介護職の優しさを搾取させない。元ケアマネ家政婦が仕掛ける保険外サービスによる報酬革命

介護保険制度の枠組みでは対応しきれない、高齢者の暮らしの困りごと。これらに対応する「介護保険外(自費)サービス」への注目度が高まっています。今回は、富裕層の独身男性向けの家事代行サービス「キレイデリバリー」を展開する藤川真美さんにインタビュー。なぜ彼女は「保険外サービス」の道を選び、対価にこだわるようになったのか。その想いを聞きました。

介護職の優しさを搾取させない。元ケアマネ家政婦が仕掛ける保険外サービスによる報酬革命

目次

介護保険外(自費)サービスとは

介護保険内の訪問介護では、ケアプランに含まれないサービスを制度上提供できません。こうした隙間のニーズを補完するのが「介護保険外(自費)サービス」です。

介護保険内サービスと保険外(自費)サービスの違い

 

介護保険内サービス

介護保険外(自費)サービス

提供内容

ケアプランに基づいた範囲

制度の制限を受けない柔軟な対応

費用

原則1〜3割負担

全額自己負担

価格設定

公定価格(介護報酬)

事業者が自由に設定

また、保険内サービスは公定価格のため事業所側で料金を自由に設定できません。一方、保険外サービスは料金を自由に決められるため、職員の待遇向上につなげやすいという側面があります。

今回は、訪問ヘルパーやケアマネジャーとして25年の経験を経て、現在はフリーランスの家政婦として活動する藤川真美さんに、保険外サービスを選択した経緯や、介護の仕事への考え方について話を聞きました。

話を聞いた人

藤川さんアイコン
藤川 真美さん

25年にわたり訪問ヘルパーやケアマネジャーとして従事。現在はフリーランスとして富裕層の独身男性向け家事代行サービス「キレイデリバリー」を運営する。Instagramでの発信や、ジョブメドレースクール介護職員初任者研修などをとおして後進の育成にも注力する。

藤川真美さんの経歴

「優しさの搾取」を終わらせたい

──訪問介護における保険内サービスの課題を教えてください。

藤川さん:大きく分けると2つです。制度の枠組みでは拾いきれない要望があること、ヘルパーに正当な報酬が支払われていないことです。

現場で働くヘルパーには「利用者さんができないことを何とかしてあげたい」という想いがあります。そのため、季節の衣替えや写真の整理など、本来は保険内で対応できない頼み事も、善意のもと無償で引き受けてしまうケースもあるんです。

利用者さんからの要望を「指示書にないのでできません」と断るのは心苦しいものですが、ヘルパーの優しさに甘えて、無償でサービスを要求するのは優しさの搾取だと思います

だからこそ、保険内で提供できないサービスは、保険外サービスとして適切に整理されるべきだと思います。

──ただ、今まで無償だったものにお金を払うとなると、利用者から反発を受けませんか?

そうですね。「今まで福祉でやってもらっていたものが、なぜ急に自費になるの?」と、なかなか理解してもらいにくいのが現状です。

ただ、保険外サービスとして提供する目的は、お金儲けだけではありません。今まで善意で済ませてきた曖昧な仕事をプロの仕事と定義し、対価をヘルパーに還元する。利用者さんも「これは有料のサービス」と認識すれば、お互いに対等で健全な関係が築けます。

今まで曖昧だった善意と仕事の境界線を、適切にビジネスとして整理し直すのが保険外サービスの役割だと思っています。

「お人よしの介護」から「ビジネス介護」へ

藤川さん取材風景3

──これまでのお話のなかで「対価」や「報酬」という言葉を強調されています。そこまで「お金」にこだわるようになったきっかけを教えてください。

私は20歳で介護業界に入り、約25年間、訪問ヘルパーやケアマネジャーとして働いてきました。そこで、優しさと根性ですべてを背負おうとして、身体を壊した経験があります。そして、それに対する報酬があまりに安すぎました。

とくに2010年からの約10年間は人手が足りず、今振り返っても過酷な働き方をしていました。施設ケアマネをしながら現場のフルタイム勤務、夜勤もこなし、さらには経理やスタッフのマネジメントまで、あらゆる業務を一人で抱え込んでいたんです。

施設ケアマネ時代ピーク時の1日の流れ

──ケアマネ業務をしながらフルタイムでヘルパー業務もしていたんですか?

はい。例えば、事務作業を終わらせるために夜勤開始の4時間前に出社します。でも、事務作業中に「Aさんが転倒した」などの報告があれば、すぐに対応する必要があります。結局、作業が進まないまま夜勤に入り、本来は仮眠をとるべき時間にアセスメントや請求事務を進めます。

翌朝、早番のスタッフに欠員が出れば、そのまま現場を離れられず、3日ほど家に帰らないなんてこともザラでした。そんな生活を続けた結果、突発性難聴になり、2020年には免疫系の疾患を患って入院しました。

当時の職場はアットホームでスタッフの仲も良く、介護の仕事自体とてもクリエイティブでやりがいがあると思っていました。でも、死にかけるまで働いても手取りは30万円を下回っていました。

──その経験が、今の活動にどうつながったのでしょうか。

入院を機に、これまで善意でおこなってきたサービスにどれほどの価値があるのかを考え直しました。そこで、隙間時間を利用して自費の家事支援を試験的に始め、これまで無償で提供していた部分を保険外サービスとして切り出してみたんです。

すると、保険内では評価されなかった気遣いや細かな技術に対して、利用者さんは高い対価を払ってくださったんです。それまでお人よしの優しさで提供していたものに、実はものすごい価値があることに気づくことができました

保険外サービスは「金儲け」なのか

──介護業界で「ビジネス」を強調すると、「金儲けか」という反発もありませんか?

