1.保育現場でも重要な接遇マナー
・そもそも接遇とは?
「接遇(せつぐう)」とは、そもそもどんな意味でしょうか? 接遇を辞書で調べると、「もてなすこと」「応接すること」といった意味が出てきます。よく似た言葉に「接客」がありますが、接客はお客さんを相手に応対することを指し、「もてなす」意味は含まれていません。
保育の現場で使う「接遇」は、心配りのある対応力です。
保育園では、教育の土台となる時期である「幼児期」の子どもを預かっています。そんな大切な時期の子どもを預かるうえで、保護者をはじめとした周囲との信頼関係を築くためにも、保育士には「接遇=心配りのある対応力」が求められます。
新人保育士が押さえておきたい基本的な接遇マナーについて、ポイントを確認していきましょう。
2.新人保育士に求められる社会人マナーとは
・笑顔、挨拶
子どもや保護者はもちろん、同僚や先輩など多くの人と関わる保育士にとって、笑顔と挨拶は重要なコミュニケーションです。
メラビアンの法則では「人の印象は3秒で決まる」とも言われており、笑顔は親しみやすく話しかけやすい印象を与えることから、表情が豊かな人ほど円滑なコミュニケーションをとりやすい傾向があります。日頃から笑顔を意識し、誰に対しても元気な挨拶を心がけましょう。
また、保護者に対しては、挨拶にちょっとした会話を付け加えることで「見てくれている、気にかけてくれている」という安心感を与えることにも繋がります。
挨拶に付け加える会話の例
- 〇〇くん、風邪はもう平気ですか?
- 〇〇ちゃん、髪を切ったんですね。
- 今日は雨なので登園が大変でしたね。
ポイント
- 笑顔と挨拶は円滑なコミュニケーションのカギ
- プラスの会話は保護者の安心感に繋がる
・言葉遣い
社会人の基本として、正しい言葉遣いを心がけましょう。保護者のなかには友だち口調で話しかけてくる人もいますが、同じように友だち口調やタメ口で話すことは避けましょう。保育士としての節度あるコミュニケーションを意識することが大切です。
そのときに注意したいのが「専門用語」と「若者言葉」です。保育士同士でよく使われる専門用語は、保護者に伝わる言葉に置き換えましょう。また、「マジ」「やばい」などの若者言葉は避け、保育士という立場にふさわしい丁寧な言葉遣いを徹底しましょう。
ポイント
- 相手から友だち口調で話しかけられても、節度あるコミュニケーションを意識する
- 専門用語や若者言葉は使わず、保育士として正しい言葉遣いを徹底する
・SNSとの付き合い方
SNSは保護者・保育士双方にとって身近な存在です。インターネットは誰もがアクセスできる「公」の場であり、たとえ自分がプライベートな発信だと思っていても、第三者には「一人の保育士の発信」として受け取られてしまいます。SNSに投稿する内容には十分配慮しましょう。
また、SNSを通して保護者と保育士が簡単に繋がることができてしまいますが、個人的な繋がりを持つことは避けましょう。簡単に連絡を取れることは便利であると同時に、さまざまなトラブルの原因にもなります。あくまでも「保護者と保育士」として適切な距離感を保ちましょう。
ポイント
- 投稿内容は「一人の保育士の発信として適切か」を考え十分に配慮する
- 保護者と個人的な繋がりは持たず、適切な距離感を保つ
・身だしなみのポイント
保育士の身だしなみで重視する点は「清潔感」と「安全性」です。周囲に好印象を与え、安全に保育ができる身だしなみを常に意識しましょう。
身だしなみのチェック項目
髪型 |
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顔 |
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アクセサリー |
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爪 |
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服装 |
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香り |
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また、園以外の場所でも保護者や子どもにとって保育士は「先生」です。通勤中でも保育士としての自覚を持ち、「派手すぎる」「露出が多すぎる」「だらしない」格好は避けましょう。
3.保護者対応のポイント
保護者対応は保育士にとって欠かせない仕事であり、多くの新人保育士がつまずくポイントでもあります。ここでは「連絡帳・会話・クレーム対応」ついて説明します。
・連絡帳の書き方
連絡帳では、「保護者からの相談にはしっかり答える」「子どもの様子は具体的に書く」「ポジティブな表現を使う」ことがポイントです。パターンごとに例文を紹介します。
【保護者から相談があったとき】
保護者からの相談に対しては、事実を添えて答えましょう。「子どもの給食の様子が心配」という相談を例に考えてみます。

