
1.久米島の概要

今回取材したのは、こちらの方。久米島の薬剤師・草間あゆみさんです。
草間さんが移住した久米島は、沖縄本島から西へさらに約100km。約8,000人の住民が暮らす、沖縄諸島で最西端に位置する島です。
2019年12月時点での、久米島へのアクセス方法は主に2つ。
那覇の泊港(とまりん)からフェリーに乗船する方法と、飛行機で那覇空港から久米島空港へと向かう方法です。
また夏休みシーズン(7月〜8月)のみ、羽田空港から久米島空港への直行便が出ています。
アクセス方法 | 所要時間 | 片道料金 |
フェリー(泊港→兼城港) | 約 3時間 | 大人 3,450円 |
飛行機(那覇→久米島) | 約 30分 | 約 13,000円 |
飛行機(羽田→久米島) ※夏季限定 | 約 2時間30分 | 約 50,000円 |
※割引なしの料金表記(2019年12月時点)。また航空会社やシーズンによっても料金の変動があります。
2. 10年間働いた総合病院をやめて久米島へ

—今日は仕事終わりで疲れているなか、お時間いただきありがとうございます!
草間さん:いえいえ。よろしくお願いします。
—久米島でのお仕事の話や生活の話を聞けたらなと思っています。よろしくお願いします。
こちらこそー。
—草間さんは久米島に移住してどれくらい経ちますか?
去年の9月末に来たので1年ちょっとかな。
—久米島に来る前のお仕事は何を?
地元の山口県にある総合病院で病院薬剤師を10年ほど。
そこは3次救急までやっている県立病院だったので、県内では大きい病院でした。
大きな病院でいろんなことを経験したかったので、そこで働き始めました。
—そもそも、なぜ薬剤師に?
これがね~、実はもともと全く薬剤師になる気がなくて。たまたま薬学部に受かったからっていう理由で薬剤師になりました。
—薬剤師になる気がなかったのに薬学部を受験したってことですか?
もともと医者になりたくて医学部を受けたけど落ちちゃって。その時に滑り止めで受けていた薬学部に合格したから行ったんですよね。
薬剤師は資格職だし、医療にも関われるしいいかなって。
なので大学に入るまでは、薬剤師の詳しい仕事内容とか全然知りませんでした(笑)。

—10年間総合病院に務めていたとなるとポジション的にも安定していたかと思うんですけど、どうして久米島に来たんですか?
たしかにやめるときには中堅くらいになっていましたね。
でも体調崩したのもあって、そろそろ区切りをつけてゆっくりしてみようかなと思ったんですよ。次は、趣味のダイビングと仕事を半々くらいで楽しめるような働き方をしたいなと思ってスパっとやめてしまいました。
だから別に嫌になってやめたわけではないですよ!本当に前の職場はとても好きな職場で、今でも地元帰ったときに休憩時間をねらってお邪魔して、いろんな方とおしゃべりさせてもらっています。この前の帰省時には久しぶりに同期と一緒に飲みに行ってきました。
—移住前からダイビングが好きだったんですね。
7年前に職場の子が誘ってくれたのがきっかけです。それからちょこちょこ潜っていました。
—退職後はすぐに久米島へ?
いえ、やめた後すぐに久米島に来たわけではなくて、1年半くらいゆっくりと旅行や趣味を楽しみながら過ごしてました。
愛車でのドライブ旅が好きだったので、知り合いの方からお誘いを受けた学会や勉強会などが遠方であったときには、前後1週間くらいかけてその周辺地域をゆっくりのんびりと旅してました。
おかげさまで三重、和歌山、京都など関西や四国の離島までいろいろ行きましたね~。

