
薬剤師ってどんな仕事をしているの?
薬剤師は、薬の調剤が主な仕事だと思われていますが、薬剤師法第1条では「薬剤師は、調剤、医薬品の供給その他薬事衛生をつかさどることによって、公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もつて国民の健康な生活を確保するものとする。」と定められています。
つまり、薬の調剤や服薬指導を通して、患者や国民の生活を健康なものにするという重要な役割が課せられているのです。
薬の専門家である薬剤師は、具体的に以下のような業務をおこなっています。
- 処方箋に基づいた薬の調剤
- 患者への服薬説明
- 医薬品の販売
- 薬についての相談
- 健康に関する相談
ほかにも、小学校、中学校、高校で「薬物乱用防止教室」を開いたり「麻薬・覚醒剤乱用防止」の啓蒙をおこなったりすることも薬剤師の大事な役割です。
薬剤師の就職場所第1位は「薬局」
薬剤師の就職先として一般的に知られているのが、調剤薬局やドラッグストア、そして病院です。平成28年「医師・歯科医師・薬剤師調査の概況」によると、薬局で働いている薬剤師の割合は約57%と一番多く、次いで医療施設(病院・診療所)が19.3%。3番目に多いのが医薬品関係企業(研究、開発、営業などを含む)で13.9%となっています。
また、1982年から2016年までの統計で「施設の種別にみた薬局・医療施設に従事する薬剤師数の年次推移」をみてみると、1982年時点ではそれほど差はなかったのに、薬局で働く薬剤師は2000年代に入ってから急増しています。
一方、増加してはいるものの非常にゆるやかなのが医療施設で働く薬剤師の数です。そのため、2016年12月31日時点では、医療施設で働く薬剤師が5万8,044人なのに対して、薬局で働く薬剤師は17万2,142人と約3倍の差がついていました。
このように、現在は多くの薬剤師が薬局で働いていますが、そのほかの職場で働く薬剤師とは仕事内容がどのように異なるのでしょうか? 職場別に薬剤師の仕事内容を詳しく説明していきます。
厚生労働省 「平成28年(2016)医師・歯科医師・薬剤師調査の概況」
調剤や服薬指導が主な仕事内容の職場
調剤や服薬指導が主な仕事内容の職場にはどのような種類があるのでしょうか? 以下で見ていきましょう。
病院(病院薬剤師)、診療所
病院で勤務する薬剤師は、看護師やほかの医療従事者と連携をとりながら、入院患者に対して服薬指導をおこないます。また、外来患者にも服薬指導や処方箋に基づいた薬の調合をおこない、必要があれば薬や健康に関する相談にものるのが仕事内容です。さまざまな医療技術者と関わることになるので、コミュニケーション能力も大切です。
その一方で、病院に勤務しているからといって必ずしも患者と関わる機会があるとは限らないようです。病院薬剤師で患者と触れ合う機会が多くなるのは、仕事内容に「病と業務」や「服薬指導」が含まれている場合。そのため、患者と触れ合うことを希望して転職先を探す場合は、薬剤師の業務内容にも注意して求人を探してみましょう。
このほか、注射調剤業務や注射薬混合調剤業務、外来化学療法に使う薬のチェックや副作用の確認も薬剤師の仕事です。また、救急救命センターなど特殊な病院では、チーム医療の一員として薬の選択、投与量など迅速な判断が求められることもあります。同じ、病院薬剤師といっても、転職先の病院によって仕事内容が変わってくるので、どんな仕事内容が含まれているのかチェックしておきましょう。
調剤薬局(調剤薬剤師)
薬剤師の過半数以上が就職先として選んでいるのが調剤薬局です。薬剤師の人員が多いだけではなく、全国各地に薬局はあるため、場所を選ぶことなく就職できるというのが最大のメリットです。
「平成30年度 第2編 保健衛生 第4章 薬事(薬局数・無薬局町村寸、都道府県別)」によると、平成30年度末時点で全国にある薬局の総数はなんと58,678施設。中でも東京は6,604施設と最も多く、埼玉、千葉、神奈川、大阪、兵庫などの大都市では多くの薬局が存在します。
病院薬剤師との違いは、多数の病院からの処方箋を受けていれていることが多いという点です。そのため、さまざまな薬を扱うことが多くなりますが、その分知識が身につきやすいという点がメリットとして挙げられます。
調剤はもちろん業務の1つですが、薬剤師人員が少ない調剤薬局では監査業務を担当することもあります。監査とは、処方された薬剤が正しいものなのか、患者と薬剤のミスマッチは起きていないか、全ての薬を正しく調剤しているかなどをチェックすることです。監査が正しくおこなわれていないと、重大なミスを引き起こすことにつながるため、とても重要な役割です。
そして、服薬指導も大切な仕事です。薬の効能や効果のほか、アレルギー歴などを聞いて確認をおこなったり、飲み方の指導をしたりしていきます。また、調剤薬局事務員がいない場合は、処方箋の受付から会計まですべてを担当することもあります。
