
1.与論島に行ってきた
2.離島薬剤師・沖さんのこれまで
3.与論島に移住したきっかけ
4.与論島での仕事・働き方
5.薬剤師 兼 観光ガイドに転身
6.与論島で暮らすということ
7.番外編〜はなアンニャーの観光ガイド〜
1.与論島に行ってきた

「間違える人が多いのですが、与論島は沖縄県ではなく鹿児島県です」と沖さん
今回、お話を伺ったのはこちらの方。
鹿児島県の与論島(よろんとう)で働く薬剤師・沖英恵(おきはなえ)さん。
沖さんが暮らす与論島は、鹿児島と沖縄のほぼ中間に位置する奄美群島の1つ。本土から約540kmの距離にある、鹿児島最南端の島です。周囲約24kmほどの小さな島には、約5,000人の住人が暮らしています。
島の気候は年間平均気温22.8度と1年を通して温暖。日差しが強く湿度も高めで、夏場は30℃を超えますが、35℃以上の猛暑となることはありません。
地元タクシーの運転手さんに聞くと、観光客のほとんどが「百合ヶ浜」を目当てに島を訪れるそうです。
春から夏にかけて、中潮から大潮の干潮時に出現するビーチは、「死ぬまでに行きたい絶景」「幻のビーチ」として話題になり、多くの観光客が訪れるようになりました。ただし、ここ1〜2年はすこし客足が落ち着いてきたとのこと。

周囲360度を海に囲まれた百合ヶ浜。グラスボートに乗って15分ほど ©ヨロン島観光協会
2019年11月時点での、与論島へのアクセス方法は主に2つ。
沖縄の那覇空港または鹿児島空港から与論空港へ向かう方法と、沖縄の那覇港または鹿児島新港発のフェリーで与論港へ向かう方法です。本州の主要空港から与論空港への直行便は出ていません。

それぞれの所要時間と料金の目安は以下のとおり。
アクセス方法 | 所要時間 | 片道料金(最安) |
飛行機(那覇→与論) | 約40分 | 9,020円〜 |
飛行機(鹿児島→与論) | 約1時間15分 | 13,400円〜 |
フェリー(那覇港→与論港) | 約4時間50分 | 4,290円〜 |
フェリー(鹿児島新港→与論港) | 約20時間 | 13,620円〜 |
※飛行機は割引なしの料金表記。航空会社やシーズンによって変動があります。
アクセス方法についてはヨロン島観光協会のホームページも参考にご覧ください。
2.離島薬剤師・沖さんのこれまで

ー初めまして。今日はちょっと風が強いですね。
沖さん:どこかお店で話せたらよかったんだけど、与論はカフェが閉まるのが早くて(笑)。16時でもダメでしたね〜。
ー夕方でも外が明るいのは意外でした。
そうですね。9月までだったら、海も20時頃まで泳げます。この「ウドノスビーチ」に来ると、仕事終わりの看護師さんが泳いでたり、学校帰りの子どもたちが崖から飛び込んでたりしています。
ー海好きには最高ですね。簡単に自己紹介をお願いできますか?
年齢は39歳です。旦那と11歳の男の子と9歳の女の子の4人暮らし。子どもは2人とも島の小学校に通ってます。
ー旦那さんは何歳ですか?
41歳です。
ー現在の職業は「薬剤師」であってます?
いや、無職ですよ(笑)。ごめんなさいね。
ー無職?
島に移住して、与論島の病院で薬剤師として働いて、いまは退職して旦那が経営するお店の手伝いをしたり、「はなアンニャー」という名前で観光ガイドをやったり、月に何回か学校薬剤師の仕事をしたりしています。

