介護保険制度の見直しが決定
2026年6月19日、介護保険法の改正案が参議院本会議で可決・成立し、介護保険制度の見直しが決まりました。2000年の制度創設から3年に1度の改正を繰り返してきましたが、近年は有料老人ホーム運営を巡る「囲い込み」の問題や、夜間対応型訪問介護と定期巡回・随時対応型訪問介護看護のように類似したサービスの増加なども指摘されるようになりました。また、地域間でのサービス提供体制の格差も生じており、人口減少地域で必要な支援をどう届けるかが課題となっています。
今回の改正によって、施設やサービスはどう変わるのか。「有料老人ホームの囲い込み対策」「夜間対応型訪問介護の廃止」「中山間・人口減少地域対策」の3つのポイントについて、長年にわたり介護保険サービスに携わってきた専門家に話を聞きました。
話を聞いた人

特定非営利法人介護の会まつなみ理事長
峯尾 武巳さん
身体障害者療護施設、知的障害児施設、特別養護老人ホームの勤務を経て、2003年から2018年まで神奈川県立保健福祉大学にて介護福祉学を指導。現在はNPO代表として、さまざまなサービスを運営し、訪問介護も提供している。
ポイント1:有料老人ホームの“囲い込み”にメス
有料老人ホームには「介護付き」と「住宅型」の2種類があり、住宅型で介護を受けるには入居者が外部の介護事業所と契約します。しかし、施設の運営者が同一・関連法人の利用を入居条件として、運営者側の利益のために過剰な介護サービスを提供する「囲い込み」が問題視されてきました。
改正での変更点
- 有料老人ホームに登録制を導入
- 入居時に同一・関連法人の利用を条件とすることを禁止
- 居宅介護支援事業所やケアマネジャーの独立性を確保できる体制を整備
- かかりつけ医やケアマネジャーの変更強要を禁止
- 住まい事業と介護サービス等事業の会計を分離
- 登録施設介護支援を新設
──今回の介護保険法改正では、さまざまな囲い込み対策が実施されます。どのように評価していますか?
峯尾さん:今回の規制は従来よりも踏み込んだ内容となっているので、囲い込みの問題は解消に向かうと考えています。長年、なんとかしてほしい問題だったので、ようやく本格的な対策が取られて良かったです。
これまで住宅型では1階にヘルパーステーションを置いて、入居者全員を“お客さん”として囲い込むビジネスモデルが一般化していましたからね。
──囲い込みで経営を成り立たせてきた事業者は厳しくなりそうですね。
そうですね、住宅型への訪問をメインとしてきた訪問介護事業所の経営は厳しくなるでしょう。施設以外からどうやって利用者を得るか、どのように立て直しを図るかが問われます。
一方で、事業者側が同一・関連法人にならないように別の会社を作って、そこに依頼する“抜け道”も懸念されます。今後は抜け道への対策も必要になるでしょう。
──居宅介護支援事業所やケアマネジャーの独立性は担保できるのでしょうか?
すぐには難しいかもしれませんが、地域の事業者との協力が進むなかで少しずつ改善していくのではないでしょうか。ただし、最終的にはケアマネの倫理観にかかっています。外部のケアマネがケアプランを作るとしても、施設側に配慮して過剰なサービス提供を続けてしまっては意味がありません。これまで以上に利用者の立場に立つことが重要です。
──新たに創設される「登録施設介護支援」は住宅型の入居者を対象としたサービスです。これまで無料だったケアプラン作成などが、介護付きホームと同様の原則利用者負担1割に変更されます。これも囲い込み対策につながるのでしょうか?
登録施設介護支援については少し異なる視点も必要です。囲い込み対策だけなら、登録制と禁止のルールだけで十分なはずです。それでもケアプランを1割負担にするというのは、以前から議論されていた「ケアプラン有料化」への第一歩なのかなという印象を受けます。
在宅でサービスを受ける場合はケアプランの負担がないのに、有料老人ホームでは有料だという不均衡も生まれるので、今後の動向を注視する必要があります。
ポイント2:夜間対応型訪問介護が廃止
介護保険制度の見直しを繰り返した結果、サービスは充実しました。一方で、制度全体は複雑化しています。とくに夜間対応型訪問介護は定期巡回・随時対応型訪問介護看護と機能の重複が指摘されていました。
改正での変更点
- 夜間対応型訪問介護を廃止し、定期巡回・随時対応型訪問介護看護に統合
──夜間対応型訪問介護の廃止・統合をどう受け止めていますか?
