介護ロボット・ICTでどう変わる? 介護業界の現状と未来

ロボットやICTの導入が進んでいる介護業界。新しい技術が取り入れられることで、介護のあり方や職員の働き方はどのように変化していくのでしょうか? 大きな転換点を迎えている現状と今後の動きについて取材しました。

介護ロボット・ICTでどう変わる? 介護業界の現状と未来

近年の介護報酬改定にも表れているように、国は介護現場におけるロボットやICT機器の導入を積極的に進めています。その一環として「リビングラボ」と呼ばれる指定機関を全国8ヶ所に設置し、介護ロボットやICT機器の実用化に向けた開発や実証研究をおこなうさまざまなプロジェクトを推進しています。

今回訪れたのは、そんなリビングラボの一つ、社会福祉法人善光会が運営する「Care Tech ZENKOUKAI Lab」(所在地:東京都大田区)。話を聞かせてくれたのは、数多くの介護ロボットやICT機器を世に送り出してきた同法人理事の宮本さんです。介護現場の課題を知る中浜さんを聞き手に、最新の業界事情について伺いました。

話し手

宮本さんプロフィール写真.

宮本 隆史さん

1985年千葉県生まれ。専門学校にて社会福祉、大学院にて経営管理学を専攻。2007年に社会福祉法人善光会に入職。新卒職員としては異例の昇進を重ね、現在は同法人の理事、最高執行責任者、統括施設局長、特別養護老人ホームの施設長を務める。2019年に介護ロボットやICT活用に長けた介護職員を認定する「スマート介護士」資格を創設。

 

聞き手

中浜さんプロフィール写真

中浜 崇之さん

1983年東京都生まれ。学生時代の一日デイサービス体験をきっかけに介護の世界へ。介護福祉士として施設長やデイサービス立ち上げを経験するほか、全国での講演活動やイベント主催など多方面で活躍中。

まだ見ぬ介護機器を生み出す「リビングラボ」とは?

宮本さん 取材中の様子
取材は感染症対策を十分に配慮しおこないました

中浜さん:ご無沙汰してます。善光会さんの施設に来たのはずいぶん久しぶりになっちゃいました。あれって何年前でしたっけ?

宮本さん:たしか5年くらい前じゃないですか?

中浜さん:5年前だと2016年ですね。僕の記憶だともうその頃から宮本さんたちは業界に先駆けて介護ロボットやICTに取り組んでいたと思うんですが、当時から現在にかけて宮本さんたちの活動を教えてもらえますか?

宮本さん:僕が善光会に入職したのが2007年で、初めはもちろん一介護職員でした。その2年後、2009年にサイバーダインの介護用ロボットスーツ「HAL」を介護施設として初めて導入したのがきっかけになります。

サイバーダイン「HAL」導入当時の写真
介護用ロボットスーツ「HAL」導入当時の様子

導入したものの……正直あまり実用的ではなかったんですよね。──あ、もちろん今は改良されていてそんなことはないと思いますよ! 10年以上前の話ですから。……それで、実際の着け心地や動きやすさなんかをサイバーダインさんにフィードバックしたんですよ。そしたら話が進んで共同開発をするまでに至りました。

当時はそういった研究開発をしている社会福祉法人は珍しかったので、それをきっかけにメーカーさんやベンダーさんが声を掛けてくれるようになり、いろいろなプロジェクトを立ち上げて。結果的に現在のリビングラボ事業に繋がっていったという感じですね。

中浜さん:リビングラボでは具体的にどういったことをしてるんですか?

宮本さん:今いるこの建物は、特養や老健、高齢者・障がい者向けのデイサービスやショートステイなどの施設が入っています。さらに2階には実証研究などをおこなえる「Care Tech ZENKOUKAI Lab」が入った複合施設になっているんですね。

ここでは職員たちが日々介護サービスを提供しながら、メーカーやベンダーさんたちと共同して最新機器の実証もおこなっています。つまり利用者さんたちの協力も得ながら、施設全体が研究所のような機能を果たしてるんです。