沖さんご夫婦が経営する「オーシャンマーケット 」
ー無職ではないと思います。ちなみに「はなアンニャー」ってどういう意味ですか?
与論の方言で「アンニャー = お姉さん」なんです。あとは私の名前の「はなえ」を短くして呼びやすく。
ーなるほど。沖さんはずっと薬剤師だったんですか?
薬剤師になったのは22歳のときです。当時は「薬学部4年制(※2006年から6年制に移行)」だったので、大学を卒業して、地元山口県の病院に就職。薬剤師として4年半働いてました。
ーそもそも薬剤師になろうと思ったきっかけは?
ウチの母ちゃんは保健の先生なんですけど、わたしも保健の先生にさせようと必死だったんです。そんなんキャラ的に向いてないと思ったし、人付き合いが苦手だったので。
ー人付き合いは昔から苦手ですか?
小学生のときから苦手です。あまり集団でいるのが好きではなくて、学生のときが一番キツかったなぁ。いまはだいぶマシになりましたけど。
ー観光ガイドってけっこう人と話しますよね。
旅の人は島の人が知らんこととかを知っていて、おもしろいじゃないですか。ただやっぱり気疲れはするので、いまも一生懸命喋ろうとしています(笑)。
3.与論島に移住したきっかけ

島に鉄道は通っていないが「ヨロン駅」という名のモニュメントがある
ー山口で薬剤師として働いて、なぜこの与論島に?
山口の病院の同僚が、毎年、与論島にダイビングをしに来てたんです。それに着いていったのが最初かな。
そこから年に3〜4回くらい、1人で来たり、友達を連れて来たりするようになりました。それで、だんだん通うのが面倒くさくなってきたから、「じゃあ住もうかな」みたいな(笑)。いろんな離島に行ったんですけど、結局、与論島に落ち着きました。

人気ダイビングスポットの1つ「海中宮殿」©ヨロン島観光協会

5種類のクマノミが見られる穴場スポットも ©ヨロン島観光協会
ーほかの離島と比べて、与論島のどんなところがよかったんですか?
島の感じ・人の雰囲気もちょうどよかった。本当は沖縄の与那国島(よなぐにじま)や波照間島(はてるまじま)が好きなんですけど、あのへんは薬剤師として働く場所がなかったんです。与論島はそれなりに人もいて、飛行機もちゃんと来るので。
ー都会すぎても田舎すぎてもダメなんですね。
やっぱり生活のことを考えるとね。
4.与論島での仕事・働き方

ー移住を決めた後の仕事について教えてください。
山口の病院を辞めて、与論島の老健(介護老人保健施設)で薬剤師として3ヶ月だけ働きました。
ー島の仕事はどうやって探すんですか?
与論に住んでる友達が、施設の募集を見つけてきてくれました。外来がぜんぜん来なくて、ひたすら入居者さんの薬の調剤・服薬指導をしていたんですけど、ちょうど病院から誘われたタイミングで転職しました。
ー島の病院も人手不足だったんですかね。
私のほかに、薬剤師さんが2人と助手さんが1〜2人いたと思いますけど、それで回せてたのかな?
ー前の職場と比べて仕事内容・職場の雰囲気はどうでした?
仕事内容はほとんど一緒です。ただ、同僚の薬剤師が2人とも新人さんだったので、はじめは大変でした。
ー本土(山口)の病院と島の病院で違いはありますか?
島の病院は院内処方なので、入院患者と外来患者の両方を見ないといけなくて大変でした。わたしは院外処方に慣れていたのでやりづらかったです。
ー勤務時間について教えてください。
基本は朝8時から夕方17時まで。なるべく残業をつくらないように、8時出勤以外に10時出勤の日もありました。
病院には常勤のお医者さんが1〜2人と研修医さんがいるんですけど、小児科、皮膚科、眼科、整形外科、泌尿器科、産婦人科などのお医者さんは、月に1回だけ島外の病院から来るんです。
島外のお医者さんが土日に来ることがあったら、薬剤師は台風があっても、何があっても出勤しなければいけません。院内処方だから休むわけにもいかず。オンコールだけで、夜勤がないのは助かりましたけど。
ー患者さんはどんな方が多いですか?
島の患者さんは80〜90代の高齢者がほとんど。たまに「日差しでやけどした」とか、「お腹壊した」とかいう観光客の人がきます。
ー医師が処方するのはどんな薬が多いんですか?
高血圧、糖尿病、痛風などの生活習慣病関連が多いです。
ー島の病院ではどのくらいの期間働いてましたか?
10年間正社員で働きました。その間に結婚して、子どもが2人できたので、産休を取ったりしながらですけど。
ー子育てしながらだと大変そうですね。
1人目が産まれたときにパートになりたかったんですけど、病院の状況的に難しかったので、夕方17時までの時短勤務を認めてもらいました。
ー島の病院を辞めたきっかけは?
結婚当初は「病院でずっと働くんかな」と思ってたんですけど、なかなか給料が上がらなかったり、患者さんが減っていったりして。
将来を考えたときに「何か新しいことをやりたい」「自分にできることを増やしたい」と思って、働く時間を減らしていきました。
旦那にも「これからは個人の時代だ」「自分で稼がないとダメだ」みたいなことを言われましたし。
ー給料がいくらくらいだったか覚えてますか?
よく覚えてないですね。たしか残業手当はつかなくて、島外から来たばかりの人には離島手当がついていたらしい。いまはどうなっているかわかりません。
ー離島手当って珍しいですね。日が暮れてきたので移動しましょう。
5.薬剤師 兼 観光ガイドに転身

