1.そもそもプリセプター制度とはどんなもの?
2.プリセプターになるには資格は必要?
3.プリセプターは業務をこなしながら教育・指導を行う
4.プリセプターとして求められる指導力
5.プリセプターは新人と共に成長できるチャンス!
6.看護師としてステップアップできるプリセプター
1.そもそもプリセプター制度とはどんなもの?
新人ナースのなかには、環境の変化や学生時代に学んだことと実際の臨床の現場で求められる能力とのギャップに悩まされる方が少なくありません。これは「リアリティショック」と呼ばれ、新人ナースが離職してしまう大きな要因とされています。このギャップを埋めるために2010年4月から新人看護師研修を行うことが国によって努力義務化されました。研修によって、養成校で学んだ基礎教育を土台に看護実践能力を高め、実際の看護に対する不安を取り除くことが狙いです。
新人教育の方法にはさまざまな種類がありますが、よく耳にする教育制度として「プリセプター制度(プリセプターシップ)」が挙げられます。これは、ある程度の経験を積んだ先輩ナースが、新人を一定期間マンツーマンで指導にあたる教育法。先輩側の看護師を「プリセプター」、新人側の看護師を「プリセプティ」と呼びます。プリセプター制度は、新人が臨床現場に出てすぐの時期など、ごく初期の段階で用いるのが効果的だとされています。
プリセプターは、自分の担当する患者さんの看護ケアをプリセプティとともに提供します。そのなかで看護技術やアセスメント、対人関係、自己管理の方法など、広範囲にわたってお手本を示していきます。プリセプティは、プリセプターを模範に各種の看護や業務を実践。フォローをうけながら、知識や技術の定着を目指します。また直接的な業務以外にも、悩みを一人で抱え込んでしまいがちな新人ナースの一番身近な相談相手としての役割も、プリセプターには期待されます。
2.プリセプターになるには資格は必要?
プリセプターになるために必須の資格や認定などはありません。厚生労働省がまとめた新人看護職員研修ガイドラインによると、プリセプターを含む新人指導の担当者(実地指導者)は「看護職員として必要な基本的知識、技術、態度を有し、教育的指導ができる者であることが望ましい」とされています。そのため、医療機関ごとに独自に基準を設けていることがほとんどです。一般的には、おおむね3年以上の経験を積んだ看護師が任されることが多いようです。
また、新人看護職員研修ガイドラインには、実地指導者に求められる能力として次の5つが挙げられています。
- 新人看護職員に教育的に関わる能力
- 新人看護職員と適切な関係性を築くコミュニケーション能力
- 新人看護職員の置かれている状況を把握し、一緒に問題を解決する能力
- 新人看護職員研修の個々のプログラムを立案できる能力
- 新人看護職員の臨床実践能力を評価する能力
3.プリセプターは業務をこなしながら教育・指導を行う
プリセプターとして新人ナースの教育・指導を任されることは、一人前の看護師として期待されている証。しかし、プリセプターは教育・指導を行いながら、同時に通常の業務もこなさなければなりません。どんなに忙しくても新人に目を配り、仕事を教えていく役割を担っています。患者の命を預かる責任と後輩を育てる責任の両方を持つことになりますから、これまで以上に緊張感を抱えることでしょう。プリセプター自身が処置をするにしても、新人に任せるにしても、もちろんミスは許されません。ただでさえ多忙な看護師にとって、プリセプターもこなさなければならないのは、とても大変なことだと言えます。
ただ、新人教育の責任は個人だけが負うものではありません。新人看護職員研修ガイドラインでも「部署スタッフ全員が新人を見守り、幾重ものサポート体制を組織として構築することが望ましい」とされています。プリセプターの直接的なフォロー役として教育担当者やアソシエートナースが配置されている職場もあります。責任がある役割なのは事実ですが、必要以上に気負ってしまう必要はありません。また、担当となる前にあらかじめ準備をしておくことで、その負担やプレッシャーは変わってきます。例えば自施設で行われるプリセプター向けの研修に積極的に参加したり、都道府県・関係団体等が実施する実地指導者研修プログラムなどを活用したりすることも有効です。
4.プリセプターとして求められる指導力
ひとくくりに新人といっても、仕事の覚えが早い人もいれば、遅い人もいます。ですから、それぞれのペースに合わせて教育・指導を行う必要があります。新人、ベテランなどの経験に関わらず患者さんの命を預かっていることに変わりはありません。状況によって優先順位を見極めなくてはなりませんし、緊急時には素早く適切な対応や処置が求められます。他のプリセプターが担当している新人はのみこみが早く、一度教えたことはしっかり身につけてきているのに、自分が担当している新人はマイペースといったこともあるでしょう。そんなときには「他の新人はできているのに!」「この程度はできて当たり前なのに!」といった思いから、プリセプティに強く当たってしまいがち。しかし、ただ厳しく責めるだけではプリセプティが萎縮してしまい、かえって業務に悪影響を及ぼすことも起こり得ます。
コミュニケーションを積極的にとりながら、一つひとつの課題をどうすれば解決できるのか、一緒に考えていくのがよいでしょう。特に新人が初めてミスをしてしまったときは、ひどく落ち込んでしまいがちなもの。そんなときは同じ失敗をしないための対策を考えるとともに、精神的なフォローをすることも重要です。
もちろん、一人で解決するのには難しい問題に直面することもあるでしょう。そういった場合には、うまくいっているプリセプターの話を聞いてみたり、部署を統括する教育担当者や看護師長などに速やかに相談して助言を仰いだりと柔軟な姿勢を取ることも大切です。
5.プリセプターは新人と共に成長できるチャンス!
プリセプターは新人の教育・指導を任されるとはいえ、プリセプター自身も看護師となって3~4年目にあたる段階。一通りの業務や知識を身につけ、仕事に慣れてきた頃でしょう。ここでプリセプターとなり、新人教育を担当することによって気付くこと、見直すべきことはたくさんあります。プリセプティへ分かりやすい指導をするために看護について改めて学び直したり、普段から行ってきた処置の方法や器材の取り扱い、患者さんへの応対などを一緒に意識して振り返ったりすることは、自身の知識・技術のさらなる向上につながります。また、新人に対してより近い立場から教えるので、互いに相談しやすく助け合えるというメリットも。担当するプリセプティのできることが増え、一人前に近づけば近づくほど自身の指導力も評価されます。そして何より、同じ道を歩むチームの一員から最も頼られる存在になれることに、大きなやりがいを感じることでしょう。
6.看護師としてステップアップできるプリセプター
看護師として働いていくうえで、医師・薬剤師・看護師・放射線技師・理学療法士・介護職員・クラークといったさまざまな専門家との人間関係をうまく築いていくことが欠かせません。それには、円滑なコミュニケーションを実現するための能力が必要とされます。プリセプターとしての期間は一般的に約1年間。この決められた期間のなかで担当する新人の性格や素質を見極め、良好な関係を築いて指導していくことは、プリセプター自身のコミュニケーション能力を磨くチャンスにもなります。
新人を育てることは確かに大変なことでしょう。しかし、プリセプターとして新人と向き合う中で頼られ、信頼を得ることは嬉しいこと。根気よく指導を行いながら試行錯誤することは、同時に自身も学びを深めることが可能となります。プリセプターを経験することは看護師としてのステップアップにつながることでしょう。