中浜さん:へぇ! 面白いですね。そういった最新技術に触れられるのは、職員としても興味がある人が多そう。

「Care Tech ZENKOUKAI Lab」の様子
「Care Tech ZENKOUKAI Lab」の様子。自由度が高くさまざまな目的で使えるスペースになっている

宮本さん:まだ製品になっていない試作段階のものから、すでにパッケージ化されているものまでいろいろなサービスが持ち込まれています。メーカーが持つ技術と介護で必要とされるニーズをマッチさせて新しいサービスを開発したり、すでに販売されている製品の安全性やユーザビリティーをさらに高めるための検証やマーケティング施策を実施したり。

具体的な過去の例を挙げると「見守りシステム」「自動排泄装置」「排尿予測デバイス」「移乗支援ロボット」「介護レクリエーションロボット」など多くのプロジェクトを実施してきました。

夜間の睡眠経過を分析する実証風景
夜間の睡眠経過を睡眠センサーを用いて分析する実証の様子

宮本さん:国の指定を受けたリビングラボ事業のうち、全体の実証件数の80%程度はうちの施設を通過して世に流通していると思いますよ。

中浜さん:8割も! じゃあ今出回ってる介護機器の大半は、この施設を通過していってると言っても過言じゃないですね。

宮本さん・中浜さん 取材中の様子
取材をおこなった部屋にも気になるモニター装置が。これも試作中の製品らしい

日本の現状から見る介護業界の課題

中浜さん:最近ではロボットやICTの導入で介護報酬の加算が付いたり助成金が出たりと、国や自治体レベルでもテクノロジーの導入を推進してますよね。長年この分野に携わってきた宮本さんは、ここ数年の介護業界の状況をどう見てますか?

宮本さん:かなり変わりましたよね。私たちが始めた当初は、監査に来た行政の人たちも「介護ロボットなんて……」といった反応でしたから。

現在の介護業界で課題だと思っているのは「公費」と「労働力」の問題です。少子高齢化で税収が減るなか、介護保険の国民負担はここ20年で約2倍。利用者負担も1割から最大3割まで増えていて、支える財源が足りないことは明らかです。

加えて労働力不足が叫ばれる一方で働き方改革も進めなくてはならない。もう「人のために気持ちで頑張る」という根性論が通じる時代ではないから、これからはきちんと制度を整備してテクノロジーを活用していかないといけない。

宮本さん 取材中の様子
「介護×テクノロジーでできることはまだまだたくさんあります。正直この分野においてほかの国と比べると、日本は周回遅れです」

中浜さん:それで言うと、最近始まった「LIFEがありますよね。今のところの感想としては、現場負担が増えているような気もするんですが……。

*LIFE(科学的介護情報システム/Long-term care Information system For Evidence)…科学的根拠のある質の高い介護サービスを提供することを目的に、利用者やケアに関する情報を収集・活用するシステムのこと。2021年度介護報酬改定より運用が開始された。

宮本さん:うちの施設でも残業の申請理由で「LIFE入力のため」って結構あります(苦笑)。もう少し現場の負担が少なく済むように設計してほしいなって思うところはありますが、この動き自体には大賛成です。

介護分野でのビッグデータの活用によって、これまで属人的だったり無駄になっていたりした部分が明らかになり現場の生産性が上がっていく。それは働くスタッフはもちろん、利用者にとっても良い介護に繋がっていきますから。

テクノロジーによって削減した時間で、人間にしかできない介護を

中浜さん:この話題になると必ず出てくるのは「ロボットやICTに頼るなんて」っていう意見で。決して間違った意見ではないですけど、そういった考えの人に介護ロボットやICT導入の可能性を感じてもらうにはどうすればいいんでしょう?