「この頃は旅行ばかりしていましたね〜」と草間さん
—ゆっくりとした日々を送っていたんですね。
無職だったので(笑)。
それで治療がひと段落ついたので「そろそろ働こうかな」と思い、離島での生活も視野に入れて就活を始めました。
海が綺麗で暖かくてのんびりとしたところで働きたいなって思っていたので、最初は「薬剤師 離島」とかで検索していました。
—その頃には離島に目をつけていたんですね。
就活の一環で、最初は宮古島に行ってみました。
やっぱり島の空気感とか雰囲気とか、自分が働いていけるかなっていうのをちゃんと目で見て確かめたかったので実際に行ってみたんです。
宮古島の旅先で、お酒を飲みながら地元の方とお話ししていると「仕事はあるかもしれないけど住む場所は……」みたいな雰囲気で。
—いま宮古島に移住者が急増していて”宮古島バブル”が起こっているってテレビで見ました。
そうなんです!それに私からしたら少し都会過ぎたのもあったかなぁ。
外国人観光客も多かったから、もう少し田舎のほうにしたいなと思っていました。
じゃあ次はどうしようと考えながら「沖縄 離島 薬剤師」で検索したら久米島が出てきて。
—そこで久米島を知ったと。
当初は場所もわからないし、島自体も全然知りませんでした(笑)。
調べてみたらダイビングスポットとして有名らしいし、診療科目も多い公立病院もあるから興味が出てきて。それで宮古島同様、久米島にも来てみて、また飲み歩きをしました。
そこで一緒に飲んでくれた方が、いま働いている「たいよう薬局」の社長と知り合いで「せっかくだから会って帰ったらいいさー」ってすぐにアポを取ってくれたんです。
旅行で来ていたからネイルもしていたし服装も私服にサンダルだったんだけど、そのまま社長と会うことになりました。
—いきなり社長面接が始まったんですね。
結果的にそれが面接になってしまいましたね。
—社長さんとはどんな話をしたか覚えていますか。
療養中なので最初はパートとして週3~4日で働きたいこと。いずれは週5日のフルタイムで働いていきたいということを伝えました。
その場でメールアドレスとかLINEも交換して面接は終わりました。
—合否の結果は地元に戻られたあとで届いたんですか?
ちょっと当時のメールを見返しますね……。

えっと、面接をした2日後にはこれからの書類準備の話していますね。「職場のみんなと話し合って採用が決まりました。いつから来れますか?」って。履歴書もその時は用意していなかったので、後日送りました。
—かなりスピーディーですね。
スピーディーに決めていただきましたね。
もともと求人募集していることはネットで確認していたんですけど、まさか旅行先で社長面接を受けられるとは思っていませんでした。島の小さなコミュニティならではって感じですよね。
3.久米島を支える島唯一の薬局

草間さんの働く「たいよう薬局 本店」
—いま働いている薬局は、何名のスタッフが働いてますか?
島内に2店舗あって、公立久米島病院前にある本店には薬剤師が6人、事務の方は常時3~4人いますね。
診療所前にある店舗には薬剤師が1~2人いて事務の方は1人かな。
やっぱり公立病院は島内唯一の病院ってこともあって患者さんの数も多いですね。

島唯一の病院「公立久米島病院」の外観
—大体どのくらいの患者数なんですか?
多い時は1日200人を超えますよ。
—え、そんなに来るんですね。
平均したら100~150人くらいかな。毎日コンスタントに来ますよ。
ー来られる患者さんはどんな症状が多いですか?
やっぱりご高齢の方が多いので生活習慣病がメインですね。高血圧、糖尿病、痛風とか。
あとは整形外科関連で湿布を貰いに来る方とか。久米島は出生率が高く子どもが多いので、小児の患者さんも結構います。
診療科目が多い病院なので薬の数はめちゃくちゃ多いと思います。自分も総合病院勤務だったので結構多くの薬に触れていたけど、島の調剤薬局でもこんなにたくさんの薬を扱うんだって驚きましたね。

「一人ひとりに寄り添った業務を心がけている」と草間さん
—たいよう薬局がなくなったら島は大混乱ですね。
そうですね、大変だと思います。
—ちなみに薬も船で運ばれてくるんですか?
船と飛行機ですね。重たいものは船だけど、基本的には飛行機で運ばれてくることが多いと思います。毎日運ばれてきますよ。

