
1. 歯科医師とは?
口腔内の健康を守る、歯科に特化した医師
歯科医師は歯や顎など口腔周辺の健康を守ることに特化した医師です。
多くの歯科医師が診療所に勤務しており、いわゆる「町の歯医者さん」として、むし歯や歯周病の治療や定期健診、ブラッシングの指導などを通じて地域の人々のお口の健康を守っています。
今でこそむし歯で歯を失う人は少なくなってきましたが、日本には「むし歯の洪水状態」と呼ばれるほど口腔衛生の状態の悪い時代がありました。そこで大学の歯学科や歯科大学の定員を拡大し歯科医師を積極的に増やしてきましたが、1980年代後半には歯科医師過剰論が優勢となり、それ以降は一貫して歯科医師数の抑制が図られています。
結果的に歯科医師の数は9万人から大きく増えておらず、平均年齢も50歳を超えるなど高齢化が進んでいます。とくに男性医師は2000年代に入ってから横ばいで、増加しているのは女性医師であることがわかります。

2. 歯科医師になるには?
歯科医師免許が必要
歯科医師になるには、国家試験に合格して歯科医師免許を取得しなくてはなりません。
歯科医師国家試験を受験するには歯科大学で6年間の専門課程を修了する必要があり、さらに免許取得後も1年間の臨床研修が義務付けられています。

歯科医師国家試験の概要
歯科医師国家試験は年に一回、1月下旬または2月上旬に実施されます。
- 11月:願書等提出
- 1月下旬〜2月上旬:試験日
- 3月中旬:合格発表
歯科医師国家試験の出題数、配点、合格基準は次のとおりです。
配点 | 出題数 | 合格基準 | |
---|---|---|---|
必修問題 | 1問1点 | 80問 | 80% |
⼀般問題 | 180問 | 毎年変動 | |
臨床実地問題 | 1問3点 | 100問 | |
合計 | ─ | 360問 | ─ |
必修問題の合格基準は毎年一定で正答率が80%以上必要です。一般問題と臨床実地問題の構成は数年おきに見直されており、前回(第116回)からは領域A・Bに変更となりました。
そのほか、歯科医師国家試験に関する最新情報は厚生労働省のページからご確認ください。
>厚生労働省|資格・試験情報
歯科医師国家試験の合格率の推移
歯科医師国家試験の合格率は61〜70%台で推移しています。
第118回歯科医師国家試験の結果の詳細は次のとおりです。
受験者数 | 合格者数 | 合格率 | |
---|---|---|---|
全体 | 3,039人 | 2,136人 | 70.3% |
新卒 | 1,973人 | 1,657人 | 84.0% |
既卒 | 1,066人 | 479人 | 44.9% |
医師や看護師など人手不足から国試合格率が9割を超える医療専門職もあるなか、供給過多が指摘される歯科医師は国試合格のハードルが高めと言えます。また既卒は新卒と比較して合格率が大幅に下がるため、十分な準備が必要です。
3. 歯科医師の仕事内容
歯科疾患の治療、保健指導、健康管理が歯科医師の主な仕事です。具体的にはどのような仕事をおこなっているのか、診療科目別に解説します。
一般歯科
一般歯科では、むし歯や歯周病治療、抜歯、歯冠(クラウンやインレー)の製作や充填、義歯(差し歯、入れ歯、ブリッジ)の製作や装着など、一般的な歯科診療に広く対応しています。定期健診やスケーリング、フッ素塗布などの予防措置もおこなう、いわゆる「町の歯医者さん」です。提供するサービスは基本的に保険診療となりますが、使用する素材などによっては自費診療となるケースがあります。
小児歯科
小児歯科では、乳歯が生え始める0歳頃から永久歯に生え変わる12〜3歳頃まで、子どもの成長に合わせた歯科診療に対応しています。この時期のケアが将来的な口腔環境を左右するため、定期健診やブラッシング指導、フッ素塗布、シーラントなどの予防措置も積極的におこないます。小児矯正の場合、顎の成長を利用すれば抜歯せずに済むこともあるため、矯正を始めるタイミングとしてメリットが多いとされます。
矯正歯科
矯正歯科では、矯正装置を製作・装着することで歯並びや噛み合わせ(咬合)をきれいに整える歯列矯正に対応しています。代表的な症例に、出っ歯(上顎前突)・すきっ歯(空隙歯列)・乱ぐい歯(叢生)・受け口(反対咬合)・開咬などが挙げられます。歯並びや噛み合わせに問題があるとむし歯や歯周病になりやすくなると言われていますが、審美的な側面が強いことから基本的に自費診療となります。
審美歯科
審美歯科では、見た目の美しさを追求することを目的とした歯科診療に対応しています。セラミックを使用したクラウンやインレー、メタルボンド、ファイバーコア、ラミネートベニア、ホワイトニング、クリーニング(PMTC*など)などが該当します。これらの診療は治療を目的としないため、自費診療となります。
訪問歯科
自力での通院が困難な患者さんの自宅や入居施設を訪問し歯科診療をおこなうことを訪問歯科と呼びます。一般歯科同様、むし歯や歯周病の治療、抜歯、歯冠の修復、義歯の製作・調整・修理をおこなうほか、口腔衛生指導や摂食・嚥下リハビリテーションもおこないます。利用者の多くが75歳以上の後期高齢者であり、高齢化を背景に訪問診療に対応する歯科は増加傾向にあります。
口腔外科
口腔外科では、口腔や顎、顔面周辺の疾患に対応しています。口内炎、嚢胞、良性腫瘍、悪性腫瘍(口腔がん)、顎関節症、顎変形症、顎顔面の骨折、口唇裂口蓋裂など、対象となる疾患は数多くありますが、最も多い症例は親知らずの抜歯です。親知らずの抜歯は一般歯科でもおこなわれますが、歯が埋まっている場合、横向きに生えている場合などは、口腔外科での処置が必要となります。
4. 歯科医師の勤務先
厚生労働省の調査「医師・歯科医師・薬剤師統計」によると、歯科医師の半数以上が診療所の開設者または代表者となっていることがわかります。3割が診療所(勤務医)、1割が病院と続き、そのほかの3%には、教育機関や研究機関、行政機関、介護施設などが含まれます。

