目次
- 1.パワーハラスメントの定義とは?
- 2019年にパワハラ防止法が誕生
- 2.パワーハラスメント6つの分類と具体例
- (1)身体的な攻撃
- (2)精神的な攻撃
- (3)人間関係からの切り離し
- (4)過大な要求
- (5)過小な要求
- (6)個の侵害
- 3.医療・福祉業界のパワハラ事情と対策
- 7割近くがパワハラを経験
- 看護業界のパワハラ対策
- 介護業界のパワハラ対策
- 保育・障がい者福祉業界のパワハラ対策
- 4.パワハラの相談先と例文
- 勤務先の担当者
- 労働組合
- 総合労働相談コーナー
- 都道府県労働委員会
- 日本司法支援センター(法テラス)
- 5.パワハラ防止のために事業主ができること
- 就業規則や体制の見直し
- 実態を把握する
- 研修の実施
- 6.一人で抱え込まず相談を
1.パワーハラスメントの定義とは?
パワーハラスメント(以下、パワハラ)とは、職場での立場や経験を利用して、業務上必要のない言動や態度によって相手に不快な思いをさせ、心身や働く環境に悪影響を与える行為のことです。
厚生労働省では、次の3つの要素を満たすものを、パワハラと定義しています。
- 優越的な関係を背景とした言動
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えている
- 労働者の就業環境が害されている
「優越的な関係」とは、上司と部下の関係だけではありません。同僚や部下であっても、特定のスキルや資格の保有により、優位に立てる状況であれば該当します。「業務上必要な範囲を超える」とは、社会通念に照らして業務上必要なく、明らかに不適切な言動や態度を取ることです。
また、「働く環境」には職場だけでなく、移動中や訪問先、業務上の会食の場なども含まれます。
2019年にパワハラ防止法が誕生
2019年に改正された労働施策総合推進法では、職場でのパワハラを防ぐため、事業主が防止措置を取ることが義務付けられました。一般的にパワハラ防止法とも呼ばれ、2022年からは中小企業を含むすべての事業主に義務化されています。
2.パワーハラスメント6つの分類と具体例
パワーハラスメントは、大きく分けて次の6つに分類されています。

以降、加害職員Aと被害職員Bのケースをもとに、言動の具体例を紹介します。
(1)身体的な攻撃
叩く、殴る、蹴る、物を投げつけるなどの暴力行為や傷害が該当します。
具体例
先輩職員Aが職員Bの背中を殴るなどの暴行を加えた
(2)精神的な攻撃
人格を否定するような発言や、必要以上に長時間にわたる叱責を繰り返すなどの行為が該当します。
具体例
主任職員Aが職員Bに対し「おもしろくない人間」「どうせ家族も友達もいないんだから、ほかの人の分まで残業しろ」と発言
(3)人間関係からの切り離し
特定の労働者を職場の複数人で無視し、孤立させる行為などが該当します。
具体例
職員Aが不正請求をおこなっていることを、職員Bから上長に報告したところ、Aを含む複数の職員から申し送りをされなくなったり、話しかけても無視されたりするようになった
(4)過大な要求
明らかに達成できない目標を課されたり、残業を強いられたりする行為などが該当します。
具体例
副主任の職員Aが、新卒で入ったばかりの職員Bに対し指導することもなく、高い業績目標を課し、達成できないと厳しく叱責する
(5)過小な要求
能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事ばかり押し付ける、仕事を割り振らないなどの行為が該当します。
具体例
マネージャー職に応募したにかかわらず、入社後積極的に業務改善提案をおこなったところ、利用者の送迎しか任されなくなり、日中にやることがない
(6)個の侵害
労働者の性的な指向や病歴など、プライベートな内容を労働者の了解を得ず、ほかの人に暴露する行為などが該当します。
具体例
上司Aが、定期的に休む職員Bに対しその理由を問い詰めたところ、不妊治療をしている旨を打ち明けられた。すると、職員Bの許可なく同じチームの全職員の前で上司Aが話したほか、業務中にまで話題に出すようになった
3.医療・福祉業界のパワハラ事情と対策