那覇と久米島を繋ぐフェリーは1日2便出ている
—毎日ですか!すごいですね!
なので患者さんには申し訳ないんですが、台風とか来ると不足することもあります。船の場合は台風じゃなくても海が荒れたら欠航になってしまいますしね。
—薬が不足することもあるんですね。
なるべくゼロになることはしたくないけど、こればかりは防ぎようがなくて。例えば2ヶ月分ほど薬を渡さなきゃいけない患者さんがいるときは、とりあえず数日~1週間など可能な分だけお渡しして、残りは「後日準備できたらご連絡します」っていう感じで対応しています。島の薬局ならではですよね。
—臨機応変な対応が求められますね。草間さんは、いまもパートとして働いているんですか?
いままでパートだったんですが、12月からは契約社員になりました。正社員のほかにもいろいろなスタイルの働き方をした薬剤師がいますよー。
—いろいろなスタイルというと?
パートタイムや契約社員のほか、派遣さんとかがスポットで来てくれることが多いですね。
薬剤師が少ない時期とか忙しいシーズンに、1ヶ月~3ヶ月程度の短期間で働いてもらうなど。
—久米島に来る前に勉強しておいて良かったことはありますか?
小児アレルギーエデュケーターという資格は取得しておいてよかったなって思います。
子どもが好きで、前の職場ではずっと小児科を担当させてもらっていて、その時のドクターに勧められて取得しました。
—どんな資格なんですか?
看護師、薬剤師、管理栄養士を対象としたアレルギー専門メディカルスタッフの認定制度です。取得者は全国でもまだ500人くらいで、薬剤師で取得しているのは50人ちょっと。
主に気管支喘息、アトピー性皮膚炎、食物アレルギーの子どもやご家族に関わっていきます。
アレルギーは慢性疾患だから風邪のように短期間ですぐ治ってしまうものではないんですよね。だから治療に対して長い目で患者さんや患者さんのご家族に寄り添ったサポートをしていくことが必要になってくるんです。
そこを忙しいドクターの代わりに、資格を持った私たちが協働してサポートしていくための資格です。

—島でも喘息やアレルギーを持った子どもが多いですか。
多いと思いますね。
ただ、いままでは私自身、調剤薬局という初めての環境でどれだけ時間をかけて患者さんと接してよいのかわからない部分があって、あまり資格を活かしきれていませんでした。
働き始めて1年経って少し仕事にも慣れてきたので、これからは少しずつでもこの知識を活かせていけたらなって思っています。
—観光パンフレットにも「アレルギーをもった観光客の方に配慮した料理を出すホテルがありますよ」って書かれていることをよく見かけます。
そうなんです。だから島の方だけじゃなく観光客の方にも目を向けて、観光協会や町役場でも必要とされればぜひ関わりたいなって。これだけ島の皆さんによくしてもらっているので、なにか恩返しをしたいなと。
—いい話だ……。
ありがとうございます(笑)。
4.島の薬剤師さんのお金事情

—いい話の後にこんな質問をするのは大変恐縮なのですが、ずばり移住前といまの給料でどのくらい変わりましたか?
実は上がっているんですよ!前の職場で正社員だった時よりも上がってる。
—こんなこというのもなんですが、少し意外でした……。
以前の職場は県立病院だったので、地方上級公務員の給料ベースだったんです。なので、安定はしていましたが昇給はゆっくりでした。
病院薬剤師で10年働いていましたが、いまのほうがありがたいことにすごくいい待遇をうけています。
ーそうなんですね。業務の忙しさはどうでしょう?
これを言ったら結構びっくりされるんですけど、仕事は同じくらい忙しいですね。よく島で働いているって言うと、のんびりしてるんじゃないかって思われるんですよ。Dr.コトー診療所みたいなイメージで(笑)。
でも受けている処方せん枚数や患者さんの数を伝えると内地と変わらないねって言われます。
—たしかに、ゆったりしているイメージでした。残業もあるんですか?
今はほとんどありません。どうしても季節や患者さんの数によっては残業する時もありますが、なるべく定時帰宅を目指してみんなで頑張っています。
おかげさまでアフターものんびり過ごす事ができていますね。
—週5勤務はいつから始めましたか?
今年の1月からです。体調も整って、ドクターの許可も出たので仕事もプライベートも制限なしに過ごしてます。
オフの日にはダイビングを思いっきり楽しんでいますし、10月には久米島マラソンの10キロの部にも挑戦して無事完走してきました。
—理想の生活にたどり着いたんですね。
やっとですねー。
—家賃とか生活費とかってどんなふうに振り分けてますか。
これがねー、おうちは会社が用意してくれて家賃も全額負担してくれています。
—えー!羨ましいです!
ちなみに車も会社が準備してくれていました。
—至れり尽くせりですね。ちなみに、いま住んでいる部屋ってどんな感じですか?間取り図書いてもらえます?
ちょっとカンペ見ながら書いていいですかね。

……書けました!
こんな感じのシンプルな1ルームのアパートですよ。一応写真もあるので送りますね。


—結構広いお部屋ですねー。すごい福利厚生だなぁ……。
交通費は出せないよって言われたんですけど、車を支給されたら全然問題ないと思って。
だから生活に必要なお金はガソリン代と光熱費だけですね。あとは食費や雑費など諸々。
—貯金もしやすそうですね。
ありがたいことに!趣味も楽しませてもらってます。
—趣味というとダイビング以外にも?
お酒ですね。この前、地元に帰ったときも山口の地酒をたくさん買ってきましたよ。