診療所
歯科医師免許を取得し臨床研修を終えたら、診療所で経験を積んだうえで分院の院長になる、独立して開業する、親族などから事業継承する、あるいは、ワークライフバランスを重視してフリーランスや非常勤(パート)の医師として活動するというキャリアパスが考えられます。診療所といっても、一般・小児など保険診療を中心に地域の患者さんを幅広く受け入れる歯科から、矯正・審美・インプラントなど自費診療に特化した歯科までさまざまのため、就業先を探す際はどんな診療に強みがあり、そこでどんな専門性を身に付けられるかという点に留意する必要があります。
病院
病院に勤務する歯科医師の多くが医育機関の附属病院、つまり大学病院に勤務しています。大学病院は教育・臨床・研究という3つの側面から歯科医療の発展を支えており、歯科医師免許取得後の臨床研修の多くが大学病院で実施されています(参考:厚生労働省)。大学病院では口腔外科・歯科麻酔科・歯科放射線科・保存科・補綴科・義歯科・インプラント科・矯正歯科・スポーツ歯科・高齢者歯科・障害者歯科・嚥下リハビリテーション科──と診療科目が細分化されています。こうした分野で専門性を深めるために研修終了後そのまま大学病院に残るパターンが多いようです。
それ以外の病院では、診療所では対応が難しい外科手術や口腔がんの治療をおこなうなどして地域医療を支えています(口腔外科)。また、高血圧や糖尿病などの基礎疾患を持つ患者さんの全身管理に携わったり(歯科麻酔科)、合併症予防のために周術期やがん治療中の患者さんに口腔ケアをおこなったり(周術期口腔機能管理)と、医科と歯科の連携が求められるシーンも多くあります。さらに付属の介護施設に訪問して歯科診療をおこなうこともあります(訪問歯科)。
そのほか
歯科疾患のメカニズムの解明や新たな治療法・材料の開発のために研究の道に、あるいは、後進の育成のために教育の道に進むことも可能です。数は少ないですが、介護施設で入居者の口腔ケアを担う方、医系技官として厚生労働省で保健医療行政に携わる方、歯科医官として自衛隊の基地や駐屯地で診療する方、歯科系メーカーで研究開発する方もいます。近年は歯科の分野でもDX(デジタルトランスフォーメーション)が進んでいることから、遠隔で歯科診療を支援するアドバイザーとして歯科医師を募集する医療ベンチャーもあるようです。
5. 歯科医師の働き方
歯科医師の一日
診療所で働く歯科医師の一日の仕事の流れはおおむね次のようになります。

歯科医師の休日
診療所に勤務する場合、休診日に合わせて週休2日となることが一般的です。土日祝日が休診日という診療所もありますが、休診日が週1日、または、ないという診療所も珍しくありません。その場合はシフトで週休2日となります。
病院に勤務する場合、日曜祝日が固定休となり、月〜土の間にシフト休をもう1日取る週休2日制が一般的です。
6. 歯科医師の給料
ジョブメドレーに掲載されている求人から歯科医師の賃金相場を算出しました。なお、残業手当など月によって支給額が変動する手当は集計対象外のため、実際に支払われる賃金はこれより多くなる可能性があります。
【全国平均】歯科医師の時給・月給・年収の相場
2024年12月時点の全国の歯科医師の時給・月給・年収の相場は次のとおりとなりました。
下限平均 |
上限平均 |
総平均 |
|
---|---|---|---|
パート・アルバイトの時給 |
3,635円 |
5,716円 |
4,331円 |
正職員の月給 |
50万7,859円 |
120万3,320円 |
79万513円 |
正職員の年収* |
711万0,026円 |
1,684万6,480円 |
1,106万7,182円 |
7. 歯科医師の将来性
需給問題が取り沙汰されて久しい歯科医師ですが、その間にも歯科診療のニーズは大きく変化しました。
食べ物を噛み砕き飲み込む、味や食感を楽しむ、発音や発声を助ける、笑顔を作る。従来から知られているとおり、生きていくうえで不可欠な機能からコミュニケーションに関わる機能まで、口腔の健康はQOLの維持や向上のために重要な役割を果たしています。
さらに近年は歯周病がさまざまな全身疾患のリスクを高めることや、周術期やがん治療中に口腔ケアをおこなうことで治療の効果を高められることがわかってきており、健康寿命の延伸や医療費の抑制の観点からも口腔衛生管理の重要性はますます高まっています。もちろん高齢化を背景に訪問診療のニーズが増えていることも見逃せません。
その一方で、現在主力となっている50代の歯科医師が引退を迎える今後10〜20年で、供給は減少することが見込まれています。需給を正確に予測することは難しいものの、多様化する歯科診療のニーズに対応するために、確かな技術を持った歯科医師が必要とされています。
参考
- e-gov法令検索|歯科医師法
- 厚生労働省|歯科医療施策
- 厚生労働省|歯科口腔保健関連情報
- 厚生労働省|歯科医師の資質向上等に関する検討会 歯科医師の需給問題に関するワーキンググループ
- 日本歯科医師会|2040年を見据えた歯科ビジョン
- 日本歯科医師会|テーマパーク8020
- 8020推進財団|Let’s 8020
- 笹田久美子『歯科医師になるには』ぺりかん社(2017年)