
1.石垣島に行ってきた
2.中国で社長→石垣島で保育士
3.石垣島でトリプルワーク
4.石垣島での悩みとお金の話
5.園長も中国から石垣島へ
6.石垣島では住む家が見つからない?
7.番外編〜石垣島おうち探訪〜
1.石垣島に行ってきた

名古屋出身のSさん(35歳)
今回取材に応じてくれたのは、石垣島の保育士・Sさん。
お仕事前に空港まで迎えに来てくれました。
Sさんが移住した石垣島は沖縄本島から南西に410km。
八重山諸島のうちの1つで、八重山諸島における商業・教育・アクセスの中心地です。
若年層の既婚率が高い沖縄県の合計特殊出生率は全国1位(厚生労働省/平成29年人口動態統計の概況)。離島ではさらに高くなる傾向にあり、移住者も多い石垣市の人口は50,000人に迫っています(2019年10月時点)。
年間平均気温は24.3℃。日差しが強く高温多湿な気候で、気温が最も下がる1月〜2月でも平均最低気温が17℃前後です。
島へのアクセスは飛行機がメイン。羽田・名古屋・大阪・福岡からは直行便が出ており、それ以外の都市からは那覇経由になります。
アクセス方法 | 所要時間 | 片道料金(最安) |
羽田空港→新石垣空港 | 約 3時間〜 | 13,500円〜 |
関西空港→新石垣空港 | 約 3時間〜 | 8,000円〜 |
名古屋空港→新石垣空港 | 約 3時間〜 | 18,000円〜 |
福岡空港→新石垣空港 | 約 2時間〜 | 19,000円〜 |
那覇空港→新石垣空港 | 約 1時間〜 | 5,000円〜 |
※料金は航空会社やシーズンによっても変動があります
2.中国で社長→石垣島で保育士

ー石垣島は11月でも日差しが強いですね。
Sさん:そうですね。紫外線は東京の倍くらい強いみたいです。
ーSさんも、こんがり焼けてますもんね。
隙あらば海で泳いでいるので。本当は色白なんですけど、こうなっちゃいました。
ー石垣島に移り住んでどれくらい経ちますか?
まだ2年半くらいですね。「ひばりの保育 石垣のいえ」という園で働いているんですが、そこのオープンに合わせて来ました。
実は保育士デビューも今の園からなので、保育士歴=石垣歴になるんです。
ー石垣島に来る前は何を?
3年半ほど中国にある車関連の会社で働いていました。
ー中国にいたんですか?
はい。蘇州というところに。
23歳の時に1度目の結婚をしたんですが、当時の妻のお父さんがその会社をやっていまして。
はじめは名古屋の本社で働いていたんですが、数年の経験を積んだ後に中国の支社を任されるようになりました。
ーえっと、ごめんなさい。「1度目の結婚」……?
あ、そうなんです。実はバツイチで、前妻との間には11歳になる子どもがいます。
ただ、僕自身は去年別の女性と結婚しまして、2月には子どもが産まれる予定です。
ーなるほど。いろいろ聞きたいところですが、一旦話を戻しましょう。つまりSさんは中国で社長をやっていたってことですか?
一応、社長というかたちになるんですかね。

中国にいた頃のSさん(中央)
ー中国で社長さん。私なんかにはイメージができないレベルなのですが、とにかく大変そうですね。
って、よく言われるんですが全然そんなことなかったですよ。
周りの人たちがすごく助けてくれましたし、ただただ楽しかったですね。
新しい文化や人に触れるのは刺激的ですし、なにより現地の料理が安くてうまかったです。
ーなぜ日本に帰ってきたのでしょうか。やっぱり経営や離婚の問題で?
いやぁ、実はそのどちらでもないんです。
簡単に言うと「これが俺のやりたいことなのかな」っていう気持ちが強くなってしまったからですね。
結婚して、流されるままに社長という立場におさまってしまったので、心の奥にずっとモヤモヤしていたものがあり。
ちなみに離婚の原因は、これ!っていう明確な理由がなく、お互いの価値観のズレのようなものが積み重なり、話し合いの末でって感じです。
ーそこからなぜ保育士に?
もともと子どもが好きだったというのはあるんですが、最初のきっかけは前妻との間に子どもができたことですね。
自分の子どもや、子どもの友達の相手をしている時間はとても楽しくて。いつかは子どもと関わる仕事がしたいなと考えるようになりました。
でも当時は「いまの仕事を辞めてまで、することじゃないな」と思っていたんです。
ー社長という立場もありますしね。
先ほどお話ししたように、それからは心にモヤモヤとしたものを抱えたまま働いていたんです。
それから離婚し、その6年後くらいに思い切って会社の引き継ぎをおこない、今に至ります。
ー保育士の資格はどうやって取得したんですか?
中国で働きながら保育士の勉強をして、日本に帰ってきたタイミングで試験を受けました。
3.石垣島でトリプルワーク