ー沖さんのお店「オーシャンマーケット 」について教えてください。
都会で洋服屋をやっていた旦那が、島の土地と建物を買ってはじめたお店です。結婚して2人ではじめたわけではなく、わたしが島に来たときからありました。お店では食品や日用品を中心に扱っていて、去年から薬の販売をはじめたという感じです。
ー薬を置くようになったきっかけは?
近所に薬屋さんがなくて、夜に具合が悪くなったりする人がいるので置きました。「薬があると助かる」と言われます。たまに病院の処方箋を持って来ちゃう人がいるんですけど(笑)、扱っているのは一般用医薬品だけです。

島の飲食店が集まる「茶花地区」にあるため、地元の人や観光客に重宝される

営業時間は8〜24時。クレジットカードのほかpaypayや交通系の電子マネーも使用できる

与論島グッズも販売中。ステッカーは沖さんがデザインしたもの
ー病院薬剤師の経験は生かせてますか?
わからないですけど、お客さんの相談には乗ってあげられます。
ーお店にいないときは、家事などをしているんですか?
基本的にはそうですね。あとは学校薬剤師の仕事をやったり、依頼があったらガイドの仕事をやったりしています。
ー学校薬剤師ってあまり聞き慣れないんですけど。
島の小学校、中学校、高校の施設設備・環境検査をする仕事です。電気の明るさをはかったり、水道水やプールの水質を検査したりして、報告書を作成して教育委員会に提出するという感じです。
ー学校薬剤師の仕事はいつ頃からはじめたんですか?
与論島の病院で働き出したころです。もともとやっていた人に「代わりにやる?」と誘われてなんとなく。病院のシフトは減らさずに、平日に休みを取って行ってました。
ー拘束時間はどうなってるんですか?
小学校・中学校は1校につき1時間なので計4時間。それを年2回。高校は1時間で終わるんですけど、年10回あります。
ー忙しそうですけど、薬剤師資格は学校でも活かせるんですね。