漠然と「大丈夫」と伝えるのではなく「今日は頑張ってお野菜を食べてました」という事実を書きます。心配していた園での給食の様子が伝わり、保護者の安心に繋がります。
【子どもの様子を伝えるとき】
園での子どもの様子を伝える際は、子どもと会話をしたときの様子や、実際に子どもが話した言葉を書くようにしましょう。連絡帳を読んだ保護者がその場の様子をイメージしやすくなります。

【お願いごとをするとき】
お願いごとをする際は、気持ちよく聞いてもらえるよう「お手数ですが」「助かります」など相手を配慮した言葉を使いましょう。また、「ご協力をお願いします」といった一言を添えると丁寧な印象に繋がります。

【保護者が読んで嬉しくなる表現を使う】
子どもが「頑張った」「成長した」と感じたことは具体的に伝えましょう。

反対にうまくいかなかったことは「できなかった」ではなく、ポジティブな言葉に言い換えて伝えることがポイントです。

ポジティブな言葉への変換例
ネガティブな言葉 | ポジティブな言葉 |
落ち着きがない | 好奇心が旺盛、興味津々 |
うるさい | お話をするのが好き、活発 |
言うことを聞かなかった | こだわりがあって譲れなかった |
泣いてしまった | 涙が出てしまった |
気が弱い | 優しい |
・保護者との会話のコツ
保護者と会話をするタイミングは主に登園時と降園時です。登園時は「おはようございます」の挨拶から始め、「今日は天気がいいので外で遊べそうですよ」といった子どもの活動が想像できる話や、「今日も元気いっぱいですね」など明るい話題が中心となるよう心がけましょう。
降園時には「今日は給食を残さず食べられましたよ」など、家では見えない様子や成長を伝えることがポイントです。保護者に伝える内容を忘れないよう、子どもたちの様子で気付いた点をメモしておくといいでしょう。
ポイント
- 登園時には子どもの活動が想像できる話や明るい話題を中心に話す
- 降園時には家では見えない様子や成長を伝える
- 子どもたちの様子を忘れないよう、気付いた点をメモしておく
・保護者の顔と名前を覚えるコツ
初めのうちは「誰のお母さんだったっけ……」と名前が出てこないことがあるかもしれません。保護者の顔と名前を覚えるチャンスは登園の時間帯です。保護者が子どもと一緒に登園してくるので「あの人が〇〇くんのお母さん」と認識しやすくなります。
顔は視覚的に印象に残りやすいですが、名前と結びつけるのには時間がかかります。早いタイミングで保護者の顔と名前を一致させるために、次のポイントを試してみることをおすすめします。
ポイント
- 会話の中や挨拶で「〇〇くんのお母さん/お父さん」と名前を積極的に呼ぶ
- 見た目や雰囲気など、保護者の特徴を観察する
- コピーした名簿に交わした会話や特徴をメモして、繰り返し見直す
※名簿やメモなどの個人情報の取り扱いには十分注意する
・クレームへの向き合い方
保護者から寄せられるクレームは、適切かつ迅速に対処することで大きな問題に発展させずに収めることができます。
クレーム対処では適切な初期対応が肝心です。保育士側にも言い分があるかもしれませんが、まずは話を聞き、「保護者に不快な思いをさせてしまった事実」に対してお詫びをすることから始めましょう。真摯な姿勢で傾聴することで、相手の怒りをクールダウンさせることに繋がります。
また、クレームを一人で対応しないこともポイントです。一人で抱え込むと問題が先延ばしになったり、対応が不十分だったりしてクレームがさらに大きくなるリスクがあります。周囲に言いづらい内容ですが、園長や先輩、同僚としっかり報告・相談・連携をして問題解決に取り組みましょう。
ポイント
- 迅速で適切な対処が重要
- 初期対応では「不快な思いをさせた事実」にお詫びをし、話を聴く
- 一人で対応せず周りに報告・相談・連携する
4.子どもへの接し方
・ほめるとき
笑顔を心がけ、具体的な言葉でほめましょう。例えば子どもが描いた絵を見たときは「じょうずだね」だけでなく「いっぱい色を使って描いたんだね! きれいだね!」「とっても大きく描けていて、先生感動しちゃったよ」など、たくさんの言葉を使ってほめることで、子どもは嬉しく感じます。子どもをほめる言葉の引き出しを増やしておくことがポイントです。

