精神疾患の治療は病院から在宅へ
精神疾患により医療機関を受診する人が増加傾向にあります。厚生労働省が3年ごとに実施している調査によると、2017年時点での精神疾患の患者数は約419万人で、2002年と比較して約1.7倍に増えました。
疾病としてはアルツハイマー型認知症が約7.3倍、次いで躁うつ病を含む気分・感情障害が約1.8倍と増加割合が顕著です。

一方で、入院患者数は2002年の約35万人に対し2017年は約30万人に減少しており、また平均在院日数も短縮傾向にあります。さらに政府は地域包括ケアシステムを推進していることから、精神疾患の治療の場は医療機関から在宅へと移行しているといえるでしょう。そこで重要になるのが地域のサポート体制であり、中核を担う精神科訪問看護のニーズも各地で高まっています。
では、精神科訪問看護とは具体的にどのようなことをおこなうのでしょう。今回は自宅で暮らす患者やグループホームの利用者のケアを専門におこなうスマイル訪問看護ステーション 日野営業所の髙橋さんに、精神科訪問看護ステーションで働くことと、ステーション立ち上げの経緯について聞きました。
話を聞いた人
管理者・看護師 髙橋史子さん
看護師歴20年。産婦人科や脳神経外科・脳神経内科、透析センターに勤務。業務を通じて障がい者に関わり、障害者支援に興味を抱く。グループホームや就労継続支援B型施設などを経て2022年に株式会社スマイルへ転職。東京都日野市で精神科に特化したスマイル訪問看護ステーションの立ち上げを任され、管理者を務める。
患者のペースに合わせて寄り添う仕事

──精神科に特化した訪問看護とはどのような仕事なのでしょうか。
髙橋さん:精神科に通院している人や退院した人のご自宅へ伺い、患者さんの服薬確認、バイタルチェック、症状の観察などをおこないます。
あとは会話することです。日常的な話をしたい、あるいは誰かと関わりたいという人が多く利用しています。なので、会話の時間がとても重要なんです。表情を見ていつもと違うと感じたら「何かあったんですか?」と問いかけて、考えていることや困っていることを話してもらいます。
また、横になりっぱなしで生活するのはあまり良いことではないので、一緒にお散歩に出かけたりもします。外に出たくないようであれば「玄関まで行ってみましょう」「ドアを開けてみましょう」など、患者さんのペースに合わせながら寄り添ったケアをおこないます。

──精神科訪問看護の利用条件はありますか?
精神科や心療内科に通院されている人ならどなたでも利用できます。ご自身や家族からお問い合わせがくることもありますし、市役所の障害福祉課からの依頼もあります。年齢は、若い人から年配の人までさまざまです。中には親子で利用されている人もいます。
訪問看護を利用する人は、「自立支援医療受給者証」を取得している人が多いです。自立支援医療(精神通院医療)という医療費の自己負担を軽減する制度があり、この受給者証を取得していると、精神科の通院や訪問看護ステーションを1割負担で受けられるんです。
──では、スマイル訪問看護ステーションの特徴について教えてください。
関係会社のグループホームと連携していることです。スタッフ同士で密にコミュニケーションを取るので、精神状態や体調の把握ができますし、最適なケアとは何かをチームで考えることができるのがメリットです。
グループホームに便秘を抱えた利用者さんがいるのですが、処方された下剤を使い切ってしまい、「どうしよう……」と不穏になっていると連絡がきたんです。このままでは症状がひどくなると判断したので、主治医に連絡をして下剤の処方をお願いしました。
本来であればグループホームのスタッフが薬を受け取りに行くのですが、その場を離れられる状況ではなかったので、訪問看護ステーションのスタッフが取りに行き、事なきを得ました。こういったとっさの連携が取れるのも特徴のひとつです。
精神科の訪問看護で身につくスキルとは?
──スマイル訪問看護ステーションの業務スケジュールについて教えてください。
訪問件数は午前と午後にそれぞれ3〜4件です。日によって自宅やグループホームを訪問します。