ー石垣島で保育士として働くに至った経緯は?
まず日本に帰ってきてすぐに、石垣島で1ヶ月間おこなわれる「WEBデザインの集中学習プログラム」を見つけたんです。
もともと僕は海や自然が大好きで、漠然と「南の島いいよな〜」って思っていたので、勢いで申し込んじゃいました。
ーWEBデザインにも興味があったんですか?
実はそれほどでもありませんでした(笑)。
でも、その1ヶ月間はすごく楽しくて、島のゆったりとした空気感や島民の暖かい人間性とかが気に入って、ここに住みたいなと。
そのプログラムが終わって1度名古屋に戻ってから、ジョブメドレーさんを利用して今の保育園を見つけたような……。
ーそうなんですか?ありがとうございます!働いている保育園はどんなところですか?
同グループが運営する、「ククル」というホテル内にある保育園です。いわゆる企業主導型保育園というやつですね。
先ほども少しお話ししたように、この園自体も新しくて、オープニングスタッフとして石垣島に来ました。

「ひばりの保育 石垣のいえ」がある、ホテル ククルの外観

「ひばりの保育 石垣のいえ」入り口
ー石垣島に移住する際、何かしらの制度は利用しましたか?
しましたよ。
ちょっと前までは島外から保育士が移住すると助成金が支給されたんです。
「週30時間以上かつ、2年以上勤務する」などの条件がありますし、沖縄県外からの移住か、県内からの移住かで助成金の額も変わります。
僕の場合は県外だったので50万円の支給でした。
(詳しくは石垣市公式HPをご覧ください)
ーその制度はありがたいですね。石垣島と本州とで、働き方の違いはありましたか?
僕の働き方が結構特殊なので、参考になるのかなぁ。
実は保育士だけをやっているわけではなく、他に2つの仕事があるんです。
ートリプルワークということですか?
ですね。
今の自分の働き方でいうと、朝5時から11時まではホテル ククルの朝食調理スタッフ。11時半から18時半までは保育士。19時半から0時半まではリラクゼーションサロンの整体師。
いずれも非正規なので、毎日この働き方というわけではなく、シフトによって変動します。
ーかなりハードですね。0時半まで働いて朝5時からまた勤務、ということも?
もちろんありますよ。
調理スタッフと整体師は週3〜4日くらい。保育は週5日なので、週に3日くらいはそういう働き方になりますね。
ーなぜいまの働き方に?ものすごく疲れそうです。
実は当初、「石垣のいえ」は書類審査で落とされたのですが、どうしてもここで働きたくて本社の方に直談判したんです。
そうしたら「未経験だと常勤の保育士として雇うことはできないけど、ホテルで調理スタッフもやりながら、徐々に保育の経験を積んでいくのはどう?」と打診されまして。
料理が好きだったこともあり、ホテルの調理スタッフ兼保育士というかたちで採用してもらいました。
ー結構な長時間労働になりそうですが、労働基準法とかは大丈夫でしょうか?
調理スタッフから保育園への連続勤務になる場合は、そのあたりも配慮してもらってシフトを調整しています。
ー整体師はいつから始めたんですか?
1年半ほど前からですね。
もともとマッサージを受けるのが好きだったんですが、自分でも施術できるようになりたいな、と。
知識や技術面は入社前研修でしっかりサポートしてもらえそうだったので、せっかくなら興味があることは全部やってみようと思い切ってチャレンジしました。
園長には「お前は何を目指しているんだ」と、よく言われます(笑)。
ーものすごいバイタリティだ。
飽き性なので1つのことだけをずっとやっていられなくて。
あとは、毎日海で泳ぐことでストレスを発散できているのが大きいです。

Sさんは水泳競技の大会にも出場しているという
ーそんな働き方をしているうえに、毎日泳いでるんですか?
ほぼ毎日ですね。ちょっとした隙間時間にも海で泳いでます。
例えば、朝の調理スタッフと保育園のあいだの30分とか。
オープンウォータースイムといって、海・川・湖などの自然環境で長距離を泳ぐ競技があるんですけど、その特訓も兼ねて。
ー常人なら倒れてますよ。
4.石垣島での悩みとお金の話

ー3つの仕事を合わせた、月の収入はどれくらいですか?
整体の仕事は歩合制なので多少の前後はあるんですが、平均して総支給で25万円くらいです。多い時で30万円くらいかな。
ー月の支出はどんな感じですか?
だいたいこんな感じです。家賃は嫁と折半なので、実際に僕が支払う分はこの半分ですね。

