2024介護報酬改定でどう変わる?専門家が分析する介護現場の課題と展望

2024年度は3年に一度の介護報酬改定がおこなわれます。6,000円の補助金給付や処遇改善加算の一本化など注目点が多いなか、現場レベルではどのような影響が考えられるのでしょうか。現在の課題と今後想定される変化について専門家に聞きました。

2024介護報酬改定でどう変わる?専門家が分析する介護現場の課題と展望

目次

*本記事の内容は2023年12月5日時点に公表されている情報をもとに作成しています。制度等の詳細は今後変更となる可能性があります

2024年度介護報酬改定とは

介護報酬改定とは、通常3年ごとに実施される介護保険サービスを提供する事業者への報酬の改定をいいます。サービスの質の向上や適切な運営を促進するため、また社会や経済の変化に対応し介護保険制度を持続可能なものにするために、報酬体系のほかサービス内容の見直しもおこなわれます。

2024年は介護報酬、診療報酬、障害福祉サービス等報酬の3つが同時に改定されるトリプル改定の年にあたり、団塊世代が75歳以上の後期高齢者となる2025年問題を前に注目されています。通常は年度初めの4月に施行されますが、診療報酬改定の6月施行に合わせて同時施行となる見通しもあります。

2024介護報酬改定の主な注目点

今回の介護報酬改定で想定される制度変更のうち、とくに現場職員への影響が大きいと考えられる内容について、専門家に話を聞いていきます。

話を聞いた人

峯尾さんプロフィール写真

峯尾 武巳さん

身体障害者療護施設、知的障害児施設、特別養護老人ホームの勤務を経て、2003年から2018年まで神奈川県立保健福祉大学にて介護福祉学を専門に教鞭を執る。介護支援専門員の養成には、制度開始前から指導者として携わり、埼玉・東京・神奈川を中心に法定研修講師を務めている。認定介護福祉士養成研修など数多くの研修会講師も勤め、多方面で活躍中。

月額平均6,000円の補助金給付

──まず最初に多くの方が気になるであろう、6,000円の補助金給付とはどういった施策なのでしょうか。

峯尾さん:これは2023年の春闘における全業界の賃上げ率に対し、介護業界の賃上げが低水準だったことを踏まえて挙げられた施策です。次回の報酬改定でプラス改定となることを見据え、それまでのつなぎとして2024年2月から5月までの間、介護職員の収入の2%程度(月額平均6,000円相当)の補助金を支給するという内容です。

──昨年2022年2月にも、収入の3%(月額平均9,000円相当)の補助金が給付されました。支給条件については今回もほぼ同じと考えられますか?

そうですね、支給条件などは基本的に同じです。ただ前回は申請方法が煩雑で事務作業の負担が大きかったという意見もあったため、今回は手続きが簡素化されるかもしれません。

月額平均6,000円補助金の概要

  • 介護職員を対象に、賃上げ効果が継続される取り組みをおこなうことを前提として、介護職員等ベースアップ等支援加算に上乗せする形で収入を2%程度(月額平均6,000円相当)引き上げるために補助金を交付する。
  • 補助金額:対象介護事業所の介護職員(常勤換算)一人当たり月額平均6,000円の賃金引上げに相当する額。対象サービスごとに介護職員数(常勤換算)に応じて必要な交付率を設定し、各事業所の総報酬にその交付率を乗じた額を支給する。
  • 対象職種:介護職員(事業所の判断により、ほかの職員の処遇改善にこの処遇改善の収入を充てることができるよう柔軟な運用を認める)
  • 対象期間:2024年2月~5月

──「6,000円では足りない」という声も聞かれますが、金額についてはどう評価されますか?

金額については、どこに視点を置くかによって見方が変わってくると思います。世間では全産業と比較して「少ない」と論じられることが多いですが、医療福祉の業界で見ると、介護職員の賃金は「伸びている」んですよね。同じ介護事業所の中で、ケアマネジャーや相談員、看護師やリハビリ職、事務員、調理員などのその他の職種は補助の対象にはなっていません。

もちろん、給与として頂けること自体はいいことだと思いますが、特定の職種だけが上がっている状況だと、どうしても不公平感が出てしまいます。それならばと事業所によっては他職種にも補助金を分配しますが、そうすると一人あたりの金額は雀の涙程度になりますし、介護職員からすると「自分たちへの補助なのに」と反発も生まれかねません。

峯尾さん取材中の様子

──介護職員に限らず、介護業界で働く職員全体の賃上げが必要だと。

そういうことですね。近年では、介護職員中心の賃上げにより、有資格で実務経験も必要なケアマネジャーとの逆転現象が起き、ケアマネを目指す人が減ってしまっていますから……。

介護報酬は使途の制限が多いので、事業所のさじ加減で決められないのがもどかしいところです。

処遇改善加算の一本化

──現在検討されている「処遇改善加算の一本化」は、まさに賃上げにも関係してきますが、どういった内容なのでしょうか。

現行の制度では「処遇改善加算」「特定処遇改善加算」「ベースアップ等支援加算」の3つの処遇改善加算があり、それぞれ算定要件や対象職種などが違うことから、事務作業の煩雑さや職種間の差が生じていました。それらを一つにまとめてしまおうというのが今回の改定案です。

これは非常に良い改定で、もっと早くやってほしかったくらいですね。その複雑さから申請に至らなかった事業所もありますから。

──一本化により、職員の給料に変化はあるのでしょうか?

