【コロナ禍インタビュー】歯科衛生士 33歳 女性の場合

新型コロナウイルスの流行が医療や福祉、美容関係の仕事に就いている方にどのような影響を与えているのか、当事者の声を聞くインタビュー企画。今回は、新卒入社後10年以上同じ歯科医院で勤める歯科衛生士のSさんです。歯科医院の徹底した感染対策や、小さなお子さん2人を育てながら医療従事者として働くことの葛藤について伺いました。

コロナ禍インタビュー 歯科衛生士 33歳 女性

お話を伺ったのは、勤続13年目のワーキングママ

コロナ禍インタビュー 歯科衛生士 33歳 女性

取材はオンラインにておこないました。

──本日はよろしくお願いします! まず簡単にプロフィールを教えていただけますか?

埼玉県在住で、夫と子ども2人、家族4人で暮らしています。

年は33歳で、衛生士の専門学校を卒業したあと、今勤めている歯科医院に新卒入社しました。もう勤めて13年になりますね。

昨年末までは常勤で働いていたんですが、今年(2021年)に入ってからはパートに切り替えています。

歯科衛生士Sさんの経歴

──なぜパートに?

子どもを育てながら常勤で働くのが大変で。今の職場は家から遠いので、もともと新型コロナウイルスが流行る前から、近くの歯科医院に転職しようかと考えていたんです。

その矢先にコロナが流行りだしてしまって、この状況で転職活動できるのかな……と思いながら院長に相談したら、「もうちょっとうちで続けてみたら?」と言ってもらえたんです。

それまで月160時間(1日8時間)勤務だったところ、月120時間(1日6時間)勤務に減らして続けることになりました。

──なるほど。それにしても10年以上同じ職場ってすごいですね!

私もこんなに長く勤めるとは思わなかったです(笑)。院長もスタッフも、みんなすごく人が良くて。

──どういう経緯で入社されたんですか?

専門学校に来ていた求人から選んだ医院なんです。実際に見学に行ったら、新規オープンで内装も綺麗でしたし、なにより当時の院長先生が歯科衛生士の役割について熱弁してくれたのに感動したんですよね。

当時は歯科助手が歯石を取ってしまうような医院もなかにはあったんですが、うちでは歯科医師、歯科衛生士、歯科助手の役割が明らかだったし、「歯科衛生士は資格を活かしてどんどんチャレンジしていってほしい!」と言ってくれて。「ここで歯科衛生士として輝きたい!」と思って選考を受けて、今に至る……という感じです。

──院長先生の魅力が大きかったんですね。現在のスタッフは何名体制ですか?

ドクターが2人、歯科衛生士が4人、歯科助手1人、受付2人ですね。

──患者さんはどんな方が多いですか?

周りが住宅街なので年齢層は幅広いです。幼稚園児からおじいちゃんおばあちゃんまで来てくださってますね。

──主な診療科目は?

一般診療、小児歯科、口腔外科、審美歯科をおこなっています。内訳は、保険診療が8割、自費診療が2割くらいです。

──ありがとうございます。では続いて、新型コロナウイルスが流行してからの話を教えてください。

新型コロナウイルスが歯科医院に与えた影響

歯科衛生士Sさんの仕事道具

Sさんの仕事道具

──コロナが流行し始めて、来院数に変化はありましたか?

それが、患者さんの入り具合はそんなに変わってないんですよね。正直、緊急事態宣言が出たらもっと患者さんは来なくなるんじゃないかと思ってたんですけど。

1回目の緊急事態宣言では、うちの医院は通常20時終わりのところを18時までの時短営業にしてました。周りの医院では休診するところもあって、他院に通っている患者さんが代わりにうちに来ることで普段より慌ただしくも感じましたね。

──逆に忙しくなってしまったんですね。緊急事態宣言中、診療内容に変化はありましたか?

ありました。宣言が出ている間は、健診などの緊急性が低い診療はお控えいただくようにお願いしてました。詰め物が取れてしまったり、腫れて痛いなどの緊急性の高いものだけを対応するようになりました。

緊急性の高い方が多くなると、その分治療が中心となって大変でしたね。

──消毒などの作業が増えることで、診療にかけられる時間が短くなってしまうことは?

うちは以前からユニットの消毒とかを結構しっかりやっていたので、それほど大きく作業量が増えて困ってしまうことはなかったです。

診察室や待合室の椅子、ドアの取っ手などはこまめに消毒。歯を削って型取りするための印象材などにも専用の除菌スプレーをかけるようになりました。

ただ、午前の診療終わりと一日の終わりの片付けのときにより徹底して清掃するので、その分お昼休憩の時間が短くなったり、帰宅時間が遅くなったりはしましたね。これは今でも続いています。

──感染対策として消毒以外でおこなっていることはありますか?

パーテーションを挟んで受付したり、待合室の椅子は2メートルの間隔が空くように配置したり、患者さん同士が密にならないようにお会計や診察に入るタイミングを調整したりしています。

患者さんが来院されたときには、手指消毒と検温、アンケート記入のお願いを。検温で37.5度以上ある方には、解熱後2週間は間を空けてもらい、体調が落ち着いたらご予約を取っていただくようお願いしてます。

──「アンケート」というのは?