中浜さん 取材中の様子

宮本さん:「利用者のQOL(生活の質)をどう上げるのか?」という視点で考えてみると、答えは明らかになると思うんですよね。

例えば介護記録にある排泄時間って、イコール「職員がケアに入って確認した時間」なんですよね。実際に排泄した時間じゃない。トイレを利用する人だって、介助をする順番の都合上、眠っているところを起こして行くことだってあるかもしれない。

そうやって人が記録した情報をもとに作成したケアプランを「A」としたときに、ICTで正確に記録した排泄時間や睡眠時間といったデータをもとに人が作成したケアプラン「B」とを比較してみたら、Bのほうが良いですよね。

宮本さん 取材中の様子

見守りセンサーを付けると「必要以上に知らなくていい情報まで見えてしまうからプライバシーの侵害だ」という意見が挙がります。でも、見ていない間の転倒リスクを減らすために身体拘束するのと比べたら、果たしてどちらが本当に利用者のためなんだろうか? って考えられると思うんです。

中浜さん:たしかにこれまでも「タブレットなんて絶対に無理」と言っていたけど、実際に使い出したら「便利でもう手放せない」みたいな声はよく聞いてきました。何事も、最初に受け入れるときはハードルが高いですよね。

宮本さん:それにロボットやICTが介入してきても、人の役割が消えるわけじゃありません。正確なデータ記録はICTのほうが得意だけど、利用者のちょっとした様子や会話内容から変化を察するのは、生身の人間だからこそ感じ取れる情報で、ICTは苦手な部分です。テクノロジーと人にしかできないことをうまくミックスしていくことが重要なんです。

中浜さん:そうすれば、浮いた時間で今までよりも利用者と接する時間を長く持つことができますね

業界構造の抜本的な見直し

宮本さん:今は新しい利用者さん一人を受け入れるのに相当な手間をかけてるじゃないですか。入院していた病院から情報をFAXで受け取ったら、それを老健のシステムに手入力して、特養に行くときもまた情報を送り直して……という風に。

日本には国民皆保険制度があるんですから、一人の利用者の情報が横串で繋がっていて、施設を移っても簡単に共有できる仕組みが作られるべきだと思っています。もちろん、個人情報の安全といった部分には配慮しながら。

中浜さん:ちょっと業界的に切り込みづらい話かもしれないんですけど。情報の連携っていうと切り離せないのが各サービスを提供してるベンダーさんの存在だと思います。

宮本さん・中浜さん 取材中の様子

宮本さん:そうですね。各サービスでベンダーロックインをしていては、必要な情報が繋げられず、シームレスな連携ができません

*ベンダーロックイン…特定のベンダー(メーカー)の独自技術に依存した製品やサービス、システム等を構築したことで、ほかの製品やサービス、システム等への乗り換えが困難になること

やっぱり考えるべきは利用者のことなんです。高い保険料を集めて介護保険サービスを提供している以上、時代のニーズに合わせてサービスの形も変わっていかなくてはいけない

この課題感から生まれたのがLIFEなわけですが、まだまだ施設ごとに多種多様なサービスを利用している以上、LIFEだけが連携対応していても駄目なんです。この根幹を変えていくのは大変ですけど、今のタイミングで老健局などのトップが号令をかけるなりして、仕様の標準化を進めていかないといけないと思います。

自治体の取り組みで成否の鍵を握るのは?

中浜さん:あと気になっているのは自治体単位での取り組みです。例えば東京だとICT設備の導入補助金で数千万円が出ますし、かなり力を入れている印象です。

宮本さん:自治体は場所による差が大きいです。介護保険サービスは医療保険よりも自治体単位での役割が大きいので、積極的なところとそうじゃないところの差がすごくありますね。

例えば私たちが支援している茨城県の介護施設はそれぞれの町を挙げてITで課題解決しようって動きが起きてますし、川崎市や北九州市なんかも活発ですね。反対に東京23区でもあまりうまく動けていないところもあります。

中浜さん:自治体の規模や財源の大きさ次第ってわけでもないんですね。

宮本さん:自治体の取り組みを左右しているのは、「現場を変えていこう」という気概のあるキーパーソン的職員の存在が大きいと思います。そういった行政の担当者がいて、周囲の私たちのような関係者と組みながら推進していけるかどうかが重要ですね。

宮本さん 取材中の様子

私たち介護職員にできること

中浜さん:今回の話は業界全体や国、自治体など大きな話が中心でしたが、やっぱり気になるのは「じゃあ私たち介護職員には何ができるのか?」だと思うんですよね。そういうときに一つのヒントになるのが、宮本さんたちが主催している「スマート介護士」のような資格になってくるんでしょうか?

