【コロナ禍インタビュー】作業療法士 34歳 男性の場合

新型コロナウイルスの流行が医療・福祉・美容・ヘルスケア関連の仕事にどんな影響を与えているのか、当事者の声を聞くインタビュー企画。今回お話を伺ったのは精神科病院の作業療法科で科長を務めるIさん。コロナ禍において精神科はどのような対応を取っているのでしょうか。

34歳 男性 作業療法士コロナ禍での変化

今回話を聞いたのは精神科で働く作業療法士

34歳 男性 作業療法士

──お久しぶりです。年度末の忙しい時期に取材を受けていただきありがとうございます。

いえいえ、もともとは対面取材の予定だったのに、急遽オンライン取材に変更してもらっちゃってすみませんでした。

ここ最近仕事が忙しくて、ちょっと体力的にしんどくて……。

──そんな大変な時期にすみません……! 今日は新型コロナウイルスの流行下における職場の変化などを聞かせてもらえればと思います。

前回の取材ではIさんの転職経験について詳しく聞きました。

ぜひこちらの記事もご覧ください。

【転職者インタビューvol.29】作業療法士10年目32歳/転職1回

患者さんの面会・外出は全面禁止に

34歳 男性 作業療法士の経歴

──前回取材したときは精神科病院の作業療法科の科長、そしてデイケアの主任も務めていたかと思いますが、立場や業務に変化はありましたか?

今も引き続き作業療法科の科長ですが、1年ほど前にデイケアの主任からは外れました。

自分のキャパシティ的にもオーバー気味だったので、役職を外してもらうよう上長に頼んだんです。

──デイケアの主任は、具体的にどういうところが大変でしたか?

詳しい内容は伏せますが、問題行動の多いスタッフが何人もいて、本来ならありえないようなクレームやらアクシデントやらが多かったんですよね。

もちろん自分のマネジメント能力が足りなかった部分も大きいとは思いますが、ちょっと精神的にも体力的にも耐えきれず……。

──それは大変でしたね。コロナ禍の対応について聞いていきたいんですが、2020年4月に1回目の緊急事態宣言が出された時はどのような対応を?

もともと肺炎やインフルエンザをはじめとする感染症に対応するために「感染症対策委員」っていう組織が病院内にはあるんです。

なので今回の新型コロナについても、感染症対策委員が主体となってコロナ対策を講じてきました。

患者さんのマスク着用換気など基本的な対策はもちろんなんですが、大きな変化は「患者さんの面会と外出の全面禁止」ですかね。

外出禁止っていうのは、病棟からも出ちゃいけないんで結構厳しいんですよね。

例外を除いて、1回目の緊急事態宣言が発令された4月から半年間はずっと。

2回目の緊急事態宣言が出された時に再び面会・外出が禁止されました。

──なかなか厳しい対応ですね。その“例外”というのは?

入院患者さんの退院支援も大事な仕事なんですが、そもそも家がない患者さんが結構いるんです。

なので退院に向けて、スタッフが不動産屋に一緒に行って物件を探したり、施設に入るのであれば一緒に見学に行ったり。

そういう必要不可欠な場合を除いて外出禁止ってことですね。

──そういう仕事も作業療法士の業務に含まれるんですね!

まあ職場にもよると思いますが。

生活が破綻した状態で入院となる患者さんが、5人に1人くらいはいるんじゃないかな。

そうなると、患者さんが入院前に住んでた家の引き払いに立ち会ったり、そこがゴミ屋敷だったら引き払う前に掃除をしたり、入院中に生活保護の申請手続きをしたり──。

精神科領域の何でも屋さんって感じですかね。もうゴミ屋敷には慣れました(笑)。

34歳 男性 作業療法士2

──精神科における入院は、ほかの診療科に比べて緊急性が低い印象なんですが、コロナ禍での入院制限などはないんですか?

ありますよ。

やっぱり院内感染を絶対に防がなければいけないので、あらかじめ胸部レントゲンで検査をして、肺に影がないことがはっきりしないと入院を受け入れられません。

あと発熱している患者さんもNGですね。

措置入院の場合は、なかなかそういうわけにはいかないんですが。

──措置入院というのは?

