目指すは“脱おむつ”!? 自立支援を支える大人用おむつについて、メーカーに聞いてみた

介護をする側・される側の両者にとってストレスのないおむつを目指し、開発を重ねるおむつメーカーの取り組みとは?

目指すは“脱おむつ”!? 自立支援を支える大人用おむつについて、メーカーに聞いてみた

介護とは切っても切れない必需品である「おむつ」。病気や障がい、加齢によって自力での排泄が難しくなったときに頼れるアイテムである一方で、着用するには心理的な抵抗があったり、皮膚トラブルに繋がったりという側面も併せ持ちます。

今回は介護福祉士の中浜さんを聞き手として、おむつメーカーにインタビューを実施。大人用紙おむつブランド「リフレ」を展開する株式会社リブドゥコーポレーションの鍵尾さんに話を聞きました。おむつに関するさまざまな悩みが商品開発にどう繋がっているのか? はたまた意外と知らないおむつ裏話とは?

話し手

鍵尾さんプロフィール写真

鍵尾 幸司さん

広告代理店で企業の宣伝活動に従事するうちメーカーでの仕事を志すようになり、株式会社リブドゥコーポレーションへ転職。介護・医療用品を手掛ける同社で入社以来一貫しておむつ部門を担当し、現在はライフケアマーケティング部の部長を務める。生まれも育ちも大阪の生粋の関西人。

 

聞き手

中浜さんプロフィール写真

中浜 崇之さん

1983年東京都生まれ。学生時代の一日デイサービス体験をきっかけに介護の世界へ。介護福祉士として施設長やデイサービス立ち上げを経験するほか、全国での講演活動やイベント主催など多方面で活躍中。

高齢化により需要拡大! 現在のおむつ市場

鍵尾さん・中浜さん取材中カット

中浜さん:鍵尾さんはこれまで15年以上も大人用紙おむつに携わってきたとのことですが、その間にどういった変化を感じていますか?

鍵尾さん:弊社の商品ラインナップで見れば、私が入社してからの約15年間で倍とまでは言いませんが、1.5倍くらいには増えたと思います。

やはり高齢者の方が増えているのでおむつの需要も増えています。ただそうは言ってもマーケット的には成長市場から成熟市場になってきたという印象ですね。

大人用紙おむつのタイプ別生産数量 推移
出典:一般社団法人日本衛生材料工業連合会|大人用紙おむつの統計データ

中浜さん:ちなみにリブドゥさんのおむつ市場での位置づけは……?

鍵尾さん:あくまで弊社調べのデータにはなりますが、大人用紙おむつ市場の中では業界第2位の位置づけです。

大人用紙おむつ市場は大きく分けて、市販用と業務用の2つの流通経路があるのですが、業務用ではトップクラスのシェアをいただいておりまして、全体で見ると2位という位置づけになります。

中浜さん:それはすごい。メーカー各社さんいろいろな種類のおむつを出してますが、どういった分類ができるんでしょうか?

鍵尾さん:利用者さまの状態に応じてどの製品を選べばいいのか? という部分が一番判断しづらくて知りたい部分だと思うので、弊社の場合はADL(日常生活動作)別に5段階で分けています「一人で歩ける方」「介助があれば歩ける方」「介助があれば立てる・座れる方」「介助があれば起こせる方」「寝て過ごす方」といった具合ですね。

さらにテープ止めタイプがいいのかパンツタイプがいいのか、パッドをつけるかつけないか、サイズはどうするか……といったところを目的や状態に応じて選べるようにしています。

商品紹介パンフレット
大人用紙おむつはベビー用と比べて対応する体型やADLが幅広いため、豊富なバリエーションが求められるという

ユーザーへの聞き込みをもとに、新商品を生み出す

中浜さん:製品の開発はどう進められるんですか?

