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2025年6月13日、政府は石破政権下で初となる「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2025」を閣議決定しました。医療・福祉・介護を含む社会保障分野にも大きく踏み込んだ内容で、中長期的な構造改革の方向性が色濃く示されています。
この記事では、医療・介護・福祉に関わる人が押さえておきたいポイントを5つにまとめて紹介します。
「骨太の方針」とは?
政府が毎年6月ごろに閣議決定する、その年の重要政策や翌年度の予算編成の方向性を示す方針です。首相が議長を務める経済財政諮問会議で議論され、官邸主導で改革を進めるための指針となります。「骨太の方針」という通称は、かつての議論で「骨太」と表現されたことに由来しています。
(1)処遇改善が“加算”から“制度”へ
これまでの処遇改善は、主に一時的な加算によって対応されてきましたが、賃金制度そのものの見直しには踏み込まれていませんでした。
今回の方針では、コストカット経済からの脱却を背景に、医療・介護・障害福祉・保育といった分野で「公定価格そのもの」の引き上げが打ち出されました。物価上昇や他職種との待遇格差を踏まえた賃上げが制度として進められる方針が示されています。
とくに注目したいのは、基本給を土台から引き上げる制度の見直しについて、2025年末までに結論を出す方向で検討が進められている点です。一時金ではなく、給与のベースを引き上げる仕組みの実現が期待されています。
(2)外国人材は“受け入れ”から“定着支援”へ
EPA協定に基づく外国人介護人材の受け入れは進んだものの、制度の複雑さや文化・言語の違いにより、定着には依然として課題が残っています。
2025年の骨太方針では「外国人を含む介護人材の確保・定着を支援」という表現が明記され、政策の重点が「受け入れ」から「定着」への移行が示されています。
今後は、言語教育の充実やキャリア形成支援、職場での多文化理解など、日本で長く働き続けてもらう仕組みづくりや職場環境の整備が政策的にも促進される見通しです。
(3)有料老人ホームの“透明性”が政策課題に
これまでの有料老人ホームは、自由な市場のもとで運営されてきたため、行政が実態を十分に把握しづらい面がありました。
今回の方針では、「有料老人ホームの運営やサービスの透明性と質を確保する」と明記されており、行政によるモニタリングや情報公開の仕組みが検討・強化される可能性があります。
この動きは入居者の安心だけでなく、労働環境の改善や、職員が安心して働ける施設選びにもつながると見られます。
(4)医療・介護の地域格差に対応
これまでの骨太方針は、全国一律的な枠組みを基本としてきましたが、2025年方針では地域特性に応じた対応が打ち出されています。
具体的には、高齢者数がピークを迎える2040年頃を見据え、地域包括ケアシステムの充実、地域医療構想に基づく医療・介護の連携強化、介護予防の推進、多職種による相談支援体制の整備などが掲げられています。地域ごとの課題に合わせて、持続可能な体制の構築が進められる見通しです。
見直される医療体制の例
- 医療需要の変化を踏まえた病床数の適正化
- かかりつけ医機能の制度整備
- 救急医療体制の確保
- 適切なオンライン診療の推進 など
(5)AI・デジタル活用で働き方改革が加速
近年、「EBPM(証拠に基づく政策立案)」という考え方が注目されています。2025年の方針では、これに加えてAIやデジタル技術を活用し、業務効率化と制度改革を加速させる方針が示されています。
見直される業務の例
- 記録業務の省力化
予防接種事務のデジタル化、ワクチン副反応疑いの電子報告 など - 人員配置や運営の最適化
クラウド技術を活用した病院情報システムの整備 など - ケアの質や効果の可視化
PHR(Personal Health Record)や電子カルテ情報の活用 など
また、医療機関のサイバーセキュリティ対策の強化といった安全性向上策も盛り込まれており、業務の効率化だけでなく、サービス全体の安全性の向上にもつながることが期待されます。
参考