簡単に言うと「警察案件」ですね。

例えば、街中で暴れまわってて警察に連れていかれたけど留置場でぶつぶつ独り言ばかりでコミュニケーションが取れない人とか。

警察でも手に負えない、意思疎通も図れないような人は精神鑑定も兼ねて精神科に入院となるんです。それを措置入院って言います。

措置入院の場合は、警察に口頭で「発熱はないか」「咳をしてないか」などを聞き取りして、問題なさそうであれば入院を受け入れる形です。

──入院となると消毒対応なども大変そうですね。

すごく大変ですよ!

コロナ対策としての一番はじめの仕事は「消毒の優先順位リスト」の作成でしたね。

──どのように優先順位をつけるんですか?

ほとんど僕の主観なんですが、あらゆる場所や物品を「触る頻度」の高い順にランク付けするんです。

上からA〜Cの3段階で。

例えば、ほとんど使うことがない物はC、ラジカセなど特定の人しか触らないものはB、本やペンなど不特定多数の人がたくさん触るものはAといった感じで。

リハビリのプログラムを終える度に、使用したオセロやトランプも1枚1枚しっかりと消毒するので、本当に大変ですね。

毎日トータルで1〜2時間くらいは消毒に時間を取られます。

──そんなに時間を取られると、ほかの業務にも支障が出そうですね。

業務は本当に圧迫されますね。

なので申し送りを可能な限り効率化することで帳尻を合わせました。

──具体的にはどのように効率化したんですか?

今まではプログラムが終わったら、片付けと消毒をしてからPCに記録して、その記録をもとに申し送りという流れでした。

それを今はPCへ記録しながら、同時に口頭で申し送りをおこなっているんです。

2つのタスクを同時にこなしてる感じですね。

──ある意味、個人の能力に頼ってる状況なんですね。

そうなりますね。

今は優秀なスタッフばかりなので抜け漏れもなくなんとかなってますが、例えば新人さんが入ってきたら難しくなるんじゃないかな。

効率化しててもやっぱり人手が足りないこともあるので、そういう場合は他部署にヘルプを出して消毒要員を確保してます。

どこかで根本的に仕組みを変えないといけないとは思っているんですが、なかなかいい方法が見つからず……。

──コロナ禍でリハビリのプログラムに変化はありましたか?

やっぱりどうしても制限はでてきますよね。

いわゆるカラオケだったり、飲食を伴うお茶会のようなプログラムはできなくなりました。

あとは病棟から出られなくなったので、他病棟との合同プログラムもなくなりましたね。今までは就労支援プログラムとかを合同でやっていたんですけど。

──病棟から出れなくなるのは患者さんもつらいですよね。

そうですね。ちょっとした散歩のような感じで病棟から出て気晴らししていた患者さんはすごいストレスだと思います。

カラオケも衝動性を発散させる効果が大きいので、それがなくなったのは痛いですね。

34歳 男性 作業療法士3

──衝動性を発散できない患者さんは大きなストレスを抱えてしまうと……。

はい。やっぱりイライラしたり攻撃性が増したりしちゃいますよね。

「なんで外に出れねーんだ!」ってブチギレられるのもしょっちゅうです。

──感染対策以外にも、そういった患者さんのケアも必要になってくるんですね。

精神科領域なので、通常の病棟以上に患者さんのメンタルケアは大切かもしれません。

なので患者さんの衝動性発散のために、運動系のプログラムを増やして対処しています。

エアロバイクを何台も導入したり、体操をしたり。とくに男性は運動が好きな人が多いので効果が大きいですね。

──なるほど。1回目の緊急事態宣言時と、2回目の緊急事態宣言時では何か変化はありましたか?

それほど大きな変化はなかったかな?

1回目の緊急事態宣言時に患者さんの変調を掴めたから、2回目の緊急事態宣言ではエアロバイクなどを導入して、ちゃんと衝動性を発散させることができたって感じですね。

精神科病院の新型コロナ感染対策

経営陣と感染対策委員とで対応方針が対立

──現場で働くスタッフもコロナ禍でストレスを抱えているかと思いますが、どうでしょう?

