ヒヤリハットとは?医療・介護・保育の現場で使える報告書の書き方・例文を紹介

業務中に、ちょっとしたミスをしたり、事故に遭いそうになって「ヒヤリとした」「ハッと驚いた」ことはありませんか? そうした事象をヒヤリハットといいます。この記事では、医療・介護・保育現場でのヒヤリハット事例や報告書の書き方をわかりやすく紹介します。

ヒヤリハットとは?医療・介護・保育の現場で使える報告書の書き方・例文を紹介_KV

目次

1.ヒヤリハットとは?

ヒヤリハットとは、重大な事故には至らなかったものの、「ヒヤリ」としたり「ハッ」と驚いたりする事象のことです。医療や介護、保育をはじめとする多くの現場では、将来の重大事故を防止するため、小さな出来事を報告書にまとめて共有しています。

重大事故の背景にある「ハインリッヒの法則」

ハインリッヒの法則とは、アメリカの損害保険会社で働いていた安全技師・ハインリッヒが提唱したものです。この法則によると、1件の重大事故の裏には29件の軽微な事故があり、さらにその背景には300件のヒヤリハット(1:29:300の法則)が存在するとされています。

ハインリッヒの法則とは

tips|ヒヤリハットとインシデントの違い

ヒヤリハットと似た用語に「インシデント」があります。主に医療・福祉や情報・IT分野で使用されます。どちらも重大な事故やトラブルにつながる可能性のある出来事を指しますが、主な違いは実際に問題が発生したかどうかです。

ヒヤリハット:一歩間違えれば事故につながる可能性のあった事象
インシデント:実際に事故などが発生したものの、重大な被害には至らなかった事象

2.ヒヤリハット報告書の書き方

ヒヤリハット報告書の記入事項

ヒヤリハット報告書とは、職場や作業環境で危険を感じた出来事や、事故寸前の事例を報告するための書類です。内容は、「いつ」「どこで」「誰が」「何があった」「なぜ起きた」「どうするか」といった5W1Hの視点で情報を整理します。

  • いつ(When):出来事が起きた日時と時間
  • どこで(Where):現場や施設内の具体的な場所
  • 誰が(Who):ヒヤリハットの当事者や関係者
  • 何があった(What):実際に起きた事象
  • なぜ起きた(Why):状況・背景・原因の考察
  • どうするか(How):今後の改善策や対策

ヒヤリハット報告では、感情や主観を排除した客観的な事実が求められます。「焦ってしまった」「気をつけていたつもりだった」のような感想ではなく、「◯時◯分に〜が起きた」「〜の確認を怠った」など、誰が読んでも状況を理解できるよう記述します。

3.職種別のヒヤリハット事例と例文

ここからは職種や現場ごとの事例と記入例を紹介します。

病院(薬を取り違えそうになった)

報告日:202◯年◯月◯日
発生日時:202◯年◯月◯日 ◯◯時◯◯分頃
場所:病棟(4人部屋)
対象者:70代・男性(入院患者)
状況:朝の定時配薬時、担当看護師が4人部屋で同姓の別患者の内服薬を誤って取り出し、配薬トレーにセット。投与直前、患者から薬がいつもと違うと申し出があり、確認したところ、氏名と処方が一致していないことに気づいた。
対応:すぐさま回収し、正しい内服薬に差し替えて投与。患者に謝罪し、担当医と看護師長に報告。
背景要因:配薬担当と投与担当が別だったが、申し送りが不十分で確認が曖昧だった。同姓の患者が同室におり、薬剤トレーの識別が不十分だった。また、投薬車ではなくトレーでの個別配薬であったため、確認手順が一部省略されていた。
再発防止策:
(1)配薬と投薬を別スタッフがおこなう場合は、Wチェックと口頭確認を必須とする
(2)投与時に氏名と生年月日の確認を徹底する。患者の自己申告にも注意を払うよう全体に周知する
(3)配薬・投与のフローを見直し、投薬車の使用を標準化する方向で検討する

歯科(バーの落下)