あると思います。加算額の配分方法については、これまでのような規定を減らし、「介護職員への配分を基本とし、特に経験・技能のある職員へ重点的に配分することとするが、事業所内での柔軟な配分を認める」という意見が、介護保険制度について議論をおこなう社会保障審議会(以下、審議会)で出されています。

──では、先ほどの「職種間の不公平感」の解消にもつながりそうですね。

そうですね。ただ残念ながら、事業所によっては一本化の恩恵のないところもあります処遇改善加算はあくまで介護職員が対象なので、直接介護をおこなわないケアマネジャーや管理者、事務員などは対象外です。例えば居宅介護支援だけを提供している事業所の場合、加算を受けられないので待遇にも反映されないということになります。

ただケアマネジャーの処遇については改善を求める声が多いため、居宅介護支援の基本報酬増などで別途検討が進められる可能性はあります。

介護助手人材の活用

──人材の不足を補うために、介護職員をサポートする介護助手の活用が進められています。介護助手は食事の準備や清掃など、直接介護に関わらない周辺業務を担当しますが、この傾向は今後も加速していくのでしょうか。

進んでいくでしょう。審議会では、今後の「良質な介護サービスの確保に向けた働きやすい職場づくり」の一環として「介護助手の活用などにより、サービスの質の向上と業務負担の軽減を図ることが重要」と明言されています。

介護助手を雇用している事業所は約半数というデータが出ていますが、現状では人員配置に組み込まれていません。今後はより多くの事業所での導入が進むよう、制度上の位置づけを検討していくと考えられます。

介護助手の導入(雇用の有無)、介護助手の年齢
出典:厚生労働省「介護現場の生産性向上の推進」をもとに作成

しかし、どれだけ人を確保できるかは読めないところではあります。介護助手にお願いしたい仕事というのは、スポットの時間帯でだいたい決まっているんですよね。朝昼夕の食事時、入浴後のお風呂場の掃除と洗濯などです。一回あたり2〜3時間の仕事に合わせて日に何度も通勤するというのはあまり現実的ではありませんから、それだけの人数が必要になってきます。

峯尾さん取材中の様子

──介護助手が現場に入ることによって、介護職員の仕事内容に変化はありますか?

厚労省などの見立てでは、介護職員はより専門性の高い仕事に従事することを想定していると思います。これまで職員がやっていた生活援助を助手にお願いして、その分の時間でしっかりと利用者のケアに注力してほしいと。

懸念点があるとすれば、分業化によって職員の間にヒエラルキーが生じないかということでしょうか。役割が明確になったことで、例えば「片付けは私の仕事ではないのでやりません」という人が出てくるなど、職種間の分断が起こるのではないかという懸念はあります。あくまで役割であって、上下関係にまで発展しないでほしいと思いますね。

通所+訪問の新しい「複合型サービス」は創設を見送り

──最後に、今回の報酬改定の目玉として注目度の高かった「複合型サービス」については、12月4日の審議会での議論を経て見送りが決定しました。これはどういった内容だったのでしょうか?

審議会では、地域の実情に合わせた複数の在宅介護を組み合わせたサービスを検討すべきという意見が出されていました。これを受け提案されていたのが、訪問介護と通所介護を組み合わせた複合型サービスです。

複合型サービスのイメージ図
複合型サービスのイメージ図(厚生労働省「複合型サービス(訪問介護と通所介護の組合せ)」より引用)

厚労省の狙いは、不足する介護人材、とくに訪問介護員の不足を補うために、既存の介護資源(通所介護の職員)の有効活用を見込んでいたのではないかと思います。しかし、「既存サービスの規制緩和で良いのではないか」「制度の煩雑化につながる割にメリットが少ないのではないか」などの反対意見が多く、見送りが決定しました。

──峯尾さんは今回の見送りをどう見ていますか。

結果的には延期になって良かったと思います。審議会の資料にもあるとおり、効果検証が十分でないと感じました。今回の件は提供側の問題が大きいとは思いますが、そもそも審議会の構成メンバーはサービス提供側の人間で占められており、障がい分野のように利用側の当事者団体などは入っていません。そういう意味で、今後はより多角的な検討が必要なのかもしれませんね。

また厚労省は、介護の費用対効果、つまり介護サービスを利用したことによる要介護状態の改善の評価測定を重視しているようですが、老化に伴う要介護状態の変化は、良くなったり悪くなったりの繰り返しです。医療や看護のように治療による効果というわけにはいきません。がん末期やターミナルケアにおいては比較的評価しやすいですが、通常の介護の効果や評価は利用者アンケートによりおこない、要介護者とその家族が何を望んでいるのか、顧客のニーズ調査があってこそだと思います。​​

──今後の報酬改定や介護保険制度について、どのような期待を持っていますか。

介護保険制度はどうしても費用面で語られることが多いですが、若い人たちが夢と希望をもって従事できる環境整備や、訪問介護の現場へのEPA介護福祉士候補者などの介護人材登用の条件づくりといった側面から議論が進むといいですね。

介護報酬改定を巡っては、年内に報酬・基準に関する基本的な考え方の整理、取りまとめをおこない、2024年1月頃に具体的な報酬や加算の算定要件などの改定案が示される予定です。

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