1.エンゼルケアとは
亡くなった方の身体を整える処置のこと
エンゼルケアとは、亡くなった方に対しておこなう死後の処置のことです。身体を清潔にし、化粧(エンゼルメイク)や更衣で見た目を整えます。
エンゼルケアには、主に次のような目的があります。
〈ご遺体をきれいに整え、故人の尊厳を守る〉
終末期には体力が衰え、十分な清拭や更衣ができないことも多いです。また闘病中にできた傷跡や医療器具などの形跡が残らないよう処置します。ご遺体をきれいに整え、生前のその人らしく整えることは故人の尊厳を守ることにもつながります。
〈遺族のグリーフケア〉
元気だったころの面影がなくなってしまった故人の姿にショックを覚える遺族は少なくありません。ご遺体をきれいに整えることは遺族への配慮でもあり、清拭や着衣などエンゼルケアの一部を遺族自身がおこなうことを通じて、死と向き合う意味もあります。
〈感染症予防〉
ご遺体は死後時間の経過とともに硬直や腐敗が進みます。体液や排出物などの流出によって遺族やスタッフへの感染を防ぐためにも、適切な処置をすることが大切です。
エンゼルケアをおこなう人
エンゼルケアをおこなうのに必須の資格はありませんが、適切な処置をするには専門的な知識が必要です。
一般的に病院では看護師が、介護施設では看護師または介護職員が中心となりケアをおこないます。また、提携している葬儀会社に依頼するケースもあります。自宅の場合は葬儀会社のスタッフや納棺師、訪問看護師などがおこなうことが一般的です。
費用は数千〜数万円と幅広い
エンゼルケアは医療保険の対象外であり、病院や施設によって対応範囲や金額が異なります。病院の場合は5千〜1万円程度が多く、エンゼルメイクまで施すと2万円以上かかるところもあります。介護施設や葬儀会社に依頼する場合は、1万〜10万円程度と幅があり、ケア内容に応じて料金が変動するところが多いようです。
エンゼルケアは死後数時間のうちに早急におこなう必要があるため、おおまかな処置内容や費用については事前に説明し合意を得ておくことが望ましいでしょう。事後になって「この処置は望んでいなかった」といったトラブルを防げます。
2.エンゼルケアの手順
エンゼルケアをおこなう手順の一例を紹介します。ケアの内容や順番はご遺体の状態や遺族の意向、施設の方針、地域の慣習などによって異なることがあります。
(1)事前説明と確認
エンゼルケアを始める前に、ケア内容について遺族へ説明します。医療器具を取り外したあとの処置をどこまでおこなうか、清拭や着替えなどの一部ケアに遺族も参加するかなどの意向を確認します。
(2)医療器具を外す
感染予防のためにマスクやガウン、手袋などを着用したうえで処置を始めます。まずは点滴やチューブ類などの挿入物を取り外します。
(3)傷跡や体液などの処置
医療器具を取り外した跡の縫合、体液が外へ流れ出ないための詰め物、口腔ケアや目・鼻のケアなどをおこないます。
(4)洗髪・整髪
シャンプーで髪を洗い、タオルやドライヤーで髪を乾かし、整えます。
(5)全身清拭・保湿
身体が見えないよう大判のタオルなどで覆いながら全身をやさしく拭き、乾燥を防ぐためにボディクリームなどで保湿します。
(6)エンゼルメイク
故人が使っていた化粧品や好みなどを聞きながらメイクを施します。男性の場合も顔色がよく見えるようにメイクを施し、ひげを剃ります。
(7)着替え
遺族の要望を聞き、着物や洋服に着替えます。最近では故人が着ていた服を持参してもらい着用することが多いです。
(8)体勢を整える
最後に遺族へ確認しながら、合掌させる、顔に白い布を被せるなどで体勢を整えます。
3.遺族へ配慮しながらも素早く適切なケアを
エンゼルケアは死後2〜3時間以内におこなうことが推奨されています。素早く処置を進めることが重要ですが、亡くなった直後は遺族の気持ちの整理のためにも重要な時間でもあります。一緒に清拭や着替えをおこなう、ケアする様子をそばで見守ってもらうなど、遺族の気持ちに配慮しながら丁寧なエンゼルケアを心がけることが大切です。
その時が来た際にどう動くかをシミュレーションしておくなど、病院や施設のスタッフ間での対応をあらかじめ決めておくと良いでしょう。