報告日:202◯年◯月◯日
発生日時:202◯年◯月◯日 ◯◯時◯◯分頃
場所:診療室2
対象者:40代・男性
状況:う蝕治療のため右下臼歯の形成中、使用していたエアタービンのバーが外れて患者の口腔内に落下した。患者の反応とアシスタントの対応により誤飲・誤嚥は回避された。
対応:患者の顔を横に向け、バキュームで落下したバーを吸引。その後、患者の体調を確認し、状況を説明・謝罪。バーの装着状態とタービンの機器不具合の有無も確認した。
背景要因:器具装着時の押し込みが甘く、チャック機構の締結不良があった可能性。
再発防止策:器具装着時は装着後の空回し確認を口腔外で徹底。使用頻度の高い器具のメンテナンス記録を見直し、交換サイクルを可視化する。

介護現場(浴室での転倒未遂)

報告日:202◯年◯月◯日
発生日時:202◯年◯月◯日 ◯◯時◯◯分頃
場所:浴室内
対象者:男性利用者・80代・要介護2
状況:入浴介助中、職員が体を支えながら浴槽から出る動作を補助していたところ、足元の水で利用者が滑り、バランスを崩しかけた。すぐに職員が身体を支えたため、転倒には至らなかった。
対応:利用者をいったん椅子に座らせ、状態を確認。けがや痛みはなく、その後は介助をして安全に移動した。浴室の床はすぐに拭き取り、濡れたマットを交換した。
背景要因:前の利用者の入浴後、床の水切りが不十分で滑りやすい状態だった。
再発防止策:入浴後の水切り作業の徹底。チェックリストに記録し、次に利用の際は確認する。また、滑り止めマットの設置位置・枚数を見直し、浴室全体での安全性を強化する。

保育施設(園庭遊び中の逸脱未遂)

報告日:202◯年◯月◯日
発生日時:202◯年◯月◯日 ◯◯時◯◯分頃
場所:園庭(門付近)
対象者:4歳児クラス 男児
状況:園庭で自由遊び中、門の鍵が一時的に開いた状態であったため、男児が門の外に出そうになった。近くにいた保育士がすぐに気づいて制止した。
対応:男児の安全を確認し、ほかの職員にも状況を共有。保護者には当日の降園時に報告し、経緯を説明して謝罪した。
背景要因:園庭の門が施錠されていなかった。
再発防止策:園庭使用時のチェックリストに門の施錠確認を追加。園庭使用の交代時に職員同士で施錠の確認を声かけで徹底する。

リハビリ施設(歩行訓練中の転倒未遂)

報告日:202◯年◯月◯日
発生日時:202◯年◯月◯日 ◯◯時◯◯分頃
場所:ハビリ室内 歩行訓練スペース
対象者:70代男性・右片麻痺
状況:歩行訓練を実施中、患者が麻痺側の足を前に出そうとした際にバランスを崩し、横に大きくよろけた。すぐに体幹を支えたため転倒は防げた。
対応:訓練を中断し、椅子に座って状態を確認。本人に痛みや不調はなし。短時間の休憩を挟んで訓練を再開した。
背景要因:麻痺側の支持力が回復傾向にあり、安定性を過信していた。
再発防止策:麻痺側に寄り添っての介助を徹底し、動作前の声かけと注意喚起を習慣化する。

4.再発防止のためにできる4つのこと

(1)報告内容からリスクを特定する

ヒヤリハット報告が集まったら、下記の3つを洗い出し、共通点を探しましょう。傾向を分析することで、現場特有の潜在的リスクを洗い出すことができます。

  • いつ起きやすいか(交代時、昼食前後など)
  • 誰に起きやすいか(新人スタッフ、特定の利用者など)
  • どこで起きやすいか(処置室、浴室、玄関まわりなど)

(2)再発防止策を講じる

KYT(危険予知トレーニング)の実施

KYTとは、危険(K)を予知(Y)し、チームで対策を立てるためのトレーニング(T)です。写真やイラストを使いながら、「この場面にどんな危険が潜んでいるか」をメンバー同士で話し合い、事故を未然に防ぐ力を養います。