休日は趣味でサップやカヌーをやっているんですが、道具を揃えちゃえばお金はかからないし、外食もほとんどしないので支出はわりと安く抑えられています。

石垣島から竹富島までカヌーで行くこともあるそう
ー夫婦で共有のお財布を作ったりしていますか?
いえ、完全に別々です。普段の食材や日用品は、時間のある方が買っていますね。
子どもが産まれたら、子どものための貯金をしていこうねっていう話にはなっています。
ー島生活での不満や悩みはありますか?
個人的には、銭湯と温泉がないのは減点ポイントですね。大きいお風呂が大好きなので。
久米島の移住者インタビュー記事を読ませていただいたんですけど、あとの不満点は似たような感じですね。
例えば野菜が高いところとか湿気とか。
石垣島では、とくにもやしの値段が衝撃的でしたね。安くても60円くらい。ものによっては100円も超えます。節約食材だと思っていたもやしが、島では立派な高級食材です。
▼久米島の移住者インタビューはこちら!
ー男性保育士という立場で苦労したことは?
そんなにないですね。
園長も男なので仕事はしやすいです。
あ!そういえば、園長も中国から石垣島に来たんですよ。
ーえ!面白そうなので、園長先生にも会いに行きましょう。
5.園長先生も中国から石垣島へ

「ひばりの保育 石垣のいえ」の園長先生にもお話を伺いました
ー園長先生も中国から石垣島にやってきたとお伺いしました。どういった経緯で中国に?
園長:東京の保育園で15年間保育士をしていたんですが、海外の保育にも興味があったんです。それで中国の幼稚園で働き始めました。
友人が仕事で中国によく行くので、現地の話を聞く機会も多く、私にとって身近な国だったし、面白そうだなって。年収も200万円くらいに下がることがわかっていたのですが。
日本で幼稚園教諭の資格を取得していれば、向こうでも働くことができたので、難しいことは考えずに日本から出てしまいました。
ーもともと中国語は得意だったんですか?
中国語も英語もまったくと言っていいほどできませんでしたよ。
ですが、向こうでは日本語を理解できる現地スタッフと組んでクラスを受け持つので、仕事をする上での問題はなかったです。
ー中国と日本の保育に違いはありましたか?
私がいたところは日本人向けの園だったこともあり、それほど違いはありませんでした。
ただ、中国の保育はわりとしっかりとした教育をおこなうんです。そのなかで最近では、伸び伸びと育てることに重きをおいた、日本式の保育が注目されているようです。
実は来月、そういった保育の講義をおこないに深セン大学へ行ってきます。

大自然に囲まれた環境で保育をおこなえるのも石垣島の魅力
ー中国で講義…すごいですね。園長先生もこの園のオープンに合わせて石垣島に?
そうです。一応、私もオープニングスタッフになります。
3月27日に石垣島に来て、そこで初めてスタッフと顔合わせ。4月1日からの開園だったので本当にドタバタで。
毎日なにかしらの買い出しに走ってました。
ー開園にあたっての秘話などはありますか?
園のシンボルでもある、ガジュマルのモニュメントに結構お金がかかっている、というところですかね。

園の中央には目を引くガジュマルのモニュメントがある
ー具体的にはどれくらい?
具体的な金額は秘密ですが、開園資金のおよそ10分の1とだけ。
ーなかなか高そうですね。園にスタッフさんは何人いますか?
全部で12人です。うち保育士が私を含めて9人。調理スタッフが2人。事務員が1人です。
ーそのうち移住者の割合はどれくらいですか?
ほとんどが移住者ですよ。なかには移住して20年近く経つ方も。
石垣生まれ石垣育ちは、おそらく調理スタッフの2人だけかな。
ー移住者が多い職場の園長として、配慮している点や気をつけている点などありますか?
島に来ることって、海外に移住するくらいのストレスがあると思うんです。
なので、普段の悩みごとなどを相談しやすい環境づくりを意識しています。
あとは採用段階で気をつけていることがあります。
ー採用にあたっての面接は石垣島でおこなうんですか?
正社員の場合は東京の本社か石垣島で。パートスタッフさんの場合は「石垣のいえ」に見学にきて、そのまま面接というパターンが多いです。
ーそうなんですね。ちなみに採用段階で気をつけている点というのは?
「私、南の島で働くのが昔からの夢なんです!」という感じで、石垣島に対して過度な理想を抱いている方は、少し慎重に採用を進めさせていただいています。
ー理想とのギャップを感じてしまうからですか?
そうですね。以前そういう方を採用した際、本人が思い描いていた理想とのギャップがあったようで、すぐに島から出て行ってしまったんです。
やっぱり実際に島に住んでみないとわからないことも多いですし、都会と比べたら娯楽も少なく、不便に感じてしまうことも多いと思うので。
6.石垣島では住む家が見つからない?