ドラッグストア
ドラッグストアは薬剤師のパート先やアルバイト先としても人気の職場です。もちろん、正社員としての求人もたくさんあります。
病院や調剤薬局との違いは、病気の人に限らず多くの人が来るということです。健康の相談や病気の予防、そして子供から高齢者まで幅広い人が対象となるので、地域貢献度の高い業務といえるでしょう。
また、ドラッグストアは「店舗販売業務の許可を受けて、要指導医薬品と一般用医薬品を販売することができるが調剤はできないお店」と、薬局の役割も担っており店舗内で調剤もおこなっているお店の2つのタイプがあります。
チェーン店の場合は、調剤をおこなわず、店舗販売だけのことが多いようです。それでも、要指導医薬品は薬剤師でなければ取り扱うことができないため、重宝されています。
介護老人保健施設(老健)
介護老人保健施設とは、主に医療ケアやリハビリを目的とした人が入居している施設です。基本的には、自宅に戻ることを目的としているので、重症の高齢者がいないのが特徴です。ここでの薬剤師の仕事は、調剤や患者ごとの薬の管理、発注などがあり、業務的には調剤薬局などとそれほど変わりはありません。
しかし、高齢化社会に向けて、老人介護の現場で経験を積んでおくことは、将来のスキルアップに役立つはずです。調剤薬局のように、毎日新しい患者を対応するわけではなく、ほとんどは入所者とのやりとりになるため、人間関係が安定しやすいことも魅力の1つです。
また、介護老人保健施設(老健)では看護師や理学療法士などたくさんの医療従事者が関わることになりますが、薬剤師の数はそれほど多くありません。そのため、薬局勤務では得られない経験を積むことも可能。将来の高齢化社会に向けて、チーム医療の一員として経験を積んでおきたいという人に向いているといえるでしょう。
在宅訪問
在宅薬剤師は、在宅医療の一員として看護師などと一緒に訪問サービスをおこないます。仕事内容自体は、薬の調合や服薬説明など一般的な業務と変わりはありませんが、患者が薬局に来るのではなく、薬剤師自らが患者の家に出向くというのが大きな違いです。
また、在宅医療を利用する方の多くは高齢者である点も大きな違いです。そのため、服薬説明だけではなく、服薬がきちんとおこなわれているかどうかの状況確認や保管の状態をチェックするのも重要な役割の1つです。
薬剤師が在宅に派遣されるパターンは、主に「医師の指示を受けて行くもの」「薬局から必要に応じていくもの」「介護支援専門員から相談を受けて行くもの」「看護師や家族などから相談を受けて行くもの」の4つに分かれています。
近年は、高齢化社会に向けて医師や看護師の在宅医療の需要が高まってきていますが、薬剤師も同じです。在宅訪問診療に関わりたいという考えをもって、転職したいという人は、薬局や病院で在宅医療をおこなっているかどうかもチェックしておきましょう。
研究や開発メーカー関連会社でも活躍している薬剤師
薬剤師研究や開発メーカー関連会社でも活躍しています。以下で職場ごとの仕事内容を見ていきましょう。
製薬会社
製薬会社も薬剤師の人気の職場の1つです。ここでは治験に関わることも多く、新薬の臨床開発研究や新薬の安全性の確認と有効性の確認などの臨床試験をおこないます。このうち、新薬の臨床開発に携わりたい場合は、薬学部を卒業して薬剤師の免許を取得するだけではなく、博士課程を卒業することが必要です。
また、研究と開発は似ているように感じますが実は仕事内容は全くの別物。薬になる前の薬品を合成したり分析したりして、さまざまな実験をおこないながら研究をおこなっていくのが「研究職」です。動物実験や細胞を使った実験などもします。
一方、「開発職」の場合は、実際に人の体を使って実験(臨床試験)をおこなうのが主な仕事です。ここで、薬の安全性や有効性をチェックして、薬として正しく作用することができるのかどうかを確認していきます。
このほか、製薬会社では薬剤師としての知識をいかして治験コーディネーターやMRになることも可能です。
病院などに在中して、患者の治験をサポートしたり、説明するための資料作りをおこなったりするのが治験コーディネーターの仕事。医師や看護師、臨床検査技師などと連携するだけではなく、患者とのコミュニケーションをとることが大切になってきます。
そして、MRは医師や薬剤師に新薬の説明をしたり、営業をしたりするのが主な仕事内容です。病院や施設に出向いて、勉強会を開催することもあります。
卸売販売会社
卸売販売会社にも、薬剤師を常駐させることが義務づけられています。ここでは、管理薬剤師と呼ばれ、医療医薬品の品質管理をおこなったり、情報収集をおこなったりするのが必要な仕事です。薬について問い合わせがあることもあるため、薬事法を含めより詳しい薬の知識が必要とされています。
