、こっちに行って、その間に電話も掛かってくるといった仕事なので、アクティブな方が向いていると思います。
地域連携看護師に転職すると、臨床とまったく違う仕事内容になりますが、最初の1ヶ月〜3ヶ月は研修期間が設けられ、先輩につきながら業務を学べます。独り立ちしたあとも、いつでも近くの地域連携看護師に相談できます。
地域のさまざまな方と連携するなかで、病院で働いているだけでは見えなかった世界が見えてくると思います。今の業務に悩んでいる人がいたら、ぜひオンライン面談で話を聞いてみてほしいです。