訪問時間は30分から40分程度ですが、患者さんとの話が長引いて滞在時間が多少伸びることもあります。
基本的に残業はありませんが、車移動なのでまれに渋滞に巻き込まれることがあります。
──在籍する看護師と患者さんの人数を教えてください。
スマイル訪問看護ステーションは今年の4月に立ち上げたばかりで、現在は4人の看護師が在籍しています。それぞれ看護師としての経験が豊富で、中には自衛官から精神科の看護師に転身したという経歴の持ち主もいます。
4人で地域の患者さん10人、グループホームの利用者さん20人の計30人を看ていますが、今後は事業所を増やして拡大していきたいと考えています。
──精神科の訪問看護で求められるスキル、また身につくスキルとは何ですか?
患者さんの様子を見ながら適切なやり取りをするので、コミュニケーション能力やとっさの対応・判断が求められますし、身につくと思います。
ただ、必ずしもその場で解決する必要はありません。もしも、「この場合はどうしたらいいんだろう?」と悩んだら持ち帰って考えてもいいですし、スタッフ間で相談をしながらベストな解決策を探すこともあります。その経験が自分の引き出しになり、今後のケアに役立ちます。
未経験でも好奇心に突き動かされ

──髙橋さんは病院の精神科から訪問看護に?
いえ、もともとは産婦人科の看護師でした。看護師としてほかの診療科の知見も深めたいと思い、転職して脳神経外科や透析センターなども経験しました。
その中で障がい者と関わる機会があったのですが、あまり食事をとっていない人もいて、「この人たちはどんな生活をして、どのような支援を受けているんだろう」と、障がい者の支援に関心を持つようになったんです。
ならば深く関わってみようと、未経験で精神科の訪問看護ステーションと就労継続支援B型に就職しました。その時期に株式会社スマイルの会長に出会い、縁があってその関係会社のグループホームに転職することにしたんです。
以前働いていた訪問看護ステーションで事業所の立ち上げに携わっていたので、私がスマイル訪問看護ステーションを立ち上げることになりました。準備を始めたのが2022年12月で、今年4月にようやくスタートしました。
──軽快なフットワークでさまざまな経験を積まれてきたんですね。以前も精神科の訪問看護ステーションに勤めていたとのことですが、未経験でも働けるものなのでしょうか?
働くことはできますが、未経験の場合はひとりで訪問することができません。ひとりで訪問するためには決められた研修*を受講する必要があり、そこで精神疾患の基礎知識やアプローチについて学びます。
足りない知識は自分で勉強をして補ったり、先輩に教えてもらったりしながら少しずつ学びを深めました。

──訪問看護の仕事を振り返って印象的な出来事があれば教えてください。
親子で訪問看護を利用している家庭があるんです。さまざまなトラブルがあって警察も介入した家で。
そこに自傷行為をおこなう中学生がいたんです。初めの頃はインターホンを押しても玄関を開けてくれなかったし、訪問してもそっけなくて、まったく受け入れてもらえませんでした。それでも2週間、毎日関わりました。
そうしているうちに少しずつ心を開いてくれたのか、「今日は学校に行けたんだ」とか、「高校受験をすることにした」と話してくれるようになってきて。「今日は訪問に来てくれるの?」と連絡がきたときはすごく嬉しかったです。
この仕事は日々いろいろなことがありますが、患者さんに受け入れられると心の底から「やっていてよかった!」 と感じます。これが精神科の訪問看護のやりがいですね。
目標は「みんなの居場所」をつくること

──スマイル訪問看護ステーションの働く環境について教えてください。
土日祝日が休みなので、自分の時間をしっかりと取ることができます。あとは、訪問車を貸与していて、直行直帰も可能です。もしお子さんがいたら、朝は保育園に送ってから訪問し、訪問を終えたらそのままお迎えに行くこともできます。
タブレットを支給しているので、記録や報告書は自宅での空き時間に記入してもらって構いません。このように、自分のペースで働けるのが魅力だと思います。
──今後は事業所拡大の予定もあるとのことですが、どのような人と働きたいと考えていますか?
精神科の経験がある人はもちろん、未経験の人も歓迎しています。精神科の訪問看護に対するまっさらな気持ちや考えを教えてほしいです。
あとは、「待てる人」です。精神科は反応がゆっくりだったり、考えをまとめるのに時間がかかったりする患者さんが多いので、ひとつのことを聞いたらじっくりと答えを待てることが重要だと思います。
──最後に、髙橋さんの今後の展望を聞かせてください。
いつか地域の人たちが集まれる「みんなの居場所」をつくりたいと考えています。精神疾患を抱える人や高齢者だけでなく、そこで暮らす人たちが支え合いながら安心して過ごせる、そんな場所です。集まった人たち同士でたわいもない話をしたり、悩みを打ち明けたりできたらいいなと思います。
そんな未来をつくるために、これからも地域に出ていろんな人の支えになっていきたいです。
▼スマイル訪問看護ステーションから求職者へのメッセージ