1.燃え尽き症候群(バーンアウト)とは
燃え尽き症候群(バーンアウトシンドローム)とは、心身の過度な疲労により、それまで仕事などに打ち込んでいた人が燃え尽きたように意欲を失い、社会生活に適応できなくなる状態をいいます。
ストレスや疲労によって発生し、仕事への意欲低下、いら立ち、飲酒量の増加などを伴うほか、人間関係を避けるケースも多くみられます。
医療・福祉職のような対人サービスの職業における代表的な職務ストレスともいわれ、使命感をもって精力的に働いていた人の休職・離職の要因の一つとなっており、予防と改善が重要な課題です。
燃え尽き症候群(バーンアウト)の3つの症状
1970年代にバーンアウトの概念が提唱され、それ以来数々の研究がおこなわれています。その研究の基本的枠組みとして、以下の3つの症状が定義されています。
(1)情緒的消耗感
「仕事を通じて情緒的に力を出し尽くし、消耗してしまった状態」をいいます。感情労働とも称される医療や介護などの職業では、顧客・患者・利用者の気持ちや要望を受け止め、思いやりや気遣いをもって接することが求められます。多大な情緒面のエネルギーを費やし、疲弊、消耗していく過程であり、バーンアウトの進行そのものといえます。
(2)脱人格化
「クライアント(サービス対象者)に対する無情で非人間的な対応」と定義されており、割り切った対応や名前を呼ばなくなるといった行動がその典型です。精神的なエネルギーが枯渇した状態でそれ以上の消耗を防ぐための防衛反応だと考えられています。
(3)個人的達成感の低下
個人的達成感とは「職務に関わる有能感、達成感」をいい、情緒的消耗、脱人格化によりサービスやケアの質が低下してくると、連動して個人的達成感も低下してしまいます。思うように成果や達成感が得られなくなり、仕事にやりがいを感じられなくなったり、自信を失ったりしてしまうこともあり、時には休職・離職につながってしまうケースもあります。
燃え尽き症候群(バーンアウト)になりやすい人の特徴
仕事で疲弊する背景は、大きく個人要因と環境要因に分けられます。
- 個人要因
真面目で仕事熱心、理想が高く使命感が強いといった傾向は、意欲が高い一方で消耗を続けやすく、燃え尽き症候群になりやすいといわれています。
世代においては年齢が若い人や仕事への経験が少ない人ほど、理想と現実のギャップを感じて疲弊することが多いと考えられています。一方で、ベテランの人は経験を積んだことでストレスへの対処を心得ていたり、理想と現実のギャップが小さかったりするため燃え尽き症候群に陥りにくい面があります。
- 環境要因
量的、質的に過度な負担がかかることがストレスの原因となります。
量的な負担としては、長時間労働や厳しいノルマ、体への負荷が大きい身体的労働などが該当します。医療・介護職の場合、職員一人あたりが受け持つ患者や利用者の人数が多いこともこれにあたります。
質的な負担としては、自分の意思や考えを仕事に反映しにくい「自律性」の少ない環境や、職務範囲が不明瞭なため自分の役割への悩みが発生しやすい状況などが挙げられます。また、給与が低い、昇給が見込めないといった場合も、仕事に見合っていないと感じたり向上心が阻害されたりするなど、意欲低下をもたらすことがあります。
2.燃え尽き症候群(バーンアウト)の診断テスト
1980年代の研究において、バーンアウトのチェック項目「マスラック・バーンアウト・インベントリー(MBI)」が開発されました。国内ではMBIをもとにバーンアウト研究者の久保真人氏らが作成した日本版バーンアウト尺度(JBS)が有名です。
〈日本版バーンアウト尺度〉
1 |
こんな仕事、もうやめたいと思うことがある。 |
2 |
われを忘れるほど仕事に熱中することがある。 |
3 |
こまごまと気くばりすることが面倒に感じることがある。 |
4 |
この仕事は私の性分に合っていると思うことがある。 |
5 |
同僚や患者の顔を見るのも嫌になることがある。 |
6 |
自分の仕事がつまらなく思えてしかたのないことがある。 |
7 |
1日の仕事が終わると 「やっと終わった」 と感じることがある。 |
8 |
出勤前、職場に出るのが嫌になって、家にいたいと思うことがある。 |
9 |
仕事を終えて、今日は気持ちのよい日だったと思うことがある。 |
10 |
同僚や患者と、何も話したくなくなることがある。 |
11 |
仕事の結果はどうでもよいと思うことがある。 |
12 |
仕事のために心にゆとりがなくなったと感じることがある。 |
13 |
今の仕事に、心から喜びを感じることがある。 |
14 |
今の仕事は、私にとってあまり意味がないと思うことがある。 |
15 |
仕事が楽しくて、知らないうちに時間がすぎることがある。 |
16 |
体も気持ちも疲れはてたと思うことがある。 |
17 |
われながら、仕事をうまくやり終えたと思うことがある。 |
この尺度は情緒的消耗感、脱人格化、個人的達成感の各項目が含まれており、それぞれの質問に対し「1.ない」から「5.いつもある」までの5段階で回答します。
なお、個人での活用は参考程度にとどめ、正確な診断をおこなうには医師の診察を受けましょう。
3.燃え尽き症候群(バーンアウト)は甘え?