与論小学校。島には高校1つ、中学校1つ、小学校3つ、保育園・幼稚園が合わせて4つある
6.与論島で暮らすということ

与論城の跡地。島内には昔ながらの平屋や多くの史跡が残されている
ーいまはどちらに住んでいるんですか?
ずっと貸家に住んでたんですけど、去年家を新しく建てました。

ご自宅の内観。英会話教室の部屋として貸し出すこともある
ーすごく綺麗なお家ですね。家を新しく建てた理由はなんですか?
昔住んでいた貸家は、おばあちゃんが1人で使っていた家なんです。3部屋+キッチンみたいな感じで、子どもが小さいうちは大丈夫でも、ずっと家族4人で暮らすのは無理。台風のときに雨漏りもすごかったので、鉄筋コンクリートの家がいいなって。
ー移住して来る人はどんな家に住むんですか?
アパートか平屋を借りて住む人が多かったんですけど、最近はもうぜんぜん空いてないんですよ。アパートは建っても移住者が多くてすぐ埋まっちゃうし、使えそうな平屋は2年前の台風でいっぱい飛んでしまいました。
ー希望者が多い場合、また建てたりしないんですか?
アパートや平屋って元を取るまでに何十年もかかるので、土地の持ち主が高齢だったりすると、もう建てないですよね。いまは台風が強くなってきているので、木造はすぐ飛んじゃいます。
ーアパートや平屋って家賃どのくらいかかるんですか?
平屋は月35,000円くらい。アパートは月50,000円くらいします。
ー家賃以外の生活費はどうですか?
食品や日用品はみんなA-corpで買っていると思いますけど、輸送費がかかるので高いです。ウチはオーシャンマーケットの食材を買って自炊しています。あとはガソリン代が高い。島の移動には軽自動車が欠かせないんですけど、1リットル当たり200円弱くらいなので。
ー移住して、また出て行く人も多いですか?
わたしのように結婚する人もいなくはないけど、独身の女性が20代後半になったら「もういい歳だし」みたいな感じで、どこかに行く人が多いかな。
ー与論島で働くこと自体はおすすめします?
海が好きな人はいいんじゃないですかね。サーフィンやダイビングがしたいという理由で移住してくる人もいるし。
いまは募集していないらしいんですけど、自分が独身だったら、派遣薬剤師をやりますね。給与も悪くないし、1年区切りでまず住んでみる。看護師さんあたりは足りなくなりそうだから、また募集するんじゃないかなって聞きました。
最初から結婚狙いでくるとたいがい失敗すると思います(笑)。
ーなかなか難しそうですね。沖さんの今後の目標はありますか?
お店やガイドを誰かにゆずって、早くリタイアしたいです(笑)。昔は旅が好きだったのに、いまはぜんぜん行けてないので。
ー正直ですね(笑)。今日はありがとうございました!!
7.番外編〜はなアンニャーの観光ガイド〜

ー観光ガイドをはじめたのはいつですか?
ちょうど去年からですね。もともと「はなアンニャー」という名前で与論島情報を発信するブログをやっていたんですけど、「tabica(タビカ)」という体験予約サービスにホスト登録して、旅行者から依頼があったらガイドをやっています。
ー離島でもガイドの需要があるんですね。
与論島はちゃんとしたガイドブックがなくて、「どこに行ったらいいかわからない」という声がけっこう多いんです。まだ始めたばかりなんですけど、今年は16組のガイドをやりました。
ーおすすめのスポットを教えてください。
やっぱり「百合ヶ浜」は人気です。最近では「マタニティフォトを撮りたい」というカップルからの依頼がありました。あとは「ヨロン駅」や島のビーチに寝っ転がって見上げる「星空ツアー」がおすすめです。

百合ヶ浜ではシュノーケリングなども楽しめる ©ヨロン島観光協会

街灯が少ないので流れ星が観察できることも ©ヨロン島観光協会
あとは『めがね』という映画が好きな人をロケ地巡りに連れて行ってあげたり。女性同士のお客さんには、島でいちばんお洒落な「くじらカフェ」を教えてあげたりしています。

2007年9月公開の映画『めがね』で登場した星砂荘 ©ヨロン島観光協会

島特産の「モリンガ麺」を使用したパスタが人気のくじらカフェ ©ヨロン島観光協会
ーありがとうございます!ビーチ以外にも見どころがたくさんですね。また島に来たらぜひ行ってみようと思います。