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密着した人
歯科技工士 大森 謙さん(38)
歯科技工士専門学校を卒業後、技工所に就職。2019年に「Dental Studio Kenny Tokyo」を開業。海外で講演するなど国内外で活躍し、Instagramで技工や活動情報を発信している。
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【10:00】出勤
歯科技工所とは思えないおしゃれな内観は自らインテリアを考案。カフェと勘違いして入ってきてしまう観光客もいたそうです。
【10:10】マウント
歯科技工の一連の流れを見せてくれるとのことで、まずは模型を咬合器(こうごうき)に装着する作業から始めます。この工程はマウントと呼ばれ、前日の作業の続きをおこなう大森さんに代わり、担当するのは2021年に入社した高屋さん。
以前は歯科医院内にある技工所に勤めていた高屋さんですが、審美性の高い技工技術を身につけたいと思い転職しました。前職では終電で帰宅するほどの長時間労働でしたが、今では早く帰れるようになったと言います。
高屋さん:技工所によって仕事のやり方もぜんぜん違うので、それまでの経験が活かされたというより一から全部教えてもらった感じですね。
【11:00】ワックスアップ
ワックスを使い、歯の形に成形していきます。ワックスアップと呼ばれるこの工程は、被せ物を製作する際に必要となります。
【11:30】ジルコニアへの置き換え
ワックスアップした部分をジルコニアに置き換えます。ジルコニアは強度の高さや、加工のしやすさなどから宝飾品などにも使われている素材です。
マージン(歯の縁)が合うように少しずつ削って調整していきます。
ジルコニアの場合マージンが太く出てしまうため、マイクロスコープを使って削っていく作業を繰り返します。マージンが太いと歯と技工物がフィットせず、歯周病や脱離などのトラブルの原因になることもあるそうです。
咬合器に入れて噛み合わせを確認しつつ、微調整を続けます。
【12:30】仕上がりの確認
置き換え作業が完了したら仕上がりを確認。大森さんが最終調整を加えます。
サンドブラストで汚れを取り除き、ジルコニアへの置き換えが完了します。
【12:40】色塗り
次は色付けをします。歯科から送られてきた患者の口腔画像を確認し、技工物ともとの歯の色を近づけられるようシェードガイドで近い色味を探します。
【13:00】昼休憩
いったん自宅に戻って休憩することが多いそうですが、この日は近所にある洋食店へ。
昼食後はしばし仮眠を取ります。
【14:30】色塗り
前歯は色の違いが目立ちやすいため、とくに気を遣うと言います。シェードガイドと実際の歯の画像を見て、どの色が必要なのか判断します。陶材の色味や配合を考えるのは職人技。
歯は単色ではなく、エナメル質や象牙質など部分によって色味が異なります。そのため、陶材を何層にも重ねて自然な色味を追求します。
【15:00】前歯の色調整
マージン部分の封鎖性が悪いとトラブルにつながるため、最後の調整もしつつ、前歯部分の色調整をします。
【15:30】前歯部分の色付け
「陶材全部白いんですよ」と話すように、一度仕上げても焼き上がりを見てみないと色味がどう出るかわからないと言います。そのため、仕上げの色調整は何度も繰り返しおこないます。
何層にも色を重ねていきますが、陶材は焼成すると収縮するため最初は長めに盛っていくのがコツだと話します。この感覚も経験によって培われていくそう。
【17:30】技工物の発送
納品予定の技工物を梱包します。歯科医院内にある技工所であれば患者さんが来る直前まで製作できますが、こちらの技工所では秋田県や宮城県など遠方からの依頼もあるため、数日前には発送する必要があります。
集荷所へ向かいます。
【18:15】前歯部分の色付けを再開
技工所に戻ったら前歯部分の色付けを再開します。
【19:40】退勤
キリの良いところで本日の業務は終了です。お疲れさまでした!
【インタビュー】歯科技工士は海外でも活躍できる!
これまで国内だけでなく海外での就労経験もある大森さんに、技工業界の実状や魅力を聞きました。
──精密すぎる作業に驚きました。手先の器用さはもちろんだと思いますが、歯科技工士に必要な資質はありますか?
大森さん:ものづくりが好きな人はこの仕事に向いていると思います。依頼が立て込んでくるとどうしてもスピードが大事になる瞬間がやってくるんです。そういうとき器用さも大事ですけど、この仕事が好きか好きじゃないかで続くかどうか変わるんじゃないですかね。
──なるほど。元から独立開業を目指していたのでしょうか。
そうですね。少しずつ機材を買い揃えて自宅に置いていました。良い物件が見つかって、いろんなタイミングが良いときに開業しました。
──集客や経営など技工技術とは違う業務も発生したかと思いますが、苦労はありましたか?
独立後は赤字だったこともあります。今は安定して仕事もいただけるようになったので、人も雇えるようになりました。納得いくまでとことんこだわれるので、開業して良かったなって思いますね。
ただ、経営が安定してきたことに甘んじることなく、腕を磨き続けようと真剣にものづくりに取り組んでいます。依頼をくれる歯科医師も勉強し続けているので、技工士も常に学ぶ姿勢は大事だなと思っています。
──技工業界はブラックと言われることもありますが、どう感じていますか?
長時間労働を強いられる過酷な職場もなかにはあるかと思います。でも、日本の技工技術は世界でも高く評価されているので、自分次第で国内だけでなく海外でも通用する職種です。
今も海外で注目を集めている日本人技工士はたくさんいます。実際に自分も海外で技工士として働いたからこそ言えるのですが、腕(スキル)があれば世界のどこでも活躍できるのは歯科技工士の魅力です。
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