「最近ライブ会場等に行きましたか」と質問するアンケートです。感染の疑いがないかを確認してから診療するようにしています。

でも皆さんそういった場所には行かないようにされてるので、基本的にはアンケートの回答によって診療をお断りしたケースはなかったですね。

──もし熱もあって虫歯が痛くてすぐに治療してほしいという方が来たら、どういう対応になるんでしょうか?

37.5度以上の発熱で虫歯の痛みが酷いからと来院される患者さんはこれまでいらっしゃらなかったです。ただ、咳が出ている方や、1週間以内に発熱があって今は下熱しているけど「どうしても診てほしい!」という方は何名かいました。

その際は緊急ということで、通常よりもさらに徹底した感染対策をして診療しました。ドクターや衛生士が触れる所に専用のテープを貼って直接器具に触れないようにしたり、使った器具の消毒滅菌も普段はやらない薬液消毒を追加します。

お会計についても、普通は受付でやりますがそのときに限っては診察室でお会計をして、できるだけほかの患者さんとの接触がないようにしました。使用した診察室はもちろん、十分に換気されるまでは使いません。

歯科医院の新型コロナウイルス感染対策 患者編

──なるほど。スタッフ側の対策はどうですか?

感染対策の服装をより徹底するようになりました。今までは制服にマスクとゴーグルだけだったんですけど、コロナウイルスが流行ってからはビニールエプロンディスポーザブル(使い捨て)の帽子も着けるようになって、完全防備です。

ビニールエプロンに熱がこもるので、夏は暑さで本当に参りました! 患者さんがいるのでエアコンの温度を下げるのにも限界があって、汗だくになりながら診療してましたね。衛生士は結構バタバタと動き回るので、常にサウナ状態みたいな。それもあってか去年の夏は痩せましたね(笑)。

──痩せるまで! 熱中症にならないか心配です……。

ほんとそうですよね。あとは、エアロゾル感染や空気感染を防ぐために「口腔外バキューム」を導入するようになりました。

歯を削るときに水しぶきがたくさん飛ぶんですが、もしその患者さんがコロナに罹患していて、ドクターや衛生士がそれを吸い込んでしまうと感染の恐れがあるんですね。

口腔外バキュームは大きなメガホンみたいな形をしていて、霧状の水しぶきを吸い込んでくれるんです。

──かなり徹底されてますね。ほかの歯科医院でもこれくらいの対策はされているんでしょうか?

いえ、医院ごとの差はあると思います。家の近くの歯科医院では、ゴーグルも帽子もビニールエプロンもなしでやっているようなので。

──そうなんですね。働く側としては、Sさんの職場くらい徹底されていたほうが安心ですか?

うーん……正直、夏場はめまいがするくらい暑かったので、処置内容に応じてエプロンを着けるのでも良かったんじゃないかなと思いました。

でも医院が決めた内容でしたし、去年の夏ごろは今よりも未知のウイルス感が強かったので、自分が罹患しないことを第一に考えて着用するようにしました。

私が媒介者になって家族やスタッフ、患者さんにうつしてしまっては大変なので。身を守るためにできるだけのことはやろうって考えるようになりましたね。

歯科医院の新型コロナウイルス感染対策 スタッフ編

──患者さんとの接し方にも変化はありましたか?

患者さんから声をかけてもらうことが増えましたね! ニュースで「コロナ感染リスクが高い職業」として歯科衛生士や歯科医師が取り上げられていたので「あなたも体に気をつけてね」と気にかけていただくことが増えて。

みんな人付き合いが減ったことで会話すること自体も減っているから、「歯医者での会話がすごく嬉しい」と言われたこともあって。それにはじんわりしちゃいましたね。

──人とのつながりについて再認識するきっかけになりましたよね。でも一方で、来院することに不安を感じる方もいたのでは?

そうですね。「通院を続けていいのかわからない」と相談される患者さんは増えました。

なので治療状況を見ながら「次の来院まで期間が空いても大丈夫ですよ」とか「次は詰め物を入れるからここまで終わらせましょう」とか、その方に合わせた提案をするように心がけてます。

──2021年1月から2回目の緊急事態宣言が発令されていますが、1回目と比べて変化はありますか?

それほど影響は出てないですね。1回目の宣言で休診していた医院さんも今回は営業されているので、他院の患者さんが来て忙しくなるということはないです。診療内容も緊急性の高いものに限定しないで、健診なども通常どおり受け付けてます。

ただ宣言前にされた来院予約をキャンセルする方は何名かいらっしゃいますね。

給与とボーナス、待遇面での変化

歯科衛生士Sさん 診察イメージ

──給与などの待遇面での変化はありましたか?

お給料は変化なしです。時短営業で総勤務時間が短くなっても、保障があったので助かりました。

これはパートになる前のお給料ですが、住宅手当や通勤手当を含めた総支給で20万円です。

──ボーナスはどうでしたか?