鍵尾さん:お客さまの声をもとに企画・開発を進めます。既存商品の場合、リニューアルは2〜4年に一度おこなうくらいですね。介護施設の職員さまや自宅で介護をされてるご家族に話を聞いたりしながら「どんなことに困っているのか」という情報を聞き出し、新しい製品に繋げていきます。

鍵尾さん取材中カット

中浜さん:例えばどういった要望があるんでしょう。

鍵尾さん:例えば、比較的自立度の高いご本人やそのご家族からだと、「できるだけ自力で扱えるおむつ」を望む声が多いですかね。おむつってデリケートなものですから、家族同士であっても手伝われるのを拒否する利用者さまは多いですし、できるだけそっとしておきたいと考えるご家族が多いんです。そういった声を受ければ、一人で脱いだり履いたりしやすいおむつとか、一人でパンツを上げ下げしてもパッドがズレないおむつ作りに繋がったりします。

あと多い要望は、なんといっても「簡単・便利」ってところですね。とくに介護施設の場合だと、人手不足や人員の入れ替わりで早く・誰にでもできる点が重視されていると思います。

おむつってどうしても当て方次第で漏れ具合とかも変わってきてしまうので、多少のテクニックが必要なんですよ。なので私たちも施設さま向けにおむつの選び方や使い方の勉強会を開いてます。

中浜さん:僕が以前働いていた施設でも、メーカーさんが勉強会に来てくれてました。ちゃんとコツを教わるとぜんぜん違いましたね。

鍵尾さん取材中カット
「施設の方は忙しい方が多いので、そういった勉強会をメーカーが代わりに実施できると、すごく喜んでもらえますね」

鍵尾さん:あとはやっぱりつけ心地も大事で。おむつはつけたときに吸収体と言われる部分がもこっとしていて違和感を感じやすいところだと思うんです。そこをいかに吸収力は保ちながら薄くできるかと日々研究を重ねています。

ちょっとこの吸水実験、見てみますか?

中浜さん:いいんですか? ぜひ。

吸水実験の様子

鍵尾さん:このパッドはどちらも弊社の製品なんですが、向かって左は旧型、右は新型です。サイズや厚さはほぼ同じなんですけど──。

吸水実験の様子

鍵尾さん:これでだいたい2回分とされる300mlを吸った状態です。体圧に見立てた重りを乗せます。

吸水実験の様子
吸水実験の様子

鍵尾さん:旧型のほうはこんなに多くの量の逆戻りが出てしまうのに対し、新型はそれがほとんどないんです。

中浜さん:ぜんぜん違いますね! 新型は触ると多少のしっとり感はありますけど、あまり濡れた感じはしない。

鍵尾さん:旧型は15年ほど前のモデルなんですが、弊社の製品で比べてもリニューアルを重ねて改良してることがわかると思います。

中浜さん:一度のリニューアルでは、どのくらい性能が上がるものなんですか?

鍵尾さん:リニューアルの内容によるので一概には言えませんが……吸収力の例ですと、「おしっこ1回分(150ml)の吸収力アップ」みたいな例はあります。

ほかには「新たな消臭成分配合で消臭力がアップ」とか「紙おむつのテープ部分の改良によりさらに使いやすく」……などなど、多岐に渡りますね。

中浜さん:いやー、すごいな紙おむつ。紙なのに。

鍵尾さん:いや、実は紙おむつって名前なんですけど、今では紙よりも吸水ポリマーや防水フィルム、不織布などの石油由来製品が多く使われてできています

中浜さん:えっ! 紙おむつって紙じゃないんだ……!

鍵尾さん中浜さん取材中カット
長年紙製品だと信じて疑わなかった中浜さんに、衝撃の事実

ゴールはおむつが外れること?! 自立支援とおむつの関係

中浜さん:……気を取り直して。最近の介護報酬改定にも表れているように、自立支援の一環として「排泄はできるだけトイレで」という動きがありますよね。これは言ってしまえば“脱おむつ”がゴールになっていると思いますが……リブドゥさんはおむつメーカーとして、このことをどう捉えてますか?

鍵尾さん:究極を言えば、おむつが外れることがおむつのゴールだと思っています。メーカーとしては矛盾していると思われるかもしれませんが、紙おむつメーカーである前に介護業界に関わっているという前提から、身体の機能回復や自立支援をどうやっておむつでサポートしていくかということを考えています。

中浜さん:おむつが外れるのがゴール……。メーカーさんがそこまで考えているとは正直驚きました。

鍵尾さん:そういう意味で、3年前からアパレルメーカーさんとコラボして、内側にパッドを装着して使いやすいような布パンツの販売にも力を入れるようになりました。やっぱり利用者さまの気持ちを考えると、“布か紙か”というので大きく抵抗感が変わるんですよ。

最終ゴールはおむつが外れることですが、そこまで行くのは難しいケースも少なくありません。そういう場合は紙おむつから布パンツにパッドだけプラスして使うような状態が現実的なゴール設定になってくると思いますね。

鍵尾さん取材中カット
「利用者さまの状態や状況に応じて、幅広い提案ができるように」

中浜さん:もう一点。日中はなるべくトイレに行きましょうって動きがある一方、夜間については意見が分かれるところです。「おむつ交換をすると利用者さまを起こしてしまうからできるだけ回数は減らしたほうがいい」って意見もあれば、「排泄のあと長時間放置すると皮膚トラブルに繋がるからこまめに交換すべき」って意見もあります。これについてはどう思いますか?