草間さんの部屋の一角に設けられたお酒コーナーには地元の銘酒が取り揃えられている
—お家にお酒コーナーがちゃんとある。
週7で晩酌していますよ。本当好きなんですよねー。
—夜はお酒、休日はダイビングって感じですか?
そうですね。趣味だった旅行もあまりしなくなりました。久米島全体がダイビングスポットとして本当に魅力的なので。
沖縄本島でも潜りましたけど「あ、これ久米島でも見れる」って思っちゃって。ほかのツアー参加者の方にどうぞどうぞーって譲ってました。そのくらい目が肥えちゃいましたね。この前はウミガメと泳ぎましたよー。

—すごくきれいですね。
本当に。スマホの画像フォルダも海の写真ばっかり。
—いやー、恵まれた環境ですよね。
本当に待遇はいいと思います。帰省した時に元同期とかに話すとめちゃくちゃ羨ましがられますよ。「えー、私もやめて久米島に行こうかなぁ」って言ってました、みんな(笑)。
5.小さな島だからこそ支え合う

—移住する前に心配だったことってありますか。
移住前に旅行で来ていたから島の雰囲気は知っていたし、旅行の時に知り合った方とかいたから何とかなるかなぁと。
—じゃあ、もうそんなにも心配なく?
そうですね。それほど心配してなかった気がします。仕事でブランクがあったのでちゃんと働けるかなっていうのはありましたけど。
まぁ実際住んでみてダメだと思ったら帰ればいいやって考えていましたね。親にも「ダメだったら無理しなくていいんじゃない」と言われていましたし。
—実際に住んでみて困ったこととかはありますか。
あんまりないかな……。とくにないよね。なにかあるかなぁ…。
—もしかして何もない?
んー……。あー!コンタクトレンズ!
眼科の先生が公立病院に来ているけどコンタクトはやっていなんです。ドラモリでも売ってますが、私はすごく目が悪いのでドラッグストアでは怖くてまだ買ったことがありません。
だから沖縄本島とか福岡に行くときに買わなきゃいけないので少し困ってますね。
ただ、大体のものはネットから買うことが出来るので困ることは少ないと思いますよ。私はアナログ人間なので、島に来てまだ1回しかネットショッピングしたことがないんですけどね……(笑)。
—え、1回だけ? 何を買ったんですか?
「TG−6」っていうダイビングするときに使うカメラを買い替えました。でもそれだけ。本当に物欲がなくて……。

「TG−6」で撮影したダイビング風景
—ちなみに台風で困ったことはありましたか。
あー、すごかったですよ!移住してきた最初の2週間、連続で台風が久米島に直撃しました。
—さっそく洗礼をうけたんですね。
移住してきた最初の10日間くらい、アパートに空きがなかったので民宿に泊まっていたんですけど、その時めちゃくちゃでかい台風が来たと思ったら、その1週間後にまたでかい台風が来て……。
民宿の人も「こんなにでかい台風は久しぶり」って言ってました。
—そういう時に島の人が近くにいてくれると心強いですよね。
まだ台風のことそんなに知らないから、食料難になるとかも知らなくて。でも民宿だからご飯を出してもらえたし、人がいるっていう安心感がありましたね。
—私も久米島に来て半年ほどですが、島の人の優しさにいつも助けられています。
本当にそうですよね。優しくてあったかい人が多いと思います。飲んでいたら「おいでおいでー」って誘ってくれたり。
それにやっぱり、緑や綺麗なビーチに囲まれて過ごすからか、心は常にゆったりと過ごせています。

久米島の名所「はての浜」は、砂浜だけでできた美しい島
—最後に離島で働きたいと思っている人にアドバイスしたいことなどはありますか
私が島に来るときに社長からいただいた言葉なんですが、「仕事だけをするために移住するのではなく、仕事以外での自分の居場所ややりたいことを見つけてください」と。
仕事がうまくいっているときはいいんです。やっぱり狭いコミュニティだからこそ、何かつまづいた時とかに発散できる場所が大切になってきますね。
ただ島には娯楽が少ないので、何もないところでボーっとしていても苦にならないスキルも大事だと思いますよ。
私にはダイビングがあるし、車で島一周ドライブしながら景色のいい場所を見つけて1人で眺めるのもすごく好きで。だから島に来ても大丈夫だったなって自信になったんですよね。
—今日はいろんなお話きかせていただきありがとうございました。次は美味しいお酒を飲む会をぜひやりましょう!
ぜひ!じゃあ日本酒持っていきますね!