ボーナスは減りましたね……。たしか「気持ち出します」という感じで、寸志として出されたのかな?

もともと育休明けでちょっと少なめなんですけど、さらに5万円くらい減っちゃいましたね。

──それは医院全体の売り上げが下がってしまったからですか?

「新型コロナウイルスのため」と書かれていたので、そうなのかなと。

──医療従事者に国から支給される慰労金がありましたが、受け取りましたか?

受け取りました。金額は5万円で、家で過ごす時間が充実するように、食料品や家族で遊べるテーブルゲームの購入に使いました。

あとは頂き先が定かじゃないんですが、マスクやビニールエプロン、フェイスガードなどの支援物資も医院に届いたので、活用させてもらっています。

医療従事者であり母親であることの葛藤

歯科衛生士Sさん

──続いて、生活面で変わったことがあれば教えてください。

帰宅したら、手洗いうがいのあとにすぐお風呂に入るようになりました。洋服も着たら毎回洗濯するし、家の中にも手指の消毒剤を置いたり、手が触れる部分はまめに消毒したりしています。

子どもがまだ小さくてすぐ熱を出してしまうので、そのときは家の中でもマスクやマウスガードを着けて過ごすし、インフルエンザの予防接種も家族みんなで受けて……いろいろと気をつけて暮らすようになりましたね。

──緊急事態宣言中、お子さんの保育園はどうなりましたか?

1回目の緊急事態宣言中は、親としてつらい思いをしました。

基本的に登園はできず、各家庭で過ごすように園から保護者に通達が来たみたいなんです。でも私は医療従事者ということでその連絡は来なくて、子どもを預けることができたんですね。

そしたら娘から「友だちがいない」「楽しくないから保育園行きたくない」って言われてしまって。本来20〜30人いるクラスなのに、娘とあと1人男の子が来ていただけだったんです。ちなみにその男の子のお母さんも医療従事者で、看護師でした。

感染リスクがゼロではない保育園に寂しがる子どもを預けて、自分もリスクを負いながら働いて……「これは私が今やらないといけないことなのか」「ここまでして働く意味はあるのか?」って、すごく葛藤しました。

──ご家族からの反応はどうだったんでしょう。

両親からは結構言われました。歯科衛生士の感染リスクが高いというニュースが出たときは、とくに心配して「一度お休みしたら?」とか「小さい子もいるんだから」とか。

実際、休職の考えがよぎったこともあります。でも職場のみんなもそれぞれ事情を抱えながら頑張っているので、「ここで私が戦わないわけにはいかない」という思いもあって、これまで続けられてます。

──同僚に離職された方や働き方を変えた方はいなかった?

いないですね。みんな「不安だ〜」って言いながらも、「やるしかない!」って頑張ってます。

スタッフの家族が熱を出したりしてコロナの感染疑いがある場合は、3日〜7日間の出勤停止命令が出るので、その間はほかのスタッフに急遽入ってもらうこともあって。お互いに助け合いながらって感じですね。

──1回目の緊急事態宣言が解除されたあと、保育園はどうなりましたか?

ほとんど通常に戻りました。2回目の宣言では、ほかのママたちも預けられてるみたいです。

──医療従事者ということで、周囲から風当たりの強い言葉を受けるようなことは……?

それが一切なくて。歯科衛生士の感染リスクのニュースが出たころは「絶対なにか言われる」って覚悟して生活してたんですけど。

お友達のママに会ったとき、私は「歯科衛生士やってるから近づかないで!」って離れるんですけど、「ぜんぜん気にしないよ〜!」って言ってくれて。本当にありがたいことに、人から言われて嫌な思いをしたことはないですね。

コロナがもたらしたSさんの変化

──コロナによってこれまでの価値観が変わったという人も多いと思います。Sさんはどうですか?

いろいろ考えちゃいますよね。私も、これまでずっと歯科衛生士一本でやってきたんですけど、「このまま一生、衛生士だけを続けてていいのかな?」「もっといろいろなことができるんじゃないか」ということをコロナになってから考えるようになりました。

──そうなんですね。それは何かの影響があって?

海外のテレビ番組を観たのがきっかけですね。アメリカでは経験値を上げるためにジョブチェンジすることは珍しくない、という内容でした。そんな生き方もあるんだなと思いましたね。

私はそれまでひとつの仕事を極めていくことがカッコいいと思ってたんですけど、もっといろいろなことにチャレンジするのもいいなって。新しいことに10個挑戦したうちの1つでも成功したら、自分の人生が豊かになるんじゃないかって今は考えてます。

──視野が広がるような変化が起きたんですね。

あ、歯科衛生士を辞めるってわけじゃないですよ?(笑) 歯科衛生士の仕事はすごく好きなので、今後もずっと続けると思います。ただ、いろいろな選択肢を持てるのはいいことだと気づけたんです。

──何かチャレンジを始めたら教えてくださいね。本日はありがとうございました!

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