下記のイラストは、居室のベッドに腰をかけている高齢者の様子を描いたものです。このあと起こり得るリスクを想像しながら、事故を未然に防ぐ対策について話し合ってみましょう。

KYTトレーニングのイメージ画像

イラストから読み取れる危機や危険箇所
・ベッド柵がない(または下がっている)
・トイレットペーパーのような物が転がっている
・ゴミ箱があふれている(中身が見えている)
・ベッドと椅子に距離がある

このあと起こり得るリスク
・ベッドから転落して骨折する
・床に落ちた物につまずいてけがをする
・衛生面の問題から感染症が発生する
・椅子への移動時につまずいて転倒する

あらかじめ対策できること
・ベッド柵をしっかり上げ、固定する
・落下のおそれがあるものは速やかに片付ける
・ゴミ箱の中身をこまめに処理する
・ベッドと椅子の位置を近づける

5S活動の徹底

5Sとは整理・整頓・清掃・清潔・しつけをローマ字読みした際の頭文字の「S」を取ったものです。使わない物が放置されていないか、通路に障害物はないかなどを意識しながら環境を整えるだけで、ミスや事故のリスクは大きく減ります。

(3)実態に合わせてマニュアルを見直す

ヒヤリハット事例を基に、作業手順やマニュアルを定期的に見直すことが重要です。繰り返し発生する事例がある場合は、マニュアルの問題点を洗い出しましょう。

服薬介助のマニュアル修正例

Before:薬が間違っていないかチェックする
After:患者・薬の種類・量・時間・方法をチェックする

(4)朝礼・ミーティングで事例を共有する

ヒヤリハット事例や対策を職場全体で共有する仕組みづくりも重要です。朝礼や定期ミーティングで最近のヒヤリハット事例を紹介し、全員で再発防止について話し合う時間を設けましょう。

5.「ヒヤリハットのネタ切れ問題」を解消する5つのアイデア

職場によっては、ヒヤリハット報告を定期的に求められるため、「もうヒヤリとした場面が思い当たらない」「書く内容が見つからない」といった悩みを抱える人も少なくありません。ここでは、そうした“ネタ切れ”状態を解消するためのアイデアを5つ紹介します。

【アイデア 1】作業に迷った瞬間をメモしておく

作業中、「これで合ってるかな?」と立ち止まった経験があれば、それがヒヤリハットの種です。事故には至らなくても、違和感や不安を感じた場面は記録しておきましょう。

【アイデア 2】 動線に注目してみる

通路や処置スペースなど、「動く場所」に目を向けると意外なヒントが得られます。つまずきやすい場所、すれ違いにくい通路もヒヤリハットについて考えるきっかけの一つです。

【アイデア 3】 雑談や振り返りにヒントあり

「さっきちょっと焦った」のような同僚との会話にも、ヒヤリハットが隠れています。思い出したらメモしておきましょう。

【アイデア 4】 「もし〇〇だったら」と仮定してみる

実際に事故が起きなかったとしても、「もし目を離した瞬間に転倒していたら?」と考えることで、新たなリスクに気づけることがあります。

【アイデア 5】 過去の報告をあえて掘り返す

過去の報告を見返してみると、現在も起こりうるケースが見つかることがあります。状況をアップデートして再報告するのも有効です。

6.小さな気づきが、大きな事故を未然に防ぐ

ヒヤリハットは、重大事故の前触れともいわれています。ハインリッヒの法則が示すように、「ヒヤリ」とした小さな出来事を放置せず、記録・共有・分析することで、現場の安全性を高めることができます。実際の現場ではさまざまなヒヤリハットが発生しており、報告を通じて改善が重ねられています。

たとえ報告するほどではないと感じた出来事でも、視点を変えてみることが大切です。何気ない作業の中にこそ、ヒヤリハットの種は潜んでいます。小さな違和感を見逃さず、チームで共有すること。その積み重ねが、安全で信頼できる職場環境をつくる第一歩になります。

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