医療・福祉に携わる仕事はチームで協力しながら進めることが多く、対人関係が大切になる分パワハラに悩む人も少なくありません。ここからは、ジョブメドレーで求人を扱っている医療・福祉業界におけるパワハラの実態と対策を紹介します。
7割近くがパワハラを経験
看護師、介護職、保育士を対象におこなったアンケート調査によると、いずれの職種でも7割近くが「パワハラを受けたことがある」と回答しました。コメント欄には、以下のような声が寄せられました。
コメント
- 1年目から上司先輩のパワハラ受けて転職繰り返してましたが転職理由がみんなパワハラ(看護師)
- 主任から、パワハラうけてました。違うチームの事でも怒られて、わけわからない(看護師)
- 言葉でのパワハラあります…(介護職)
- 昨年、スタッフの暴言で鬱病で休職しました。今は、利用者様からのパワハラされてます(介護職)
- ありえないほどの パワハラ、モラハラを受けています。法人に訴えましたが、対応してもらえずにいます(保育士)
慢性的な人手不足を抱える医療・福祉業界では、パワハラによる離職で貴重な人材流出を防ぐために、さまざまな対策がとられています。
看護業界のパワハラ対策
日本看護協会のウェブサイトでは、職場でのハラスメント対策の不十分さを指摘しています。そのうえで、管理職が日頃から適切なコミュニケーションを取り、職場内の雰囲気や職員への配慮をおこなうなど、組織的に対策に取り組むことが重要としています。
また、医療・介護施設での取り組み事例として、以下の内容を紹介しています。
- 労働安全衛生の一環として院内の研修会でハラスメントについて取り上げた。その後も、外部から産業医を講師として招くなどして継続している
- 施設内で匿名のアンケートをおこなったところ、社内の相談窓口では個人が特定される可能性もあり、相談しにくいということがわかった
- アンケートを実施し、その結果を盛り込んだ研修を実施している。交代制勤務で出席できない場合には、資料を配布して周知を図っている
介護業界のパワハラ対策
2022年に日本介護福祉士会が実施した調査によると、ハラスメント防止に関する方針や体制がある職場が多いことがわかります。一方で、そうした制度が職場で十分に浸透していないことが指摘されています。組織全体で適切に対応できるよう、継続的な研修や啓発活動の実施が求められています。
保育・障がい者福祉業界のパワハラ対策
保育や障がい者福祉の現場でも、パワハラは大きな課題となっています。全国福祉保育労働組合では、2023年に「ハラスメントをなくす福祉保育労宣言」を採択し、以下のような対策や配慮を求めています。
- 人格を否定せず、行為の問題と改善点を目的とともに具体的に説明する
- 人前での叱責を避ける
- 全職員を対象とした定期的な研修の実施
また、パワハラに対しては拒否や不快の意思表示をし、記録や早めの相談も推奨されています。
4.パワハラの相談先と例文
パワハラを受けた、見たという場合の相談先と相談方法(例文)を紹介します。
勤務先の担当者
中小企業を含むすべての事業主には、ハラスメント防止のために相談役や窓口を設置することが義務付けられています。相談担当者は管理職や従業員、人事労務担当部門など事業主ごとに異なります。同じ社内の人間であっても守秘義務があることや、不利益な取り扱いをしないことが定められており、一次相談先として対応します。
相談例
「◯◯事業所でヘルパーをしている、◯◯(名前)です。同じ事業所の◯◯さんから、繰り返し暴言を受けており、精神的につらい状況が続いています。このままでは働き続けることが難しいと感じております。どのように対処すればよいかご相談させていただきたいです」
労働組合
社内の窓口に相談できない場合は、労働組合の相談窓口が利用できます。対応が必要と判断されると、所属先の管理者への是正勧告や、団体交渉による改善要求がなされます。
相談例
「◯◯病院の一般病棟で勤務している◯◯(名前)と申します。現在、同じ職場の看護師長から、ほかの職員の前で名指しで長時間にわたり叱責されるなどの言動を受けています。シフトも希望がとおらず不公平に扱われていると感じます。職場に行くのも苦痛に感じており、事実確認と改善のために組合としてサポートいただくことは可能でしょうか」
総合労働相談コーナー
