「介護福祉に携わるとは思いもしなかった」。離島にある居酒屋の店長から、重度の障がいがある人の訪問介護ヘルパーへ転職した宍倉さんは、自身の経歴を振り返ってそう語ります。
宍倉さんは2025年の4月に介護職員初任者研修を修了し、未経験から介護業界へ飛び込みました。そんな彼は、利用者とどのように向き合い、信頼関係を築こうとしているのでしょうか。「まずは行動」をモットーに挑戦を続ける、1年目の歩みを伺いました。

介護の素質は、体育会系で培った「気遣い」

──介護職を始めたきっかけを教えてください。
宍倉さん:テニス関係の知人からの紹介です。その人は訪問介護と飲食事業に取り組む会社を経営していて、「お前なら介護の仕事を任せられる。一緒に働かないか」と声をかけてもらいました。
当時は、妻の出産をきっかけに沖縄から東京へ戻ったばかりで、ちょうど仕事を探していました。これから高齢者が増えるのは間違いないので、介護は需要の大きな分野だと思い、入社を決めました。
──介護の仕事は未経験ですよね。どうして「任せられる」と声をかけられたのでしょうか?
直接は聞いてませんが、おそらくコミュニケーション力を評価してもらえたのだと思います。重い障がいのある方への訪問介護には、サービスの提供時間に制限がありません。なので利用者さんやご家族と過ごす時間が長く、信頼関係を築く力が求められます。
僕は高校時代、上下関係が厳しい体育会系の部活に所属していて、礼儀や気遣いを叩き込まれました。その経験がこの仕事にも通じると感じてもらえたのだと思います。
──介護職に就くにあたって、不安はありませんでしたか?
姉が障害者支援学校の支援員をしているので、ネガティブな印象はありませんでした。ただ、排泄の介助については「自分にできるのかな」という気持ちがありましたね。
でも、「ダメだったらそのとき考えればいい」という性格なので、悩むよりも前に行動しようという気持ちが強かったです。

──初任者研修を受講した経緯を教えてください。
社長から、この仕事に就くには「初任者研修」と「認定特定行為業務従事者」の認定が必要と言われ、2025年2月からジョブメドレースクールの初任者研修に通い始めました。
ただ、この時期は子どもの用事で出席できない日もあったので、振替受講制度を活用しながらカリキュラムを進め、修了は4月末になりました。その後、別の場所で喀痰吸引等研修を受講し、5月の頭から訪問介護の仕事を始めています。
会話を通じて外の世界を届けたい
──宍倉さんが働いている重度訪問介護のお仕事について教えてください。
重度訪問介護は、重度の障がいがある方のご自宅へ訪問し、食事や排泄の介助などの身体介護から、掃除や洗濯などの生活援助まで、暮らし全般をサポートするサービスです。
僕の場合、ALS(筋萎縮性側索硬化症)の方への訪問支援を中心におこなっています。ALSは簡単にいうと、徐々に筋力が低下していく病気です。病気が進行すると、身体を動かすことや、声での会話が困難になる場合がありますが、意識ははっきりしているケースが多いといわれています。
担当している利用者さんは、発話でのコミュニケーションが難しい方なので、口の動きから読話したり、文字盤を使ったりして意思疎通をおこなっています。
──1回の訪問で何時間くらい利用者さんと過ごすのでしょうか?
訪問先によって異なりますが、基本的には5〜6時間の支援となります。訪問中は、床ずれを防ぐための寝返りの介助や、機械を使って痰を吸引する介助をだいたい1時間おきにおこないます。

