1. 固定残業代とは?
毎月支払われる固定給の中にあらかじめ含まれている残業代のことを固定残業代といいます。「◯◯時間残業したとみなして支払われる残業代」であることから、みなし残業代と呼ぶこともあります。
例えば、ジョブメドレーの求人画面には次のように記載されています。
固定残業代が含まれる給与の表示例
この場合、月10時間分の残業代があらかじめ固定給に含まれています。そのため月の残業時間が0時間でも9時間でも、10時間を超えない限り月給は変わりません。
ただし残業時間が月10時間を超えた場合は、超過した時間に応じて残業代が別途支給されます。例えば、月の残業時間が20時間の場合は10時間分の残業代が支払われます。
・固定残業代を導入する目的
固定残業代を導入することで従業員にとっては残業時間を抑えたほうが1時間あたりの賃金が高くなるため、生産性を上げるモチベーションになると同時に、従業員の不公平感の解消につながるとされています。
例えば、同じ条件で雇われた従業員AとBがいたと仮定します。同じ業務をこなすのに、従業員Aは残業が必要ありませんが、従業員Bは20時間残業が必要です。
この場合、生産性が高いのは従業員Aですが、従業員Bのほうが残業代が発生する分だけ給与が高くなってしまいます。固定残業代を導入すれば、従業員Aのほうが時給換算で給与が高くなるため、不公平感の解消につながる──というわけです。
また、従業員の労働時間が毎月一定までは月給が変わらないため、事業主にとっては給与計算を簡略化できるメリットもあります。
2. 固定残業代のチェックポイント
求人広告の給与欄に「固定残業代あり」「固定残業代を含む」という表示があったら、次の点に注意しましょう。
・固定残業代の金額と時間は明記されている?
月給の内訳に基本給と区別して固定残業代の金額と時間が明記されていることを確認しましょう(参考:厚生労働省)。
詳しくは次の項目で解説しますが、1日8時間を超えて働くと割増賃金の対象となるため、基本給と固定残業代は区別されていなければなりません。
採用募集時に使用する求人広告や内定後に交付される労働条件通知書を見て、固定残業代の表示が次のNG例のような場合は、事業者に確認することをおすすめします。
・固定残業代は割増賃金になっている?
固定残業代の金額が割増賃金になっていることを確認しましょう。
労働時間は1日8時間、週40時間までと法律で定められています。そのため、それを超えて働いた場合には割増賃金を支払うことが義務付けられており、固定残業代についても同じことが言えます(参考:労働基準法第37条)。
割増賃金を計算するには、まず1時間あたりの賃金を計算する必要があります。1時間あたりの賃金は基本給を1ヶ月の平均所定労働時間で割って求めます。
*1ヶ月の平均所定労働時間=(365日 − 年間休日数)× 1日の所定労働時間 ÷ 12ヶ月
このとき、1時間あたりの賃金が最低賃金を下回っていないかにも注意しましょう。最低賃金は厚生労働省のページで確認できます。
>厚生労働省|地域別最低賃金の全国一覧
次に1時間あたりの賃金に割増率1.25倍を掛け、1時間あたりの割増賃金を求めます。
最後に1時間あたりの割増賃金に固定労働時間を掛ければ、固定残業代を算出できます。
1日の所定労働時間が8時間、年間休日125日の場合を例に固定残業代を計算すると、次のようになります。
なお、1日の所定労働時間が7時間(例:勤務時間9:00〜17:00、休憩1時間)の場合は、1日1時間までの時間外労働は法定内労働となり、割増賃金の対象とならない──というケースも存在します。
・固定残業時間を超えたときに残業代は支払われる?
固定残業代で定められた時間を超えて働いたときに、別途残業代が支払われることを確認しましょう。
固定残業代は定められた時間内であれば同額の残業代を支払う制度であり、何時間働いても賃金が変わらない制度ではありません。ですので、固定残業代で定められた時間を超えて働いた場合は、差額の残業代を支払う義務が事業者に発生します。
固定残業時間を超えた場合の取り扱いについて明記されていない求人広告もありますが、明記されている求人のほうが応募の際に安心感がありますね。
3. 固定残業代に関するよくある疑問・質問
固定残業代に関するよくある質問を集めました。
Q. 固定残業時間には上限があるの?
A. 残業時間の上限規制に則り、1ヶ月30時間が上限と考えられます
労働基準法は労働時間を1日8時間、週40時間と定めており、それを超えて従業員を働かせる場合は36(サブロク)協定を締結することになっています。
ただし、36協定で設定できる残業時間にも上限があり、1ヶ月あたり45時間、1年あたり360時間となっています(参考:厚生労働省)。
そのため、固定残業代として設定できる時間も年間360時間÷12ヶ月=月間30時間が上限になると考えられます。
Q. 固定残業時間分は残業しなくてはいけないの?
A. 固定残業代は残業を強制するものではないため、所定労働時間どおりに働けば問題ないと考えられます
いかなる勤務形態でも、労働契約で定められた所定労働時間どおりに働けば、一般的に問題ないと考えられます。
また冒頭で解説したとおり、固定残業代は生産性向上のモチベーションを高めたり、生産性の違いによる従業員の不公平感を解消したりすることを目的に導入される側面もあります。
固定残業代の分だけ働くことを強制されるのであれば、導入の目的にもそぐわないのではないでしょうか。
Q. 固定残業代を導入している事業所はブラック? ホワイト?
A. 導入の有無のみで判断はできませんが、法律に則って正しく運用されているか留意しましょう
固定残業代を導入しているか否かのみで、その事業所の労働環境が良いか悪いか(ホワイトかブラックか)を判断することはできません。
ただし、応募先(あるいは勤務先)の事業所が固定残業代を導入している場合は、法律に則って正しく運用されているかどうか確認しましょう。
この記事で紹介した3つのポイントをおさらいすると次のようになります。
4. 固定残業代は医療福祉業界では少ない給与形態
固定残業代は外勤などで労働時間の把握が難しい職種、あるいは、毎日決まった残業時間が見込まれる職種に導入されることの多い制度です。そのため、医療・福祉業界では次のような職種で導入されていることがあります。
- ・ドラッグストア勤務の薬剤師
- ・訪問看護師
- ・児童指導員
- ・柔道整復師
- ・あん摩マッサージ指圧師
- ・鍼灸師
- ・整体師/セラピスト
- ・美容師
固定残業代は勤務時間が不規則であることの多い医療・福祉関係の職種にはめずらしい給与形態と言えますが、求人票で見かけた場合には今回ご紹介した点を確認しましょう。
- ・厚生労働省|確かめよう労働条件:労働条件に関する総合情報サイト
- ・厚生労働省|働き方改革特設サイト(支援のご案内)