目次
1.ICFとは
健康の要素を理解するための国際的な分類
ICF(国際生活機能分類)とは、人間の健康状態や心身の機能、環境による影響の評価を、アルファベットと数字で表す世界共通の分類方式です。健康状況を把握するための共通言語とも呼ばれ、要素の組み合わせにより約1,500項目に分類されます。
ICD(国際疾病分類)の補助的な役割を果たす分類方法として、2001年にWHO(世界保健機関)総会で採択されました。以来、医療・福祉・介護の現場でアセスメントをおこなう際の枠組みとして、今日も活用されています。
<ICFの目的>
- 健康に関する状況、健康に影響する因子を深く理解するため
- 健康に関する共通言語の確立で、さまざまな関係者間のコミュニケーションを改善
- 国、専門分野、サービス分野、立場、時期などの違いを超えたデータの比較
ICFの考え方とICIDH(国際障害分類)との違い
ICFの考え方の大きな特徴は以下の3つです。
- 疾患だけではなく「健康状態」全体を捉え、あらゆる人を対象としていること
- 障がいのマイナス面ではなく、機能や能力のプラス面に着目していること
- 人間の健康に影響する要素として「環境因子」を取り上げていること
「International Classification of Functioning, Disability and Health(生活機能、障害と健康の国際分類)」という正式名称にもこの理念が表れています。
しかし、国際社会は初めからこの考えにたどり着けたわけではありません。
1980年、ICFの前身であるICIDH(国際障害分類)が発表されました。「International Classification of Impairments, Disabilities and Handicaps(機能障害、能力障害と社会的不利の国際分類)」という名称にあるように、障害を機能・能力・社会の三階層に分けて捉えています。この障害構造モデルは1982年に国連総会で採択された「障害者に関する世界行動計画」にも取り入れられました。
当時としては画期的だったICIDHですが、一方で批判もありました。具体的には障害がもたらすマイナス面に偏っていたこと、バリアフリーの充実度によりハンディキャップの度合いが変わるといった環境・社会的要因の考慮が不足していたことが挙げられます。
こうした課題を解消する新たな枠組みとして、ICFが議論・採択されたのです。
2.ICFの生活機能モデル
ICFでは、人間の健康状態を構成する「生活機能」、生活機能に関する「背景因子」が互いに影響し合う相互作用モデルを採用しています。これにより、多くの要素が複雑に絡み合う健康状態の的確な理解に近づきます。
ICFの中心的な概念である「生活機能」は、「心身機能・身体構造」「活動」「参加」から構成されています。
心身機能・身体構造
生命維持に直接的に関わる機能や構造のこと。手足の動き、精神の働きといった心身機能、肢体や内臓(の一部分)といった身体構造の両方を含みます。
活動
生活上の目的をもっておこなう、具体的な行動のこと。仕事や家事、趣味から歩行などの日常的な動作まであらゆる活動を含み、能力(できる活動)と状況(している活動)に分けて捉えます。
参加
家庭や社会に関わり、役割を果たすこと。規模や分野にかかわらず、職場や家庭、あるいは文化的、宗教的な関わりなど多岐にわたります。
なお、「活動」と「参加」は密接な関係にあり、活動は参加の具体的な表れであるといえます。
3.生活機能に影響する背景因子
「背景因子」はICIDHにはなかった項目です。生活機能そのものではありませんが、大きな影響を与え機能の低下をもたらす要素を捉えており、以下の2つに分けられます。
社会の影響を含む「環境因子」
その人を取り巻く人的・物的な環境すべてを指します。
具体的には、建物や道路、交通機関、自然環境などの物的環境のほか、家族や友人、同僚などとの関わりである人的環境、医療や福祉をはじめとするあらゆる法律や制度などの制度的環境があります。
その人固有の特徴「個人因子」
その人固有の特徴を指し、「個性」と非常に近しいと認識されています。年齢や性別、民族といった属性から生活の来歴や価値観まで含む広い概念で、個性の尊重にも通じる要素です。
4.介護や看護現場におけるICFの書き方
ICFは、介護や看護にかかる計画書の作成や、実際の現場で患者・利用者の健康状態の把握、多職種間での正確な共有のために欠かせないものです。個別の分類だけでなく、健康状態を俯瞰する際に立ち返る視点としても有効です。
ICFの分類コードと評価点