ー園長先生自身は島生活には慣れましたか?
なんとなく中国に似ているところもあるので、違和感なく馴染めました。
自然の風景・料理・人のおおらかさなんかが通ずるところがあるなと。
ー料理もですか?
炒め物や豚肉料理が多いところとかですね。
ーなるほど。面白いですね。
まあ、距離的にも近いから当たり前なのかもしれませんね。
不満は、旅行に行きづらい点です。旅行が趣味なんですが、どこへ行くにしてもだいたい那覇を経由しなくてはいけないので。
ー島生活で困った出来事などはありましたか?
Sさん:家がしばらくなかった話が面白いんじゃないですか?
園長:あぁ、確かに。
石垣島ってアパートやマンションの物件がほんとに見つからないんですよ。
ネットに情報があがっても、一瞬で他の人に契約されちゃうんです。
私はまずこっちに来て、我々のグループ会社で運営するゲストハウスに泊まらさせてもらいながら、契約できる部屋を悠長に探していたんですが、全然見つからず。
結局、1ヶ月間以上ゲストハウス生活でした(笑)。
ーでは、どうやって住む部屋を見つけるんですか?
不動産屋さんに直接行って、空いているところか空く予定のところを教えてもらいますね。
じゃないと間に合わない。
ーSさんも今のお部屋を探すのに苦労しましたか?
Sさん:しましたね。
僕の場合は、空く予定の部屋を事前契約していたので内見もできませんでした。
でも築浅ですし、結構満足してます。
ーもしよければ、後ほど見させていただいてもいいですか?
ぜひ来てください。嫁もいると思うので。
ーありがとうございます!では最後に、今後やってみたいことがあれば教えてください。
Sさん:将来的には何かしらで独立したいなと。
なんとなく面白そうだなと思っているのは、保育や観光ガイドなどもおこなう、民宿のようなファミリー向けの宿泊施設。経験を活かして、マッサージなんかも提供できたら楽しそうかなって。
僕は「家族」という単位が好きなんです。なので、子どもからおじいちゃんおばあちゃんまで、家族単位で幸せを提供できることってなにかなと考えています。

「親と子ども、どちらの幸せが欠けてもダメなんです」とSさん
ー園長先生はどうですか?
園長:保育園という業務上、難しいところもあるんですが、保育園同士ないし保育園と地域の横の繋がりをもっと構築したいなと。
何をするにしても、1つの保育園だけだと限界があるんです。でもそうじゃなくて、ほかの保育園や地域全体を巻き込むことで、もっともっと大きなことができるかなと。
なので、今はそういった関係性を構築できるよう動きながら、面白そうな企画を考えています。
7.番外編〜石垣島おうち探訪〜

素敵な奥さんとお出迎え
ー急にすみません。お邪魔します。
S夫妻:どうぞどうぞ。
ーおしゃれなおうちですね。
Sさん:ありがとうございます。築5年くらいなので、まだ建物自体も綺麗なんです。

※ご自宅は本人の許可のもと掲載しています
ーお家賃はどれくらいでしたっけ?
共益費と駐車場2台分を合わせて98,000円。間取りは3LDKです。
ー家具などにもこだわりが感じられますね。
インテリアは嫁の趣味ですね。
ー奥さんは今妊娠されてるんですよね?お仕事はまだされていますか?
奥さん:仕事は小学校のALTの仕事をしています。英語の授業の補助ですね。
あと最近は、石垣島の天然素材を使った「MAKANA」というブランド名のオーガニック石鹸を作っていて、WEBサイトや島内のセレクトショップで販売しています。

奥さん自作のオーガニック石鹸「MAKANA」。自作とは思えないほどクオリティが高い
ー旦那さんの働き方を見ていて心配になりませんか?体を壊しそうだなとか。
奥さん:たしかにちょっと心配な部分もありますが、本人が楽しそうなのでいいかなと。
Sさん:でも、子どもが産まれたらさすがにこんな生活もしていられないなと思ってます。
自分の中で働き方改革をしようと思案中です。

ーなんだか空気感が似ている、いいご夫婦ですね。本日は以上になります。ありがとうございました!
S夫妻:こちらこそありがとうございました。ぜひ、また遊びに来てくださいね。
あ、サーターアンダギー持っていってください!

美味しいサーターアンダギーごちそうさまでした