ヘルパー仲間から冗談まじりに「裏切り者!」なんて言われることもありますし、私自身も葛藤があります。その罪悪感を埋めるように、今は自治体が提供する30分300円という安価なサービスにも携わり、自分なりのバランスを取っています。

ただ、その一方で訪問介護の仕事を、自分の生活のための仕事として成立させることも一つの正義だと思っています。

公費だけに頼らない。持続可能な介護業界を実現するために

藤川さん取材風景1

──国も処遇改善などで予算を投じています。それでも「保険外」という別ルートを作らなければ解決しないのでしょうか。

制度を批判するわけではありませんし、国が介護職員処遇改善加算などで努力してくださっていることにも感謝しています。ただ、それらの加算が現場に届くときには、数十円や数百円の上乗せに留まっているのが現状です

そもそも、介護保険制度だけでスタッフの待遇をすべて賄うのは財政的に限界に来ています。これ以上保険料や税率を上げて、公費で解決しようとするのは現実的ではありません。制度の変化を待つよりも、民間で処遇を改善する仕組みを作るほうが、スピード感があります。

最近は大手介護事業所も自費サービスに参入していますし、家政士の国家資格化の議論も進んでいます。この領域がプロの仕事として社会に認知されれば、保険外サービスのニーズはより増えていくと思います。

──では、保険内と保険外は、どのように共存していくべきだと思いますか?

保険内と保険外は、お互いの役割を補完し合う対等な関係であるべきだと思っています。

介護保険制度は、誰もが一定の品質でケアを受けられる社会に不可欠なものです。そして、介護職としての専門技術や判断力を磨くための土台でもあります。一方、保険外サービスは、ベテランヘルパーが制度の枠組みだけでは拾い切れない個別性の高いニーズに対応する役割を担います。

この2つが両輪として機能することで、利用者さんにはより多くの選択肢を提示でき、介護職にはスキルを活かす場を広げることができます。お互いを切り離すのではなく、一つの仕組みとして支え合っていくことが、介護業界の持続につながると考えています

低賃金のイメージを覆す時給5,000円

──藤川さんはSNSなどで「稼げる」という面を強調されていますが、葛藤もありながら、なぜあえてビジネス色の強い言葉を打ち出しているのでしょうか。

ヘルパーさんや事業所の方に、自分たちのスキルには価値があると気づいてほしいからです。

正直なところ、介護はまだ底辺の仕事というイメージを持たれがちです。私自身、「オムツ交換をしているなんて偉いね」と言われ、介護の仕事が恥ずかしいと感じていた時期もありました。でも、私が現場で培った技術は、時給5,000円を稼げるスキルになりました

「大変で給料が安い」というイメージのままでは、誰も介護業界に入ってきません。だからこそ、SNSではあえて、「時給5,000円の仕事」「稼げるヘルパー」などといった発信を続けています。具体的な稼ぎ方を示すことで、「自分もやってみたい」と思うきっかけを作りたいんです。

──保険内のヘルパーと、時給5,000円のヘルパーでは、どんな違いがあるのでしょうか。

長年の経験で培われた、相手のニーズを察する能力とそれに応える対応力だと思います。例えば、経験豊富なヘルパーなら、相手に合わせて今すべきことを的確に判断し、幅広く対応できます。これは相手が高齢者であっても、あるいは富裕層の男性であっても変わりません。

しかし、今の制度では、新人でもベテランでも報酬は変わりません。私はこの「家政婦のミタ」のようなベテランの技術にこそ、対価がつくべきだと思います。そして、これらのサービスの担い手として、私がとくに期待しているのはミドルシニア層なんです

ミドルシニアこそ介護のプロになれる

藤川さん取材風景2

──ミドルシニア層ですか? 若い世代ではなく?

訪問介護や家事代行サービスで求められる察する能力や絶妙な距離感は、一朝一夕で身につくものではありません。しかし、ミドルシニア層の人生経験や、社会人として培ってきたコミュニケーション能力は、そのまま武器になります

また、40代・50代の方から「これまで会社のデスクワーク中心だったけれど、AIの登場でいつまで今の仕事があるかわからない」という悩みをよく聞きます。しかし、介護は少なくともあと30年はロボットに取って代わられない仕事です。だからこそ、ミドルシニア層にこそ挑戦してほしい仕事なんです。

──40代、50代からでも新しくキャリアを築けるのでしょうか。

訪問介護の世界では55歳なんてぜんぜん若手です。5年経験を積んでもまだ60歳ですし、そこから介護福祉士の資格も取得できます。

介護の仕事をして、「大変ね」「生活に困っているの?」と思われるのが恥ずかしいという方もいるかもしれません。でも、そう言う人たちが代わりにお金をくれるわけではないですよね。

その世間の目を飛び越えて、プロの技術を身につけ、自分で稼いだお金で海外旅行に行っていたら、すごくかっこいいじゃないですか。私はそう思っています。

──最後に、現場で働く方々へメッセージをお願いします。

自分の体を大切にしてください。バランスの良い食事に腰痛対策。休憩室にはおやつがありがちですが、適度に摂取してもらいたいです。とくに、夜勤明けの寝酒は肝臓への負担がマックスなので注意してくださいね。

自分自身の人生を守りながら、介護という仕事と向き合ってほしいと思います。そして、自分のスキルに正当な対価がついていないと感じたら、一歩踏み出してみてください。優しさを、単なるお人よしではなく、価値として認めてくれる場所がきっと見つかります。

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