燃え尽き症候群に陥るとそれまでの意欲を失ってしまうことから、傍目には「甘えている」と捉えられてしまうことがあるかもしれません。しかし、実際には使命感の強い人や、負荷の高い環境で働いてきた人が陥りやすい消耗状態であり、妥協や甘えとはむしろ正反対だといえるでしょう。
自分や周囲の人がバーンアウトかもしれないと思ったら、さらに追い込まれないためにも「甘え」とみなすことを避け、診察や休養、環境の改善などに努める必要があります。
4.燃え尽き症候群(バーンアウト)の対処と回復
燃え尽きないで仕事を続けるためには、感情を消耗しすぎない距離の取り方(個人要因)と、過大な負荷をかけない環境改善(環境要因)が重要です。
「突き放した関心」を意識する
対人サービスにおいては相手への思いやりや共感性が必要な一方で、感情移入しすぎたり関係が深すぎたりすると、バーンアウトにつながるリスクがあります。そこで共感性を持ちながらも冷静で客観的な態度を保つ「突き放した関心」をもつことで、サービス品質と情緒面のエネルギー温存の両立に近づくことができます。
また、バーンアウトの予防・対策に限らず、仕事以外の時間・趣味をつくることや、職場の内外に相談できる相手がいることも心身の健康を維持するために大切です。
職場環境の改善も不可欠
もちろん個人としての取り組みだけではなく、周囲の協力も欠かせません。
労働環境やマネジメントの改善は、燃え尽き症候群だけではなく、職員の健康維持や定着率に直結します。経営者や管理職の方は、職員が相談しやすい環境づくりはもちろん、質的・量的な負担の軽減に取り組む必要があります。
職場内のコミュニケーションにおいては、バーンアウトになった人に対してさらに罪悪感や負担感を持たせるような言動は控えましょう。
回復の過程
燃え尽き症候群に至ってしまった場合は、時間をとり休養することが大切です。
使命感をもって仕事に取り組んでいると、疲弊していても自覚しにくいことが往々にしてあります。不調や疲労に自覚的になることに加え、周囲に疲弊している様子の人がいたら助言をすることで早期の対策につながります。
心身の健康の回復には、一定期間の休職が必要になる場合があります。対応の遅れを防ぐためには、やはり医師などの専門家に相談することが大切です。仕事と物理的に距離を置くことで罪悪感や緊張感から離れ、バランスの良い食事や睡眠で回復を目指します。
その後は、復職に向けて働き方を見つめ直す段階といわれています。自分を追い詰めない考え方を取り入れたり、学び直しや転職を検討したりするケースが多いようです。
仕事にやりがいを感じていても陥ることのある「燃え尽き症候群」。無理なく続けるために、時には自分自身の状態に目を向けてみてください。
参考
- 厚生労働省e-ヘルスネット「バーンアウトシンドローム」
- 労働政策研究・研修機構「バーンアウト(燃え尽き症候群)」