鍵尾さん:弊社から「交換回数は何回にしましょう」と提唱することはないんですが、相談を受けたとき「これであれば改善できるかも」といった提案はさせていただいてます。例えば尿の逆戻りを防ぐ設計を採用した高品種ラインをご紹介するなどですね。

あとはやっぱり“長時間使っても漏れなくて肌に優しい”ことは大前提なので、そのための改良は重ねています。最近では柔らかい表面素材を使ったり、素肌に近い弱酸性を保てる工夫をするなど、夜間に長時間使用しても負担が少ない設計になってきています

ただ、尿についてはほぼ確実に吸収できるような構造になってますけど、便はなかなか厳しい。便が出たのに交換しないのは一番お肌に悪いのは確かですね。

今後重視されるのは、環境にも優しい紙おむつ

中浜さん:最近では環境に配慮した製品やサービスが重視される傾向がありますが、紙おむつについてもそういった取り組みはあるんでしょうか?

鍵尾さん:各社結構いろいろと始めてるんですよ。弊社の場合は「紙おむつリサイクルシステム」と言って、使用した紙おむつを回収したあと、洗浄・分解して建築資材や土壌改良材、固形燃料なんかに再利用する取り組みを協業企業と一緒に進めています。

中浜さん:へぇ……! おむつってそんなに再利用できるものなんですね。

鍵尾さん:そうなんですよ。あとは他社ですけど、商業施設の中にベビー用のおむつ回収ボックスを試験導入していたり。

どの企業もまだテスト段階が多いですけど、今後はもっと環境面を考えていかないと、という動きは起きてますね。

鍵尾さん中浜さん取材中カット

中浜さん:いい動きですね。最後に一つ、個人的な興味からの質問なんですが……。おむつっていろいろなメーカーさん・種類があるものの、それほど値段って変わらないじゃないですか。お金持ち向けのおむつってないんですか?

鍵尾さん:なるほどなるほど(笑)。残念ながら、今はないんですよ。10年ぐらい前に「豪華な紙パンツ」みたいなコンセプトの商品があったような記憶はありますが、それ以降はないですね。

中浜さん:あったんですか! ハイブランドのロゴ入り紙おむつとか出たら、案外人気にならないかなぁ。

鍵尾さん:すごいコラボレーションですね(笑)。でも確かに紙おむつや介護の世界には、そういう明るさも大事なのかなと思います。メーカーとして、そういったことも考えていきたいですね。

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読者の方へのメッセージ

紙じゃないけど紙おむつ

今回一番の驚きは「紙おむつは紙じゃない」という事実でしたが、よくよく考えると納得でしたね。紙おむつメーカーが目指しているところは、年齢を重ねたり病気を患ったりしても最後まで自分一人で排泄ができるようにサポートすることで、これは介護職員と同じ目線です。介護現場は介護職員だけでなく、いろいろな人やもので成り立っていることを改めて実感する取材でした。

中浜 崇之 (介護福祉士) 2021/12/06

プロフィール

「なるほど!ジョブメドレー」は、医療介護求人サイト「ジョブメドレー」が運営するメディアです。医療・介護・保育・福祉・美容・ヘルスケアの仕事に就いている人や就きたい人のために、キャリアを考えるうえで役立つ情報をお届けしています。仕事や転職にまつわるご自身の経験について話を聞かせていただける方も随時募集中。詳しくは「取材協力者募集」の記事をご覧ください!
介護福祉士として特養やデイザービスで勤務、特養の施設長、デイサービスの立ち上げなどの管理職として、合計勤務経験17年。「自分らしく死ねる社会の実現」を目標に活動中。介護職の様々な垣根を越えて対話する場「介護ラボしゅう」を主宰。また福祉のポジティブな視点での発信と福祉の担い手の増加に向けて様々な活動を行い全国で講演活動や講師なども務める。

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