ポイント
- 笑顔を意識し具体的な言葉でほめる
- ほめるための言葉をたくさん用意する
・しかるとき
子どもをしかるときに注意したいのは「怒る」と「しかる」は別物だということです。「怒る」は自分の感情を相手にぶつけているのに対し、「しかる」は子どもの理解や反省を促しています。感情に任せるのではなく、子ども自身が「なぜしかられたのか」を理解できるよう説明しましょう。
しかるときのポイントは「その場その瞬間に」「強く短く」です。「それはよくない」ということを子どもに伝えるには、その行為をしたタイミングで強くはっきりしかる必要があります。だらだらと長くしかってしまうと、子どもは「なぜしかられているのか」がわからなくなってしまい、反省できず「しかられた」という記憶だけが残ってしまう場合があります。
ポイント
- 「怒る」と「しかる」は別物
- 「その場その瞬間に」「強く短く」を意識する
5.職場内でのコミュニケーション
・チームワークを意識する
子どもにとって最適な保育環境を提供するためにも、保育士同士の連携と良好な人間関係は欠かせません。連携がうまくいっていなかったり、人間関係が悪かったりすると、重大な事故や過失に繋がる可能性が高まります。
チームワークはすぐに形成できるものではありませんが、新人のうちから次のポイントを心がけ、できることから実践していきましょう。
ポイント
- 情報共有をしっかりする
- こまめに相談をする
- 声がけを意識して助け合う
- 互いの得意不得意を理解する
・質問・相談をするとき
新人のうちは、わからないことや自己判断が難しい場面が多く出てきます。質問・相談は早めにすることが大切です。タイミングが良さそうな状況を見計らって先輩や園長に声をかけましょう。
ポイントは事前に知りたい内容を整理し、自分なりの考えや解決策を用意しておくことです。教えてもらっているときはメモをとれる状態にしておき、教えてもらったあとはお礼を伝え、後日どうなったかを報告しましょう。誠実な姿勢を見せることで、相手も「教えてあげよう」という前向きな気持ちになります。
ポイント
- 事前に知りたい内容を整理し、自分なりの解決策を用意しておく
- 教えてもらうときはメモをとれる状態にする
- 教えてもらったあとはお礼を伝える
- その後どうなったかの報告をする
・先輩や園長が新人保育士に求めること
先輩や園長は、保育技術よりも「積極性や笑顔」といった仕事に対する姿勢を新人保育士に求めています。初めは「ミスをしないようにしなきゃ」と気負いがちですが、周囲は「フォローやバックアップをするからたくさん経験して成長してほしい」と考えています。失敗を恐れず、自分から積極的に行動することを心がけましょう。
ポイント
- 新人保育士に求められるのは保育技術よりも仕事への姿勢
- 周りのフォローを受けながら、積極的に行動し成長することが大事
6.まとめ
新人保育士に必要な接遇マナーや考え方を紹介しましたが、細かいルールや方針は園によって異なります。基本的なポイントを押さえつつ、園の方針に沿って「安心して子どもを預けられる保育士」「園の顔となる保育士」を目指しましょう。
参考
- 中野悠人・山下智子『先輩が教えてくれる! 新人保育士のきほん』2021年
- 八田哲夫『教えて! 保育者に求められる100の常識[第三版]』2019年