そのほかにも、利用者さんの生活リズムが整うよう、車椅子外出の支援をしたり、お話をしたり。介護は生命維持ではなく生活を支える仕事なので、業務内容は多岐にわたります。
また、ご家族の心のケアも大事な仕事です。いくら家族とはいえ、つきっきりの介護はストレスがたまるので、訪問中はリラックスしていただけるよう努めています。
──訪問中、スクールでの学びは活かされていますか?
「学校で勉強してよかった」と思うことは多々あります。現場では看護師と協力する場面が多く、専門用語が飛び交うので、座学の内容を頭に入れておかないと連携が難しいんです。
実技の面でいうと、ベッドで寝ている人の向きを変えたり、起こしたりする体位変換ですね。あれは間違いなく現場で使う技術なので、正しい方法をしっかり覚えたほうが良いと思います。
ただ、教科書どおりのケアだけでは利用者さんに満足してもらえません。楽なポジションや不快を感じるポイントは人それぞれなので、プラスアルファの工夫が必要だと感じています。
──未経験では難しそうな仕事ですね。
僕も初めて現場に同行したときは、頭の中が真っ白になりました。3回目、4回目ぐらいまではその状態が続いて、どれだけメモを取ってもうまくいかず、「俺もうダメかもしれない……」という思いが頭をよぎったこともあります。
とくに苦労したのは、利用者さんとのコミュニケーションです。利用者さんにとって、僕は突然やってきた他人ですし、僕にとっても初めての介護現場だったので、会話の切り口を見つけるのに必死でした。
──今は利用者さんとどんなお話をするんですか?
発症前に食べたおいしかった食べ物や、最近のニュース、利用者さんのおすすめ居酒屋など、さまざまですね。利用者さんの「やりたい」という気持ちを汲み取り、どう形にするかを考えるようになってからは、自然と会話が生まれるようになりました。
誰だって、なりたくてこの病気になるわけではありません。もっと行きたかった場所や、食べたかったものがあったはずです。もう一度昔のように過ごすことはかなわないかもしれませんが、せめて会話を通じて外の景色を想像してもらえるような環境づくりをしていきたいですね。
プレッシャーのなかでも先月の自分を超え続ける

──現場で大変だと感じることはありますか?
重度訪問介護は、利用者さんの命を預かる仕事なのでプレッシャーを感じます。これまでに危ない場面を経験したこともありました。
その日は入室したときから利用者さんの唇が青くて違和感を覚えました。バイタルを確認すると、サチュレーション(酸素飽和度)が通常97〜100あるべきところ、40台まで下がっていたんです。すぐにかかりつけ医や訪問看護、事業所などへ連絡し、看護師の到着まで緊急対応を続けました。
自分にできることはしたものの、「回復しなかったらどうしよう」という不安はありましたね。
──その重圧から辞めようと思ったことは?
ありません。緊急時の対応は入社研修でしっかり学ぶので、パニックにならなければ誰もが同じレベルで対応できるはずです。僕が一番怖いと感じるのは、緊急時の対応よりも、仕事に慣れてしまったときのことです。人は慣れると一つひとつの作業が雑になったり、向上心がなくなったりするものだと思います。
ですので、1ヶ月前の自分よりいい介護ができるように、毎月できることを増やしていくよう意識しています。そうすれば質が下がることはないですし、できることが増えるたびに楽しさややりがいを感じられるようになりました。
──とくに、「楽しさ」や「やりがい」を感じる瞬間はどんなときでしょう?
利用者さんやご家族との会話が楽しいですね。先日、利用者さんから教わった居酒屋に行ったんですが、そこがおいしくて。またおすすめのお店を聞くのが楽しみです。最近は、ふとしたときに「明日は何を話そうかな」と考えてしまいます。
やりがいは、利用者さんに満足してもらえることです。最近うれしかったのは、「訪問回数を増やしてほしい」とご依頼いただいたことです。その方は別の事業所も利用されていたのですが、「これからは全部お願いしたい」と、僕らのサービスに一本化してくださったんです。
──介護職は「やりがいはあるけれど待遇面が厳しい」という声もよく聞きます。収入についてはどう感じていますか?
収入は下がりました。沖縄で居酒屋の店長をやっていたときは、年収460万円ほどでしたが、今は350〜380万円ぐらいです。未経験の1年目だから仕方ないと思っています。
ただ、うちの会社は3ヶ月に一度昇給査定があり、さらに介護事業の売上がプラスだったら全員で分配するシステムもあります。頑張りや成長が評価してもらえるので、モチベーションになりますね。
──では、介護職として今後どのように成長したいですか?
今は自分の成長よりも、目の前の利用者さんにどう満足していただけるかで精一杯です。ただ、「利用者さんに喜んでほしい」という想いを軸に、一つひとつ経験を積んでいけば、自然と成長できて、結果はついてくるのかなと思っています。
訪問介護は1対1で、決まった正解がない仕事です。だからこそ自由に工夫できるし、チャレンジのしがいがあります。将来は介護の経験を活かして飲食店を開く夢もありますが、まずは目の前の仕事に全力で取り組みたいですね。
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