ICFによる分類は、アルファベットと小数点(分離点)前後の数字の組み合わせで表現されます。分離点前のアルファベットと5桁までの数字が「分類コード」、分離点以下の数字が「評価点」です。
このコードは「右の前腕に中等度の障害による部分的な欠損がある」ことを表しています。具体的にどのような構造になっているのか、順を追って見てみましょう。
分類コードは、先頭のアルファベッドで心身機能、身体構造、活動・参加、環境因子のいずれかを、続く数字でその詳細を表します。
s 身体構造(body structures)
d 活動・参加(domain of activity and participation)
e 環境因子(environmental factors)
1桁目から「章番号」、2〜3桁目までの「第2レベルの分類」、4桁目までの「第3レベルの分類」、5桁目の「第4レベルの分類」と細分化されていきます。コードの数は2桁レベルで最大362あり、第2レベルまでの把握でも十分活用でき、第4レベルの分類はリハビリの効果検証など専門的なサービスで使用されることが多くなっています。
これに対し評価点は、コードで示された要素に対する「問題の重大さ」を表します。コードはあくまでどこに問題があるかの分類なので、コード単体では使用されず、必ず評価点が付きます。
評価点にも階層があり、心身機能と環境因子は1段階(第1評価点)、身体構造は3段階(第3評価点まで)、活動・参加は通常2段階で必要に応じて4段階(第4評価点まで)に分けられます。
評価点は、程度によって次のように決まっており、因子に応じて「軽度の構造障害」などと表現されます。
<評価点における程度のルール>
xxx. 0 問題なし(なし、存在しない、無視できる…) 0〜4%
xxx. 1 軽度の問題(わずかな、低い…) 5〜24%
xxx. 2 中等度の問題(中程度の、かなりの…) 25〜49%
xxx. 3 重度の問題(高度の、極度の…) 50〜95%
xxx. 4 完全な問題(全くの…) 96〜100%
xxx. 8 詳細不明
xxx. 9 非該当
構成要素 |
第1評価点 |
第2評価点 |
第3評価点 |
第4評価点 |
---|---|---|---|---|
b 心身機能 |
機能障害の程度 |
なし |
なし |
なし |
s 身体構造 |
構造障害の程度 |
身体構造の変化の |
構造障害の部位 |
なし |
d 活動・参加 |
実行状況 |
介助なしでの制限 |
任意評価点
|
任意評価点 |
e 環境因子 |
阻害因子と促進因子* |
なし |
なし |
なし |
ここまでの内容をまとめ、例のコード(s7301. 221)を読み解くと以下のようになります。
分類コード(分離点前)
s…身体構造の中の
7…第7章「運動に関連した構造」の中の
301…前腕の構造
評価点(分離点後)
2…中等度の構造障害がある
2…部分的欠損
1…右側に
具体的なコードはWHOや厚生労働省の資料のほか、公開されているICF検索サービスなどでも調べることができます。
アセスメントにおけるICFの活用
ICF(コード)を用いて患者や利用者の状況を明確に記録・分類することはもちろん、アセスメントにおいても的確な情報の整理が可能になります。
生活機能分類に当てはめ、具体的な状況・状態を書き出してみましょう。各内容に該当するコードを併せて記入してもよいでしょう。
- 健康状態
疾患や既往歴、それらをふまえた全体的な状態を記入します
- 心身機能/身体構造
身体や精神の状態、具体的な機能・構造障害について記入します
- 活動/参加
日常生活の動作、行動や、家庭や病院、入居施設などでの他者との関わりについて記入します
- 背景因子
生活に影響する施設の状況や環境、個人の性格や趣味、性格を構成する来歴などを記入します
ICFを活用することで、より的確な健康状態の把握や、状況を可視化することによる課題の整理・困難解消の糸口になります。
5.「生きることの全体像」を捉える共通言語を理解しよう
ICFには膨大な項目があり、具体的な活用の度合いは職種や現場によって大きく差があります。項目をすべて覚えきることはなかなか大変ですが、障がいを持つ方や高齢者などケアの対象となる人の健康状態を過不足なく評価するために有用な指標です。世界共通であり、他職種とのコミュニケーションにも役立つICFの考え方を取り入れることで、介護や看護の解像度を上げるのに役立つのではないでしょうか。
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参考