総合労働相談コーナーとは、会社がある場所の労働局または労働基準監督署に設置された相談窓口です。電話や対面で相談を受け付けており、会社や労働組合に相談窓口がなかったり、相談しても取り合ってもらえなかったりした場合にも利用できます。
相談例
「株式会社◯◯が運営する、◯◯保育園に勤めている保育士の◯◯(名前)と申します。15年先輩の職員から、継続的なパワハラ行為を受けています。具体的には、4月の入社以降、『保育士に向いていない』『仕事が終わるまで帰るな』などの発言があります。会社にも相談しましたが、状況が変わらないため相談したくご連絡いたしました」
総合労働相談コーナーの所在地はこちら
>総合労働相談コーナーのご案内
都道府県労働委員会
都道府県労働委員会とは、各都道府県に設置された労使関係の紛争解決をおこなう機関です。労働者と事業主の間のトラブルを、当事者間で解決できない場合にサポートしてくれます。
相談例
「◯◯ホールディングスが運営する、ドラッグストア◯◯店に勤務している薬剤師の◯◯(名前)と申します。同じ職場で働く主任薬剤師から、入社して1年半が経っても調剤業務を一切任せてもらえず、品出しなどの雑務ばかり押し付けられています。また、ほかの薬剤師と比較され、人格を否定するような発言も頻繁に受けています。精神的につらく出勤が困難な日もあり、第三者の立場から職場環境の改善をサポートいただけないかと思い、相談させていただきました」
地域別の問い合わせ先はこちら
>都道府県の個別労働紛争お問い合わせ先一覧
日本司法支援センター(法テラス)
法テラスは、国が設立した法的トラブル解決のためのサポートをおこなう機関です。パワハラの内容によっては、損害賠償を求められるケースもあり、法的対応を検討したい場合は相談先の一つとなります。
相談例
「都内の歯科診療所で歯科助手として勤務している◯◯(名前)と申します。職場の数人の歯科衛生士から、無視、悪口、業務上の嫌がらせを受けています。院長にも相談しましたが対応してもらえず、相談窓口もありません。精神的な苦痛から休職も考えていますが、法的な措置も検討したいと思っています。今後の対応方法と法的な手段をご教示いただくことは可能でしょうか」
電話・メール・チャットの相談先はこちら
>相談窓口・法制度
5.パワハラ防止のために事業主ができること
事業所の規模にかかわらず、パワハラを防ぎ、起きてしまった場合は適切な対応を取ることが大切です。労働者が安心して働けるよう、事業主には以下の取り組みが求められます。
就業規則や体制の見直し
就業規則に、パワハラが起きた場合の対処方針や内容を記載します。また、管理・監督者を含む労働者に、パワハラ行為に対する厳正な対処について周知します。
社内にパワハラ相談窓口や担当者がいない場合は速やかに設置し、社内報やパンフレット、事業所のホームページなどで周知することも必要です。
実態を把握する
事後だけでなく、今後パワハラに発展する可能性も含め、広く相談に応じ、実態の把握に努めます。相談担当者は、労働者からパワハラの訴えがあった際に、迅速に事実確認をおこないます。
研修の実施
パワハラの防止と生じた場合の再発防止を目的とした研修や講習を実施します。パワハラの相談や事実確認などへの協力を理由に、異動や解雇、降格などの不利益な取り扱いをすることは法律で禁止されています。この旨も労働者に伝えたうえで、相談しやすい環境づくりが大切です。
6.一人で抱え込まず相談を
パワハラは、職場での立場を利用した、労働者の就労環境や心身の健康が損なわれるような言動を指します。2022年からはすべての事業主に対し、パワハラ防止措置が義務付けられました。しかし、医療・福祉業界では、チームによる業務体制を取っている事業所も多いことから、人間関係が濃密になりパワハラに悩む人も少なくありません。
事業所内に相談窓口がなかったり、相談しづらかったりという場合は、第三者の相談機関を利用するのも手です。一人で抱え込まず、寄り添ってくれる人や機関に話してみましょう。
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参考
- 政府広報オンライン|NOパワハラ なくそう、職場のパワーハラスメント
- 厚生労働省|職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました
- 厚生労働省|あかるい職場応援団