*スマート介護士…介護ロボットやICT機器を活用することで、介護の質と生産性の向上を実践できる介護職員であることを証明する民間資格。社会福祉法人善光会が運営する「​​サンタフェ総合研究所」が認定をおこなう。過去の受験者数は3,500人以上(宮本さん談)

宮本さん:「助成金も出るしとりあえず導入してみよう」という施設も少なくないなか、うまく活用しなくては意味がありません。このハードルをどう越えていくかと考えたとき「各介護現場でテクノロジーをうまく活用できる人たちが推進してくれたら」と思って生まれたのがスマート介護士なんです。

スマート介護士は「どんな介護ロボットを導入すれば介護の質が上がるのか」「どう利用すれば業務の効率化に役立つか」といった本質的な部分を学べるので、一番多い受験者層は介護施設で働く職員の方々です。あとは履修カリキュラムの一部としてくれている専門学校もあるので、福祉職を目指す学生さんたちにも活用されています。

中浜さん:導入したいと思っても、ただ「導入したいんです」って言うだけじゃなかなか上司はOKしてくれないことも多そうですよね。そういうとき、スマート介護士などで説得できるだけの知識を付けておくのは強みになりそうです。

中浜さん 取材中の様子

宮本さん:経営陣や同僚を説得できないという相談は一番多いかもしれないですね。やっぱり一足飛びにというのは難しいので、徐々に進めていくことが大切かと。いきなり「ロボット入れましょう!」じゃなくて、まずは自分の働く施設を分析して「そもそも何が課題になっているのか」という部分から解きほぐしていくこと。

職場にはいろいろなタイプの人がいます。でも「全部ダメ」って否定する人はいないと思うんです。その人が譲歩できる部分で少しずつ試して、徐々に効果が見えてきたらその人の考えも変わってくると思います。

中浜さん:例えばほかの施設の成功事例が自分の施設でも応用できそうだとか、見守りセンサーを入れることでこの部分の業務負担が軽くなるとか、そういうことが伝えられそうですね。

宮本さん:そうですね。日々の業務に忙殺されると、つい新しいことを避けたくなりますけど、前向きに今の働き方を否定できるようになると、業界全体としても良い方向に向かっていけるのではないかと。

宮本さん・中浜さん 取材中の様子

宮本さん:介護ロボットやICT製品の価格はまだまだ高いと思います。しかし、多くの人に使われないと価格は下がっていきません。

ここから知識を身につけて仕組みを変えていこうとする人たちが増えていけば、介護業界全体の底上げに繋がる。そうしたら流通が増えて価格も下がるし、また新しい技術やサービスが生まれる好循環ができていく。今の日本の介護現場は、まさにそのフェーズを迎える過渡期にいるんじゃないでしょうか。

読者の方へのメッセージ

道具と仲良くなるために

ICTやロボットは、介護現場からすると苦手意識があったり遠い存在に感じてしまいやすいと思います。今回の取材では、スマート介護士を通して“道具と仲良くなること”ができ、さらにそれを“横に広められる人”になれるということを改めて認識しました。
暮らしは道具で豊かになってきたと思います。現場の課題は新しいモノを組み合わせて解決することで、利用者さんにより良い暮らしを提供できるのだと思いました。

中浜 崇之 (介護福祉士) 2021/11/04

プロフィール

「なるほど!ジョブメドレー」は、医療介護求人サイト「ジョブメドレー」が運営するメディアです。医療・介護・保育・福祉・美容・ヘルスケアの仕事に就いている人や就きたい人のために、キャリアを考えるうえで役立つ情報をお届けしています。仕事や転職にまつわるご自身の経験について話を聞かせていただける方も随時募集中。詳しくは「取材協力者募集」の記事をご覧ください!
介護福祉士として特養やデイザービスで勤務、特養の施設長、デイサービスの立ち上げなどの管理職として、合計勤務経験17年。「自分らしく死ねる社会の実現」を目標に活動中。介護職の様々な垣根を越えて対話する場「介護ラボしゅう」を主宰。また福祉のポジティブな視点での発信と福祉の担い手の増加に向けて様々な活動を行い全国で講演活動や講師なども務める。

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