夜間対応型と定期巡回の機能はほぼ同じだったので、今回の統合は増えすぎたサービスを整理する象徴的な事例だと感じています。
オンコールを受けて訪問する夜間対応型と、定期訪問と緊急対応を兼ねる定期巡回。形式は違っても、どちらもやってることは同じだったんです。
──現在の介護保険サービスは統廃合が必要なほど複雑なんですか?
もう「がんじがらめ」という状態です。コード表を見るだけでも大変なくらい種類があるんです。社会状況の変化に対応するために、細かい変更や追加を繰り返してきた結果ではありますが、将来的にはさらに整理されていくでしょう。
──夜間対応型の廃止で利用者や従業員への影響はありますか?
夜間対応型がなくなっても、定期巡回や別の枠組みで対応できるので、利用者が困る場面は少ないと思います。夜間対応型の利用者は、吸入や人工呼吸器をつけているような、医療的なニーズがある方が多いですが、定期巡回もこれらの医療的ケアに対応しています。
従業員にとっても大きな影響はないと思います。夜勤専門のスタッフを置くわけではないので、統合されても働き方は変わりません。定期巡回をおこなっている事業所にとっても、新たに夜勤担当者を増やす必要はないので負担は大きくないでしょう。
ポイント3:中山間・人口減少地域に「特定地域サービス」を創設
これまで介護サービスは、全国一律の基準に基づいて提供されてきました。しかし中山間・人口減少地域では、介護ニーズの縮小やサービスの担い手の不足などにより、事業所が運営を続けられなくなるケースが生じています。
改正介護保険法では基準の一部を緩和し、このような地域での介護サービスの維持を図ります。一方、特例を設けることが、サービスの質や職員の労働環境の低下を招くのではという懸念の声も上がっています。
改正での変更点
- 特定地域サービスでは全国一律の人員配置を緩和
- 特定地域サービスでは出来高報酬か月ごとの定額報酬を選択可能に
- 市町村が地域支援事業として居宅サービスなどを実施可能に
──特定地域サービスの創設についてはどう評価しますか?
遅いぐらいだと感じます。「制度あってサービスなし」といわれるような地域こそ、暮らしを支える仕組みが必要です。対象地域は市町村の意向が反映されますし、大小の島々や山間部などの地域を国民みんなで支えるのは当然のことで、不公平だという話ではありません。そのくらいの共通認識がなければ、地域福祉は成り立ちません。
例えば同じ東京都でも、都心部と奥多摩や青梅では訪問にかかる時間やコストは違いますよね。伊豆大島や小笠原といった島ならなおさらです。介護保険制度は全国一律とはいっても、現実には地域差があるのですから、このくらいの柔軟性があってよいと思います。
──月ごとの定額報酬も選べるようになるのですが、今の全国一律の報酬体系では対応できないのでしょうか?
限界があります。中山間地域では移動時間も移動費もかかるのに、出来高払いでは訪問回数の少ない地域は収入が上がらない。定額報酬を選択できる仕組みは、経営の予算が立てやすくなるという意味でも有効です。
──特定地域では市町村の事業として、介護サービスを提供することも可能になります。介護事業所を運営する自治体が増えるのでしょうか?
介護保険制度が始まる前は、ホームヘルパーを自治体職員として雇用していた時代もありました。民間事業者が撤退してしまった地域では、保険者である市町村が責任を持ってサービスを提供することが求められます。資本の原理では回らないところに、行政が最後まで責任を持つ。その代わり住民には負担もお願いしますということですね。
──そうなると住民側の理解や協力も必要になりますね。
そうですね。行政がいくらやろうとしても、住民が「そんな高い保険料は払いたくない」と言ったら成り立ちません。だからこそ、住民と行政がしっかり話し合って「これからの地域の暮らしをどうしていくか」を一緒に考えることが、今後の地域福祉にとって最も重要ではないでしょうか。
参考
- 厚生労働省|社会福祉法等の一部を改正する法律案の概要
- 厚生労働省|介護保険制度の見直しに関する意見
- 厚生労働省|有料老人ホームの現状と課題・論点について
- 厚生労働省|有料老人ホームにおける望ましいサービス提供のあり方に関する検討会とりまとめ