ストレスはみんな溜まってきてるなーって感じますね。

患者さんに対する寛容さというか、余裕がなくなってきてるのかな。

それにスタッフ間の歯車も少しずつ狂ってきて、小さいいざこざがしょっちゅう起きてますね。

やっぱり僕らの仕事はチームで動くことがほとんどなので、少しでもそういう歯車がずれると職場の空気はすごく悪くなりますし、業務にも影響が出てきますね。

──コロナ禍ではスタッフのマネジメントも重要になってきますね。

なので、できるだけ感染対策に気をつけつつ個別でご飯に行ったりして業務外でも関わりを持つようにしています。そうすると結構本音を喋ってくれるので。

あとは感染症対策委員と経営陣で意見が対立していて、現場は混乱しているので、そういった意味でもストレスが……。

──対立ですか。具体的にはどんな?

感染対策委員は「大人数でおこなうプログラムは禁止にしましょう」って言うんですが、経営陣は「そんなことやっていたら大赤字だ!」と。

と言うのも精神科の作業療法は一般的に集団精神療法がメインで、算定としては作業療法士1人につき最大25人の患者さんを1つのプログラムで見ることができるんです。

つまり、1人の作業療法士が実施するプログラムに、患者さんを25人参加させると利益が最大になるんです。

なので、より効果が高い小集団のプログラムがあったとしても、利益率の高い大集団のプログラムを優先するケースが多いんです。

──それで感染対策委員と経営陣が対立しているんですね。

病院が作成した書面には「集団でのプログラムは控えること」と書かれているんですが、実態としては経営陣からの指示で集団プログラムをおこなっているっていう状況です。

カラオケとお茶会が禁止になっただけ、まだ幸いですかね。

──なるほど。ちなみに院内でコロナの陽性者は出ましたか?

まだ出ていませんよ。

ほかの病院はちらほら出てるみたいで、陽性者が30〜40人も出て医療崩壊を起こしてるなんて話も聞きました。

──それは良かったですが、まだまだ油断はできませんね。コロナ禍で給料が減額されたりボーナスがカットされたりはしませんでしたか?

どちらもカットはされませんでしたね。

給料は2年前から6,000円くらい昇給したかな。

<前回取材時の給与明細>

32歳 男性 作業療法士 給与明細

<今回の給与明細>

34歳 男性 作業療法士 給与明細

──ありがとうございます。少し話を戻しますね。集団精神療法をおこなうべきか止めるべきか、院内でも対立しているとのことですが、「with コロナ時代」を踏まえると、これからの精神科作業療法はどう変化していくと思いますか?

これまでは集団プログラムが主流でしたし、現状も集団プログラムが50%以上を占めているので、どうしていくべきか頭を悩ませているところです。

ただ、精神科作業療法では集団適性を見る必要があるので、今後も制限が続いていくとしても集団プログラムの需要はなくならないと思うんです。なので、利用者25:作業療法士1の算定基準が変更されることもないんじゃないかと。

とは言ってもコロナのことを考えると、集団制限をかけるなどの変化もしていかなくてはいけないですよね……。

消極的な意見で申し訳ないんですが、うちみたいに「集団は控えましょうね」と体面上は言うけど実態としてはそんなに変わらないんじゃないかなと思います。

──なるほど。確かに利益を上げなければ病院は経営していけませんし、難しいところですね……。

あとは作業療法士に限らず医療従事者全般に言えることですが、今後は今まで以上に自分のメンタルケアをしっかりやっていく必要があるのかなと。

例えば、僕の主観なんですが医療従事者って旅行好きの人が多いんです。

こんなこと言うと世間からバッシングを受けそうなんですが、こんなときだからこそ医療従事者は旅行などの趣味に時間を使った方がいいと思うんですよね。もちろん感染対策は十分におこなったうえで。

自分の趣味まで制限しちゃったら本当に身体も心ももたないと思うので。

──本当に医療従事者の方には頭が上がりません……。本日はありがとうございました。

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