薬事第70号「管理薬剤師の管理及び勤務について」によると、薬局、医薬品製造業、医薬品輸入販売業及び医薬品販売業の業務について、開局中は常時直接管理の状態にあることを原則とすると記載されています。管理薬剤師がいない時は、販売業務をおこなってはいけないと禁止されているわけではないようですが、それだけ重要な役割を担っているということです。
化粧品メーカー
化粧品メーカーでも、研究などをおこなっているため薬剤師が活躍しています。中には薬剤師と共同で開発をおこなうケースも増えているので、化粧品に興味のある人や研究分野で活躍したいという人に向いています。
病院や調剤薬局のように服薬説明をしたり患者の相談にのったりということもなく、MRや治験コーディネーターのように医療従事者の人を相手にした営業活動のようなものもほとんどありません。そのため、あまり人と関わるのが苦手だと感じている人にも向いている職場だといえるでしょう。
教育現場には薬剤師が必要不可欠(学校薬剤師)
あまり知られていませんが、幼稚園、小学校、中学校、高等学校、特別支援学校、高等専門学校、義務教育学校、中等教育学校には、薬剤師の設置が義務づけられています。では、学校薬剤師は学校でどんな仕事をしているのかというと、健康指導と学校の環境衛生の維持・管理が主な仕事内容です。
とくに学校の環境衛生を維持・管理することは、児童の健康や安全を守り、健康的に学校生活を送るために必要不可欠であるとされているので、とても重要な役割を担っているのです。
具体的には、飲料水などの水質検査や設備環境のチェック、プールの水質検査と設備や施設の衛生状態のチェック、そして、教室環境の管理や、換気・保湿のチェックなどに携わっています。ほかにも、ネズミや害虫など健康を害するおそれのある生き物の駆除なども業務内容に含まれています。
さらに、医薬品の正しい使い方を指導するために、教師と連携して資料を作成したり、授業に参加したりすることもあります。そして実は学校には保健室で扱う医薬品のほかにも、理科や化学の授業で使う薬品だったり、園芸用薬品だったりとさまざまな薬品もおかれています。そのため薬品の保管に関しても使い方の指導や助言をおこなっています。
公務員薬剤師として働く選択肢もある
あまり知られていませんが、公務員薬剤師として働く選択肢もあります。公務員には地方公務員と国家公務員の2つに分かれていますが、薬剤師の場合ももちろん2つに分かれています。
国立病院機構に就職したい場合は、グループごとに開催される選考試験に合格しなければなりません。一方、公立病院に就職するのであれば地方公務員免許が必要です。また、公務員薬剤師として病院に就職した場合は、通常の病院業務と仕事内容は変わりません。
ほかにも、薬剤師公務員は以下のようにさまざまな場所で活躍しています。
保健所
自治体が設置している保健所に勤務し、保健所薬剤師として活動します。環境衛生に携わる仕事はもちろんのこと、薬事衛生に関する業務では、麻薬取締官として活動することもあるようです。
麻薬取締官には、薬物や法律に関する知識が必要なため薬剤師の資格がいかせる職業ですが、警察と連携して捜査にあたるため、場合によっては危険が及ぶ可能性もある仕事です。そのため、薬物に関する研修だけではなく、逮捕術訓練や拳銃射撃訓練などもおこなわれています。薬剤師が働く職業の中では、特殊なものだといえるでしょう。
薬系技術職員
薬系技術職員という職業は、もしかしたら初めて耳にするという人の方が多いかもしれません。薬学系技術職員とは、厚生労働省の総合職(化学・生物・薬学)として勤務し、医薬品、医療機器、食品、化学物質などの安全性や有用性の確保のため、適切な制度や体制の構築・運用をおこなっていくのが主な仕事となっています。
刑務所
刑務所でも薬剤師を募集していることがありますが、基本的には薬の調剤などが仕事内容となっています。
ただ、薬物依存の服役者に対して、薬物依存離脱指導をおこなうこともあります。この場合は、医師や医療関係者のほか、警察や薬物問題の専門家と協力して、更生プログラムを作成し指導にあたっていきます。
転職先の選択肢として含めるには、非常に少ない求人数ですが、薬剤師としてこのようなプログラムにも関わっていると覚えておくといいかもしれません。
薬剤師として「薬物乱用防止活動」にも貢献
仕事の業務とは少し違いますが、日本薬剤師会では「薬物乱用防止活動」にも力をいれています。これは、厚生労働省をはじめ、文部科学省や日本学校保健会、麻薬・覚醒剤乱用防止センターとも連携をとりながらおこなわれているものです。
予防という意味では、小学校からの指導が大切と考えられており、とくに高校と中学校では年に1回の「薬物乱用防止教室」の開催が必要とされています。
このように、意外なところでも活躍している薬剤師。薬剤師の仕事といえば、調剤や服薬指導がメインであることに変わりはありませんが、国民の健康を守るためには、医薬品ではなく薬物やドラッグの指導もおこなっていかなければいけないということです。
これから転職を考えている人は、薬剤師としてどの分野で活躍していきたいかを考えて求人を探してみてはいかがでしょうか。